大人一夏の教師生活   作:ユータボウ

8 / 21
 あけましておめでとうございます、今年も宜しくお願いします

 という訳で新年一発目の投稿になります。お気に入り数が1000を突破して感謝感激の極みです、これからも是非お付き合いください


7話 転校生は恋する少女

 二組に転校生がやって来る。

 

 朝の職員会議で確認されたその事実に俺は一人、なんとも言えない懐かしさを覚えた。その転校生とは現中国の代表候補生であり、より具体的に特徴を上げるのならツインテールに八重歯、得意料理は酢豚でついでに織斑一夏に惚れている小柄な少女だ。

 

 

 

 そんな少女の名前は、凰鈴音(ファン・リンイン)

 

 俺のセカンド幼馴染みにして二年後の未来において第五世代機の一つ『神龍(シェンロン)』を駆った大切な恋人の一人である。

 

 

 

 「やけに嬉しそうだな、アイン先生」

 

 「あれ、そんな風に見えました?」

 

 「口元が上がっていたぞ。転校生とやらがそんなに気になるのか?」

 

 二人並んで教室に向かいながら俺は織斑先生の台詞に苦笑する。確かに転校生が凰鈴音である以上、気にならないと言えば嘘になるだろう。

 

 だが俺の知る鈴と今を生きている鈴は別人だ。面影を見るくらいのことはあるかもしれないが、手を出すような真似をするつもりは毛頭ない。彼女を幸せにするのは織斑一夏であって、(アイン)ではないのだから。

 

 

 

 あと一つ言わせてもらうなら今の鈴──もとい凰より未来の鈴の方が好きだしね、俺。あの慎ましい体つきとか甘えてきた時の可愛らしさとか。それでいて包容力にも富んでたんだから、あれはきっといいお母さんになってたんだろう。つまり何が言いたいかと言うと、鈴にゃん可愛いぜってことだ。

 

 

 

 「なっ……!?何言ってんのよアンタは!」

 

 一年一組の教室を目前にしたちょうどその時、随分と懐かしい怒鳴り声が聞こえてきた。教室の入口からはチラチラとツインテールの人影が覗いている。間違いない、凰だ。確かクラス代表戦へ向けての宣戦布告に来たんだったかな、どうも記憶が曖昧になってきていていけない。というか、一瞬心を読まれたみたいで驚いたぞ。

 

 「おい」

 

 「何よ!」

 

 あっ、と思った時にはもう遅かった。入口を塞ぐように立っていた凰の脳天に織斑先生の出席簿が直撃する。ゴスッという、相変わらず出席簿が出した音とは思えない程重い音が教室及び廊下に木霊した。

 

 「邪魔だ。あと時間を見ろ、もうSHRの時間だぞ」

 

 「ち……千冬さん……」

 

 「織斑先生と呼べ。もう一度食らいたいか?」

 

 その一言に凰は涙目になって頷きながら、脱兎のごとく凄まじい勢いで二組の教室へと逃げていった。織斑との感動の再会だっただろうに……憐れ凰、タイミングが致命的に悪かったな。生徒達皆がポカンと口を開けている中をずんずんと進んでいく織斑先生の背中を眺めながら、俺は内心で凰へ合掌し、その後を追うように教室へと入っていった。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 さて、時間は飛んでお昼休みになった訳だが、今日の授業は出席簿が唸るわ、注意の声が響くわの大変なものになった。それもこれも、授業に集中していなかった篠ノ之とオルコットが悪い。突然想い人の幼馴染みを名乗る子が現れて混乱したり苛立ったりする気持ちは分からんでもないが、それでも教師としては授業くらいしっかり受けてほしいもんだ。ほら、ISって宇宙用のマルチフォーム・スーツだけど、見方を変えれば完全に兵器だし。

 

 「お前のせいだ!」

 

 「あなたのせいですわ!」

 

 で、その結果がこれときた。なんという理不尽、織斑は泣いていい。まぁ痴話喧嘩を止めるのは俺の管轄外なので、織斑からの助けてと懇願する視線は敢えて無視する。このくらいの喧嘩であたふたするようではこれからやっていけないぞ、織斑少年。何せ、お前の彼女はどんどん増えるんだからな。

 

 職員室に戻るとそこでは食堂へ行こうとしていた織斑先生を発見、ちょうどいいので同行を申し出て二人で食堂へと向かった。チラリと隣を確認すると先生の表情が僅かに──それこそ、俺と織斑くらいにしか分からないくらいにだが──緩んでいる。

 

 

 

 なんていうかね、卑怯だよそれは。

 

 

 

 「織斑先生、何食べます?奢りますよ」

 

 「ふむ、では日替わりランチで。すまないなアイン先生」

 

 「気にしないでください。んじゃ俺も同じものを」

 

