大人一夏の教師生活   作:ユータボウ

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 長ったらしい説明つきの戦闘回です。疾走感が足りねえ……



4話 血塗れの刃は錆び付かず

 あれから時は流れ、とうとうオルコットとの試合の日がやって来た。試合の行われる第三アリーナのピット、そこには俺を含めて三人の人間がいる。俺、織斑、そして篠ノ之だ。服装は篠ノ之が制服で俺と織斑がISスーツ。ちなみに織斑と篠ノ之の二人はさっきから痴話喧嘩を繰り広げており、このピットでギャンギャンと騒ぎまくっている。

 

 それにしてもこの頃の篠ノ之は素直じゃないねえ。織斑の奴が死ぬほど鈍感だってことくらい分かってるだろうに。はっきりと言葉にしないとこいつには伝わらんぞ?これが箒だったら……口じゃなくて体に問うて来るんだろうなぁ。『ふふっ、こっちの一夏はもうこんなに大きくなっているぞ?』とか、多分こんな感じ。いやね、あんな美人に迫られて我慢出来る男がいるもんかよ。少なくとも俺は無理だった。

 

 「お、織斑君織斑君!!」

 

 混沌としたピットに駆け込んで来たのは俺の中で学園一の良心、山田先生だ。今にも転びそうな足取りは見ていて凄く危なっかしい。あ、揺れる大きな胸は眼福でした。

 

 「山田先生、落ち着いてください。深呼吸しましょう、はい」

 

 「はぁ……はいぃ……す~は~……す~」

 

 織斑の言葉に素直に従う先生。そんな彼を後ろから篠ノ之が射殺すような目で見ていた。怖いよ。

 

 「はい、そこでストップ」

 

 「うっ……!」

 

 織斑の言葉に以下略。とりあえず教師で遊んだ罰として織斑の頭には拳を落としておく。そして全く同じタイミングで織斑先生の出席簿もまた落とされた。ゴンとパァンが混じった、なんとも言えない音がピットに木霊する。

 

 「目上の人間には敬意を払え、馬鹿者」

 

 「今のは流石に見過ごせないぞ、織斑」

 

 「千冬姉……!アイン先生……!」

 

 試合が始まる前からボロボロになる織斑。だがそこまで心は痛まない。だって自業自得だし。

 

 「それで山田先生、織斑のISは届いたんですか?」

 

 話が進みそうもないので俺は未だに息を整えている山田先生に声を掛ける。すると彼女はこくこくと大きく頷いた。

 

 「は、はい!来ました、織斑君の専用機が!」

 

 専用機、その言葉に織斑の表情が強張る。何せ467しか存在しないISの一機だ、その価値は到底計り知れない。データ収集用とはいえ専用機を渡されるということがどういうことなのか、そのくらいは理解しているようだった。感心感心。

 

 ゴォン、と重い音を立ててピットの搬入口が開き、その奥にある織斑のISを露にしていく。穢れなき純白の装甲──今はまだくすんでいるが──を持つ第三世代機、『白式』のお披露目だ。その近くには俺が弄ったラファールも準備されている。

 

 「それじゃ、先に俺から行かせてもらいます。その間に織斑の一次移行(ファースト・シフト)の用意をしておいた方がいいかと」

 

 俺が一夏だった時は一次移行も終わっていない状態でいきなり出撃したが、今は俺というもう一人戦う人物が存在するため、彼にはそれを行う余裕がある。俺の場合は訳が分からずに自滅したけれど、織斑はそうならないことを切に祈った。

 

 未だに呆けている織斑の横を通ってラファールの元へ向かい、そのボディに軽く触れて乗り込む。システム、オールクリア。異常はなし。分かっていたことだがやっぱり専用機に比べれば若干動きにタイムラグが生まれるな。俺が思考してから動き出すまで……誤差0.3秒ってところか。戦場なら致命的な数字だがここはただの競技場だ、そこまで気にすることでもないだろうと割り切った。

 

 「アイン先生……」

 

 「本当に動かせたんですね……」

 

 カタパルトに向かって歩いていると織斑と篠ノ之が交互に呟いたのが聞こえる。そういえば一年生の前で実際に俺がISを使うのは初めてだった。その隣では腕を組んで仁王立ちする織斑先生と、ラファールを見て困惑する山田先生の姿が。余計な装甲とか全部取っ払ってるからなぁ……ラファールの使い手としては驚きを隠せないんだろう。

 

 「よし……じゃあ行きます」

 

 「あぁ、我々教師の実力を見せてやれ」

 

 「が、頑張ってくださいね!」

 

 後ろから先生二人の激励を受け、俺はアリーナへと飛び立った。アリーナには既に、セシリア・オルコットが待っている。

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

 「……織斑先生、アイン先生は強いのですか」

 

 アインが飛び立つ姿を見届けた少女、篠ノ之箒は思わず千冬にそう問うた。千冬は彼女とは目も合わそうとせず、いつものように淡々と答える。

 

 「愚問だな篠ノ之。彼は教鞭を振るう立場の人間だ、弱い訳がなかろう」

 

