MAD111 世紀末総支配人伝説 怒りのヌカ・ワールド 作:溶けない氷
「か、壁が崩れたぁ。もう駄目だぁ!」
城壁にレイダーが馬に乗り込みながら投げつけられたのはヌカ・グレネード。
ピカドンという形容にも相応しく凄まじい閃光と凄まじい衝撃は帝国軍の魔道士の攻撃魔法が霞んで見えるほどの威力であった。
空いた壁を塞ごうとした守備兵が殺到するが
「ヒャッハー!火炎瓶を喰らえぇ!」
「ヒャッハー!汚物は消毒だぁー!」
「ヒャッハー!動くものはみんな撃てぇ!」
ヌカ・レイダー達の持つ火炎瓶・グレネード、ライフル、火炎放射器の圧倒的な火力の前にたちまち皆殺しの目にあう。
「ヒャッハー!新鮮な奴隷だぁ!」
「オラァ!女は一人一匹だ!もう持ってる奴は欲張るんじゃねぇぞ!」
村人を美女と見れば誘拐し、男なら女レイダーがおもちゃにするか奴隷市場に売り飛ばすレイダー。
ウェイストランド基準では特に美しい女なら食料3ヶ月分の価値がある。
逆に言えば美女でもそれくらいの価値しかないほど荒んだ土地でもある。
地獄そのもののウェイストランドからヒャッハー成分が流れ込んでから3ヶ月。
ヌカ・レイダーはまだ3週間ほどしか経っていないが恐るべき勢いでその勢力を広げていった!
今日もレッド・アイのレイダーラジオからは今日の略奪速報が流れてくる。
レイダーの何人かが左手のpipboy-3000で効率よくキャップを稼ぐジャンクを見繕う。
Pip-boy3000、二百年前に存在したアメリカという国で一般的な携帯ハンドヘルドコンピューター。
この世界の技術力を数千年は先取りした超最先端デバイスが、特地の人間から見ても蛮族としか言いようのないレイダーの手にあるとは皮肉な話だ。
今や多くのレイダーが稼ぐためにScrapperとなった。
『よう、馬鹿ども。こちらレッドアイ、レイダーラジオの経営者だ。
今日の、ホットアイテムは・・・オイルだ。
総支配人は今オイルがとーっても必要、何に使うかは・・・わかるなぁ?
ま、言ったところでお前らの脳みそで理解できるたぁ思わねぇけどよ。
それとだ、この前金貨ばっかり送ってきた奴、金はダブってるからあんまいらねぇってよ。
あーそれと相変わらず銅は不足気味だそうだから高値買取が期待できるぜぇ。
このグリーンランドでもっともっとーって気分だろぉ?
ほんじゃ、新作行くぜ こいつはぁ、この前殺した奴に書かせた曲だ。
いや冗談、ちゃんと自分で書いたって。殺したのはホントだけど』
「ヒャッハー!今降伏すれば奴隷にするだけで済ましてやる!降伏しないなら男は皆殺しの上で!女子供は奴隷として売り飛ばしてやる!」
「だ、誰が貴様ら蛮族どもに降るものか!たとえ、最後の一兵になろうとも誇り高き帝国臣民は貴様らに膝を屈しないのだ!」
既に守備側は多くの兵を失い、城壁を破られもはや最後の本丸しか残っていない。
「ほぉー、面白い奴だな。気に入った、殺すのは最後にしてやる。
ヒャッハー!行けぇお前ら、一番多く殺した奴はヌカ・レイダーとして取り立ててやる!」
「「「「「ヒャッハー!」」」」」
今や傭兵兼山賊はアルヌスの丘で自然失業してしまった分を取り戻すために新しい雇い主を見つけたようだ。
そう、ヌカ・レイダーがこの異世界での新しい雇い主ということのなる。
言葉が通じにくい点はあったがそこはお互いならず者同士。
更に価値観の違いも逆にうまく作用した。
ヌカ・レイダーの価値観はキャップ!暴力!薬!であり襲撃も略奪も虐殺もこれを満たすため。
薬を買うために暴力を振るってキャップ目の物を奪う。
金貨の価値はレイダー的にはオリーブ油よりも低い。
一方で普通の盗賊はというと普通に金貨と女が必要だった。
彼らの中には善良なものもいるにはいる。
そもそも善良なら盗賊にはならないだろと思われるかもしれないが
大抵の場合彼らは農家や貴族の次男坊・三男坊。
資産がないから戦争で一稼ぎして故郷に錦を飾りたいというささやかな望み。
そして、戦争につきものの女性を誘拐しての略奪婚は地球でも同じようなことは古代から現代に至るまで山ほど例がある。
ウェイストランドのレイダーのように今日を最後と思って常に奪い続けなくても良い分健全とも言える。
そしてこの指揮官の決断は正しい。
『レイダーには銃で抵抗してもいい、机の下に隠れてもいい。
だが絶対に降伏するな、その白旗で首を絞められるだけだ。
ウェイストランド・サバイバルガイドより』
もっともこの30分後にミサイルの集中砲火で砦は落ち、この街の人間は抵抗するものは貴族も平民も全て殺された。
そのあとはお決まりのレイダー・山賊合同による略奪と暴行という人類史でありふれた光景が繰り返された。
一方でレイダーの総支配人はこの世界の状況を理解し、支配するための大計画を実行しつつあった。どうやらこの世界に来た異世界人は自分たちだけではないらしい。
手下の山賊によるとアルヌスとかいう土地から湧き出た異世界の侵略者の軍勢によってわずか2かで30万の軍勢が半数まで討ち取られたという。
連中はレイダーをその異世界の侵略者の一部だと思ったらしい。
よくはわからないが攻撃方法から曲射榴弾砲を開発する程度には文明の発達した侵略軍なのだろう。
顔はここの住人とは違って平たい顔だという・・・・東洋人だろうか?まさかレッドチャイニーズなのだろうか?
