遥か遠き蜃気楼の如く   作:鬱とはぶち破るもの

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善意が必ずしも良い結果を生むとは限りません。

ですが、悪意が良い結果を生む事はありません。

誤字修正、指摘ありがとうございました!


異常な艦娘

 

「では本日はこちらでお休み下さい。何か用事が合ったらそちらの電話で申し付けてもらえば対処します」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

 時刻は午後7時を過ぎて、黄昏時を過ぎて夕闇に包まれつつある海の上にポツンと存在する諸島郡、その中でも一番大きな島に建設された港湾施設郡の中で最大の地下壕司令部機能を兼ね備え、海上の敵を睨む陸上砲台や幾重にも火線が張れるよう設置された対空砲台により守られた施設の地下、賓客を迎え入れる様に作られた部屋へルフトシュピーゲルングは案内された。

 会話する程度には余裕があるものの、大破判定であり、ドックへと運ばれていく川内を見送った後、川内救援艦隊の一人であった大和型戦艦一番艦大和にここまで案内されたルフトシュピーゲルングは、見事な敬礼をする彼女へ見よう見まねではあるがそれなりに形になっている返礼と案内の礼を述べ、広い部屋の中鍵をかけてベットに腰かけゆっくり息を吐いて緊張を解く。

 まさかのビッグネームに粗相をしないように気を張っていたので幾らか気疲れしてしまったのだった。

 

「ふー…、第一関門突破…と…」

 

 腰かけた体勢から後ろに倒れ、柔らかなベットの上に仰向けになり天井を見ながら何とか受け入れてもらったことに安堵する。

正直にいって、この“ルフトシュピーゲルング”の力を持ってすれば深海棲艦など物の数ではない。

これは奢りでもなく、事実として彼女は…正確に言えば彼女の中の人格の持ち主は確信している。

深海棲艦を攻めるのは容易い、圧倒的な砲火力を持って片っ端から叩き潰せばいい。

 

 だが、日本に生まれ日本に育った者としては例え別の日本だろうと何かしたくなる程度には国を思う事を考える人間であり、強大無比な力を得た今なら尚更である。

 

「…この世界でもちゃんと作動する防御重力場、実弾防御を底上げすればこの先も楽になるでしょ…それ以外の装備も艦娘達に適応できれば!…ふふっ」

 

 文字通りほくそ笑む彼女の脳裏に浮かぶは、80ノット以上の速力で敵艦隊を翻弄する島風に率いられた高速艦隊、レ級だろうと戦艦棲姫だろうと砲撃を真正面から受け無傷の金剛以下打撃艦隊、波動砲をぶっぱなし根城ごと敵艦隊を消し飛ばす大和姉妹…。

 これらが実現するならばもはや深海棲艦は刈られるのを待つ獲物に成り下がるのは確定だろう。

 

その為、身に付けていた“ルフトシュピーゲルングの艤装”はすべて鎮守府側に預けたのだった。

…より正確に言うならば、鎮守府内での装着は原則禁止の為、入港前にその旨を伝えられたのだった。

返事はもちろん“イエス”である、むしろあのタイミングで無ければ何かしら理由をつけて預かって貰うつもりであったため渡りに舟状態だったのだ。

 恐らく今頃は、明石や夕張辺りの工廠組は降って沸いた“それ”を弄くり回していることだろう。

 …いや、流石に無許可ではそこまで大きく弄ることはしないか、と思い直し弛緩していた上体を起こして、少々疑問に思っていたことがあるのでそれを確認するべく起こした勢いのまま立ち上がる。

 

「んーと…重そうな物…重そうな物」

 

 視線を右から左へ白色金の瞳が獲物を狙う様に動けば、一つ一つ吟味するように細める。

鏡台、椅子、机、コート掛け、箪笥…木製の品の良いと、インテリアに疎い彼女でも分かる代物で漆喰壁に良く馴染んでいるなかで、最も重そうな箪笥に目を付けて近づく。

 

「重そうだな…少なくとも“俺”だったら持ち上げれないだろうな」

 

 ずっしりした重厚な作りの箪笥を見上げ、かつての自分だったらどうだろうか、と考え。

正面側では届かない為、横の細い部分の端と端を付かんで力を込めれば、あっさりと持ち上げれば“ビキキッ”と床が悲鳴を上げる。

 その瞬間にピタリ、と動きを止めて顔を箪笥の前部分に動かし視線を下げれば絨毯に隠されていた固定用の、金具がタイル床から剥離し掛けており、反対側の金具は完全に宙に浮いており、ぷらぷら揺れている始末で、然しもの彼女もその事実に冷や汗を流して、若干顔を青くしてとりあえずゆっくりと下ろして、金具を元の穴へ入れて箪笥を壊さないように上から押し込み、左右から押してバランスを保っている事を確認し、何事もなかった様に冷や汗を流すために脱衣室へ迎い、服を脱ぎ捨てる。

 鏡に映る裸体は着ていたエプロンドレスの様な構造でありながらほっそりした印象であるが脱いでもやはり細く、こんな体なのにあんな重そうな箪笥を簡単に持ち上げるのだから、艦娘って凄いな。と他人事の様な感想を抱きながら浴室へ。