 野口を一人券売機に食べさせて食券二枚につり銭を回収すると、今のやり取りを聞いていた生徒達がきゃいきゃいと騒ぎ始めた。やれ夫婦だの、やれ恋人だの。残念ながら俺と織斑先生はただの同僚だ、そのような関係では断じてない。なので織斑先生、その口では「煩い者ばかりだな」とか言っておきながら、満更でもなさそうなのは勘弁してください。意識しちゃうじゃん俺も。

 

 「はい、日替わりランチ二つ出来たよ~」

 

 「ありがとうございます。織斑先生、出来ましたよ」

 

 「あぁ」

 

 食堂のおばちゃんにお礼を言ってからランチを受け取り、誰も使っていなかったテーブルの一つに腰を下ろす。今日のメニューはご飯に味噌汁、そして焼き魚か。シンプルだがここの料理はなんであれ非常に美味しいことは重々理解している。鼻孔を擽る匂いに空腹感が湧いてきた。

 

 「「戴きます」」

 

 手を合わせてから小さく頭を下げ、そして料理へ箸を伸ばす。うん、美味しい。

 

 「美味いですね、織斑先生」

 

 「そうだな。だが──」

 

 織斑先生は一度言葉を区切り、そして俺の方へとはっきりと微笑んで言った。

 

 

 

 「私はアインの料理の方が好きだな」

 

 「……千冬さん、そりゃ反則ですよ」

 

 

 

 俺は思わず目を逸らした。自分でも顔が赤くなっているのが分かるくらいに熱い。落ち着け俺、クールになるんだ。あぁもう畜生、なんなんだよこの人は。卑怯だ、いきなりあんな笑顔を見せてくれるなんて。完全な不意打ちだった。ていうか、なんで自分で言っておいて恥ずかしくなってんの?真っ赤になりながら上目遣いでチラチラ見ないでくださいよ、可愛すぎるって。

 

 「……すまなかった」

 

 「いえ……なんかすみません」

 

 なんだかとっても気まずくなった俺達はお互いに無言で食事を再開した……が、全くと言っていいレベルで味が分からない。これはあれだ、いつだったかシャルの咥えたクッキーをキスと一緒に口へ捩じ込まれた時と似ている。あの時も凄まじい衝撃のせいで味が全然分からなかったな。

 

 なんにせよここが学園の食堂で、周りに生徒の目があって本当に良かった。ついでにその子達の視線が揃いも揃って騒ぐ織斑達に集中していたのも。テンパって魚の骨がなかなか取れない千冬さんを見て、俺は切実にそう思った。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 「ア、アイン先生!助けてください!」

 

 夜、クラス対抗戦(リーグマッチ)についての会議を終えて寮監室に戻ったばかりの俺の元に、織斑が血相を変えてやって来た。首を傾げながらもとりあえず織斑の後についていけば、お互いに言い争っている篠ノ之と凰の姿が。そういえばこんなこともあったかもしれないと思いながらも一応状況を聞いておく。

 

 「織斑、これはどういう状況だ?」

 

 「えっと鈴……じゃない、凰がほう……篠ノ之に部屋を替わってって言いに来て、分からないんですけどそれで口論に」

 

 なるほどね、大体理解した。結論から言わせてもらうなら部屋替えというのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()とか()()()()()()()()()()()()()()()()とかの余程の事態でもない限り、基本的には認められていない。学園側の定めたことは一生徒の我が儘程度では替えられはしないのだ。という訳で残念だが凰には引き下がってもらうしかないな。

 

 「おい二人と「とにかく部屋は替わらない!出ていくのは貴様の方だ!」……二人共~?」

 

 「ところで一夏、約束覚えてる?」

 

 激昂する篠ノ之を清々しいまでにスルーした凰。それは火に油を注ぐも同然だ。無視された篠ノ之は怒りの余り、ベットの横にあった竹刀を手に取り──って、それは流石にまずい。

 

 「ちょ、馬鹿──」

 

 織斑の声とほぼ同時に竹刀の直撃する音が響いた。誰が言ったのか、「あっ……」という声がポツリと溢れる。

 

 「篠ノ之」

 

 俺は()()()()()()()()()()()()()それを握る彼女を見据えた。

 

 「剣道経験の長い君が本気で剣を使えばどうなるか、分からない訳がないよな?」

 

 しかも狙いは完全に頭だったのだから質が悪い。ついでに、と俺は自分の後ろで右腕にISを部分展開した凰へ目をやった。

 

 「今回は正当防衛だから見逃すが、許可されていないISの展開は禁止されている。以後、気を付けるように」

 

 「……アンタが一人目の男ね」

 

 不機嫌そうに俺を睨みながら凰は口を開く。やれやれ、受け止めたのは余計なお世話だったかな。竹刀をやんわりと押し返し、やや痺れの残る()()を適当に振る。生身だったらきっと保健室行き待ったなしだっただろう。恐ろしいことには違いないが、これが箒相手だったなら保健室どころか即天国逝きだったのでまだ優しいものだと思える。

 

 「一年一組副担任、ついでにここの寮長も務めるアインだ。君の言っていた部屋替えは原則禁止だ、残念だが大人しく諦めてくれ」

 

