遥か遠き蜃気楼の如く   作:鬱とはぶち破るもの

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国名は大日本帝国ではなく日本帝国となっております。
また、時期的に役職や性格に違和感を感じるとおもいますが史実との差異(便利ワード)ですのでお願いします。


日本帝国海軍三長官

 ルフトシュピーゲルングと君塚艦隊が演習した二日後、君塚が鎮守府を構える南西諸島海域から遠く離れた帝都、東京の一等地霞ヶ浦に建てられた通称“赤レンガ”と呼ばれる、その名の示す通りの赤レンガを主体に青い屋根を輝かせ、門にはプレートが嵌め込まれ《海軍省》と記されている建物目掛け車が一台の走行していた。

 

 快晴の天気に汗ばむほどの気温ではあり外を行く人通りは少なく、あちこちの空き地には高射砲や対空機関砲が配置してあり、それを運用する兵も敷地内に詰めていたり、或いは都市迷彩を施された独99式戦車と呼ばれている50mm砲搭載車両(史実でいう三号戦車)と随伴歩兵の兵士が小隊基地を設営していたりしている。

 

 これらはつい一年ほど前に東京湾に出現、上陸をした個体や艦載機で空襲を行った個体も居たための対処であり戦車に関しては独国からの売り込みに対し、万一上陸戦になった場合深海棲艦出現のつい3ヶ月前程に発生したノモンハン事件の際、非力さと脆弱さを露にした国産戦車では太刀打ちが厳しいと判断した陸軍が手早く戦力の強化を図るためにそれに答えた形で、独国としてもシーパワーの強化に取り組みランドパワーが疎かになっている状況に対し、国内技術力を保つ事を期待し極めて格安でライセンス生産を許可した経緯があった。

 ちなみに国内生産地として選ばれたのは朝鮮半島下部の地域であり、日本帝国影響下にある満州国にも生産工場が作られ陸軍のみならず海軍の艦娘向けの装備の生産工場すら作られており、わずか一年の間に工場の整備などを行った点を鑑みれば如何に日本帝国がそれを求めていたかわかるものである。

 

 そんな物を横目に護衛の付いた黒塗りの公用車が一台、正面に滑り込むように海軍省の建物の前に停車し壮年の男が下車する。

 出迎えの兵士に敬礼で迎えられたのは、基本的に政治には関わらぬこととなっている海軍で唯一政治に関わることが許された《海軍大臣》の米内光正である。

 髪を七三分けにし背広を着て、鼻眼鏡を掛けた彼は片手に袋を携え案内の兵士の後ろを歩き目的の部屋へ冷房が程よく効き快適な海軍省内部を進む。

 

「米内さん、呼び立てする形になり大変申し訳無い」

 

「なに、時の連合艦隊司令長官どのと軍令部総長どのにおよび立てられればこの米内何処へなりとも」

 

「はは、山本長官がお困りですよ米内大臣」

 

 扉が兵により開かれその向こうには何やら話していたのか皮貼りのソファーに腰掛け机を挟み向かい合わせに山本五十六連合艦隊司令長官と、軍令部総長永野修身がおり、奥側に座っていた山本が最初に気づき立ち上がり頭を下げる。

 それに対し実働部隊から移転させられた米内は皮肉めいた事を返すが、嫌味な物はなく双方の苦笑と呆れ笑い顔の永野の仲裁により一瞬漂った嫌な空気は完全に払拭される。

 

 史実で言えば、この年…つまり1940年には米内は海軍大臣ではなく内閣総理大臣である筈だし、永野は軍令部総長にまだ就任しておらず総理大臣には“甲斐隆太郎(かいりゅうたろう)”という史実と違う陸軍大将が任命されているのだった、史実と同じ役職の山本ですらいきなり東京湾に浮上する未知の生物相手に戦う羽目になっており、さらに言えば自分の指揮下に“まだ未完成艦”の艦娘や“計画中の艦”の艦娘すら出現している事になる。

 幸い彼女らは従順に作戦をこなすため、婦女子である点を除けば極めて頼もしい戦友といえる。

 

「さて…私を呼んだと言うことは何か問題ですかな?」

 

「まずは何も言わずこれをご覧頂きたい」

 

 手土産の羊羹を机の上に置き、開いていたソファーに腰掛けた米内の方へ山本は机の上に置いてあった書類をスッと手で滑らせる、既に永野は見た後なのか目配せに対しても何も言わず、目でどうぞ見てください、と米内を促す。

 双方から促されその書類を手に取り、上から一つ一つ頭の中へ入れていく、疑問を浮かべ読み進めて行くが徐々に驚き、不安と焦燥の色を浮かべ最後まで読みきりそしてもう一度最初から最後まで咀嚼するように読む、二人はじっと彼の様子を伺い、約五分部屋は沈黙に包まれる。

 

「…突拍子も無いことだね、狐に化かされているといった方がまだ信じれるよ」

 

