遥か遠き蜃気楼の如く   作:鬱とはぶち破るもの

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なにこのラスボス…

追記
金剛は作戦を聞いてる筈なので驚くのは変と感じたのでその辺りを変更しました。


君塚艦隊VS蜃気楼 演習戦Ⅱ

《…こちら加賀、旗艦長門へ。まもなく一次攻撃隊全機発艦完了》

 

《こちら長門、流石加賀。早いな!》

《全艦へ告ぐ!相手戦艦、特に“蜃気楼”…白い方だ。彼女の砲撃には特に注意を払え!大和といえど一撃で大破する火力だ!》

 

 開始と同時に空気を裂く音を響かせ、矢は飛翔しそして“航空隊”に変貌し、模擬航空爆弾を抱えた機体は上昇し、模擬航空魚雷を抱えた機体は高度を下げる。

一つの矢がそんな各々行動をとる最中、加賀は次の矢を射る、一つ一つの動作は必要最低限で洗練され見るものの息を飲ませる、不思議な美しさがあった。

 

 航空隊が次々打ち上げられていき、ルフトシュピーゲルングへ目掛け、その水上艦隊とは比較にならぬ速度をもって急速に距離を詰める。

 

 また、その航空隊と呼応するように比叡を先頭に両翼を榛名、霧島で固めた前衛艦隊と長門、大和も相手艦隊を押し潰す様に全力で動き出す。

 これは極めて単純な作戦で航空隊と打撃艦隊による二方面攻撃である。

 単純ゆえ打ち破る策もまた単純ならざる得ない、つまり航空隊と打撃艦隊の双方を黙らせるか回避しきるか、である。

普通ならばこれだけの火力に曝され、浮いてられる相手は稀有である、実際この戦法で君塚艦隊は幾多の難敵を屠っていた。

 しかし、長門の顔には緊張が走ったままで解れる気配は皆無である、鎮守府で最多の艦載運用をもつ加賀に支援を受けても、である。

 

「金剛さん、対空監視はお任せします!“データリンク”は大丈夫ですか?」

 

《…大丈夫デース!“目”は任せるネ!》

 

 二人の陣形はルフトシュピーゲルングが前に立ち、背後には金剛を配置している。

これは旗艦をルフトシュピーゲルングではなく金剛にしているためであり、更に“データリンク”…つまり彼女の優秀な電探能力を金剛が“間借り”し経験豊富な彼女がルフトシュピーゲルングを指揮するという、かなり特殊な戦い方のためである。

 金剛は練習のデータリンク時に、普段の電探よりよほど大きな索敵範囲に戸惑いを覚えるものの、そこは経験豊富な艦娘である。その場から動かずに全域全体の動きが手に取るように解る故に、指示を出していく。

 

《まずは正面、加賀の艦爆!数、20デース!足が早いからネ!》

 

「了解!対空戦闘開始、友軍は注意されたし!」

 

 第一陣の航空隊20機は、重い魚雷を抱えた艦攻ではなく艦爆隊である、恐らくは出鼻をくじく為と予想されるがルフトシュピーゲルングからみればそれらは“あまりにも遅すぎた”、何せ亜音速のジェット戦闘機処か場合によってはそれ以上の速度のハウニヴー(円盤型航空機)も対処できる性能を求められたルフトシュピーゲルングは、それに応えた性能の電探を所持している、故に精々600km/h程のレシプロ戦闘機が主力のこの世界においては、過剰な性能であった。

 無論それに胡座を掻くつもりはないが、有効活用しない手も無く、その捉えた航空機を撃墜すべく背負った艤装の一部を稼働させ元々、砲塔の隙間に顔を見せていた対空パルスレーザー機銃を展開する。

 左右に三列づつ、階段状になった甲板に所狭しと並ぶパルスレーザー機銃の群れは既に射程に侵入していた艦爆隊へ向け、赤やピンク色に発光するレーザー光線を絶え間なく掃射し始める、ジェット戦闘機ですら撃墜しうるレーザーの雨に、逃れられた機は皆無で、絡め取られる様に被弾し炎を吹き出し、大空を紅蓮の華に飾り、その背後に展開し高度を下げ展開し雷撃体勢に入っていた艦攻隊もその後を追う事となる。

 

 

《…旗艦長門へこちら加賀、“あの子”の対空性能どうなってるの?》

 

《パルスレーザー…という光学兵装らしい。高角砲並の威力で機銃以上の掃射能力、なるほど対空戦闘において優秀な装備だ》

 

 これまで経験した事もない凄まじい対空砲火をなんとか回避すべく意識を集中させるが、波状に打ち上げられる逃れる術の無い、淡く光る赤い閃光が機体を次々抉っていき、飛行に必要な部品を消滅させ燃料タンクや搭載した爆弾を撃ち抜かれ爆散してしまう。

 あまりに濃密な対空射撃に軽く舌を鳴らす、瞬く間に40機もの艦載機を叩き落とされ、更に増えているならば不愉快にもなるのは仕方ないと言えた。

 

