MAD111 世紀末総支配人伝説 怒りのヌカ・ワールド 作:溶けない氷
「ううむ・・・・」
東京
ここは自衛隊アルヌス駐屯地から送られてきた情報を統合的に整理し
今後の特地での任務を幕僚、そして防衛省の幹部に報告し適切な国家の判断の材料にするものである。
「皆様、ご覧の通り今や特地は混沌の極みと言えます」
自衛隊の偵察機RF-4Jから映された映像が会議室のモニターに映し出されると、その場に居合わせた誰もが息を呑んだ。
次々と燃え上がる村々に町、めぼしい街からは大小の差異はあれど煙が上がり陥落したことを示している、
そして中世の文明レベルで街が陥落すれば始まるのは古今東西、異世界を問わずほぼ同じことだ。
虐殺に略奪、勝者による敗者への陵辱。
「そして・・・こちらが推定による略奪集団の推定数です」
「これは・・・・推定30万以上!?こんな事がありうるのか?」
「歴史上・・・このような騒乱は地球の歴史にも多く見られます
中国での黄巾の乱を始めとする王朝交代時の大反乱やゲルマン民族の大移動などです」
数ヶ月前まではたった1000人にも満たないヌカワールドのレイダーは今や現地の食い詰め者を大量に取り込んでその数を大幅に増やしていた。
ほとんどはレイダーに許された銃火器までは与えておらず、ただの肉の盾兼二足羊扱いだが。
こういうものを地球では古くから戦奴と呼び戦争の度に矢玉避けに使われてきたので珍しいものではない。
財産も故郷も失った被害者が加害者の一行に加わることによって食っていくというイナゴの経済システムが急速に出来上がっていることを示している。
「そして・・これが偵察隊が撮影した”大規模武装集団”です」
『ヒャッハー!見ろあの必死の顔をよー!』
『イヤッホーッ!!』
『ホホホーッ!』
『汚物は消毒だー!!』
そこに移っていたのは刺々しく改造したバイクや自動車に跨り、突撃銃や斧を振りかざしながら人々に襲いかかるモヒカン・肩パッド・レザーアーマーの・・・どう見ても世紀末ヒャッハーです。
ご丁寧に火炎放射器で武装しお約束の言葉まで吐く某聖帝配下のモヒカンまでいるという映像に自衛隊の幕僚達も唖然とした。
「何だこいつらは!?北○の拳の雑魚どもか!?」
幕僚がつい放った言葉が全てを説明していた、80年代に流行した漫画のやられ役そのものの連中が映像の中で暴れまわっていたのだ。
違う点は銃火器でヒャッハーどもが武装している事と世紀末救世主がいないことくらいか。
「連中がアルヌスの丘で自衛隊と偶発的に交戦した部隊の一部と考えられております
装備に関しては殆どが何処から拾ってきたのかもわからない粗雑なものですが、殆どがAK-47に酷似した小銃で武装しており更に一部は大口径の対戦車ミサイルも装備しておりますので
接近戦に限れば火力は普通科と何ら変わらないと思われます。
自衛隊の偵察隊が廃棄された自動小銃をサンプルとして持ち帰った所、その重量こそ89式の倍以上という軽機関銃並みの重さだったが重さ以外は十分に実用に耐える精度と頑丈さを有していた。
工作精度の低さと材料の質の悪さを肉厚で補う世紀末設計だったが、それゆえに頑丈さは勝る。
偵察隊の映像は更に続き、陥落した町で繰り広げられるお決まりの略奪・そして街が陥落するとそこに建てられたのは・・・
「はぁ!?コーラの瓶!?」
巨大なコーラの瓶がトラックから降ろされると町の真ん中に建てられる。
『ヒャッハー!この町も総支配人様のものだー!』
「コーラ!コーラ!コーラ!コーラ!」
トラックから真っ黒なヌカコーラが下され、レイダーに支給されるとレイダーたちが勝利を祝って乾杯する。
『ウヘヘヘヘへぇ、ふいー人を殺すとコーラが飲みたくなるぜ』
更に巨大コーラボトルからにロープが吊るされると・・・
「連中!なんてことを・・・・」
そこにはこの町の有力者の貴族とその家族が吊るされた。
『ヒャッハはー!総支配人様に逆らう奴は皆殺しだぁ!ミュージックスタートぉ!
