艦娘強化計画=深海棲艦絶滅計画
追記
誤字修正、ありがとうございました!
「ッはっやぁぁいぃぃぃ!」
天候は曇り、波を軽く荒立てる風が吹く最中演習場の中で楽しげな声と共に、バシャーンと水音と飛沫が上がり右手に計測器を持った明石は計測器を止め、客席になっていた防波堤に置かれた机の上、演習場の地図の一角に“×”と記し視線を髪も服も濡らした駆逐艦娘の一人島風に戻す。
軽装と言う領域に留まらぬ薄着は眉を潜めたくなる露出度であるが“速さ”に拘りを持ち全身で“風”を感じる事に喜びを持つ故に変える筈もなく今日を迎えていた。
普段ならば風に吹かれるが如く自由に過ごす事が多く、このような装備テストに参加することは、提督命令でもなければ皆無であったが演習戦以降、初めて現れた“対等以上のライバルの出現”という事実が彼女の不真面目では無いがどこか物足りなく、現状に伸び悩んでいた島風に火を付けたのだった。
「もう一度、お願いします!」
「うん…それじゃあ今度はあっちで」
体勢を立て直し、立ち上がる島風は濡れて顔に張りつく前髪を乱暴にかき上げデータ採集をする明石へ声を掛け配置に戻る、キリリと眉を吊り上げ生き生きと前を向く彼女には演習戦以前のどこか鬱々とした物はなく吹っ切れた様で別の補助装置のテストに参加していた長門達を驚かせた。
明石も明石で生き生きする島風と逆に口数は減るが、島風が作り出すデータの世界にのめり込む、側に行けばブツブツと何か考えている事を呟く声が聞こえるが、それを理解できるのは顕現して以降付き合いの長い夕張位な物であり、彼女も横で何やら記録していた。
暫くして島風の疲労が蓄積してきた所で明石も海上に出て、やや強引に今回開発した新型補助装置…試作推進装置の欠点と性能を纏め彼女を休ませる為に防波堤に島風と上がり夕張と共に講釈を始める、それに時間が掛かるのは何時もの話の為長門と大和は代わりに演習場の海面に射撃訓練用の標的を持ったまま降り立ち移動を始める。
「…よし、この辺りかな?」
「はい。新型の“装填装置”…どれ程のものでしょう…楽しみです」
島風に渡されたのは、彼女の最大の特徴である“速力”を向上させる補助装置であったが長門、大和の両艦に渡されたのは“試作装填装置”と名付けられた代物である。
これはその名の示す通り装填時間を短縮するもので、特に大和は次弾発射までの時間が長く一分一秒が生死を別つ戦場において隙は少ないに越した事はないからこその装置である。
「第一主砲発射!」
一発目は空砲で、二発目は実戦と同じ状況での確認をするため実弾で行われる。
46cm砲というルフトシュピーゲルングの防御重力場すら突破する砲が演習場内に唸りを上げ標的の真ん中に命中、粉々に粉砕される。
しかしそれで終わる事なく、次弾を装填直ちに発射、それを繰り返していく。じっくりと狙いをつけ射撃する度、標的が粉砕されそれを検分する長門に渡された記録用の用紙に再射撃するまでの時間が書き込まれていき、十回目の実弾射撃が終わった所で白煙と火薬の匂いを漂わせた大和が長門へ振り向き“結果”を尋ねる。
「どうですか?」
「……うむ、以前計測した時より激減という程ではないが確実に装置は効果があるな。これを見ろ装備以前は十一秒以上だが、今計測した分に関しては十秒丁度辺りになっている」
「…試作でこれなら期待できそうですね」
「あぁ、“蜃気楼”というお手本が有るとはいえよく作り上げてくれたものだ」
満足気に明石開発の補助装備を素直に評価する両名であるが、どうやって製作したか?と言う質問に関しては“夢で天啓を受けた!”という何とも不安になるもので、ルフトシュピーゲルングの装備品という前例がなければ進んで装備しようとは到底思えないものであった。
そして、この補助装備の製作には稀少資源を性能相応に使用されており、明石には成果が必要な所であるがこの“自動装填装置”ならば問題なさそうであり、より早い装填が可能になると言われていれば期待できそうである。
「…うむむ、舵の効きが悪くなる…そこですか」
先に演習場一杯を使い速力向上の補助装置の試験を行っていた島風、明石、夕張は早くもこの装置の問題にぶつかっていた。
それは直進速度の向上はめざましく彼女、島風の速力40ノットを越え、瞬間的に61ノット(時速換算で約113km/h…つまり1秒あたり約31m前進)この高速には艦娘内“最速”の島風すら振り回されており、直進ならば恐怖なくむしろ喜びの笑みを浮かべながら楽しむことができるが、カーブにそのままの速度で突っ込むとバランスを崩してしまい、彼女本来の機敏な機動戦が不可能になっていた。