 「しかし相手は専用機を持った代表候補生です!同じく専用機のある一夏ならともかく、訓練機のアイン先生では機体の性能に差がありすぎるのでは?」

 

 勝てる訳がない、箒は遠回りな言い方だが確かにそう言った。しかし千冬は表情を変えずに彼女の言い分を鼻で笑う。

 

 「ふん、そう思うなら見ておくがいい。一夏、お前は早く白式に乗れ。()()()()()()()()()()()()()()初期化(フィッティング)最適化(パーソナライズ)を終わらせるぞ、急げ」

 

 「え……は、はいっ!」

 

 突然の指示に困惑するも一夏はすぐに白式へと乗り込んだ。ガシャガシャと装甲が彼の体を包み、一次移行(ファースト・シフト)を行うために膨大な情報が処理され始める。完了までの時間はおよそ三十分だ。

 

 白式が処理を始めるのとほとんど同時に、ピットに設置されたモニターがアリーナの様子を映し出す。既にセシリア、アインの両名は指定の位置に待機しており、開始の時をじっと待っている。セシリアの顔は険しいものとなっており、対するアインは完璧な無表情だ。

 

 そして数秒後──始まりを告げる合図がアリーナに響いた。

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

 「来ましたわね」

 

 「あぁ。待たせてすまない」

 

 ラファールを操り空を駆ける。オルコットは既に専用機『ブルー・ティアーズ』の大型ライフル、スターライトmkⅢを展開しており、観客の生徒達は試合が始まることを今か今かと待っていた。俺もまた一気に上昇し、彼女と同じ高さまで移動する。

 

 「あら、まさかその訓練機でこの私に挑むつもりですの?イギリスの代表候補生たる、このセシリア・オルコットに」

 

 「訓練機だからって油断しない方がいいぞ。来るなら全力で来い」

 

 俺の態度が気に食わないのか、オルコットはキッとこちらを睨んだ。駄目だぜ、淑女がそんな顔をしたら。淑女たる者如何なる時でも優雅に強く、そして高貴なる者に伴う義務(ノブレス・オブリージュ)を忘れてはならないと。セシリアはいつも言っていた。

 

 試合開始まであと僅か、俺は静かに意識を戦闘のそれに切り替える。武装は──まだ出さない、わざわざ始まる前から手札を晒す必要はないからだ。

 

 「……いいでしょう、あなたが私に教鞭を振るうに相応しい教師であるか、見極めて差し上げますわ!」

 

 瞬間、試合開始の合図が響き、それとほとんど同時にオルコットのライフルが放たれた。エネルギー武装の速度は総じて速いのが特徴、しかしその程度は恐るるに足らずだ。必要最低限の動きで以て弾丸を完璧に避けてみせる。立て続けにやって来る砲撃も同じだ。

 

 ──0.3秒のラグがあるなら、その分先に動き出せばいい。

 

 機動力に特化したラファールは白式・零には遠く及ばないものの、それでも結構なスピードを出せている。故に、()()()()()()()()()を避けるくらい実に容易いことだ。

 

 更に俺は未来において本物の戦争を経験している。一発被弾すればそれが死に繋がる世界で、攻撃を避ける技術を伸ばさずにどうして生きられようか。

 

 「くっ……!なんですのそのスピードは!?」

 

 「どうした、これで終わりか?」

 

 「言いましたわね、いいでしょう!行きなさいティアーズ!」

 

 その台詞を皮切りにブルー・ティアーズの非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が次々に動き出す。ブルー・ティアーズの切り札、ビットだ。合計四基のそれらは俺を取り囲むように展開され、一斉に攻撃を始める。前後左右に加えて上下からも、ありとあらゆる方向からレーザーの嵐が俺を襲う。

 

 ──だが、()()()()()

 

 ラファールに少しだけ無理な動きを強いて放たれた砲撃を悉くかわしていく。小刻みにスラスターを点火、関節部の捻り、PIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)を操作して自由落下さえも動きに混ぜる。端から見れば俺は今、実に変態的な動きをしていることだろう。

 

 そんな具合で攻撃を全て回避されて焦り始めたのか、だんだんとビットの動きが単純になってくる。そこを決して見逃さず、俺は素早く両手にショートソードをコール、ビットの軌道を予想してそれらを投擲した。二基のビットはまるで自ら当たりに来たかのように予想した所にやって来て、ガッ!と音を立ててショートソードがその砲口に突き刺さる。

 

 「そんなっ!?」

 

 ありえないと言わんばかりに叫ぶオルコット。まだだ。俺はすぐに投擲したばかりのショートソードの持ち手を掴むと、突き刺さった今にも爆発しそうなビットを別の二基へと全力で叩き付けた。一気に四基分のビットが大爆発を起こし、ラファールのシールドエネルギーが大きく減少する。それでも、これでビットは全て破壊した。凄まじい爆炎の中から現れる異形のラファール、まるでホラーだな。

 

 「わ、私のティアーズが……!」

 

