MAD111 世紀末総支配人伝説 怒りのヌカ・ワールド   作:溶けない氷

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なんで原作の皇帝が好きになれなかったとか考えると
結局、子供の意見に振り回されて万事他人事だという態度で典型的なかっこ悪い悪役でした。
根性足りなさすぎて敵としてはあまりにもかっこ悪いので
人間らしく抗う姿勢マシマシにしてみました。

総支配人は主人公なのでブレずに自分を制して悪に徹します。
敵がかっこ悪いと読者も萎えちゃうぞ。



予想通り不合理

 

伊丹率いる第3偵察隊はどうにかして地獄の片鱗となったイタリカから脱出し、アルヌス駐屯地へと帰還した。

薔薇騎士団は初陣で全滅した、貴族の男は従順にはなり得ないという理由で徹底的にレイダーに叩きのめされ爆弾首輪をつけられ、女性騎士は揃って犯され孕まされた。

『ケダモノ・・・ケダモノがぁ・・・いっそ殺せ!』

総支配人の命中率はVATSでも使っているのか凄まじく、全員一発必中だった。

エ=ロ芸かな?

 

すぐに帰還した伊丹は戦闘中の混乱の中でMIA扱いであったが、商人の馬車を貸してもらって帰還した伊丹を待っていたのは取り調べだった。

自衛隊員は特地では異性との性的関係を持つことは禁じられているが、ヌカワールドではそんな規定は無い。

というか、規定そのものが無い。

レイダーに秩序は暴力による上下関係以外無縁である。

 

撃墜されたコブラやヒューイ、そして鹵獲した高機動車などを調べた結果

総支配人は自衛隊についていくつかの情報を手に入れることができた。

1:ジェッタイは階級が存在する正規の軍隊

2:科学技術は充実

3:武器・装備は帝国は無論、ジャンクの寄せ集めに過ぎないヌカワールドを上回る。

4 アルヌスの大虐殺と合わせて対戦車ヘリの存在はその他の戦車・遠距離火砲の存在を意味する

総兵力は不明

しかしながら寄せ集めの集団に過ぎないレイダーの現有兵力では勝てない

接近戦では小銃・防弾チョッキなどを調べた結果互角という結論を出せたが

近代戦で接近戦など、なんの意味も持たない。

・・・・・・・・・不利なのはいつものことだ。

一個小隊で1000万以上の中国兵の海の中に成層圏から飛び込むのに比べれば、どうということもない。

一方で総支配人はイタリカの商人達や鍛治職人に”お話”をして情報を集めさせ次のような結論を出した。

『“帝国”は日本への遠征が失敗した後に、大急ぎで魔術師をかき集めて日本から攫ってきた人間を拷問して情報を集め、魔術師と技術者にその対策を研究させている』

ここまではわかる、当たり前の話だ。

問題は、どういう手を打つのか?

・・・・考えられるのは門を閉鎖することくらいだが?

日本の補給体制は不明だが、門が開いてから大きな動きがなかったことから十分とは言えないのだろう。

海路も鉄道も無いのでは輸送など問題外だろう。

事実、自衛隊はアルヌスの駐屯地にトヨタ式のカンバン方式で補給を続けていた。

自衛隊の幹部の中にはこれに不安を唱える者も多かったが、中世レベルの敵相手に無駄遣いはできない財務省の主張によりこの方法がとられていた。

実際、ストックが少ないこの状況で門が閉まれば燃料だけでなく大量の部品を必要とする航空機・ヘリ・戦車などはあっという間に共食い整備のガラクタに成り果てる。

門を閉じれば大量の物資を消費しつづけなければならない近代軍はモスクワの門前のドイツ軍に成り果てる。

小銃弾やロケットといった歩兵装備くらいなら、総支配人でも生産できるがこれ以上の大型武器の生産は現状ではできない。

一番なのは現地の鉱物資源から弾薬を生産すること、故に連中が侵略を続け生存圏を拡大する前に門を叩かなければ勝機はなくなる。

時間は今や、総支配人の敵になった。一分一秒も無駄にはできない。

皇女をいきなり孕ましたのはやはり無駄ではなかったと確信した総支配人は帝国のメンツを”今のところは”潰さずに帝国と妥協点を探る決意をする。

『ウラン鉱石さえ確保すれば後はどうとでもできる』

この世界には魔法があるが、原始的なヒロシマ型以下の破壊力しか持たないのでは兵器としてはお話にならない。

 

