MAD111 世紀末総支配人伝説 怒りのヌカ・ワールド 作:溶けない氷
「どういうことだい、もう始まってるじゃないか。あの連中はなんだい」
イタリカの街の郊外で先遣偵察にでたマグスは木の上からリコン・スコープを覗いてイタリカの守備隊と盗賊団の戦いを見ていた。
ここからは大分距離があるが、かなりの規模の山賊と街の守備兵が壁を巡って激突しているところが見える。
自衛隊が到着する前、東門での戦いを遠目に観察しているが山賊が場慣れしているのに対して守備側はいかにもど素人臭い動きが拭えなかった。
総支配人の分析通り、例の戦争とやらで守備兵の質も量も不足しているようだ。
「どうやら、野生のレイダー連中とあの街の連中が揉めてるみたいですね。
しかし連中、ウォールは立派だが手並みは貧相だ。」
「ふぅん・・・・それなら双方のお手並みを拝見といこうじゃないか。どっちみち本隊の到着を待つつもりなんだからね」
手に7.62mmアサシンライフルを持ち、サプレッサーを装着する。
オペレーターズが得意とするのはそもそも遠距離からの確実な狙撃戦。
この世界の連中が勝手に殺しあってくれるなら弾薬の節約にもなる。
ライフル弾だってタダじゃない、収支決算を黒字にするには節約に気を配らないと。
ライフルのリコンスコープを覗き、距離、風向を計算。
壁の上で指揮を取る騎士に狙いをつける。
長いレイダー生活からそれが若く、美しい少女だが高価な鎧、周りの反応から指揮官だということがわかる。
はっきり言って、素人より少し増し程度の子供がそんなところにいるかはわからないが仕事は仕事だ。
「バン!・・・ま、せいぜいレイダーを減らしてくれよ」
もしもこの時、マグスが狙撃していればピニャは脳天を撃ち抜かれていたろう。
7.62mmアサシンハンドメイドライフル、ショーンの武器ショップにマグスが依頼した特注品の銃。
人間相手の戦闘が殆どのレイダーにとってどれほど強力な武器かは言うまでもない。
彼女がなぜ撃たなかったのか、この時には守備側の敗北を見越していた。
やがてレイダー連中は退却していった。
「ふぅん、あのレイダー連中の威力偵察も終わったみたいだね。
まぁいいさ、もともとこっちは夜襲のつもりだったしね」
オペレーターズが得意とするのは狙撃に夜襲。
加えて夜間戦闘用に総支配人に狙撃兵用にはリコン・スコープを作らせた。
10人ほどの前衛が派手に撃って敵を引きつけたところを側面か背後から別の10人の狙撃兵が確実に片付ける。
この街はダイアモンドシティよりもでかいが、片付けるのにそんなに時間はかからないだろう。
5000人規模の街を30人で陥とす。
住民の全員が兵士ではないといえ、圧倒的な数の差がある。
無茶な話に聞こえるがその程度のことは難なくやって見せるのがヌカ・レイダーだと言えばその強さがわかるだろう。
加えてこちらにはT-60PAもあるのだ、負けるはずがない。
パワーアーマーで壁の上に跳んで、動くやつは皆殺しにする。
簡単な作業だ。
パワーアーマー、かつての最終戦争における米軍の決戦兵器。
素手で戦車の装甲を引きちぎり、銃砲弾の飽和攻撃にも耐える。
撃破するには戦車の徹甲弾か核弾頭の直撃しかないレイダーにとっては究極兵器。
この世界の人間も白兵戦ではそれなりの力があるが、核融合バッテリーで動くパワーアーマーの前では濡れた新聞紙みたいに引き裂かれてしまう。
「手持ちのステルスボーイの機能をチェックさせな!双方の殺し合いが最高に達したら横合いから殴りつけるよ!それまで交代で見張りを立てて休憩しな」
そう・・・・彼ら精強なる自衛隊の出現によって彼らの計画も狂わされるのだ。
「ボス!車両が街に近づいてます!」
そう見張りに言われて起こされると見たことのない車が街の門に近づいていたところだった。
「??あれがこの世界の連中の言ってた侵略軍ってやつか?
音が違う・・・内燃機関。幌タイプに装甲タイプの2種類。
武器は・・・・ライフルに機関銃、ロケットもか?
あの連中は車両を新造できるくらい復興したのか?」
「核融合じゃない?例のガソリンってやつを燃料に動く車ですか?
まさか・・・・総支配人の言ってたレッドチャイニーズって連中ですかね
例の昔、爆弾を落としたクソ野郎ども」
「クソ野郎でも、だとしたらお宝さ。
至急、砦に連絡。
レッドチャイニーズらしき連中を見つけたってね。
総支配人は侵略軍の生きた指揮官には10000キャップ払うって言ってるんだから」
「了解!」
レイダーの兵隊がビークルに走って無線機を使う。
『侵略軍の軍隊?将校付き?偵察チームか・・・・アルヌスでは16万人も虐殺したらしいからな、相当凶暴な連中だ。
無理な交戦はしなくていいができるなら生け捕りにしろ、無理なら脳みそだけでも持って帰れ』
「階級章・・・あいつが指揮官か?間抜けヅラだね・・・・門に倒された。
やれやれ本当にあんな間抜けに10000キャップの価値があるのかね?」
この時点では知るはずもないが伊丹耀司も自分の身に1万キャップの懸賞金をかけられるとは思ってもいなかったろう。
瓶の蓋1万個、高いか安いかはあなたの判断次第である。
この時点で総支配人が知っていることは
アルヌスで異世界の軍隊が30万の連合軍のうち16万人を殺した。
アルヌスに砦を築いている。
後はよくわからない。
これだけ聞くと、大量虐殺を行う軍隊が侵略準備を進めているとしか思えない。
ウェイストランドではよくあることだし、この世界でもよくあることだ。
「将校は捕らえろ、それ以外の動く者は殺せ」
「だけど、女どもは?レアものだらけだ、殺したら高く売れない。
あの将校の首だけ持って帰って空いたスペースには女と品物を詰めよう」
エルフのティカ、ゴスロリのロウリィ、幼いレレイ、栗林に黒川は特徴からなかなかいないレアもの扱いで高価な奴隷の評価をつけられる。
恐ろしい話をしているがウェイストランドではよくある事。
「欲しければ勝手にしな。だが狙いは生きた将校だ、私はおセンチな総支配人の仲良し家族計画を手伝う気は無い」
一方、イタリカの街の血と狂乱に連れられ連中が近くまで来ていた事にはさすがのレイダー連中も気づかない。
「静かに!人間、戦争してる。兄弟は馬鹿な人間が人間殺してる隙に街に近づく!
兄弟は人間全部殺す!あの街、兄弟の物になる!」
「「「「ウオォー!」」」」
「静かに!人間気づく!」
狂乱の声を上げるスーパーミュータント達。
口輪をしているミュータントハウンドも体を揺らし、狩の時間が来たことを悟る。
イタリカの街の血の匂いに惹かれてこの獣達もやって来た。
帝国軍+自衛隊VS盗賊VSレイダーVSスーパーミュータント
地獄の門が今、開かれようとしていた。