もちろん速力を落とせば元通りに機動戦が可能になるが、並々ならぬモチベーションの島風は“このままのスピードで!”と意見を変えず、実際に“艦”なれど“艦娘”と呼ばれる人型の存在だからこその体重移動を駆使し、多少だが制御しかけているのだから流石は日本帝国最速の艦艇であると明石も舌を巻くのだった。
「だけど、こんなピーキーな代物島風ちゃん以外は制御出来ないだろうね…他の子に装備させる場合には多少は舵の効きが良くしとかないと…とすれば…むむ…」
「…島風ちゃん、こうなったら暫く戻らないから帰って良いよ、続きは明日かな?…はい、協力のお礼の間宮券」
「はーい、じゃまた明日!…あ、そだ。これこのままでも良い?出撃もないし、慣れておきたいから!」
更により深く思考の海に漕ぎ出た明石に苦笑を浮かべ、夕張は協力の見返りとして三枚の間宮券と記された物を渡す。
受け取った島風は元々モチベーション高くやる気に満ちていたが、それを更に高める事となり出撃も無いと言うならば、装備に慣れておきたいという提案も特に問題は感じられなかったので“他の子に迷惑をかけない、無理しない”というルールを設け、喜び勇んで海上を“駆けていく”島風を夕張が見送ることとなる。
一方、演習場の外の海域では航空戦が行われており金剛型四姉妹と、彼女らに演習用艦載機を飛ばす翔鶴型二番艦「瑞鶴」…君塚艦隊所属の正規空母であり曰く“小生意気な後輩”であり、更に彼女の護衛に駆逐艦が周囲を警戒しており、川内襲撃の再来を無くすために海面に水中に隙無く睨み付けている。
「次ッ行くわよ!」
短弓を構え、金剛達の上に矢を放てば忽ち艦爆機に変化し、彼女らを爆撃すべくスピードを上げて高度を上げはじめる。
本来ならば主砲仰角の関係から三式弾を発射すべき距離に有りながら金剛達は輪形陣のまま航空隊を見上げたままで微笑みすら浮かべているが、背負った艤装はしっかりと航空隊を狙っており先頭に立つ金剛が右腕を水平に振り、“一斉射撃”と指示を出せばそれら火器が一斉に火を吹く。
「そこネ!ワタシのlaserは逃さないデース!」
「狙いッ撃ちます!」
金剛、榛名は第一第二主砲部にパラボラアンテナ型の“小型レーザー掃射装置”…もとい試作パルスレーザーを装備、連射能力においてはルフトシュピーゲルングの装備する完成品には遠いが“狙いをつけた場所に瞬時に命中”という光速弾だからこその利点で航空隊を確実に削っていくが、弾幕を張るには装備数が少なく落としきれないと思われた直後に、その弾幕が張られ艦爆隊の飛行経路を埋め尽くす。
「霧島、2時の方向!三機抜けるわよ!」
「既に分析済みッ!榛名こそ!11時二機接近中!」
輪形陣の両翼を担う榛名、霧島は余剰装備となっていた12.7cm高角砲をベースに開発された試作127mmバルカン砲を装備、これは高角砲の砲身を四つ束ね一つの砲とした代物で、主砲弾級の装填に向かない小型装填装置を組み込んでありベースになった高角砲とは段違いの連写力を誇り金剛、比叡が撃ち落とせなかった分を撃墜すべく唸りを上げる。
結果的に瑞鶴の必死の管制も手伝うが損耗率は七割を越え、組織的攻撃力を喪失し金剛達への命中はほんの僅かとなってしまう。
「…“あいつ”と同じ様に戦えるつもりだったけど、まだまだね。試作品でしかもある程度性能を聞いた上でこんな被害なんて…無様よ、瑞鶴…」
防空試験戦闘は榛名霧島の試作バルカン砲が弾切れを迎えた後も続けられ夜間哨戒の艦娘部隊が出張ってきた所で大慌てで引き換えす事なり、両サイドで纏めたツインテールの髪を揺らしながら瑞鶴は最後尾でポツリと呟く。
未だ遠い“加賀”という大きな壁にして頼れる先輩に今回の戦いをも糧に対策を考える瑞鶴であるが、この日帰還した加賀はなにも語らず食事を取りさっさと部屋に籠る様に困惑することになるが、その理由を知るのは大分後の話である。
今回の実験結果に関する報告書
島風の装備品は「試作推進装置」です。速力を20%向上させる変わりに舵の利きを25%悪くするという代物で、後々デメリット無しで速度向上させるものが出来るでしょう。
大和長門の装備品は「自動装填装置」です。これは効果は何段階かに分けた場合最低ランク…Ⅰ相応です。これも研究が進めば高性能化するでしょう。
金剛比叡の装備品は「試作パルスレーザー」です。優秀な対空対艦兵器になり得ますがエネルギー消費型でとても“お腹が空く”兵器です。要研究必須で技術基礎が出来ていないため実用化には遠く、かなりの稀少資源を使用します。
霧島榛名の装備品は「試作127mmバルカン砲」です。4連装対空対艦兵器で元々が対空火砲の為優秀な対空性能を誇り対艦攻撃力もそれなりに有りますがあっという間に弾を打ち切ってしまうため“弾薬の消費が著しい”です。要改善。
以上。
パルスレーザーなどの「光学兵器」以外はじわじわ生産します。