遥か遠き蜃気楼の如く   作:鬱とはぶち破るもの

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演習戦決着、そして新しい面倒事に…

追記
誤字修正しました。
指摘ありがとうございます!



君塚艦隊VS蜃気楼 演習戦Ⅲ

「…ほんっと、規格外だよね。ルフトちゃん」

 

 呆れ混じりの言葉は互いに交差するように撃ち合う砲撃の轟音に掻き消される、演習監督艦としてこの演習の審判役を担う川内は手元のモニターへ目を落とす。

 これは、簡単に言えば参加している艦娘達の現状を分かりやすく数値化し表示する端末であり、かつて演習戦において限界を越えて戦おうとする負けず嫌いが居たので開発された経緯があるのだ、その様な沈まないゆえに大破状態でもいつまでも攻撃に参加する艦娘への対策である。

 耐久が一定数、大体は数字にすれば一桁になった時点で大破判定をだされ以降は攻撃に参加できなくなる、というルールがありそれを一目で判断するため監督艦へ渡されるのだが、問題は口から漏れたようにルフトシュピーゲルングの事であった。

 

 独国との共同開発したその両手に持てるサイズの電子器機には、この演習に参加している艦娘の耐久値が表示されており、件の少女のそれは文字通り桁違いの数値を表示しているのだった。

 始めはバグったのかと思う程であったが、先程の大和、長門の砲撃が命中しダメージが200程入り副砲の一基が旋回不能とキチンと表示された為、バグった訳ではないと言うことを川内は認識する。

 

「だからってさ、耐久値270000って何よ?大和ちゃんですら100無いってのに…」

 

 実際に撃ち合う長門達には慰めにもならないが、一応ダメージの入りは彼女がいた世界に近く防御重力場を突破すれば対80cm装甲でも通じるのだ。

 もっとも膨大な耐久値を削りきれるかはまた別の話であるし、彼女は幾つかの武装が模擬弾を用意できず危険なので使用できない、という制約がある中での戦いになっている。

 それでも主砲副砲合わせて24門を単艦で使用し、砲弾の弾幕を張ることも可能で優秀な装填装置の助けもあり単艦で、五隻の戦艦と真正面から撃ち合い押している様に見える有り様である。

 

 無論、ルフトシュピーゲルングの立ち回りを指揮する金剛の役割も小さく無く、射程に勝り近接攻撃を小柄ゆえ苦手とする彼女に張り付かれないように逃がし、或いは後方の加賀へ殴り込みを掛ける様な素振りをみせるなど、正面攻撃のみならずハラスメント攻撃も行い、長門以下相手艦隊に疲労を蓄積させる。

 

「第二砲塔、第三砲塔。射撃!続いて第一から第四副砲斉射ぁ!」

 

 それだけに留まらずルフトシュピーゲルングも砲撃を行い、長門達を攻撃するが彼女の装備している主砲副砲共に、散布界が広く命中率は長門達の半分程と言った所で、更に長門達は戦艦であるが高錬度に裏打ちされた経験から海をかき混ぜるかの如し砲撃を、最小のエネルギー消費と動きで回避していく。

 だが、川内がそうであったように疲労が貯まれば回避率は下がり燃料も尽きるし模擬弾とは言え、巨砲に追いたてられる、と言うのはとてもいい気分と言えるものではなく徐々に余裕を無くし、結果的に回避を優先してしまい、ルフトシュピーゲルングへの砲撃頻度と命中率の低下を招いていた。

 

 

《全艦現状を報告せよ!》

 

《こちら比叡!至近弾多数。小破判定…ひぇー!なんで砲撃が逸れるの!?》

 

《こちら榛名!中破判定。第二砲塔に命中弾、あんまり大丈夫じゃないです!》

 

《こちら霧島!小破判定。私の分析に依れば、このままでは模擬砲弾と燃料が底を突いてしまいます!》

 

《…こちら加賀、無傷。だけど航空隊はほぼ壊滅…なにも出来ないわ》

 

《こちら大和!中破判定。第二主砲と副砲が至近弾と直撃弾の為使用不能!》

 

《…覚悟していたとしても、開始15分でここまで追いやられるとはな》

 

 巨砲に追い立てられながらも、未だ指揮系統が崩壊せず混乱状態になっていない事で彼女らの優秀さが際立つが、それも限界近くなっていることは誰の目にも明らかであり、クリーンヒットがいつ誰にやって来て大破判定が出ても不思議ではないのだ。

 海面をかき混ぜ泡立てる砲撃は長門の報告の指示への返答の最中もなんの容赦もなく行われ、ランダム回避に入っていた比叡と霧島を狙った砲弾は彼女らへの至近弾となる。

 

 

《んー、流石は長門達ネ!気持ちよくclean hitとは行かないデース》

 

「ですが、流石に鈍ってきてますよ!ふっふふ…」

 

《yes!じゃ、そろそろfinishデース!》

 

 演習終了時間は最大で一時間と設定されており、まだまだ余裕はあったが、ずっと“目”と“指揮官”の役割を担っていた金剛が前に出る。

 装備は妹達と違いもっともしっくり来る、連装35.6cm砲4基を装備しており天蓋をコツン、とノックするように叩いて視線を“データリンク”しながら正面へ向ける、リンクの影響によるのか赤く光る瞳を細め口元が弧を描き、妖しげな笑みを浮かべ左手を突きだし、砲塔もそれに倣い仰角を調整し狙いをつける。