あの忌々しい共産主義者はこんなところにまで蔓延してまた俺の人生を台無しにしようとしているのだろうか?許さん。レッドチャイニーズ死すべし、慈悲は無い。
常識的に考えれば恐らくは自分と同じく核兵器を保有している可能性が高い。
と、なるとレイダー側もかなり武装強化しなければならないだろう。
具体的にはプラズマ兵器、ガンマ線兵器、核兵器の増産に対空核ミサイル。
新しく手下になった山賊どもには38口径パイプライフルでも配ってやればいい。
連邦ではもっぱらゴキブリやハエ退治くらいにしか使えない38口径でも人間の騎士の鎧を撃ち抜くには十分だった。
最初はたかが38口径で死ぬ人間がいるとは信じられなかったが、実際に捕まえた騎士をパイプライフルで撃つとあっさり死んだ。
明確にわかったことがある、この世界の人間は弱い。
ヌカ・レイダーはおろかそこらへんの普通のレイダーでも10倍の騎士相手に戦えるだろう。
ましてや総支配人はそのレイダーを4桁は転がして来たのだ。
そしてこの世界は美しい、水は汚染されていないし土地も健康そのもの。
手に入れた女たちも実に美しかった。
この世界が欲しい、全部手に入れたい、全部自分の縄張りにしたい。
そう思うのはウェイストランドで過ごしたことがあるものなら当然。
だが、せっかく見つけた新しい縄張りを新参者に荒らされるのは気に食わない。
新しく手下にしたグリーンレイダーで頭数を揃えたがレッドベレー出身の総支配人からしてみれば
雑魚ははいくら集めても雑魚。逆に足を引っ張るのでは無いかと思っている。
「で、連中は使えるのか?」
「ふん、グリーンランドの連中はどいつもこいつも腑抜け揃いだ。
銃が無いことを差し引いても俺たちヌカ・レイダーの足元にも及ばん」
「連中の女の扱いは荒すぎる、この前も”市民”から苦情が来ていたぞ」
このような時代、領主の雇った荒くれ傭兵が陥落した町で乱暴狼藉の限りを尽くすのは兵隊の当然の権利だと思われていた。
そんな世界に現れた本物の世紀末総支配人の価値観の違いはあまりにも大きい。
グォォォォン!というV8核融合エンジンの音もけたたましく異世界の草原を全身鉄条網とトゲトゲでとガトリング砲で装飾された世紀末トラックが駆け抜ける。
バンパーにはご丁寧に『ヌカ・コーラを讃えよ!』
2台の世紀末バイクと世紀末ロケット69に先導されて今しがた奪った町からのオリーブオイルを戦利品として総支配人の元に届ける途中なのだ。
たかが油、されど油。
油なしでは車も銃も核ミサイルも作れないのだ。
最初はこの世界の新鮮な人間が捨てていた骨を拾って作っていたが、
やがて植物から作った油を奪ったほうが早くて大量に手に入れられるとわかった。
折角の貴重な死体を無駄にするここの連中の贅沢さが理解できなかった。
それだけじゃ無い、綺麗な水も新鮮な野菜も贅沢にある。
今やヌカ・レイダーの一番下っ端でもダイアモンドシティのデブ市長よりキャップ持ちだ。
「ヒャッハー!総支配人様のいった通りだぜ!こんだけありゃぁ、一生遊んで暮らせるぜぇ!
ダイアモンドシティの一等地によぉ、豪邸でも買うかぁ!」
「バカか、周りを見てみろよ。総支配人様はなぁ、ここを征服してここに住むに決まってんだろ」「おい、しっかり荷物を見張ってろよ。総支配人様にお届けする大事な荷物なんだからな。
無くしでもしたらキャップを大損しちまうぜ」
「皇帝陛下!いかがなさるおつもりなのですか!
あの蛮族どもはますます調子に乗り、辺境区のみならず帝国の要衝までも!
既に20以上の街が略奪の憂き目に遭っております。農村に至っては全滅したものも多数・・・
このままでは帝都でも来年には飢え死にするものが続出しますぞ!
既に属国の中にはあろうことかあの蛮族どもと独自に交渉しようというものもおる始末・・・」
およそ、一人の騎士を養うには500ヘクタールの土地と作業する農民が必要とされていたという。
帝国はその膨大な軍事力を背景に大陸のほぼ全土をいわゆる天下統一に向けて征服し続けて来た。豊臣秀吉の天下統一の後には諸侯にわけ与える領地不足が朝鮮出兵を促した。
十字軍の動機も増える人口と増えない領地という問題の解決策だった。
帝国の場合は異世界に領土を求めたが、一方は日本
もう一方はおよそまともな生活ができそうに無い・・・というか帝国が天国に見えてくるウェイストランド。
連鎖する負の要因によって今や帝国は絶頂期から破滅へとまっしぐらに転がり落ちていくのか・・・