《いくら演習用の機体とは言え、真っ向勝負じゃ話になら無いわね》

 

《予想された事だが、ここまでとはな。仕方ない砲戦距離に此方が入り次第、例の強襲攻撃を頼む》

 

《……、了解》

 

 紅蓮の花咲く防空エリアを突破できた機体は皆無で、この時点で加賀の搭載した機体は開始時93機から撃ち減らされ一次攻撃隊分の50機の内、46機を撃墜され残りの4機はキルゾーンに入る直前で引き返した為、何とか生き残っていた。

 これにより残存航空機は47機であり、これらは長門達が砲撃戦を始める頃に横から殴り付ける形になるように強襲すべく加賀上空に待機することとなる。

 

 一方、上空エスコートを喪失した打撃艦隊郡はもう10秒程で砲戦距離に入る所であり、前衛の比叡以下三隻は流れ弾を避けるべく互いに距離をとり、体勢を若干低くし緊急回避へいつでも移れるように警戒しつつ距離を詰めていく。

 

《こちら比叡!主砲、斉射!》

 

《榛名!全力で参ります!》

 

《さぁ、砲撃戦開始するわよ!》

 

 前衛の三人はほぼ同時に砲撃体勢に入る、反動を受け止める為に海面を踏み締め三連装41cmを一人辺り4基、12門つまり三人分合わせ合計36門の砲が、金剛の前衛につくルフトシュピーゲルングに向けられ一斉に砲弾を射撃する。

 

《長門さん、行きますよ!主砲斉射、薙ぎ払えッ!》

 

《応ッ!斉射、てぇーーッ!》

 

 

 比叡以下金剛型姉妹はルフトシュピーゲルングの防空性能に、着弾観測機を撃墜される可能性を鑑みその場で停止し踏み締め砲撃を行うが、長門、大和の両艦は必中を期すべく撃墜されるのを覚悟で観測機を飛ばす。

 比叡達の砲撃にパルスレーザーへの被弾を嫌がり、それを収納する。

 飛翔してくる砲弾に対し金剛とルフトシュピーゲルングは前者は右へ面舵を切り、後者は全弾をしっかりと見つめ一切の回避行動を取ろうともせず、口元には笑みすら浮かべその場に立ち尽くす。

 

「…避けないつもりか…それとも、避ける必要も無い、と言う事か?」

 

 驚き独自を述べる長門であるが、驚くのは彼女だけではなく砲撃を放った彼女達…正確に言うならば彼女以外の面々は一瞬戸惑いを感じ硬直してしまう程である。

 回避できないにしろ微動だにしないのは異常であるし、沈まないと説明はされていても模擬弾を食らえば擬似的なダメージは負うし、それなりに痛みもあるのだ、それを態々受ける必要は普通に考えれば存在しない。

 彼女が、超兵器で無ければ…の話であるが

 

 比叡達前衛から41cm砲が36発、長門は46cm砲が6発、大和は46cm砲が9発。

 合計51発ものルフトシュピーゲルングの防御重力場を貫通しうる砲弾を含む打撃が彼女を襲う、高錬度である彼女達の砲撃はおおよその命中率6割程を叩き出す。

 30発程がルフトシュピーゲルングへの直撃弾となるが防御重力場により、先に放たれた41cm砲はイ級の砲弾の如く明後日の方に逸れることはなかったが直撃コースだった砲弾はズレてしまいそのままの勢いで海面に着弾することとなる。

 

 しかし長門、大和の着弾観測され、所謂クリティカルヒットした46cm砲はそうは行かず防御重力場を突破、ルフトシュピーゲルング自身に命中し直後に爆発、彼女の小柄な体は爆煙に消えてしまう。

 互いに見詰め合い困惑の色を隠さない比叡達と大和であるが、ただ一人警戒の色を浮かべ次弾を装填、指揮下の艦隊へ大声量を持ってそれを戒める。

 

《全艦何をしてる早く次弾を撃て!蜃気楼は“あの程度”で沈黙する代物ではないのだぞ!》

 

 それを加賀は見る、黒煙に包まれた一角でゆっくりと動作をする巨砲の動きを強襲すべく回り込んでいる艦載機を通じて。

 長門のその言葉が大袈裟では無い事を正確に認識出来たのは、加賀の背中に走る寒気と同時に感じた耳障りなノイズと共に放たれた、パルスレーザーの先程と変わらぬ豪雨と蜃気楼を包む、黒煙より姿を表す彼女の姿を見た瞬間であった。

 

「こちらルフトシュピーゲルング、全力発揮可能…ふふふ、アハハハ」

 

 ルフトシュピーゲルングはゆっくりと前進を始め三連装100cm砲の4つ主砲塔を長門率いる艦隊へ向け、愉快そうに、とてもとても楽しそうに。

 心の奥底から沸き上がる喜びに彼女は笑う。




何で砲撃受けたの?

防御重力場の実演です。


何で笑ってんの?

強敵との戦いは心踊るからです、ダメージを食らって暴走してるわけではないのでご安心ください。

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