 「ちっ、あっそう」

 

 舌打ちと共に凰はさっと顔を俺から織斑の方へと向ける。おかしいな、凰ってこんなガラの悪い奴だったか?俺の記憶と随分違うぞ。いや、でも『無能なのに口だけ煩い大人は控えめに言って嫌い、というか死ね』って言ってたような気もするし、初対面の大人相手じゃ案外こんな調子なのかもしれない。

 

 「え、え~っと……鈴、約束っていうのは」

 

 なんとなく広がる気まずい空気の中、織斑がばつの悪そうな感じで凰へ問うた。それに反応した彼女は先程の自信あり気な態度から一転して、「あ~……」とか「う~……」とか言いながら縮こまってしまう。

 

 俺は急に逃げ出したくなる衝動に駆られた。このままではあの黒歴史の筆頭とも言える衝撃の場面に立ち会ってしまうからだ。ただこの気まずい空気の中で立ち去るだけの勇気は俺になく、とうとうその時が訪れてしまった。誰か助けて。

 

 「約束ってあれだよな。鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を──」

 

 「そ、そう!それよそれ!」

 

 頼む織斑、思い出せッ!!

 

 

 

 「──奢ってくれる、ってやつだよな」

 

 

 

 彼がそう言い切った瞬間、この部屋の時間が止まった。凰と篠ノ之は唖然として動きを止め、俺はかつての己の鈍感具合に思わず天を仰いだ。

 

 あぁもう馬鹿、俺の大馬鹿野郎。同じ過ちを犯した俺が偉そうなことを言えた義理じゃねえが流石にそりゃねえって……だから今すぐその満足そうに頷くのを止めろ。

 

 「……へ?」

 

 「だから料理の腕が上手くなったら俺に飯をご馳走してくれる、って約束だろ?いやぁ、我ながらよく覚えてたな!」

 

 はははは、と笑う織斑だが、その笑いは涙目になった凰が頬を殴ったことで止まった。殴られた織斑、そして状況をいまいち理解出来ていない篠ノ之はぱちくりと瞬きをする。やがて織斑の首が元の状態に戻っていき──凰と目があってその顔色を変えた。直後に彼女の怒声が部屋中に響き渡る。

 

 「最っ低ッ!女の子との約束を覚えてないなんてありえないわ!犬に噛まれて死ね!この馬鹿一夏!」

 

 私物と思わしきボストンバッグを回収すると、凰は口ごもる織斑を最後に一睨みしてから部屋を飛び出した。床には涙の跡がしっかりと残っており、彼女が泣いていたという紛れもない証拠となっている。そりゃ一世一代の告白の意味を取り違えられていたとなれば、そいつの顔面を殴りたくもなるよな。

 

 今、この場に鈴がいたら俺は全力で彼女に土下座しているところだろう。良かったな織斑、まだ殴られるだけで済んで。俺が他の恋人達に同じことをすれば間違いなく笑顔で去勢されてただろうからな。

 

 「……まずい、怒らせちまった」

 

 当たり前だ、と喉元まで出てきた言葉を呑み込む。考えるのは自由だが発言には気を付けなければならない。

 

 「一夏」

 

 「な、なんだ箒?」

 

 「馬に蹴られて死ね」

 

 「え!?」

 

 「もっとちゃんと思い出してみろ。そんでもってちゃんと考えてみるんだな」

 

 「先生まで!?」

 

 深い溜め息と共に俺は部屋を出た。全く、外見と性格はいいとこまでいってるんだけどなぁ……あの朴念仁が悉くそれらを台無しにしてやがる。勿体ない。それさえなければ完璧……とは言わないが、なかなかの優良物件だろうに。

 

 とにかく疲れた。あと煙草が吸いたい。黒歴史を見せつけられたことへの嫌悪感と疲労感に悩まされながらも、俺は煙草を吸うべく屋上へ続く階段を上っていった。

 

 




 数話前にフラグの立ったっぽいセシリアが空気だって?すまない……出番を作れなくて本当にすまない……

 アイン 旧名織斑一夏。最近の悩みは千冬が時々見せる何気ない仕草が可愛すぎること。煙草の害はナノマシンが排除する為、悪影響を気にせず服用出来る。朴念仁解消の秘訣は恋人達に逆レ○プされることらしい

 箒(未来) ファースト幼馴染み。落ち着いた性格で怒ることは殆どなかったが、その時には必ず専用機を持ってきた。斬撃は本人の技量の高さもあって防ぎ損ねれば普通に死ぬ

 鈴(未来) 専用機は『神龍(シェンロン)』。セカンド幼馴染み。残念ながら体つきはそこまで成長しなかった模様。面倒見がいいお母さん気質で、アイン曰く、「世界で一番エプロン姿の似合う人」

 シャルロット(未来) 咥えたクッキーは必ず舌と一緒に捩じ込む。可愛い

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。