とりあえず年明けるまでにもう1話くらい更新したいです
「大丈夫か、オルコット」
「は……はい」
試合終了後、シールドエネルギーが全損してブルー・ティアーズを維持出来なくなったオルコットを抱えて、俺は織斑達がいる方とは反対のピットに彼女を運んでいた。ちなみに体勢はお姫様抱っこ、やる方もやられる方も少し恥ずかしいがそれを除けばおんぶの次くらいに安定する運び方だ。
「よっ……と、到着」
「あ、ありがとうございます……あれ……?」
ゆっくりとピットへ着地してオルコットを下ろす。ただ彼女は足に力が入らないのか、妙にふらついていて危なっかしい。慌ててISから降りて支えてやり、そしてちょうど腰を掛けれそうな場所があったのでそこに座らせる。
「す、すみません、アイン先生」
「いや。それよりも大丈夫か?体の具合が悪いとか、痛むところがあるとか、そういうのは?」
「いえ……ありませんわ」
良かった、俺は胸を撫で下ろした。教師が生徒に怪我をさせるなんてあってはならないことだからな。
しかしこれはやりすぎたかもしれない。オルコットのブルー・ティアーズは大半の武装が破壊されており、今日中に試合をもう一度行うことは出来ないだろう。今すぐにでも連絡を取れればいいのだが、生憎今の俺はISスーツ一枚で連絡を取る手段を持って──いや、ISを使えば可能だな。俺はオルコットに一声掛けてからすぐにラファールに乗り込み、コア・ネットワークを利用した通信を開く。繋ぐ相手は織斑の白式だ。
『あー、あー、こちらアイン。織斑、聞こえるか?』
聞こえたら返事を、そう言いかけた俺は気付いてしまった。もしかしたら織斑は通信のやり方を知らないんじゃね、ということに。というかもしかしたらではない、間違いなく使えないわ。
しかしこれ以外に向こうと連絡を取る手段はない。オルコットからも目を離せないし、織斑が聞こえているものと信じて通信を続ける。
『……すまない、返事はしなくていいから今から言うことを織斑先生に伝えてほしい。オルコットの機体の損傷が激しく今日中に試合を行うことは困難です、織斑とオルコットの試合は後日に行いましょう、とな。頼むぞ』
切実に祈りながら通信を終える。きちんと繋がってたから届いてはいるんだろうけど……不安だ。とりあえずラファールからは降りてオルコットの傍へ移動する。さっきから彼女は俯きっぱなしでなかなか顔を上げようせず、その様子は見ていてだんだんと不安になってくる。本当に大丈夫だよな……
「オルコット、一先ず試合はこれで終わりになりそうだ。今日はもう部屋に戻ってしっかり休むといい。もし辛いのなら、俺でよければその辺まで付き添うが……」
「……いえ、一人で大丈夫ですわ」
ポツリと返事をしてなんとも重い足取りでピットから出ていこうとするオルコット。俺はそんな彼女を呼び止めることはせず、ただその背中に向けて口を開いた。
「オルコット、最後の一撃はよく防いだな。流石代表候補生だ。いい試合だったぞ」
「……っ」
一瞬だけ足が止まるがそれでも彼女は振り返らずに、逃げるようにしてピットから出ていく。その数秒後、アリーナに山田先生の放送が響き渡った。内容は今日の試合は終了し、織斑とオルコットの試合は後日に行うというもの。つまり、俺が織斑先生に伝えた内容がほとんどそのまま放送されたのだ。
俺はラファールに乗り込み、ラファールの状態を確認する。直接受けたダメージこそビットの爆発だけだが、案の定駆動系の損傷が酷く、回路の一部が焼き切れかかっていた。結構滅茶苦茶な使い方したしこんなもんか。
その後、これ以上の負担を与えないように細心の注意を払いながら、俺は元のピットに向かって飛び立った。
▽△▽△
「……」
サーッと流れるシャワーが少女、セシリア・オルコットの体を伝う。アインとの試合を終えた彼女は現在、更衣室に備えられたシャワールームにて戦いで火照った体を冷ましていた。しかし、火照る体は先程から一向に静まる気配がない。
セシリア・オルコットは敗北した。言い訳のしようもない完敗だ。相手が男だからと軽んじ、そして訓練機だからと油断した。その結果がこれだ。そんな自分がどうしようもなく嫌になり、胸の奥が締め付けられるような痛みに襲われる。しかしそんな時に頭に浮かぶのは、何故か自分を倒した相手のことだった。
