遥か遠き蜃気楼の如く   作:鬱とはぶち破るもの

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台詞なし顔グラすらなし。
しかし役処は重要(ルート選択的な意味で)。
気が付けばいつの間にか退場。
それ以降出番なし、ヴァイセンに比べて雑な扱いである。

せめてヴォルケンクラッツァーにでも乗ってれば台詞の一つや二つあったろうに…。

まぁ、自業自得ですが


鎮守府を統べる者

 夜も更け海上の光は殆ど消え、夜間哨戒任務を負った艦隊の幾つかが走るのみで、喧騒に満ちていた鎮守府内部からも食事と入浴が済めば急速に静けさが増している。

 “彼女”は満腹を遥かに通り越した食事という補給により呻きつつも、久々に気を落ち着けて眠れる環境に、部屋の高めに設定された室温も手伝い夢の世界へ旅立ちかけていた。

 

 

 夜間照明が辛うじて、廊下を照らす中この鎮守府の指揮官である提督の執務室へ出頭命令を受けた、幾人かの艦娘が入室し、執務机で何かの書類仕事をしている提督、“君塚鷹六(きみづか たかろく)”階級章の示す位は中将位である。

 短く切り揃えられた髪には白い物が目立っているが、堅実な戦術を持って最前線で艦の力を持つ女性を運用する、という難しい任務を見事にこなし今現在においては国防最前線で指揮を執り、深海棲艦の侵攻を食い止めている守人として、本土では名の知れた軍人の一人に名を列ねており、ギロリと眼光鋭いが、日頃から口元には笑みを浮かべ、カイゼル髭を生やしている為髭提督としても親しまれている。

 

「長門以下、戦艦大和、軽巡神通、工作艦明石、提督の出頭命令に従い参上しました」

 

「ご苦労様、こんな時間に申し訳ないな」

 

 時計が指す時間はもうすぐ22時を指そうとしていたが、召集に訪れた理由を認識していればのんびり寝ている気になるわけもなく、四人は揃って敬礼をし、提督からの返礼に“休め”の姿勢になる。

 まず、先の襲撃により大破判定を受けた川内の妹である神通が容態について報告を始めた。

 

「姉さんは大破判定ですが幸い明日には体を動かせる様にはなります、ですが艤装の修理がまだ先になるので戦線復帰には時間が掛かります。当分は座学担当に回ってもらい私たちでその穴を埋めたいと思います。」

 

「うむ…ともかく沈まなくて良かった。奴らの攻勢も落ち着いているが早めの復帰が望ましいな、が…当分は夜戦夜戦と騒がしくなりそうだな」

 

 出撃できない川内の、夜戦依存症とも言える有り様を想像すれば、各々が苦笑の色を浮かべる。

どうにもならない事、故に話は川内を助けた新たな艦娘へ移行する、これに関しても川内から話を聞いた神通が報告を続行する。

 

「彼女は突然現れ、一撃でル級を撃沈。イ級も水平線の向こうから撃ち抜いて見せたそうです、更に残ったイ級に関しても…光線で撃ち抜いてみせた…と」

 

「それに関しては、私も確認しています。溶けかけですがイ級は削ったかのように綺麗に穴が開き、ル級に関しても、肩から上が蒸発したかのように消えていました…がそれを、水平線の向こうから…ですか。」

 

「あぁ、信じたくはないが奴等の残骸は…そんな攻撃でなければ到底不可能だ。私や大和の砲ではあんなに綺麗に穴が空く筈もない。」

 

 神通を通して語られる川内の目撃した“戦闘”を伝えられるそれは、救援艦隊に属していた長門、大和というこの鎮守府の切り札の様な存在からの証言により補強される。

君塚提督もそれなりに機密にも触れ、死線を潜った自負はあったが、まさかこんな常識を外れた事を聞くことになるとは思わず、唸り声を上げて癖で天井を見上げる、考えを纏める時には大体こうしているのでそれを知る彼女達はそれを邪魔しないように口を閉じる。

 

「なんとも規格外だな…、そんな真似“近衛第一艦隊”でも無ければ不可能だ。」

 

 絞り出すように君塚が呟く言葉に、集められた面々に驚きを抱かせる、特に“帝国海軍の切り札”として名高い近衛第一の名前が出たことに、彼ら彼女らの実力を垣間見た事のある長門は驚く。

“近衛第一艦隊”は日本で最強の部隊として広く知られており、通常艦隊と艦娘双方を部隊として組み込んでおりその目的は“日本の象徴かつ尊き存在”を守る事を課せられており、日本国陥落を逃れたのは“近衛第一”の尽力あってこそ、とされている。

 故にそれに属しているとすれば、確かに川内救援は容易い事と言える。

 

