遥か遠き蜃気楼の如く   作:鬱とはぶち破るもの

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蜃気楼との遭遇

 

 大海に身を任せ、漂流状態の川内は正直に言って混乱していた。

唐突に救援する、と言われても肝心のルフトシュピーゲルングと名のる艦娘の反応を感じることが出来ないからである。

電探に意識を集中しようとしても“ザリザリ”という耳障りなノイズがかかっており、今のところまともに通信できる相手が居ないため川内は(せめて何処から、どんな援護方法なのか伝えて欲しかった)と思うものの、再び飛び込んできたノイズ混じりのルフトシュピーゲルングからの通信でそんな悠長ともとれる不満を消してしまう。

 

《これよりレールガンによる支援砲撃を開始、友軍は注意されたし!》

 

 不満はより大きな疑問により掻き消される。

返信で件の相手に砲撃を受けほぼ漂流状態で何に気を付ければ良いのか、それともレールガンとは何か?と混乱の勢いで訪ねようとするものの、遥か水平線より一瞬青白い物が光ったかと思えば、最外縁部に居たイ級が一撃の元に“撃沈”される。

ル級より軽量だったためか、着弾部は綺麗に削り取られ、柔らかい生菓子をスプーンで掬ったかと思うほどである。

更に深海艦隊は二隻沈められてなお、敵の所在を掴めていなかった。

 

「よし、二匹目撃破。」

 

 “この世界ではあり得ない”超長距離射撃を成功させた彼女は、ごく当たり前で当然と特に歓喜の色を浮かべることなくゆっくりと瞼を開き、ピンと伸ばされた右腕を下ろした。

 澄んだ白色金色のつり目気味の瞳が前方を見据える、先程まで電探射撃に集中するべく閉じていた分遠くまで見えるような解放感そのままに視線を右腕に移動させれば、超長距離射撃を行った“レールガン”にぶつかる。

 それは肩から手首まで所々、腕に巻き付くように金具で固定されている火薬ではなく、電気の力で弾を発射する電磁投射砲、それが“レールガン”である。

 ルーツを辿れば、ルフトシュピーゲルングに代表される数多の超兵器を開発したウィルキア帝国が入手した“異界からの転移艦”に搭載されていた代物である。

 完成品さえあれば時間をかけて模造できる程度には技術力のある国だった帝国はそれを再び使用可能な兵器として蘇らすことに成功したのだった。

 

 この海戦でも、設計陣が期待した通りの命中率を出したルフトシュピーゲルングは静止状態より前進を開始する。

 別にレールガンによりイ級を殲滅しても良いのだが、襲われて居た艦娘の安否が心配になったのもあり最高速…を出す必要の無い距離ではあったがそれでも第五戦速(おおよそ30ノット)の速度で距離を詰めつつ、肩に載せた追尾機能をもつ“誘導荷電粒子砲”とレーダーを同期させイ級の対処をすることにする。

 

「主砲使えるけど…助ける相手を巻き添えは嫌だしなぁ…」

 

 主砲及び副砲はとっくに残存するイ級を捉えていたが、ピンポイントで射撃する物でないためすぐそばで倒れている、川内を巻き込む可能性があるため自重していたのだった。

 

 グングン距離を詰めれば、周囲を警戒していたイ級達はようやく標的を見つけたようで、大口を開き口内砲を発射する。

川内との戦いにより、砲撃精度と連射速度を向上させ連携が出来るようになったその砲撃は彼女へ寸分たがわず命中するコースであった。

 それを見ても彼女はそのまま前進する、もし戦艦級が残っていたならばその駆逐艦以上の遠見で寒気を覚えるであろう、整った少女の顔に似合わぬ獰猛な笑みを浮かべている事に。

 

 イ級の放った砲弾は、着弾直前にあらぬ方向に逸れてしまう。

砲弾はそのまま海面に落ちて、爆発しそれが実弾であることを周囲に示す。

一瞬、イ級が戸惑ったのか砲撃を止めるが直ぐ様次弾を装填し放つ…が結果は先程の結果をなぞることになる。

 

