MAD111 世紀末総支配人伝説 怒りのヌカ・ワールド   作:溶けない氷

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ヌカ・コーラを讃えよ

 

ヌカ・コーラを飲みながら帝国からの特使とやらを砦で迎えた総支配人。

ちょうどいい花崗岩の岩山があったのでワークショップで中身をくり抜き戦術核弾頭程度なら耐える要塞を作り上げて終わったところだった。

バンカーバスターや戦略核弾頭相手には分が悪いが手作りにしてはまぁまぁだろう。

NORADやVaultとまではいかないが最低限の安全は確保できた。

将来的には資源がiBotに調査させた結果、鉱物資源が豊富なエルベ藩王国を本格的拠点にするつもりだ。

ここはいわば

一方でこの要塞に招かれた・・というか殴られ目隠しされ拉致同然に連れてこられた帝国の特使はおっかなびっくりだった。

「き!貴様ら!我々にこんなことをして・・・た、『BANG!』ギャァ!」

足に一発打ち込んで黙らせる実に紳士な我らが総支配人。

黙れ!とか煩い!とか大声を出さないのはさすがは戦前の教育を受け、文明的なインスチチュートの所長でもある。

「ボス、いきなり撃つのはどうかと思うがな」

「ああ、次からは殺してから撃つことにしよう。それで、なんだって?従えって?冗談だろ

これを考えた奴は馬鹿なのか?それとも、とんでもない馬鹿なのか?」

無論、ここまでの会話は全て英語であるので特使にはわからない。

もっとも、足を撃ち抜かれて痛みに悶えて聞いている場合ではないが。

『戻ってお前達のボスに伝えろ。糞食らえだとな』

這うように逃げ出す二人だった。

 

「この世界の人間はみんなあんな感じなのか?随分変わった別れかただな」

チタデルの総支配人室で集まってきたジャンク品を確かめながら確認する。

プラスチック、電子回路が手に入らないのは痛かったが工場で生産すれば補える。

奴隷に関していえば、実に効率的な運用方法を見つけた。

今日も今日とて砦の下に集まる奴隷に向かってマイクから声をかけてやる。

 

この砦の下にいる者だけでも数千はいるだろう、荒れ果てた帝国から水と食料を求めてやってきた憐れな民衆。

岩肌を削って作られたのは巨大なシンボル。

特徴的なヌカ・コーラのロケットボトルを模したそれは遠目からにもはっきりと見える。

外では奴隷が騒がしくしている、尤もマグスはそんなことは気にしない。

マグス・ブラック、オペレーターの首領でありボスの右腕。

レイダーにしては小綺麗なスーツ姿が映える、今の状況を見て口角をわずかにあげ嘲るように民衆を見下す。

総支配人がエレベーターを作動させ、発電機が吼える。

モーターが唸りを上げ、エレベーターが姿を現しその上に載せられた超大型輸送車両が民衆の前に姿を表す。

フォルド・コンボイ V8核融合エンジンが生み出す圧倒的なパワーでかつてアメリカという国の物流を担っていたワークホース。

今の呼び方はこうだ、ヌカ・コンボイ1。

ヌカ・ワールドの工場からかつては連邦のありとあらゆるところにヌカ・コーラを運んでいたのだろう。

トレーターに描かれたヌカ・ガールの笑顔が民衆に微笑みかけるが同じくらい美人と評判のマグスは全く微笑まない。

「俺たちはオペレーターズ!」

『オペレーターズ!』

 

「俺たちは強い!」

『オペレーターズ!』

 

「俺たちは総支配人の欲する物を手に入れ、キャップを手に入れる!」

『オペレーターズ!』

 

掛け声とともにトレーラーヘッドがバックし、輸送車両と連結する。

 

「連結完了!出撃準備よし!」

 

ヌカ・コンボイ1のマグスは助手席に座ると運転席の部下にエンジンを掛けさせる。

グォォォォと地獄の獣のようにV8が唸る。

銃、ミサイルを装備したオペレーターズがヌカ・コンボイ1に無理やり溶接された銃座につく。

運転席の横を護衛のバイクが通り過ぎる、サイドカーに備えられた機関銃が前を睨み奴隷を車線から遠ざける。

 

「俺たちはイタリカの町に向かう!」

『イタリカァ!』

 

「コーラもたっぷり用意したぁ!」

『ヌカ・コーラァ!』

 

「武器も食料もたっぷりある!」

『作物に7.62mm!』

 

「巨人も二人用意した!」

『パワーアーマー!』

 

掛け声は支配人がいた軍隊とかいう組織でもあったらしい。

出撃前の恒例行事みたいなものだ。

一定のリズムで行われる掛け声はレイダー達の士気向上につながる。

整備兵と運転を任されたドライバーが最終点検を済ませる。

連邦で拾ってきた車は程度のいいものを見繕ってきたとはいえ二百年もの。

総支配人の手腕がなければゴミだったろう。

「バカバカしい、さっさと金稼ぎに行かせろよ」

マグスはこの儀式に不満があるようだ。

ドライバーがアクセルを軽く踏み、V8が吼える。

振動が周囲の空気を震わせ、今にも飛び出しそうな雰囲気を出す。

 

 

そして砦のバルコニーにヌカ塗装のT-51に身を包んだ総支配人が姿を表す。

カッと砦の周囲に配備されたスポットライトが彼を照らし、彼の存在をそれ以上に大きく見せる。

奴隷達から歓声が上がる。

「総支配人様ぁ、お恵みを!」

「総支配人!総支配人!」

「総支配人を!ヌカ・コーラを讃えよ!」

「ヌカ!ヌカ!ヌカ総支配人!」

「ヌカ!ヌカ!ヌカ総支配人!」

歓声は奴隷だけでなく市民と認められたもの達にも広がる。

ヌカ・ワールドは徹底的な実力主義、才能があればグリーンランド人でもレイダーに昇格できる。

 

「皆の者ォ、不死身の総支配人様がお見えになられた!総支配人を!ヌカ・コーラを称えよォォ!!」

 

ヌカ・ワールドの総支配人にして神格的象徴。

 

「我々は、ヌカ・コンボイを走らせイタリカの町に向かう!

