MAD111 世紀末総支配人伝説 怒りのヌカ・ワールド   作:溶けない氷

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UH-1 ダウン

HUDに息のある敵勢力がハイライトで表示される。

射程内に野生のレイダーが表示されたのを見て、レーザーの照準とPip-Boyをリンクさせる。

敵の装甲と脅威度が表示される

実弾耐性10 エネルギー耐性0 放射線耐性0 脅威度(Lv)1

まるでお話にならない、そこらのウェイストランドの食い詰めレイダーと同様だな

と思ったが、連中は食い詰めているからレイダーになったのであってそこらへんはどこも変わらないなとヘルメットの中で苦笑する

VATSを使うまでもないほどの低脅威度ゆえ、足を止めることもなく進み続ける。

盗賊が住民を犯したり、殺したり酒を飲んだり略奪しているが別に気にもしない。

この程度でいちいち突っかかっていたら総支配人は毎日のように大虐殺をしなければならない。

「いやぁ、やめてください。お願いします!」

ある家からは上がり込んだ盗賊達が壁に串刺しにされ既に生き絶えた夫の目の前で妻を犯していたり。

「ほらっ!歌えよ!旦那の前でいい声でヨガってみせろよ!ヒャハはっ!」

酒屋から略奪した酒を飲みながら妻と娘を目の前で犯されている夫に見せつける外道。

中世ではありふれた光景だし、ウェイストランドでも似たようなものだが手下でもない連中にこれから自分の財産になる町を好き勝手されるのも不愉快だ。

 

総支配人はガトリング砲で掃射することも考えたがフュージョンコアが勿体無い。

核物質さえ掘れれば量産は可能とはいえ、たかが人間相手に撃ちまくるのも大人気ない。

総支配人は手持ちの火炎瓶を取り出すと2、3個手近な家に放り込む。

直後、大音響とともに家が燃え上がり盗賊をまとめて焼き尽くす。

バカでも気づく攻撃を食らって仲間がカリカリのローストにされたことに気づいて盗賊達がやることを中止して総支配人の進む大通りの真ん前に飛び出してくる。

「やろう!どっかの騎士か!?」

「構うこたねぇ!ぶっ殺してその鎧ひん剥いてやらぁ!」

 

早口で罵り言葉を叩きつけてくる野生のレイダーの言うことはわかりにくい。

もっとも、わかる必要も気も無い。

サイドウェポンのレーザーピストルを取り出し、家から刀槍を手に飛び出してきた馬鹿を撃つ。

レーザーピストルは軽量でありながら射程が長く、殺傷能力・命中精度のバランスの高さから冷酷にも熱血な殺人にも対応する優れた武器だ。

人間以上の存在を殺すには少し物足りないが。

レーザー光の赤い光が宙を割いて現れる。

文字通り光速の攻撃は身を隠す暇も避ける暇もなく、盗賊の一人に命中し瞬時に全身の水分が蒸発。

残った炭素の部分も超高熱で炭化し一瞬で灰と化し地面に散らばる。

「あの図体で魔術師なんて聞いてねぇぞ!」

『やれやれ、これじゃ総支配人じゃなくて清掃係だな。

ゴミ回収係をもう2、3人雇わないとな』

無造作に、軽くジョギングしながら赤い光線がほとばしるたびに盗賊が一人、また一人と灰になっていく。

盗賊達も遠距離からは弓矢を射かけるが、傷すらつかない。

ピストルといえども木製の壁を打ち抜くことくらいはできるのでまとめて焼き尽くす。

「こっちはまだ大事な仕事が山ほど残ってるんだから」

面倒になった総支配人はフラググレネードを取り出すと無造作に盗賊団達が立てこもるイタリカの商館の建物の中にゴミ箱にコーラの瓶でも入れるように投げ入れる。

瞬時、建物全体が激震し爆音が響く。

ウェイストランドでは野球のボールがわりくらいの軽い気分で投げたりバットで打ち返されるが

みんなはムカつく奴がいるからって、そいつの家に爆弾を投げ込んじゃいけないぞ。

「さっさと終わらせないとな」

更にもはや隠す気もなくレーザーガトリングを取り出すと分厚い壁でできた建物の向こう側にいる盗賊達に向かって引き金を引く。

分厚い壁の向こう側だろうと生体反応探知能力のあるX-01の前ではヌカーワールドの射的同然。

一瞬の空転の後に赤い光線が次々と現れる、超高熱の熱戦は石壁を紙のように貫通し次々と人間を石壁もろとも木っ端微塵にしていく。

しかしあまりにも激しい射撃の前にさらされた建物の重量が強度を上回り、柱がメキメキと嫌な音を立てながら徐々に傾いていくと思いきや勢いよく崩れた。

 

