遥か遠き蜃気楼の如く   作:鬱とはぶち破るもの

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そう言えばまだ作中時間で24時間経過してませんね。

追記
誤字修正、ありがとうございました!


新艦娘着任

 ルフトシュピーゲルングが宿泊した部屋は地下二階に作られていた物で、川内に先導を任せその後ろを行く彼女には“もしかすれば他の艦娘とすれ違うかもしれないけど、その時は敬礼されたら答礼するって感じで良いよ”と上昇するエレベーター内で伝えられていたが、既に殆どの艦娘が何らかの任務に着いているのか道のりに人影少なく、その数少ない人影も艦娘ではない何らかの作業をしている人間で、敬礼に関しても廊下に目を光らせ《走るな

》と書かれた紙の横にいた憲兵位しかしてこなかった為、腕が疲れるということもなく、掃除の行き届いた赤絨毯の上を執務室までたっぷり堪能しながら行くことになった。

 

 

「入りたまえ」

 

 川内が二回ノックした扉には《執務室》と記されたプレートが嵌め込まれた、賓客用の部屋とも違う重厚な造りの扉の向こうからそれに対する返事が聞こえてくる。

 映画等の聞き惚するような声ではないが、確固たる誇りと意思を感じさせる中年の声である。

緊張の度合いが跳ね上がるのをルフトシュピーゲルングは感じる、なにせ肉体的には比類なき実力を秘めた艦娘であれど、精神面では生身を晒し頭を振り絞り国のために戦っている“軍人”を見るのは…否、そもそも軍人自体を見たことの無い平和な国で育った中の人である彼に、緊張するな、という方が土台無理な話である。

 

 ともかく部屋の前に何時までも居るわけにもいかず、川内の後ろに続く様に入室すればこれまでの鎮守府内のどこにでも漂っていた、艦娘達のファッションの一部なのか仄かに漂う香水の甘い匂いのしない、強烈な存在感と自負に満ちた男の仕事部屋という風情であった。

 煙草は吸わないのか、その類いの匂いはしないがガラスの戸棚には琥珀色の“彼”には豪奢に見える容器に納められたアルコールが並べられていた。

 

 川内は先に部屋に居た長門と提督にそれぞれの敬礼し、長門の横に並びこちらを向く、ここまで来ればと、腹をくくりゆっくりと扉を閉め先程川内が敬礼した場所辺りまで歩いて、まず提督に次に長門へ敬礼し、これまで川内救援前からあれこれ考えていた“自己紹介”を述べる。

 

「はじめまして、提督。オレはウィルキア帝国海軍所属、改ヴォルケンクラッツァー型二番艦《ルフトシュピーゲルング》です、よろしくお願いします。」

 

「うむ…。私はこの鎮守府の指揮官も兼任している君塚鷹六だ、よろしく頼む。」

「…ルフトシュピーゲルング…独語で《蜃気楼》か、良い名前だ。…聞きたい事はあるが、まずは礼を言わせて貰う。昨日の川内救援感謝する。キミがいなければ我々は川内を失っていたことだろう。ありがとう」

 

 実働数を直接見たわけではないが、鎮守府の規模を見る限りかなりの数の艦娘と通常の艦艇を指揮下に持つ人間に頭を下げられ、更に長門と川内もそれに習う。

 最後まで帝国海軍の矜持を示した艦と夜戦バカの後ろに隠された指揮艦としての義務感からくる真面目な顔を持つ艦、何れも歴戦の兵であり彼女らの犠牲の上に生きた“彼”は大きく手を左右に降りながら、冷や汗を流す。

 

「あ、頭をあげてください!オレは当然の事をしただけです!余力が有る者が危機に陥った人を助けるのは当たり前じゃないですか!」

 

 戦争による戦死など、別の世界の話のように思える程に守られた環境に育った者として、褒められる価値観とそれなりの倫理観の双方に叶った考えを述べる。

 むしろ、強大な力を自分のためだけに使う事など彼にとっては嫌悪の対象でしかないのだ、ならば世界は違うといえ生まれ育った祖国のために使いたい、これまで何となく抱いていたそんな物を律儀に頭を下げ部下の生存を喜べる君塚にそんな想いを強くする。

 

「…なるほど、キミは極めて健全な価値観を持っている様だ、こう言っては礼を失するが安心したよ」

 

「いえ、ありがとうございます?」

 

「私は誉めてるつもりだよ、なにせ現状だと皆自分の事に手一杯だ、そんな中他者への気配りが出来るのだ、誇って良いくらいだよ。他の者も同じ位とは言わんが助け合えれば昨日より明日が輝く物になるだろうね」

 

 頭を上げ、君塚はどこか遠くを見るような瞳で外を向く、窓の外は明るく島に作られた軍港と物資を積載していた輸送船が停泊しており、その更に向こうはずっと水平線まで青く水に満たされた世界である、君塚が見るのはその更に更に向こう、恐らくはうやむやになっている欧州大戦の事だろうか。

 若干しんみりとした空気が流れるが、長門のワザとらしい咳払いに払拭され、話題はルフトシュピーゲルングの生い立ちへと移行した。

 