「だが、近衛第一は本土を離れない、あれは国の最終防衛艦隊だからな…とすれば彼女は何なのか。」

 

 しかし、君塚の言うとおり万一それに属しているならばそう名乗るだろうし、名乗らない意味がない。

 だからこその謎である、日本最高の艦隊でなければ難しい攻撃を成功させた彼女、ルフトシュピーゲルングはいったい何なのか。

神ならざる君塚達への疑問の答えに繋がるヒントを、なんとか得た明石が発言の止まった室内で控えめに手を上げた。

 

「えっと、それに関してなんですが…。“預けられた艤装”をバレない程度に調べてみたんですが…」

 

 小脇に抱えていた丸まった書類を執務机の上に拡げれば、彼女の艤装の大まかな見取り図が現れる、それを指差し彼女なりの予想を述べ始める。

不義な行為に憤り背後でしかめっ面の長門の事は、敢えて無視しつつ。

 

「まず、彼女の艤装は基本的な部分では現在我々が運用している物とは大差ありません。艦娘化については未だ謎が多いためもしかすれば決定的な違いが発見されるかもしれませんが調査不足のため、そこはご了承ください」

 

 インクと油で煤けたような指が上から見た図を指す、砲塔は書かれておらず基本的な構造図のみが書かれており、コともHとも取れる形をしている。

 

「こことここは主砲と思わしき三連装砲が組み込んであります、こっちには連装砲が…これは副砲と思われます、正確な口径は不明ですが主砲副砲ともに現在私達が作りうる最大級の砲“試作51cm砲”を超えると思われます」

「次に付属品の箇所を見てください、主砲副砲から考えて艦種は戦艦であることは疑いありません。管制人格の姿は大まかな目安でしかありませんからね、で。この筒は腕に装着する装備です、コードなどから考えて艤装からエネルギーを送って使用する武装と思われます、これで“狙撃”をしたのでしょうね…そして、大まかに説明できるのはこのくらいでもあります。残りについては未知の領域です、そもそもこんな規模の艤装をして殆ど補給要らずなんて信じられませんよ!」

 

 一気に話を終わらせた明石であるが、彼女をもってしてもルフトシュピーゲルングの艤装は未知の代物である。

提督からの呼び出しを明石が受けている現在にも工廠組の夕張は、解析しようとするが進捗は殆どなしである。

 腕を組みながら、図面を眺め唸りを上げる君塚に対して、少し不安気な表情を浮かべた大和がそれを晴らすべく口を開く

 

「それで…提督、彼女はどうなるんでしょうか?」

 

 意を決した大和に両脇から注がれる視線、一つはそういえばそうだ、という納得の物でもう一つは険しい色を伴っている。

注がれる視線に物怖じせず、彼女は目を瞑り思案する君塚に決断を迫る。

 味方として受け入れるか、敵として拒否するか。

前者を選べばこの上ない強力な味方が出来て、後者を選べばこの鎮守府の総力を結集しても沈める事が出来るか不明な敵として立ち塞がる。

 普通に考えれば味方にするのが最良である、今の所は敵対する様子もない所か、所属艦を救援すらしている恩人であるのだから、受け入れるのが自然である。

 だが、長門は敢えてその前提を無視して提督に意見を述べる。

 

「確かに彼女は友好的ではある、だが“あの件”があった以上無条件に信じる、というのは考えものではないか?」

 

 “それ”は国を守り続ける海軍においての最悪の不祥事を指している、触れあい危険な物を感じなかった大和、姉を助けられた神通であるがそれについて不安がるのは十分理解できるので、口を閉ざすしかない。

 ではどうするのか、議論において長門は否定するだけでなくキチンと対案を提示できる艦娘であった。

 

「わからないなら、理解すれば良い。戦いは心を誤魔化す事の出来ぬ聖域なのだからな」

「私としてはそんな手荒な事はしたくないのだがな…だがどうしても納得できぬならやってみたまえ、責任は私がとろう」

 

 次々と上げられる彼女の異常な装備や実力に対し長門は、その身に宿る戦意を押さえきれなかった。

栄光の連合艦隊旗艦、その威信を最後まで示した堅物な武人肌の艦娘である長門は、それに相応しい脳筋でもあった。

 目眩のする大和、神通、明石を尻目に長門は戦意充実、来るべきその時を楽しみに待つこととなる。

勝っても負けても貴重な体験なのだから、楽しまずにどうする。

 そんな彼女達を苦笑を浮かべ、さてどうやって“彼女”の許可を得るか、と頭を悩ませる君塚提督、彼らの夜は会議と打ち合わせでまだ始まったばかりである。

 

 

 そして、既に寝入った“彼女”へ2度目の人前での海戦が迫りつつある事を、無防備にあどけない寝顔をしている“彼女”はまだ知らない。


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