「アイン……先生……」
燃え尽きた灰のような長髪に、左目に付けられた黒の眼帯から隠しきれずに覗く火傷の痕。装甲が限界まで減らされたラファールを駆り、圧倒的な操縦技術で自らを撃破した一人の男だ。
セシリアの父は弱い男だった。常に周りの顔色を伺い頭を下げる、そんな頼りない大人だ。彼女の母親が対称的なまでに素晴らしい人だったこともあり、幼いセシリアの目には父がこの上なく情けなく見えた。
──将来、父のような情けない男性とは結婚しない。
いつの間かセシリアにはそんな思いが芽生えていた。そしてその芽は彼女の成長と共に大きくなり、男という生き物は父のように情けない存在である、というものに変わった。女尊男卑的思想を持つ彼女の根底には、こういった幼い頃の経験が関係していたのだ。
「(でも……あの人は……)」
セシリアは思い出す。ラファールを操りビットの攻撃を避けていたアインを。両手にブレードを携え爆炎より飛び出したアインを。そして──まるで吸い込まれてしまいそうな、真っ黒な右の瞳を。
男など弱い生き物だ。
男など情けない存在だ。
しかしアインの目は強かった。代表候補生、専用機持ちというセシリアを前にしても全く怯まず、どこまでも真っ直ぐな意志を宿した眼差し。今まで一度も見たことのないその強い瞳、そして言葉や態度の節々から溢れる優しさに、彼女はどうしようもなく惹き付けられた。
「(知りたい……あの方のことを……もっと……もっともっと……)」
火照る体は、まだ当分静まりそうになかった。
▽△▽△
織斑とオルコットの試合は翌日に行われることがその後の職員会議で決定した。そして翌日、俺は現在オルコット側のピットで待機していた。織斑の方には織斑先生と山田先生がついており、オルコットもまた一年一組の生徒であるため、副担任である俺がつくことになったのだ。
「調子はどうだ、オルコット」
「問題ありませんわ。勿論、ティアーズの方も」
「それは良かった」
微笑むオルコットに俺はそう返事する。どういう風の吹きまわしか、昨日の試合以来やけに彼女の態度が柔らかくなったような気がするな。具体的には刺々しい雰囲気が丸くなっていたり、俺を見る目が睨むようなそれからやや熱いものに変わっていたり。
それに妙な
そんなことを考えている間にも、試合開始時間はどんどん近付いてくる。カタパルトまで移動したオルコットはブルー・ティアーズを展開、脚部をしっかりと固定した。そして飛び出す前に、こちらへ振り向く。
「行ってきますわね、アイン先生」
その姿が、
「……あぁ、頑張ってこい」
ガコン、と音を立ててカタパルトが動き出し、そのままブルー・ティアーズを射出する。それと同時にアリーナの様子がモニターに映し出された。向こう側のピットからもちょうど今、
『悪い、待たせたか?』
漸く位置についた織斑が申し訳なさそうに訊ねる。それにオルコットは微笑と共に答えた。
『いいえ。それがあなたの専用機なのですね、織斑さん』
『あぁ、白式って言うんだ』
いい名だろ、と笑ってみせる織斑。代表候補生を前にしているというのに彼は怖じ気づいた様子はない、むしろ戦うことを楽しみにしているようにも見えた。あのやる気は一体どっから湧いてきてるんだろうなぁ……
『初心者のあなたには申し訳ありませんが手は抜きませんわよ。このセシリア・オルコット、代表候補生として全力であなたを倒しますわ!』
『おう。でもな、俺だって強くならなくちゃいけないんだ。誰よりも強くなって千冬姉を、家族を守ってみせる!』
──守ってみせる、ね。
俺は織斑の言葉にふっと笑みを溢す。随分と懐かしい言葉を聞いたものだ。
俺には
でもあいつなら──織斑なら、きっと……
皆が見守る中で開始を告げるブザーが鳴り響き、二人の若きIS乗りがぶつかった。
セシリアはチョロイン可愛い。ちなみにこの後、一夏にも惚れた模様。アインも一夏も大体同じだからね、しょうがないね
アイン 旧名織斑一夏。知らず知らずのうちに惚れられていた。恋愛経験者のため、人からの好意にはなかなか鋭い。セシリアとの試合後、ラファールを元に戻す作業に追われて若干寝不足
セシリア(未来) 御淑やかでスタイルも抜群、ついでに金髪碧眼で強い。ヒロイン属性の塊みたいな人
千冬(未来) アインの姉。世界最強のIS乗り