MAD111 世紀末総支配人伝説 怒りのヌカ・ワールド   作:溶けない氷

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血戦!イタリカ 前編

 

都市イタリカは、そこそこ大きい地方都市といった位置づけだ。この街を治めるフォルマル伯爵家では、幼い当主が後を継いだばかりという事情もあった。

 

 イタリカへ続く道の至る所には、破壊された家屋や倉庫が放置されている。

家財道具が一部残されたままになっているのは、持ち出せるほどの余裕が無かったからなのだろう。

 

 農村地帯はほぼ廃墟と化しており、畑からは多数の黒煙が揺らめき、完全に焼け野原へと変貌していた。

これでもウェイストランドに比べれば遥かに豊かな食料が歩いている。

新鮮なお肉はいつの時代も尽きることがな。

イタリカは豊かな穀倉地帯、それはもはや昔の話。

原因は主に4つ

帝国による焦土作戦、盗賊の跳梁跋扈、時も所も選ばず襲ってくるレイダー、スーパーミュータントによる人間狩り。

道端に点々と散らばるのは道中で力尽きた農民だろう。

狼やカラスについばまれ無残な尸を晒している。

ある意味、ここが戦場となったのは当然かもしれない。

もはや農村には奪うものがない盗賊、略奪をイナゴのように繰り返すレイダー、農村を文字通り食い尽くしたスーパーミュータント。

今の帝国は自分の身を食いながら穴にこもって命を繋ぐタコに似ている。

補給を略奪に頼る前近代までの敵になら効果的だったろう。

だが、待っていたものはレイダーという鋼鉄の歯を持つウツボ。

包囲され兵糧攻めにあうのは今や帝国の方だった。

帝国が滅びるのが先か、レイダーが奪いつくすのが先か。

そしてイタリカの街、いまここに人々が平凡な生活を送っていた兆しはもはやない。

市内の各所が燃え、血と炎の匂いで何処もむせ返る。

戦場という表現すら生易しい、地獄だ。

話は伊丹達の自衛隊が南門の防御を受け持ったところまで戻る。

盗賊達はアルヌスの丘で帝国・連合王国を一方的に打ち破った自衛隊を避け東門へと兵力を集中した。

「思った通りだな、南門を避けて東に兵力を集中か。

盗賊の指揮官にしてはなかなかやるなぁ」

ロウリィが東門に向かっていくのを見ると、伊丹は南門の守備を放棄し、東門に向かうように命令した。

その時だった、突然闇夜の中から巨大なホーンが響き渡る。

「な、なんだぁ!?」

その瞬間、PAM!PAM!という音とともに前面に立てて矢玉よけに使っていた軽装甲機動車に鋭い銃弾の当たる音がする。

「ふ!伏せろ!」

日頃の訓練の賜物ゆえ、とっさに伏せた自衛隊の面々だったが銃弾は絶え間なく降り注ぎ掘った塹壕から身を乗り出すこともできない。

「た、隊長!どうなってんです!この世界の軍隊は銃なんか持ってないんでしょう!」

装甲車のMINIMI機銃を撃ちながら倉田が叫ぶ。

だがここで不幸が起こる。閃光をあげ、機関銃を撃つ倉田は確かに弓矢相手ならば圧倒的に有利だったろう。

だが同時に銃による殺人が日常茶飯事のウェイストランド人にとっては撃ってくださいと言わんばかりだ。

「見えた、装填よし・・・ロックオン」

 

伊丹は森の切れ目に炎が迸ったのを見た、そして瞬時にありえないと思いつつも体を銃弾の雨に倉田を機銃座から引きおろす。

「ミサイル!ミサイルだ!」

装甲車めがけてまっすぐに飛んできたミサイルはそのまま全部の装甲を貫き熱いエンジンに直撃する。

爆風の熱と衝撃が塹壕の中の伊丹にも襲いかかる。

「た、隊長!大丈夫ですか!?黒川、負傷者を」

桑原曹長が援護射撃をしながら伊丹と倉田の負傷を衛生の黒川に見させる。「いや、大丈夫だ!それよりアルヌス駐屯地に緊急の連絡!敵勢力は誘導弾を所持している!ヘリが知らずに来たら危険だ」

