今年も(とは言え開始は先月ですが…)よろしくお願いします!
「演習だっ!」
それはその一言で決まったと言って良いだろう。
ヴォルケンクラッツァー級の恐ろしさを聞いたあと、しばし沈黙が支配した執務室を打ち破ったのは戦艦長門の一言であった。
腕を組み、なんの迷いもないスッキリしたようなその表情に先程まで浮かんでいた驚愕の色はなく、彼女の身に沸き上がる衝動に身を任せていた、それは即ち強者との戦いである。
「………」
元よりそのつもりだった長門は覚悟が完了していたため、目を合わせればこくん、と頷く。
視線を君塚と川内に向ければ川内は目を閉じ静かに首を横に降り、彼女の上官は軽く咳払いをし
「長門、言葉が足りないのは悪い癖だよ。ルフトシュピーゲルング、キミが凄まじい力を持つのは理解できた、その上でキミを運用しなければならない。だから我が艦隊と演習をしてもらえないだろうか?」
「…いえ、それは大丈夫ですが…」
「キミの懸念は尤もだ…だが、運用する上でキミの特徴を知っておかなければならない、なにせキミは我々の常識から外れた存在なのだ。だから、受けてもらいたい」
その一言が止めである。
別に断ろうと思えば断れたが、これから先厄介になる相手に気が引ける、という理由だけで断る事などできる筈もなく、実行は明日マルキューマルマル(午前9時)と決定され、準備に取り掛かる事となる、演習の編成については今夜川内を通し伝える、ということなのでそれを宿泊した賓客用の部屋で待つこととなる。
退室がてら、入浴して良いのですか?とルフトシュピーゲルングが問いキョトンとした君塚より、「島にある温泉の源泉から汲み出してる湯だから気にせずに使ってくれたまえ」との言葉を頂いた為、緊張しっぱなしだった彼女は遠慮なく浸かる事を心に決めた。
退室し、部屋に戻ったのが午後1時。
川内が再び運んできた食事を一緒に食べて、ドッグに戻る彼女に礼をし、見送る。
それからたっぷりと風呂に入り睡眠をとる様は、自棄とかそういう諦め気味の感情が混じった末の行動であった。
勿論、緊張しっぱなしの気疲れを癒すものでもあったが。
「相手の編成は六隻のフルメンバーで旗艦長門、随伴艦が戦艦大和、金剛型戦艦比叡、榛名、霧島。加賀型航空母艦加賀に決定だよ。…いやぁ、ルフトちゃんの力を聞いたけど、まさかこの鎮守府のほぼ第一艦隊の面々と各艦隊の旗艦級を動員するとは思わなかったよ」
午後6時、たっぷりと惰眠を貪ったルフトシュピーゲルングに夕食を運んできた川内はペラリと紙を揺らしながら、多少申し訳無さげに決まった演習編成を発表し、その清々しいまでの打撃艦隊っぷりに苦笑を浮かべた。
この護衛巡洋艦すらつかない陣容は正しく、相手を叩いて叩いて叩き潰す事に特化した、対深海棲艦戦では些か分が悪い編成でもあったが、ルフトシュピーゲルングの防御重力場と対80cm砲対応装甲と12門の100cm、80cmの超打撃力…即ちこの世界のあらゆる兵器を凌駕する火力と防御力に対して向かうのである、六隻という制約が無ければ所属艦艇すべてを動員することになるだろう。
兎も角、相手は決まったのでどう戦うか、と食事を食べながら頭を巡らせればルフトシュピーゲルングに内蔵された単艦で弾道計算しうるスーパーコンピュータの機能も幾分使えるのか、幾つか候補に上がるが、考慮する事にすら値しないので夕食と共に飲み込むことになる。
ちなみに浮かんだ案とは《開幕で波動砲を撃ち込む》であった。
あくまで演習であるので、殲滅かこちらが沈むか、そういう物ではないと思えど、そうそう応用も出来ないのか次点で浮かぶのは《特殊弾頭ミサイルか光子榴弾砲》の使用であった。
融通の利かない発想ではあるが、そもそもルフトシュピーゲルング自体の武装からして手加減できる様な装備が少ないのだ。