 これも“異界からの転移艦”が装備していた“防御重力場”の恩恵である。

これは、艦の中心より外向きへの力を発生させ実弾防御を図るものである、当然機関出力が高ければ同じ装置であっても効果に差異ができる物で、ルフトシュピーゲルングの機関出力は、波動砲を支えるために最大級の物を搭載しているため、彼女の防御重力場を砲撃で突破するには最低でも46cm砲が必要になるだろう。

 もっともそれを突破できても対80cm砲防御を施された装甲は、イ級の火砲で抜くことは…否、これがレ級であろうと不可能である。

 

「…凄い…。というより…なに、アレ…?」

 

 互いにフォローしあいルフトシュピーゲルングに火線を張りダメージを与えようと努力するイ級に対し彼女は速度を落とし、停止。

 漸く上体を起こせそうな程度には回復した…というよりは痺れがとれた川内は集中砲火を受け、無傷な救援艦、ルフトシュピーゲルングと名乗った少女を見た。

 

 髪は純白、肩の辺りまで伸びていて頭の上にはカチューシャ型の電探装置がつけられている、全体的に細く華奢な印象で黒を基調とし所々、白いリボンで飾り付けてある。

上下合わせてみればおおよそエプロンドレスの様な服であるものの、ほっそりした腰回りに白いコルセットのように艤装とスカートを結ぶリボンがあり、膝上の長さのスカートの裾にも袖と同じく白い布が一定間隔で飾り付けている。

足元は長めの紺色のブーツと推進機関部の艤装が一体化した物を履いており、スカートの下にも黒いズボンを履いている。

 体格から考えれば駆逐艦の様な管制人体だが背負っている艤装がそれを否定する。

 

 彼女自身の体格を遥かに越える三連装砲を四基、連装砲六基、肩には砲身の真ん中に輪が付けられた変わったら連装砲がイ級達に向けられている。

右腕には楽器の一部のような筒が並んでおり、左腕には肩に付けられた物と少し違いがあるものの似たような砲が並んでいる。

背中の方は見えないがそちらも同様の重装備であることは予想が出来た。

 

 結局のところ、詳しい話を聞かなければ…。

知らずに浮かぶ苦笑と冷や汗を浴びた海水のせいとして誤魔化す事を考えている間に、四つの光線がイ級を貫く、一切の回避を許さぬ追尾レーザーから逃れることが出来たイ級は無く、無傷のまま彼女は。

ルフトシュピーゲルングは上体を起こし戦いを見ていた川内にそのまま慎重に接近し停止し、右手を差し出す。

 

「えーっと…もう大丈夫ですよ。」

 

 一方的に敵艦隊を叩き潰しておいてどこか自信なさげな言葉にずっこけそうになり、同時に「あんたは何モンよ」と聞きたいのもとりあえず押さえ、差し出された手を握り返し、巨大な艤装の砲身に体を寄せ軽く息を吐き感謝の意を伝える

 

「救援ありがとう。お陰で助かったわ。私は…川内型の一番艦の川内よ。」

 

「無事で何よりです。オレは改ヴォルケンクラッツァー型二番艦ルフトシュピーゲルング、です。」

 

「ぶおるけん…?舌を噛みそうな名前ね。」

 

「それには大いに同感ですよ。」

 

 ジュルジュルと海に同化しながら溶けていく遺骸に囲まれ、二人は川内を救援に来た駐留艦隊の到着を待ち、提督からの指示当人の希望もありルフトシュピーゲルングは川内の所属する島の鎮守府へ回航することとなる。

 

これにより、対深海棲艦戦は新たな局面を迎えることとなる。




改ヴォルケンクラッツァー級というのはこの作品のみの設定です。

ルフトシュピーゲルングを建造したウィルキア帝国が得たのは、どこかの世界で大破し漂流状態であったヴォルケンクラッツァー(波動砲付き)
それを手本にウィルキアで建造したのがヴォルケンクラッツァーⅡでありそれを改ヴォルケン級としてます。
このルフトシュピーゲルングは改ヴォルケンの二番艦、ということにしてます。
二番艦ではありますが、発展改良を経たためもはや改ヴォルケン級改型、みたいな状態です。

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