そしてそこを征服し、従属せしめ我らの新しい拠点にする!

より多くの食料とヌカ・コーラの材料のために!

そしてこの重要な任務を任せるのは、我らが栄光あるレイダー軍団のコマンダー

マグス・ブラック!」

 

「ヌカ・コーラを讃えよ!」

『ヌカ・コーラ!ヌカ・コーラ!ヌカ・コーラ!』

総支配人の演説が岩肌に反響する。

奴隷もレイダーも全員、親指を立てた右手の甲と左手の平を合わせてヌカ・コーラのボトルを形作る。

パワーアーマも器用に合わせ総支配人に忠誠を誓う。

 

これが総支配人の教える教義、英雄の魂は至上のヌカ・コーラ クアンタムの流れる天国へと導かれる。

それは高濃度放射性汚染物質ではないかというツッコミは知らん。

 

「見捨てられた憐れで惨めなもの達よ、私の元に来なさい。

私は日々のささやかな労働と引き換えにキャップを

キャップと引き換えに蛇口からヌカ・コーラを飲ませる」

 

更に総支配人は立って、大声で言われた。

 

『だれでも渇いているなら、わたしのもとにキャップを持って来て買いなさい。

わたしを信じる者は、ジョン・ケイレブ・ブラッドバートンが言っているとおりに、

その人の心の奥底から、生けるヌカ・コーラの川が流れ出るようになる。』

これは、総支配人を信じるレイダーが後になってからヌカ工場を征服したことを言われたのである。」

 

そう言うと奴隷達はさっきの熱狂が嘘のように静まる。

「くるぞ、くるぞ」

「もうすぐよ、もうすぐ飲めるのね」

 

「ヒャッハー!奴隷どもにヌカ・コーラの配給だぜぇ!

総支配人様に感謝しなぁ!」

レイダーが砦の上からヌカ・コーラが詰まったコンテナを下ろす。

 

民衆がウオォォォと獣のような唸り声をあげて降ろされたヌカ・コーラのコンテナに殺到する。

近づきすぎて降りてきたコンテナに潰されたり、他人に踏み潰されるのもお構いなし。

コーラのボトルを奪い合い、殴り合う奴隷達。

「ヌカコーラが必要だ、飲ませろ」と取り合いが始まり、悲鳴絶叫が飛び交う。

それを上から眺める総支配人は嘲るような笑いをヘルメットの下で浮かべる。

 

「よく聞け、ヌカ・コーラに心を奪われてはいけない。禁断症状で生ける屍になってしまうぞ」

総支配人は奴隷達に忠告してやる。

それでも民衆は奪い合いをやめない。

ウェイストランドでは特に珍しい現象ではないが。

 

砦のブラストドアの奥に総支配人が消えても民衆の諍いの声は絶えなかった。

ヌカ・コンボイ1が出発し略奪に向かう。

一方でエレベーターが上がり始める

 

「頼む!俺もレイダーにしてくれ!」

「見て!この娘は美人よ!総支配人様のお目にきっとかなうわ!」

哀れな人々はエレベーター係のレイダーにお願いする。

総支配人が必要とする者はレイダーか美しい娘。

お目に叶えば、食料も電気も綺麗な水も整った砦で暮らせるのだ。

レイダーが差し出された娘を見る、若く美しい女の子だ。

母親はせめて娘だけでもと彼女を差し出したのだろう。

今度はウォーリアバニーの少女、だが総支配人は人種の違いなぞ気にしない。

「よぉし、お前は来い!他はだめだ!」

少女の腕を掴み、エレベータを上げさせる。

多くのものが上がろうとするが許可なく乗ろうとしたものは突き落とされる。

 

空調の整った総支配人室では総支配人が新しい世界の地図を見ながら今後の計画を練っていた。

レイダー・帝国・謎の軍隊・・・この世界は謎が多いがどこの世界でもやることは変わらない。

人種にしてもエルフ・ダークエルフ・獣と人間の合いの子っぽい亜人種各種は人間と交配することが可能だということは既に確認してある。

ウェイストランドに比べれば遥かに健全だろう、いろんな意味で。

産ませた子供は立派に人類を導くものとして教育してやろう。

実際問題、この世界の人間の科学知識は刀剣が主力の時点でお察し。

インスの科学者は引きこもりでフィールドワークはしやしない。

レイダー?凄い(棒読み)

ならもう自分の血族で固めるしかないではないか。

ショーン?いやあの子は人造人間だし。

インスティチュートはその性質上、血縁採用が多いので総支配人は子沢山でもある必要がある。

この地に新インスティチュートを築くにあたってはとりあえずロボット部門、バイオサイエンス部門、SRB、先進テクノロジー部門にレイダー部門に兵器開発部門にそれぞれ所長、副所長に母親違いでも18人は必要だと思う。

「さて、そろそろ完成だな」

「しかし、あんたも器用なもんだな。こっちにきてからまだ3週間だってのに要塞の片手間にこんなもんを作り上げるとは

総支配人がDIYしちゃったものとは何か・・・

 


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