「おっと公共物破損だ、警察を呼べ!それと葬儀屋もな」

 

さすがにイタリカを瓦礫と死体置き場にしてしまうとあとで困るのは総支配人なので今度は武器をロケットブースター付きの2076年ワールドシリーズ・バットに変える。

「野球やろうぜ!俺がバッター、お前らがボールだ」

 

盗賊達は困惑していた、目の前の鎧を着た騎士だと思ったら魔術師の大男が今度は棍棒に持ち替えたのだ。

壁に隠れ様子を伺っていたが、次の瞬間信じられないものを目にすることになった。

『ヤキューしようぜ。オーイ、来いヨ?ok,俺いく』

下手くそな帝国語で喋った青い騎士が消えたと思ったら次の瞬間建物の2回から凄まじい悲鳴とグシャ・スコーンな擬音と共にでクロスボウを構え騎士に放とうとしていた盗賊の上半分がこっちに向かって飛んできた。

飛んできた半分の死体に潰されて傭兵が一人ついでに死に1.5人分の肉が混ざった奇怪なオブジェが出来上がる。

ほら、またレイダーアートの出来上がりだ。

総支配人は芸術家としても名をはせるぞ!

『スワッター!スワッター!また背番号を追加するぞ!』

2階から盗賊の一人をクッションがわりにして飛び降り更に相手へと蹴飛ばす。

野球とはウェイストランドにおける最も人気のあるスポーツ。

9対9のチームに分かれ、スワッタ―で相手チームを沢山殺した方が勝ち。

シンプルなルールながら奥深く、長い伝統を誇る競技である。無論、通年MVPは常に総支配人である。

ワールドシリーズという名前なので当然世界中でこの競技が戦前は行われていたのだろう。

 

 

そのほかには人間をバスケットにシュートして重い死体取ってきて入れた方の勝ちというバスケットボールなる競技もあるのでみんなもやってみよう!

 

騎士の凄まじい膂力に肝を潰した盗賊達であったが彼らも熟練の傭兵でもある。

あの強力な飛び道具を使わない理由はわからないが、おおよそ飛び道具を使わないのは魔法使いならば魔力切れと相場が決まっている。

「取り囲んで槍襖にしろ!相手は一人だ!」

丸い大楯を構え、短槍を構えた歩兵が20人ほど総支配人を囲もうと大回りに移動しようとするがそれを許すほど総支配人はのんきでは無い。

『おっと、盗塁か?そいつはいけないな』

この野球に盗塁もホームランもないと思うが。

パワーアーマが一瞬で加速し盾の壁を無造作に吹き飛ばす。

崩れた体型を立て直す暇も与えずに次々と目に付く人間を殴り飛ばしていく。

人間がスワッターで殴られるたびに壁や地面に人間の残骸が降り注ぎ、街並みを前衛的な芸術ギャラリーへと変えていく。

スコアが同点なら壁に染み付いた残骸の芸術点で勝敗を決めるのもローカルルールとしてはありかもしれないという光景だ、審判がよく殺されそうなスポーツになりそうだ。

 

圧倒的な蹂躙力で目につく者を片端からホームランにしていく総支配人にようやくレイダー達も追いついた。

7.62mmライフル弾を次々と逃げ惑う盗賊に片端から打ち込んでいく。

『逃すな!皆殺しにしろ!』

レイダー達が進路上の盗賊を始末していきながら、自衛隊・帝国連合部隊が抵抗を続けるフォルマル邸宅に近づいていく。

もうそろそろ朝日が登ろうという頃、太陽を背にして航空機の爆音が響いてくるのを誰もが聞いた。

『航空機?』

『ボス、まさか帝国の連中が飛行機を持ってるっていうんですかい?

