遥か遠き蜃気楼の如く   作:鬱とはぶち破るもの

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お勉強話です。
オリジナル設定が混じるので注意願います。

こうでもしないと(時代設定的に)日本単独の理由がつきません。


追記
誤字修正、ありがとうございました!


深海戦座学

「そもそも、深海棲艦っていうのはなんなのか?あいつらとの戦いをするためにはそれを理解してなきゃダメだよ…けど、その前に海軍は外交官でもなきゃいけないからね、さらっと世界情勢も知っておこうか」

 

 事の起こりは、“史実”と同じように世界が戦いの炎に燃えようとしている頃まで遡る。

“その時”には艦娘という存在は顕現しておらず、陸を、海を奪い合うため或いはそんな“敵”から自国を守るために軍を再編し増強するため多額の国費を各国が費やしていた時、奴等は現れた。

 口も利かない、話も聞かぬそんな者達が海の上に顔を出したのは1939年8月中頃、欧州で火が燻り出している最中のことである。

 

「私達が知る…と言うか体験した歴史だと、そのまま欧州で火が上がってその二年後…対米戦が始まる筈だった。けど、それは起きなかったんだ。あいつらが無差別に洋上の物すべてを攻撃してきたから…」

 

 最初に人類が遭遇したのは後に駆逐イ級と呼ばれるようになるクジラのでき損ないであった。

大西洋に太平洋に…場所を選ばずそれは浮上し、目に付いたものすべてを攻撃した、船、港、街…当然各国はすぐさまこの軍民問わず無差別に攻撃してくる“危険生物”撃滅のために軍を出動させる、だが人と然して変わらぬ大きさの駆逐艦の火力を持っ敵、これは今まで人類が味わったことの無い存在であった。

 

「そいつらを沈めることは出来たんだ、各国ともにね。だけど、それは最初だけだったんだよ。一匹沈めても次の日には倍に、それを沈めても更に…、増え続け更に強化されていく深海棲艦に対して人類の使う艦艇は“艦娘”と違って修理や建造には何ヵ月も何年も掛かる、だから処理が追い付かないんだ」

 

 結局、沈めど沈めど勝てもしない。そんな深海棲艦に人類は戦線を縮小させることで対応、うやむやの内に世界大戦の火は消えていた、海上通商が出来ないのに総力戦など寝言でしかない。

深海棲艦の脅威に対応するために、致し方無く各国は共闘戦線を張ることになる。

 まず、世界各地に出没した深海棲艦達であるがその圧力をもっとも受けていた豪州からの脱出を日米連合軍が支援、相応の被害を両軍とも受けるが豪州国民の脱出は無事成功する。

 独ソに置いては史実通り不可侵条約が結ばれる事となるが、秘密協定は結ばれずポーランド侵攻は発生しなかった。

これは独国が陸軍力より海軍力を増強する為で、両方を増強することは不可能な国力の所為とも言えた。

 また、欧州各国は大西洋の脅威に対しその最前線に立つ英国の呼び掛けで欧州海軍同盟を締結、米国と連動し大西洋の安全を回復する事を目的とする物である。

 一応盟主は栄光のロイヤルネイビー“女王陛下の艦隊”として名高い英国が収まる、当然表向きは各々の安全を回復するのが目的であるが、本音の目的は植民地への海路の回復であるという生臭い理由があげられた、このように多少歪さがあるが取り合えず人類は一つに纏まり共闘する事になる。

 

 しかし、深海棲艦達も黙ってはいない。

まず、豪州脱出作戦で共闘した日米へは、アメリカへハワイ基地強襲攻撃、日本は沖縄空爆攻撃が行われてしまう。

占領こそされなかったものの、これ以降日米はその間に楔を打つように布陣した無数の深海棲艦の壁に阻まれ共同作戦を行う事は出来ずにいた。

 欧州海軍同盟に対しては、大艦隊が進行できない、或いは全力を発揮しにくい地中海の諸島に拠点を作ったり、運河に陣取りあくまで攻勢を緩めるつもりもなく沿岸部に攻撃をくわえ続ける。

 当然大西洋にも海深く陣を張り、洋上の輸送艦隊を沈めたりと太平洋よりは少ないものの数の力により、欧州海軍同盟に対し圧力を与え続けている。

 

「そりゃ人同士が争わずに済んでるけど、あいつら

人を襲うんだ、襲って殺して或いは浚って…そしてどうなるか、つい昨日私もなりかけたけどね…寒気しかしないよ…」

 

 少し遠い目をする川内に浮かぶのは、昨日の救援がなかった場合の情景だった。

まず間違いなくここには居ないし、“片手”が残れば幸運と言った所なのだ、寒気に一瞬体を震わせて喋り渇いた喉を潤す為に少し冷めたお茶を飲む、こくん、と喉を小さく鳴らし潤した所で授業の続きを話始める、今度は深海棲艦そのものについてわかっている範囲で

 

「じゃ、お次は深海棲艦の事だね。あいつらは一言で言えば“亡霊”って所かな、倒しても倒しても死ぬことの無い生も死もない…何かを果たそうと戦い続ける亡霊」

 

 深海棲艦出現以降、人類はその正体を掴むべく生け捕り作戦を何度も実行しそれには成功していた、が解剖してみれば到底生物とは呼べぬ構造に戸惑う結果となる。

 