 予想外の事態にオルコットは呆然とする。訓練機ごときにティアーズがやられる筈が、とでも言いたそうだ。彼女には残念だが相手が悪かった。ブルー・ティアーズのレーザーも、ビットによる攻撃も、未来のセシリア・オルコットを知る俺には通用しない。

 

 

 

 ──合計三十二基のビットを自在に操り、

 

 ──かつ、それら全てでのBT偏光制御射撃(フレキシブル)を可能にし、

 

 ──そして自身はブレード片手に接近戦を挑んでくる。

 

 

 

 そんな本気で目を疑いたくなるようなことを涼しい顔でやってのける彼女と一緒にいたのだ、いくら速くとも真っ直ぐにしか飛ばないレーザー程度に当たるものか。

 

 スターライトmkⅢから放たれる砲撃をかわしながらオルコットへの接近を始める。ブレードの届く範囲に入れば俺の間合いだ。拡張領域(バススロット)からサブマシンガンを取り出してばらまくように撃ちまくる。ダメージを与えることが目的ではない、オルコットにこちらを狙撃させる余裕を与えないことが狙いだ。

 

 そして生まれる一瞬の隙、迷わず俺は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行って、一気に距離を詰めた。それを見たオルコットが不敵に笑う。

 

 「残念ですが、ティアーズのビットは六基ありましてよ!」

 

 ガコン、とオルコットの腰辺りに取り付けられたミサイルタイプのビットがこちらを捉える。俺と彼女の間にはもう十数メートルしかなく、しかも俺は瞬時加速中で直進しか出来ない。これが当たれば俺のシールドエネルギーは確実に尽きるだろう。それを分かっているのか、オルコットもしてやったりと笑みを浮かべた。

 

 ──しかし、あくまで()()()()の話だが

 

 高速切替(ラピッド・スイッチ)という技術がある。武装の展開に掛かる時間を極限まで短縮する高度な技術であり、俺の知っている中ではシャルが最も得意としていたものだ。一見すると地味な技術のように思えるが、これは言わばじゃんけんの後出しのようなものであり、相手の動きを見てから自分の武装を決めることが出来るのだ。ちょうど、今の状況のように。

 

 俺は両手のショートソードを高速切替でハンドガンに変更、こちらを捉えたビットの砲口目掛けて引き金を引いた。放たれた弾丸は発射されたばかりのミサイルを撃ち抜き、ビットを巻き込んで爆発を起こす。そしてそれは当然、ビットを直接取り付けていたオルコットにも衝撃は及んだ。結果、爆風に煽られたオルコットは俺を目の前にして決定的な隙を晒した。

 

 「ひっ……!?」

 

 「遅い!」

 

 再び高速切替でハンドガンをショートソードにチェンジ、スターライトmkⅢごとブルー・ティアーズを斬り裂いた。しかしまだオルコットのシールドエネルギーは残っている。スラスターを噴かして素早くターンし、もう一度オルコットへと斬り掛かった。

 

 誰もがその攻撃が通り、オルコットが敗北することを悟っただろう。だが俺には彼女の瞳が見えていた、驚愕に染まりながらもまだ勝負を諦めていない、気高き戦士のそれを。

 

 

 

 「インターセプター!」

 

 

 

 ギィン!と音を立ててブレード同士がぶつかる。ブルー・ティアーズに装備された唯一の近接武装、インターセプター。直接声に出してコールするという代表候補生にはあるまじき行為をしてでも、自らのプライドを傷付けてでも、彼女は最後まで足掻くことを選んだのだ。それがどれだけ惨めでも、かっこ悪くても、セシリア・オルコットは諦めるような真似はしなかった。

 

 

 

 ──例えビットが全て尽きようとも、エネルギーが僅かでも、この身がある限り私は諦めませんわ。

 

 ──このセシリア・オルコットを侮らないことですわね。窮鼠猫を噛む、油断していればその首貰い受けますわよ?

 

 ──さようなら、一夏さん。愛していますわ、あなたのことを。

 

 

 

 「見事だ、代表候補生」

 

 「……あっ」

 

 二本のブレードが織り成す無数の斬撃が、オルコットのシールドエネルギーを全て削った。

 




 アイン 旧名織斑一夏。完璧主義者であり、全く使えなかった銃火器の類いを逆行してからは死ぬ気でマスターした。高速切替に掛かる時間はおよそ0.15秒、シャルロット(15歳)より僅かに速い(という設定)

 箒(未来) アインと恋人関係になってからは性格が一気に丸くなった大和撫子。コンプレックスだった大きなおっ○いは立派な武器にジョブチェンジしている

 セシリア(未来) 専用機は『血涙(ブラッド・ティアーズ)』。合計三十二基のビットでフレキシブルを行いながら接近戦を挑むイギリス最強のIS乗り。また貴族としても完璧な存在であったが、諦めの悪さも人並み以上に持ち合わせていた

 シャルロット(未来) アインの知る限り、高速切替を最も速く使いこなす操縦者。掛かる時間は0.08秒と最早呆れるしかない速さ

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