「さて、ルフトシュピーゲルング。キミはウィルキア帝国海軍所属…と言ったが、間違いではないかい?」

 

「はい。ウィルキアはユーラシア大陸東端、シベリア東部にある…いえ、あった国家です。ウラジオストクからカムチャッカ半島を領有しており、元はソビエト連邦からの独立した、という歴史もあり伝統的、地政学的にソ連とは不仲だったんです」

 

「ウラジオストクからカムチャッカ半島…なるほど、ソ連は太平洋に港を持てない蓋をされた形になるのか」

 

「よく占領されなかったものだな」

 

 君塚、長門共に思った事を口ずさむ、聞きたいのはそこじゃないんだけどなぁ、と川内はもどかしさを感じるも無言を貫き、ルフトシュピーゲルングが二人の口ずさんだ事に対して頷いて肯定した所で長門の感心した様な言葉に対し、理由を述べる。

 

「何度か小競り合いはあったようですが、一応友好国としてかの国を扱ってましたので大きな問題は無かったようです、港の使用権なんかも“売って”いた様ですし…それに、ウィルキア国は日本国と同盟を結んでいましたので、それも大きかったのです」

 

 正直に言えばソ連との小競り合いが合ったかは不明である、ただ領土で見ればソ連に対して太平洋側に蓋をするようになっているので、そう予想したのだった。

そもそも、かの国が喉から手が出るほど欲しがっている、不凍港をもつ隣国を狙わないわけがない

だからこそ、ゲームでもあった日本との同盟、ひいてはこの世界で無理なく日本の味方をするために話をでっち上げたのだった。

 すべてが嘘ではないが、憶測に憶測を重ねた代物ではあるが“転移艦”として別世界から来た、と言えばそこまで違和感は出ないだろう。

別世界、というものは艦娘達が存在することを証明している為、問題はないだろう、と踏んでいるし、君塚も頭を軽く縦に動かしてなるほど、と納得する。

 

「なのでウィルキア国は列強の中で近く、良心的な日本国と軍事技術を共有する国家としてソ連に対抗しようとしてました、勿論米国や英国とも…もっともそちら二国は、いえ日本もソ連への抑えを期待しての事でしょうが…」

 

「ちょちょちょ…待ってよ!ルフトちゃん、今までの話でうえるきあ国の事は分かったけど、装備の事は説明が付かないよ!」

 

 これまた聞きたい事から外れ、指先に痒いポイントが触れているが掻けない様なもどかしさについに川内が声を上げる、昨夜あれこれルフトシュピーゲルングの艤装の検分に立ち会った長門や君塚も気になっていた所なので特に川内を咎めることなく、沈黙することで暗に肯定する。

 それに推されるように彼女は殆どでっち上げの、憶測を重ねた物を語る。

 

「はい、ウィルキアや日本やその他国家自体は此方と同じくらいの技術力でした。見たこともない巨艦を発見する前までは…」

 

 それは艦体をズタズタにされながらも沈まずに漂流していた、全長600m以上の巨大戦艦であった。

海軍先進国の一員であったウィルキアの技術力を持ってしても、そのすべてを解析しきれぬ幾多の装備、素人目にも強大であると言うことが分かるその戦艦を、燻り出してしたソ連等の列強の支配戦略に対抗するべく秘密裏に所持し、技術力強化の為に検分するのになんの問題があるだろうか。

 

「そうして幾多の巨大兵器…もとい、“超兵器”が誕生しました。オレの装備する主砲、副砲もかの超兵器が…いえ、オレその物がその超巨大戦艦がベースになっています」

 

「…ヴォルケンクラッツァー」

 

「…それが武装を最大仰角に掲げる様は摩天楼の如く…地殻を割り、大陸を消し去る超エネルギー兵器、波動砲を搭載した兵器の名前です」

 

 流石の長門川内も驚愕し言葉を失う、君塚も驚きに目を丸くするがその内に秘められた意味も理解しルフトシュピーゲルングを見詰め、彼女も君塚を見据える。

 

その恐るべき破滅兵器ヴォルケンクラッツァーを改良し作られた存在こそはルフトシュピーゲルングであることを

 

大陸を消し、地殻を割る“摩天楼”よりも強力な“蜃気楼”が目の前にいる事実を

 

 何て事だ、と君塚は内心毒づきグラスに注いだ琥珀の液体を飲み干したい衝動に、駆られてしまうほどに彼女は従順に或いはへりくだり、凶悪さをこれから上官と仰ぐものに伝える、その彼女自身すら震えてしまう力を。




波動砲はこのくらいの絶望感がある兵器であってほしいですね。
(プレイヤーもその内慣れますが)

大体の咆哮シリーズでは波動砲を撃っても地形破壊は出来ないですがこの世界ではぶっ壊れます。
四国よろしく真っ二つになります。
ですが、提督もその内慣れることでしょう。


年始は忙しいので落ち着く頃にまた更新します。
それでは皆様、よいお年を!
また来年お会いしましょう!

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