「それを言うならば“艦娘”なる婦女子達と深海の亡者の方も突拍子も無い事でしょうな」

 

「君塚中将は信頼できる男です、こんな事を秘匿回線で伝える男では無いです」

 

 書類に書いてあるのは君塚が知った“蜃気楼”の諸情報であった、鉄鋼と稀少金属から産まれる艦娘を始めて見たときは流石の三長官である彼らも腰を抜かさんばかりに驚いたが、それに多少なり免疫が出来ていたと思いきやこれである。

 邪魔になら無いようにいつの間にか置いてあった冷えたお茶を喉の乾きを感じてそれを飲み、書類を机に戻す。

 

「うーむ…君塚中将を疑うわけではないが、はいそうですか。と信じる訳にもいかぬよ」

 

「それは無論、軍令部も同じ意見です。なにか証明が欲しいですな」

 

「それに関しては近衛第一の一部を見聞に出そうかと考えております。彼としても槍として近隣海域の解放に“蜃気楼”を使うことでしょう。…戦力的に真実となれば問題は…」

 

「米国か…欧州海軍同盟か…或いはソ連か」

 

 三長官を渋顔にさせるのは彼女の所有権に関する事である。

現在、艦娘の“生産”は日本においては産み出されるのは国産…即ち日本に尽くし沈んで“行った”女性達のみであり例えば、つい最近国際通信で英国が大々的に行ったクィーンエリザベス級戦艦二番艦“Warspite”顕現、そして“女王陛下”同士の会談は良くも悪くも久々の明るいニュースとして話題になった。

 しかし、彼女の生産は顕現した後でも日本では不可能である、もちろんその逆も不可能であり外国艦娘を国内に置きたい場合は向こうからやって来てもらう必要があるのだ。

 

だからこそ、自国で産み出された艦娘に関しては絶対にその国が所有権を有するという不文律があるのだ。

 極々希に気がついたら海の上にいた、というはぐれ艦娘に関しても発見次第保護、当人の母国へ問い合わせ送るという事になっている。

 前例は日本にもあり、米国艦やソ連艦、東洋艦隊が居た所為か英国艦も表れた例もあり、彼女らは丁重に国内で保護され各国へ“帰って行った”

 

 では、“祖国の無い”艦娘はどうなるのか?

そんな前例は無いが似た例はあり、Верный…元は日本の駆逐艦で後にソ連の駆逐艦として生きた彼女の処遇は両国を悩ませた。

 彼女の場合は最終的に生まれが日本であり、賠償艦として渡った経緯また、当人の強い希望により日本の所有として決着が着いていたがこの“蜃気楼”に至ってはその地域を支配するのはソ連なのだ、幾ら独立したと言えそれは別の世界の話でその様な国は影も形も無いのだ。

 故にその強大な戦闘力をソ連が知れば間違いなく渡すのを要求してくる事は目に見えており、日本は決着が着いたとは言え、Верныйの件により貸しが無いわけでもなく厳しい物になるだろう。

 また、名前がドイツ語で有ることによりかの国が所属する欧州海軍同盟も所有権を主張する事も予想された。

 現在、地中海を解放すべく艦隊を派遣しているがゲリラ的に出没する潜水艦型の深海棲艦により伸ばす手を叩かれ続けている有り様で、強力な艦娘なら幾らでも欲しい、と言った状況である。

 米国に関しては稀少資源の輸出やソ連経由の日本向け物資鉄道網の整備を行っており、現在は金で購入しているが、“蜃気楼を譲渡すれば格安で…”と内々に言ってくる可能性も“そんな兵器日本の手に余るものだ”とも言ってくる可能性どちらもあり得るのだ。

 今現在の所、日本は深海棲艦という人類の敵により苛烈な諜報戦から“守られている”という皮肉な状況にあり、当分はバレないという判断は可能だがいつかはバレる、というのは三長官同意見であった。

 

「バレるにせよ、此方が予想し得ない時は不味い。君塚中将には彼女の取り扱いを慎重にせよ、と言わざる得ないでしょう」

 

「もちろん彼もそこは心得ています…が、彼女は我が国に極めて協力的であり凍結中の“A号作戦”の助力となり得るやもしれません」

 

「…成功すれば少なくとも米国からの横槍もなんとかなる、か」

 

「その前に現在孤立気味の台湾を…否、南雲駐留艦隊を防衛圏内に引き戻す必要がありますな」

 

 窓越しに部屋を照らす太陽はまさに夏真っ盛りという風情で、青空に入道雲踊る帝都は前線の奮闘により平和を保たれており、それを少しでも長くすべく三長官は国内に海外にあれをどうするこれはどうする、と時間の許す限り会議を続ける。




ところで、これ艦これの話…?とか書いてて思いました。

年代をチラッと出してましたが本格的に出しました。
なので艦娘達も自分との対面、なんて事もあの提督、艦長と再開!なんて事も起きました。
 当人にしてみればなんのこっちゃ、という事でしょうけど

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