一方で特地での初の戦死者発生という知らせに日本は大いに揺れた

最大手の旭日新聞は号外も組んで『戦後初の戦死者!!問われる自衛隊の危機管理能力!!』

新聞・テレビといったマスコミは自衛隊を揃って無能・無為と非難轟々の連続であった。

帝都新聞なども『土人国家にすら敗北!最新兵器が聞いて呆れる!』

一回の予期せぬ敗北で自衛隊を年に5兆円以上の予算を無駄遣いする浪費の象徴だとこぞって叩きまくった。

実際には土人はおろかヌカワールドもスーパーミュータントも2077年の軍事超大国の超兵器の落とし子とでもいうべき存在であり、20世紀後半のそれも旧式装備ばかり財務省の都合で持ってきた自衛隊が接近戦で無傷で勝てる相手ではない。

更に言えば5兆円など第3次世界大戦での米軍の半日分の予算に過ぎない。

今のヌカワールドが米軍の搾りかすの残りカスに過ぎないのも頷ける。

無論、特地の軍隊は中世レベルの野蛮人の群れに過ぎず自衛隊の前には腐ったドアも同然だ!

という理論で進出経済界からの付け届けもあって吹聴したのもマスコミだったが、それはさらっと忘れたらしい。

 

帝国と日本の講話は不可能だ、なぜならこの状況で講話などすれば支配の正当性が消滅する。

貴族は強いから強いという常識を打ち破ってしまった日本を認めれば

強いから他者を支配できていたこの封建世界は崩れる。

その先にあるものは真に力を持った者が天下を狙う居心地のいい世紀末世界だ。

一つの世界に覇者は二人いらない、こんな常識すらわからないほど二フォンは甘くないだろう。

(実際には甘かった)

世界は残酷で理不尽だ。 やっぱ人間ってくそだな。

 

「今回の作戦で、日本本土の連中は自衛隊への非難轟々だよ。

全く、アルヌスの丘の時は勝った勝ったの大合唱だったのにな」

柳田が悔しそうに唇を噛む。

技術面から見れば、遥かに自分たちより劣る土人国家相手なら自衛隊は無敵だという予想を覆されたのだ。

 

「優秀な隊員を大勢殺された・・・・たかが土人国家相手の戦争にだ!」

 

「すまない、俺の指揮のミスのせいで」

伊丹が謝罪するが、それに慌てたように柳田が否定する

「いや、お前のせいじゃない。いや、誰のせいでもない」

戦後初の実戦、それも誰にとっても未知の異世界での戦いに常識を持ち込む方がおかしい。

 

剣と魔法の世界に銃が加わった、通常の自衛隊の仮想敵に戻っただけなのだ。

「それにしてもだ、新しく確認された『大規模武装集団』?

連中や緑の大男への政府の公式な呼び方だが、新聞もテレビも大したことは放送してないな・・・・」

イタリカで見かけたヌカワールドの規模がどれくらいかはわからないが、伊丹たちがまさか五体満足であの地獄から生還するとは誰も思っていなかったらしくアルヌス駐屯地で戦死認定される寸前に戻ってきたことから大騒ぎになった。

「政府の公式見解では特地にはいかなる『国』も存在しない。

それゆえ特地での行動は全て治安活動で『帝国』も武装勢力ゆえ内閣総理大臣の命令さえあれば治安出動および国民保護派遣が可能ということだ」

 

相手国など存在しない、単に反乱分子がいるだけだというのは今の朝鮮半島や中国と台湾、あるいはシリアの例を見ればわかる。

相手国が無くても戦争はできるのだ。

 