 

「最大戦速!全砲門、fire!」

 

 機関を稼働させると同時に連装砲が炎を吹き、ルフトシュピーゲルングよりも小回りを利かせ金剛が戦線に加わり、この演習の決着が着くこととなる。

 ひとつ言うならば、彼女金剛もまた戦艦であり本気になった長門達と撃ち合う機会などそう無い中で、後方で“おあずけ”されていた状態でこのまま終わるのは惜しいと思った彼女へ堪えろ、という方が酷な話である。

 

 

「以上が、演習結果だよ」

 

 演習終了の一時間後、艦娘達が撤収しガランとした演習場内を確認し問題が無いことを確認した川内は長門一行と共に鎮守府へ帰還し、着くなりあれはなんだ。これはなんだ。と疑問を浮かべた演習相手達に囲まれひとつひとつに答える蜃気楼を生温かい視線で眺め、報告すべく君塚の執務室へ入室一段落着いたらしい彼に敬礼し、得られた情報を伝える。

 川内が話終われば、息を軽く吐いてから君塚は額へ手を置き、天井を見上げ

 

「凄まじい戦艦であることは認識していたが、恐るべき耐久性だ、それでいて燃料切れも無く…41cm砲の貫通力ですら逸らす、防御力場…我が艦隊の切り札の長門大和の砲撃ですらかすり傷、加賀の航空隊でも突破不可能の防空性能、そして足の早さもある」

 

 砲力の事はもはや言う間でもなく、速力に関しても40ノット近くを観測、これに関しては偶々観戦に来ていた島風が絶句していたという事を川内は聞き及んでいたが、装甲火力速力の矛盾する筈の三つを兼ね備えた存在に驚いていた為、とりあえず彼女へのフォローは妹であり現在海上訓練教導艦任務を受け持つ神通に任せてある。

 

「本当にルフトちゃんが良心的な味方で良かったよ、…現在彼女は部屋か工廠で長門達の疑問に答えてるね」

 

 本当なら秘匿し、情報を独占するのが賢いやり方なのかも知れないが仲間になったんだから出し惜しみしてどうする、そんななんとも平和な考えの元、聞かれれば答えるを徹底していた。

 流石に出身地あたりの話は嘘を言わざる得ないが仕方ないと言える。

 

「全くだ。…彼女が敵ならこんなややこしいやり方などしないだろうな、正面からここを…いや、日本を相手取れる戦闘力だ」

「ともかく、任務ご苦労様。あぁそうだ。キミの艤装も明日には戻るそうだ、工廠組も頑張ったな。依って明後日より海上教導任務に戻るように、神通は座学に戻すとする」

 

「了解!…新人が喝采をあげるかもね?」

 

 大人しいおっとりとした外見であるが事訓練に関しては、川内よりも厳しく“鬼教導艦”と密かに言われているが、それは沈んでほしくない愛情の裏返しでもある為、彼女を本気で嫌っている艦娘はおらず鬼教導艦、というアダ名で呼ばれている事は彼女は知っているが、甘くして沈んでしまうより鬼と呼ばれても生き残ってくれた方が嬉しい、と川内へ話した時があるが、どこか楽しそうに過酷な訓練を課す彼女への本音としては提督へ語った方が近いだろう。

 それに関して苦笑で言及を避け、君塚は川内を下がらせ、執務室に一人に為った所で立ち上がり歩きながら少し思案し、そのまま通信室へ向かい軍用機密通信を硫黄島経由で本土のとある場所へ送る、若干のタイムラグがあるものの、意思の疎通は問題なく行える事が可能である。

 

 

「こちら、南西諸島鎮守府。君塚鷹六であります。連合艦隊司令長官の山本閣下へお伝えしなければならない事がありますので、至急取り次ぎを願います」

 

 本来ならば一中将が直接やり取りできる相手ではないが、深海棲艦との熾烈な戦いの最中目を掛けられたのか何かと声をかけられ困ったときは頼れ、とまで言われていたのを思い出し、蜃気楼という厄介事を相談すべく通信を行い、時計の長針が三目盛り程刻んだ所で交換手とは違う男性の声が君塚へ届く。

 

《こちら山本だ。久しいな君塚中将…どうした?退役なら認めんぞ?》

 

 今にも鼻歌が聞こえてきそうな程上機嫌な山本へ、君塚は彼女の知った範囲の事を報告する。

 連合艦隊司令長官山本五十六、通常艦隊と艦娘という両実戦部隊の頂点の地位にいる彼は“それ”を聞いて唸り声を漏らす。

 

《この上なく心強いが…面倒な事になるな、君塚中将》

 

 先程の上機嫌な声はどこかに消え、重々しい声が君塚の耳に届く、君塚はルフトシュピーゲルングの力を聞いたときと同じく酒を煽りたい気分になってしまう。

 

 心強いが厄介、それは君塚も抱く蜃気楼への偽らざる評価でもあった。




目が赤くなったのはCICの赤色照明のイメージの為です。
ネズミ媒体のウィルスの所為ではありません。

はい、山本長官です。
ルフトシュピーゲルングの力は戦略級、現代で言えば核搭載の原潜(よりヤバイ代物)です。
拾った一司令官がどうこうしていいレベルじゃありませんので、上官へ相談するのは当然ですね(いきなり連合艦隊司令長官へ通信をするのはどうかと思いますが)

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