伊丹は運が良い。防弾着のプレートの上に爆発した車両の破片が突き刺さっていたが、より爆発に近かった倉田はそこまで運が良くなかった。

「倉田!おい、しっかりしろ!」

倉田の太ももには破片が突き刺さり、激しく出血していた。

「まずい、動脈を傷つけたかも・・・すぐに近くの建物に避難を!」

黒川と栗林が倉田を引きずって南門の近くの衛兵詰め所に引きずる。

その間にも南門に対する射撃は続いていた。

 

『撃ち方やめ、隠れやがった。BoSほどじゃないが、いい反応だ』

オペレーターズの分隊指揮官は部下に射撃をやめさせる。

 

一方で北側では。

イタリカの北側には門が無い、故に置かれている兵は他に比べ少ない。

「おい、東門じゃ相当派手にやってるみたいだな。

北側には異常はないか?」

が、その瞬間闇夜から銃弾が飛来し、見張りの二人の兵士をことごとく撃ち殺す。

パワーアーマーがジェットパックを吹かして壁の上にたどり着く。

ズシンという重々しい着地音とともに鋼鉄の死神がイタリカの壁の上に姿を現した。

T-60F、最終戦争で使用された鋼鉄の死神は世界も超えて未だに健在。

「よし、壁のはパワーアーマーが抑えた!

上がってこい!」

通常、このように高い壁を越えるには巨大な攻城梯子や櫓を必要とする。

が、そのようなものは重く、大きく取り付くまでに時間がかかる。

それが常識だった・・・・今までは

森の中から獣の唸り声が響く。

V8エンジンを轟かせて巨大なトラックが姿を現した。

その上に並んでいる鉄棒の上に乗っているのはレイダー達。

10m以上もの長さの棒に足を乗せてトレーラーの左右に身を振り子のように振るのは命知らずとしか言いようがない。

「ビビるんじゃねぇ!こんなもん、ヌカ・ワールドのアトラクションみてぇなもんだ!」

「どうせ死ぬなら、思いっきり銃弾を浴びて派手に散ろうぜ!」

「ヒャッハー!飛びうつれぇ!」

城壁に身を寄せると次々と振り子棒からレイダー達が城壁の上に飛び移って来た。

今、北の城壁はあまりにも呆気なく陥落した。

少数の守備兵が向かったが瞬時に射殺されその死体を街に散らばらせる結果となった。

だが、今この瞬間にも西門でも災難が迫っていた。

その日、西の門を守る民兵の青年は不退転の決意を持っていた。

愛する家族と婚約を控えた恋人達を守るために手に持った弓を城壁下に油断なく向ける。

東門に盗賊が攻撃を集中している今でも西の警備をおろそかにするわけにはいかない。

その時、闇夜の中から奇妙な音が聞こえて来た

目をこらすと「ピッピッ」という音を出すものを持った緑色のオーガが走ってくる。「て、敵だ!怪異だぁ!」

西門を守っていた兵士たちはオーガの恐ろしさを知っている。

盗賊団がオーガを飼っているとは知らなかったが、その怪力は白兵戦では圧倒的な武器になる。

「オーガを城壁に取り付かせるな!」

「矢を射かけよ!」

だが、オーガは矢が命中するのにも関わらずまっしぐらに走ってくる。

「バカなやつめ!いくら怪力でも城壁を崩せはしない!」

オーガが右手に持つ奇妙な玉のようなものを城壁に叩きつけると西門を守っていた守備兵五十人ほどは一瞬で光に包まれた。

ピカドン!という轟音と閃光はイタリカ全体に伝わり、ピニャは何が起きたのかと伝令を走らせることになる。

 

スーパーミュータントスーサイダーが西門を自らの肉体もろとも破壊したのを見て残りのミュータントは武器を叩いて囃し立てる。

『兄弟!よく死んだ!』

『突っ込め!この街はもう俺たちのものだ!』

北からレイダー西からスーパーミュータント、頼みの自衛隊は南門で負傷者を出し制圧射撃の前に動けない。

今、ピニャ皇女の人生で最大の危機が訪れようとしていた。

 


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