機銃よりも連射可能なパルスレーザーの雨か57mmバルカン砲、これらは手加減できる装備ではあるが対艦戦闘向きではないし、パルスレーザーに至っては演習弾を装填できない上に相手は電磁防壁を搭載している筈もないので、下手をすれば沈めてしまう可能性があるのだ。
一応、君塚からはルフトシュピーゲルングの主砲と副砲でもちゃんと模擬演習弾を用いれば絶対に沈まないと太鼓判を押してもらっている。
これに関しては、本土でとある艦娘がかつて演習弾では絶対に沈まないというのを身を持って証明したらしいがどの様な状況だったのか、気になる所ではあるが、それは一端横に置いて川内の横に座る“彼女”について意識を集中することになる。
「youがニューフェイスのルフトシュピーゲルングネ?ワタシがいればノープロブレム、安心するネー!」
それは、明日の演習相手の金剛型戦艦で唯一入っていない金剛であった。
いつもそばにいるイメージの姉妹艦娘達は入渠中で、その隙を付いて来たらしく髪は解いてあり若干濡れており首にタオルが掛けてあるという、正にフロ上がりと言った様子で、何でもルフトシュピーゲルングの戦闘能力を聞いた上で、新入りを六隻で袋叩きにするのはどうなのか?と提督に直談判し、ルフトシュピーゲルング側に着いたという話である。
川内曰く、戦艦組では長門よりも古参で君塚艦隊の金剛と言えば、他の鎮守府にも名を轟かす歴戦の艦娘であり場の雰囲気を盛り立てるムードメーカーでもある、という評価である。
ルフトシュピーゲルングの中の人の抱いていたイメージで言えば、絶対に提督の味方をするという物を抱いていたが、敬愛しているからこそその様な卑怯に見えるような戦いをさせるわけにはいかない、という考えらしくそんな自分の言葉に多少照れ臭さを抱いたらしくそれを隠すように自然な流れで淹れた紅茶を飲む。
「金剛さんが居てくれれば助かります。ですが、オレの戦闘能力について色々知りたいらしいので…」
「Oh、イエース!そこはちゃんと心得てるから安心してネ♪しかぁし!どうせやるならwinnerを目指すデース!」
「うんうん、そうだよ!演習と言えルフトちゃん勝たなきゃ!ついでに夜戦も!夜戦!」
時間的に夜戦スイッチが入った川内を、まぁまぁと軽く宥め話を明日の演習に戻す様は、頼りになる古参である、と新入りである彼女にも理解でき、ムードメーカーでもあるという評価に誤りはなく負けはしないけどどうしたものか。と悩んでいたルフトシュピーゲルングにやるなら勝つ、というやる気を出させる事に成功していた。
「すっかり遅くなったネ、いやぁ明日が楽しみデース!」
「それじゃ私は金剛と一緒に帰るよー、じゃおやすみー…夜戦…夜戦…」
「Have a good dream!」
「おやすみなさい、明日はよろしくお願いします」
あれから何度か入る川内の夜戦スイッチを戻しつつ、演習に向けての会議をする三人はルフトシュピーゲルング含め面々が何度目かの欠伸をした頃には解散となる。
時刻を見れば既に消灯時間の九時まで一時間を切っており、金剛が手をパンパンと叩きその旨を伝え各々明日のために鋭気を養う事となる。
二人を見送り、流石に風呂は良いやと施錠を確認してベットに横になる。
そこで思いきり体を伸ばせば座ったまま何時間も話し合っていた為、凝り固まっていた部位が解され心地よい刺激に、重くなっていた瞼も更に重くなる。
空調をベット脇の操作盤で調整し、照明を落としベットの中に潜り込み呟くように、明日は頑張ろう…、と言った直後に彼女は本日何度目かの眠りに着く。
極一部の部屋以外、夜間哨戒任務に着いた艦娘の目にも鎮守府が眠りに着いた事を確認したのはそれからまもなくの事であった。
忙しいですが書けたので投稿です。
改めて今年もよろしくお願いします。