「予想された中身は内臓か機械か…だけどどっちでもなかったんだ。中身は錆びた鉄混じりのヘドロような青い液体だったんだよ、それは生命ですらない、あいつらはガワとヘドロで出来た代物だった…今の所、解剖まで漕ぎ着けたのがイ級だけだけど人型の個体も中身は同じだろうって予想されてる、実際戦った時、被弾と同時に青い血と酷い臭いがしたからね」

 

 生物でもない言葉も通じない深海棲艦へそれでもコンタクトを試みる者も居たが、そのすべては大海へと消えていた、無差別に攻撃してくる深海棲艦に対し最早海を捨て、大陸奥深くへ逃げるしかないと思われ始めた頃、人類に仇なす深海棲艦に対になる存在、かつて海上を行き祖国のために戦い抜いた艦の“記憶”を持つ少女達、即ち“艦娘”が人類を救援に現れたのだ。

 人と同じ大きさの彼女達は一人一人が深海棲艦と同じく艦艇の力を有しており、通常艦艇と艦艇の力を持つ艦娘達の文字通り血を流す努力により少しずつではあるが深海棲艦に奪われた海を取り戻している。

 

「今では駆逐されたけど、一時期なんて東京湾や瀬戸内海まで深海棲艦が出現して来たこともあるんだよ。そこから内海の安全を回復するのに一年…今の日本は本土と硫黄島ラインを絶対防衛線として、史実で言うオホーツク海、四島の鎮守府北海道ライン、本土の各鎮守府、九州沖縄ラインの守りによって取り合えずは本土の安全を得ている状態なんだ…情けない限りだけど、これが今の日本の全力…トラック諸島に基地があったのが遠い昔に思えるくらいだよ」

 

「では、この鎮守府は…?」

 

「…んまぁ、大体察しはついてると思うけど小笠原諸島のどれかだね、もっとも史実と名前違うけど」

 

 硫黄島より内側が絶対防衛線で、小笠原諸島は硫黄島に程近い…否、含む中に殆ど入っているような物の為にすぐ背後にあるのはその防衛線という事にいかに日本が追い詰められていたかという事を物語っていた。

 この鎮守府はその中でも最前線に立ち生存圏を拡げるために戦闘を続けているものの、地面を掘ればぶつかる固い地盤の如く頑強な抵抗を続ける深海棲艦の拠点に手を焼いていた、海上防衛要塞とも言える“旗艦級(flagship)”と深海棲艦隊の防衛部隊に補給基地でもあるのか火力を維持し続けている厄介な拠点であり、君塚艦隊はこれまでも何度か攻勢をかけているがいまだ健在の強固なもので、通商破壊を目的とした艦隊の母港ともなっていた。

 

「…てな具合かな、そういうわけでこの敵拠点を何とかするって言うのが当面の目標かな、…あとは…あぁ…アレかぁ…」

 

 川内が用意してきた書類に書かれた事をおおよそ言い終わった辺りで、不愉快な事を思い出したのか苦虫を噛んだような顔になる川内に、小首を傾げ疑問符を上げるルフトシュピーゲルングに、軽く前髪を弄り、あまり気分の良い事じゃないけど、と前置きしその不愉快な事を語りだす。

 

「これまで説明した通り、日本は私達艦娘を大切に運用してる、本土でも最近になって色々取り決めが出来たらしいから…例えば沈むと分かってながら無理に前進させて沈める、そんな作戦行動は禁止されてるし、基本的な権利とかは人と同じ…つまり一人の日本人と同じ扱いになってるの、まぁここまでは良いんだけど…」

「沿岸部から疎開した人達には居ないんだけど、深海棲艦はその身に恨みを買うことを恐れず人と人の殺し合うのを防いだ“平和の導き手”とか言う考え方をするのがごく少数いるらしいんだよねぇ…もっと酷いのになれば“親深海棲艦思想”の元に深海棲艦に逆らう者達はすべて沈むべき、なんて輩も…」

 

 言葉を選び穏便に済ませようとする川内の言動と、苦笑に満ちた顔からルフトシュピーゲルングはもっと酷い事を言っているんだなぁ、と内心を察し、なにも言わずこくん、と頷き頭の中の現代日本での沖縄米軍基地や艦隊寄港時、自衛隊のイベント等に難癖を付ける輩を思い出していた。

 

「そういのは何処にでも居るものです、のでオレは気にしませんよ」

 

 一頻り元気の無い自棄になったような笑い声が二人から発せられ、同時にため息が漏れる、多少どんよりした室内にその空気を破る電話のコール音が響く、ルフトシュピーゲルングを制し川内が応対し二言三言会話し、受話器を置きルフトシュピーゲルングを見据えた川内は、じっと見つめてくる彼女へ内容を告げる、それはルフトシュピーゲルングが待っていた機会でもあった。

 

「えーっと、私らの提督からお呼び出し。…正直聞きたいこともあるから、一緒に行こっか」

 

 凛とした表情から何処か楽しげに面白半分と言った様子を隠そうともせず、川内はニヤリと笑う。

 来るべき時が来たと、緊張の色を浮かべる彼女に向け…。




はい、紺碧見ました。
後世日本なら対アメリカ、ドイツより痛快に深海棲艦どもを踏み潰してくれるでしょう。

紺碧旭日日本軍と書いて“チートコースお好みでどうぞ”と読みます。
(独国の場合はラスボスコース総統のお気に召すまま。米国の場合は史実越え物量コースルーズベルト御満悦。となっております。)
きっと五話辺りで殲滅されて、原作コースになりますね、これは。

なお、今作ドイツのチョビ髭は大幅に綺麗改編してます。
今更ですが
史実とも違ってますのでご了承ください

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