「いえ、政府は特地を『日本国』と見なしてる。

であれば特地における自衛隊の活動はすべて『国内における活動』と解釈でき、

国会の承認が無くとも内閣総理大臣の命令さえあれば治安出動および国民保護派遣が可能になるのだと」

 

確かにこれならば、戦争はできる。

だが相手国がこれをどう思うか?考えて欲しい

『お前は武装勢力だから講話しないよ』

国じゃないから話し合わない、同じようなことはまさに世界中で頻発している。

そして結果が今どうなっているかも。

はっきり言ってかなりまずい手だが、日本からすれば外交よりも内向きの言い訳を重視したのだろう・・・・

 

伊丹も柳田も政府の方針に疑問を覚えないではなかったし、自衛隊幕僚の中にはこの表明を危ぶむ者も多かったが、

自衛隊の立場もあるので表立って修正するようには言えなかった。

 

話題を変えようとして、柳田は外務官僚の菅原の方を見やった。

「そう言えばどうなってます?例の属国との同盟ですけど」

「うん、それが予想外でね」

 

冴えない表情をするが

 

「どの国も適当にはぐらかすだけで、のらりくらり。

ここに至ってそんな態度をとるって事は、帝国側に付くと決めたも同然だ」

 

帝国の強硬な態度に業を煮やした日本はその属国を切り崩そうと反帝国包囲網を構成しようとした。

アステカを征服したコルテスやローマに対するハンニバルの戦略を取り入れた分断し、統治せよ戦略だが・・・・

実際問題として前者のように定期的に大量の生贄要員として自国民を屠殺されるほど恨みが深くなければ新参者の日本に積極的に協力する者は多くなかった。

 

伊丹は信じられなかった

属国の大半は、あのアルヌス攻防戦を戦った。

そこで自衛隊と自分たちの圧倒的な戦力差を嫌というほど思い知らされたはずだ。

 

そもそもあの戦い自体が帝国が属国の戦力をすりつぶすための陰謀だったという話もある、それでも帝国に忠誠を尽くすのか?

 

総支配人なら、こう言ったろう

『誰かの為に戦うから、こういうことになるんだ。マヌケェ!』

 

『相手がでっかい銃を持ってるから、はい降参とか。

お前、支配者の資格ないわ。支配者失格なら奴隷になるしかないな』

 

言葉は悪いが総支配人の言葉は真理をついている。

 

被害者ですらあるはずの属国がなぜ今だに帝国について勝ち目のない戦争を仕掛けるのか?

 

現代人が理論的に考えれば、馬鹿な!あり得ないだろう。

 

 

圧倒的な国力差のある米国に日本はやらなければ破滅と絶望から奇襲した。

 

アメリカ人の理論では戦争は勝ち目があるからするものであって

勝ち目がないから戦争するなどあり得ない。

ゆえに日本は戦争を仕掛けてこないと考えていた為にむしろ戦争は起こった。

皮肉なことに今の日本人と帝国の関係は1941年の日米関係を思い出させるが当の日本人はそんな事も忘れてしまっている。

 

(馬鹿な、帝国が自衛隊に勝てるとでも思ってるのか? 文明レベルが500年は違うんのに・・・)

文明レベルが違う、だからどうした?

損になる?だから降伏しろと?

 

アルヌスの丘で自衛隊は10万以上の属国兵を大量虐殺した。

当然、戦死者の中には彼らの国でもかなりの高位の貴族子弟も大勢含まれていた。

ナショナリズムは戦勝の高揚からでなく、敗北の屈辱から生まれるのだとしたら史上空前のナショナリズムの嵐が属国と帝国の宮廷では吹き荒れていたのだが日本側はこれをまだ知らない。

 

『侵略者を倒せ!祖国を守れ!』

地球でも有史以来、延々と繰り広げられてきたスローガンだし

どことは言わないが、今の日本のすぐそばでも日常的な光景の一部だ。

そしてそんな言葉に動かされる民衆も多いということを日本の合理的な官僚は理解できなかった。


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