World of Refreshmentは(ヒャッハーには)素敵な場所!
(ヒャッハーな)フレンドリーなヌカタウンで弾ける笑顔(と脳みそ)!』
そして流れるのがヌカ・ワールドのテーマソングだった。
200年以上前はパパママお子さんに人気の夢の国のテーマソングも
今や世紀末世界では恐怖の象徴のようになっている。
街のそこかしこにゴミのように放置される死者、鎖に繋がれモヒカンに
『オラーッ!奴隷ども、歩けー!ぐずぐずする奴は消毒するぞー!』
と急かされる。
『この薄汚いゴミクズども!ノロノロしやがって、さっさと車に乗り込め!
ぶっ殺されてぇかコラァ!』
甲高い声で今や奴隷となった人々を罵るのは世紀末仕様に改造され右手に火炎放射器。左手に機関銃を装備したヌカワールドのマスコットキャラのNIRAだ。
『こんにちは坊ちゃん、楽しんでますか?grgafsfsdエラー』
『このクソガキが!さっさと歩け!さもなきゃうじ穴に放り込んでやる!』
最後の映像は狂ったロボットが機関銃を乱射しながら人々を奴隷輸送車に詰め込むシーンだったが・・・
『まずい!連中、こっちに気づいたぞ!』
自衛隊偵察隊の何人かがレイダー連中が自衛隊に気づき銃をこちらに向けて発射してきたのシーンに変わった。
『射撃しつつ後退!退避!』
自衛隊員がMINIMI、89式小銃を撃ちながら大急ぎで林の中に隠してあった高機動車の方に駆け込む。
『隊長!バイクが向かってきます!』
『ヒャッハー!新鮮な肉だー!』
たちまち気づいた何人かのレイダーが刺々しい車やバイク・・・マッドマックスの改造車のような車に乗り込んで追いかけてくる。
『全速力だ!』
偵察隊も小銃を撃ちつつ後退する。
自衛隊の軽装甲機動車が3両の偵察隊の最後尾につき、銃弾を弾きつつ銃座のminimiを打ちまくりながら後退するが装甲があるぶん、そして純粋にパワーの差で徐々に追いついてくる。
『ヒャッハー!あいつは俺の獲物だー!』
『ざけんな!あの軍隊野郎は俺がぶっ殺す!』
二人乗りの改造車やバイクが追いかけてくる。
改造車は一人がドライバー、もう一人がガンナーでグレネードスティックと呼ばれる
先端にグレネードや火炎瓶をくくりつけた投げ槍やロケットで武装している。
MADMAX怒りのデスロードの連中と同じノリだ。
要するにアフリカや中東の戦場でよく見かけるテクニカルである。
自衛隊も応射するが、双方高速で揺れ動く車上から常に動き回り急所は装甲化された車両同士の軽火器の撃ち合いのためまるで第二次世界大戦時の飛行機の戦いのような戦闘になる。
追うレイダーもこれでは埒が明かないと見たのか、ついにロケットランチャーを持ち出して軽装甲車に狙いを定める。
『地獄に落ちやがれ!』
ところで何故特に奪うものもないのに自衛隊に襲いかかるのか?
まず間違いなく、何も考えてないよ。だってレイダーだし。
シュパ!という間抜けな音とともに対戦車ロケットが軽装甲車に向かって放たれる。
『右に避けろ!』
銃座についていた隊長が咄嗟にドライバーに指示を出し、回避に成功するが
危機はまだ終わっていない。
近づいてきたバイク乗りが速度を落とした軽装甲車に向かってグレネードを投げつけてきたのだ。
爆発音とともに大きく揺さぶられる軽装甲車。
隊長の持つminimiが次々とバイク兵を撃ち殺すと、横転したバイクがそのまま今度はハンドルを切り損なった装甲改造車に突っ込んで激しく横転した。
次の瞬間には軽装甲車は脇目も振らずに撤退し、レイダーの追撃を振り切ったところで映像は終わっている・・・
「以上が特地で無法行為を行う”大規模武装集団”に関する報告です」
「こんな物をどうやって国民に報告しろというのだ・・・」
特地が急速に昔の漫画で見たような世紀末状態になりつつありますと国会で説明しなければならないのかと思うと自衛隊の幕僚たちは頭を抱えるのであった。