だったらこいつの出番でさ』

そういうなり誘導回路が外付けされたミサイルを装備したレイダーが装填し爆音が響いてくる方向に向ける。

『いや、武装がどの程度かわからない。核ミサイル装備ならこっちの居場所がバレるとまずい

隠れてやり過ごすぞ』

実際にこの世界でどうかはわからないが、帝国はともかく例の軍隊が核兵器程度の武装をしている可能性は高い。

『俺の合図で一斉射撃だ。回避行動を取らせるな』

散会し、航空機を撃墜するのに丁度いい物陰に潜むレイダー達。

『・・・・それにしても・・・Flight of Valkyrieか、面白い連中だな』

 

一方、フォルマル邸の上空に到達した自衛隊のヘリコプター部隊はイタリカの惨状に声も出なかった。

中世ヨーロッパ風の町からはあちこちから黒い煙が上がり、そこかしこに略奪と殺戮を行う盗賊達が黒い点のようにそこかしこに見える。

「第3偵察隊との連絡はとれないのか?」

最初のロケット攻撃で最も強力な偵察隊の通信機は破壊されてしまった。

今の伊丹たちが装備しているのは個人用の通信機でしかなく通信範囲は車載用のそれとは比べ物にならない上に今現在も戦闘中の雑音が凄まじくなかなか音声が拾えない。

「偵察隊の伊丹隊長と通信が取れました!」

「__こ__第3偵_隊__丹_尉、敵___ケット__撃_けた_

現在、フォ__邸__で応_中、発_筒を_擲する」

注___たし」

凄まじい銃声とノイズが混じり明確に聞き取れないが、激しい銃撃戦が行われている場所は空からははっきりとわかる。

やがて緑色の煙が伊丹の投げた発煙筒から立ち上り

 

「第3偵察隊、これより航空支援を行う。

遮蔽物に退避・・」

 

ヘリ部隊はまだ知る由もなかったが下の常に怒りっぽいスパミュは考えもなしに38口径を自衛隊のヘリ部隊にやたらめったら撃ちまくっていた。

所詮は低威力の護身用、弾が豊富で安いだけが取り柄のためヘリに到達する弾丸はないので悲しいくらい気づかれない。

「輸送UH-1は着陸できる地点で降下部隊を下ろす!コブラでの掃射を開始する遮蔽物の後ろに退避しろ!」

コブラの20mmが唸り声を上げ、ロケットが逃げ惑う盗賊やスパミュに襲いかかる。

UH-1も装備していたロケットを抵抗が弱まった敵の地上部隊に向けて撃ち込み、フォルマル邸に砂糖に集る蟻のように殺到していた盗賊やスパミュを吹き飛ばす。

その様を屋上から見ていたピニャがこの壮大なオペラに驚愕していたが

誰もが同じ意見というわけではなかったらしい・

『ミサイル警報!回避!回避!』

突然、下から飛んできたロケットを回避するためにUH-1がチャフ・フレアを展開したが・・・

ロケットは一つだけでなく数条の発射煙が下から飛んできた。

「テールローターに被弾!メーデー・メーデー・メーデー!」

一機のUH-1がバランスを崩し、勢いよく回転しながら乗っていた乗員ごと街の建物に叩きつけられ墜落した。

『3号機が墜落!繰り返す、3号機が墜落!』

この特地における初の自衛隊の損害らしい損害だった。

『生存者を視認・・・降下部隊が速やかに救出に向かう。

コブラが航空援護を継続する』

 

「ヤッタァ!人間の空飛ぶ機械落ちた!」

「ぶっ殺せ!弱い人間、殺して奪う!」

ロケットでヘリコプターを撃墜したスーパーミュータントたちは更に気勢をあげ、目標をフォルマル邸から墜落したヘリへと変更し、生存者たちの上に銃撃を加え始めた。

 

撃墜されたUH-1には自衛隊の隊員が乗り込んでおり、墜落したヘリに寄ってきた敵兵と交戦状態にあることが上空からも伺えた。

「こちら、第2分隊。機長が負傷。それ以外は無事だが現在、銃撃を受けている

攻撃の手薄な南側から退避する!支援を頼む」

『ダメだ、近すぎてロケットが使えない。

機銃射撃で対応する』

20mm機銃の榴弾で攻撃を加える敵兵へと射撃を続けるが、予定にない撃墜に動揺していないといえば嘘になる。

 


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