 桧風呂と簀が視界に収まり、よく掃除が行き届いているのか不快な匂いは皆無で桧の良い匂いに包まれた風呂をおっかなびっくりあまり汚さないようにシャワーを浴びて、浴槽に浸かるのは戸惑われた為体を念入り洗い…途中、手が止まる箇所もあるが“自分の体だ”と意を決して洗浄する。

 

 湯上がりに鏡に映る顔が赤いのは、きっと肌が白い所為にして、体を拭いて用意していた寝間着を着る。

 極て不思議な事であるが、風呂から上がれば脱ぎ捨てた筈の服はキチンと整えられており、冷や汗に濡れた筈の背中の部分も乾いており、全てから洗い立ての様な清潔感のある匂いが漂っており首をかしげながら疑問を呟く

 

「洗濯しなくて済むのはありがたいけど、どうなってるんだろ?…妖精さんのおかげって事にしておこう。」

 

 艦娘の不思議な事に、やや強引に納得して部屋に戻ればそれを見計らった様に部屋がノックされて軽く飛び上がる程度には、びっくりしつつ軽く息を整えはい、と返事をすればややくぐもった女性の声が扉の向こうから聞こえてくる。

 

「こんばんは、私です大和です。ルフトシュピーゲルングさん。ご夕食をお持ちしましたよ。」

 

「あ、はい!今開けますよ」

 

 待たせては悪いと扉を開ければ、確かに大和が居る、否彼女だけでなくズラズラと直線の廊下に色取り取りの髪の色をした艦娘達が料理を持って立っている、もちろん大和も大皿にたんまりと乗せられたご飯を持っている。

 

「え、あの…これは?」

 

「すいません、なるべく多くしたんですがこれ以上は出せないと言われたので…」

 

「こんなに要らないです…」

 

「あんな艤装を背負って戦ってるんです、言わずとも分かりますよ。私だってそうですから」

 

 目を丸くし、なんとか拒否しようとするルフトシュピーゲルング、遠慮していると判断して食べさせようとする大和。

 軍配は数に勝る大和達にもたらされる、机はそれなりに大きかったがご飯を置かれ、揚げたてだろう湯気の立つ唐揚げに、量を増すために山盛りにされたナポリタン、餃子、肉団子、焼売、刺身、カニ雑炊………一つ一つが大皿に大鍋にたっぷり盛られてルフトシュピーゲルングの前に置かれる。

 

「さぁどうぞ、お召し上がりください!」

 

「……いただきます。」

 

 ニコニコ微笑みながら見守る大和以下の艦娘達が苦労して運んできた、作ったであろう食べ物を拒否するわけにも行かず、口に運ぶ。

唐揚げはよく下味をつけられてカラッと揚げられており、匂いよし味よし歯応えよしと、絶品でご飯ともよく合うが…なにせ量が量である。

 それでも彼女は健闘しただろう、運び込まれた全ての品をバイキング形式で10分の1を食べきり、アレ?という顔をする面々に美味しいです。ありがとうございます。とぎこちない笑みを浮かべ、戻しはしなかったがフラフラ歩いてベットに倒れ込み

 

「ごめんなさい…後はみなさんでどうぞ…もう…食べれません…」

 

 食べている途中、恐らくは食べ足りなかった艦娘達の視線を受けながらの食事は美味しいけど、味気なく感じられてしまい。

後はどうぞと言えば、互いに顔を見合わせ大和がコクりと頷いたのを確認して各々持ち込んだ料理を運び出していく。

食べ残しを食べるのははしたない行為ではあるが、最前線に無駄にできる食料…(弾薬や燃料相当)などあるはずもなく、捨てるのはもってのほかであり、食べる量(補給量)は消費した分ではあるが体調に寄っては、消費した分食べれないという事は多々ある為、食べたり無い艦娘は残した他の艦娘からの食事を貰って良いことになっているのだ。

 次々運び出されていく料理の音を聞きながら、顔だけ大和の方に向ければやや困惑した表情の彼女かおり、此方も疑問を浮かべれば先に大和が口を開く

 

「あの、本当に遠慮してませんか?」

 

「はい、本当に…遠慮などしてませんよ、大変美味しく頂きましたが…もう限界です。」

 

「燃料弾薬補給の分を大体私たちの倍としたんですが…」

 

「オレは燃料補給要りませんよ。あと、弾薬補給も殆ど要らないと思います…」

 

 それはあまりに異常な、艦娘としての基本から逸脱した発言であったがルフトシュピーゲルングはあっさりと良い放ち、なんとか大和へ向けていた顔の瞼も重く、気を抜けばポテンとベットに倒れそうな彼女に大和はやや強引に話を終わらせ、半分眠った様な様子にベットの中に入れて布団を掛けて最後の大皿を持って電気を消し薄暗い間接照明のみの部屋を出る、提督から預かった鍵でドアを施錠しとっくに運ばれた料理の残り香を感じながら、どう報告したものか…と頭を捻る。

 

 補給の必要の無い艦娘なんて聞いたことがないのだから。




アニメの赤城さんと大和さんはやりすぎだと思います。
後、大和さんの無断出撃の回でなんで夜中に赤城さんまで食べてたんですかね?

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