大人一夏の教師生活   作:ユータボウ

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3話 試合う準備

 「──という訳でISは宇宙での作業を想定して作られており、操縦者の体を特殊なシールドバリアーが包んでいる。また生命補助を行う機能も搭載されており、ISは操縦者の体を常に安定した状態に保つ。これには──」

 

 教科書に書かれている内容を確認のためにすらすらと音読する。今俺は現在進行形で授業を行っており、教室の一番前からは授業を受ける生徒達の様子が一望できる。ノートにメモをする者、重要だと伝えたところにラインを入れるもの、教科書をぼんやりと眺める者、そして──授業について来れずに焦りまくる者。皆様々だ。

 

 「あの、先生。それって大丈夫なんですか?なんだか体を弄られてるみたいで……」

 

 控えめに手を上げて一人の生徒が発言する。まぁ少し不安になる気持ちは分からんでもない。実際に動かしてみたらそうでもないんだが、小難しい理論と共に文字にされると理解するのは大変なのだ。

 

 「ん~……別にそこまで難しく考える必要はないぞ。ISの機能ってのは眼鏡やコンタクトレンズみたいなものだと思えばいい。確かにあれは使えば遠くがよく見えたりするようになるが、でもそれは目を弄くったりしてるかな?」

 

 「えっと……してないです」

 

 「そうだろ?それとISの機能も似たようなもんなんだよ。操縦者の体温、心拍数、脈拍数を保ったり、他にも色んな機能がISには詰まってる。でもそれらは操縦者をサポートするためであって悪影響を与えるものじゃないんだ。色々喋ったけど質問の答えは、大丈夫だから安心しろ、だな。納得してくれたかな?」

  

 「はっ、はい!ありがとうございます!」

 

 質問をした生徒を納得させると俺は再び授業を再開する。教室内がざわついているような気もするが、この年頃の女の子達はとにかくお喋りが大好きなのだ。注意はしておくが多分静まらないんだろうな……

 

 「あと少しで終わるからもうちょっと頑張れ!今から大事なこと言うからな、聞き逃して織斑先生に怒られても先生は知らんぞ!」

 

 織斑先生の名前を出した途端にピタッと教室が静かになる。まだ学校生活二日目なんだがもう訓練されてるのか君達は……後ろに同席している本人も呆れ返ってんぞ。驚きのあまり固まった俺だが、一度咳払いをして気持ちを切り替える。

 

 「え~、それじゃ再開するぞ。実はISにはそれぞれコアの中に意識があり、コアの方も操縦者の癖やら特性を理解しようとするんだ。つまりISは乗れば乗るほど、そして一緒にいればいるほどお互いに理解し合っていき、最終的には機体の性能なんかにも現れてくる。ということだからISは道具としてじゃなく、大切なパートナーとして扱ってやるように!特にオルコット、お前は専用機持ちだから大切にしてやれよ!」

 

 「と、当然ですわ!」

 

 専用機を持たない一般の生徒だと実感しづらいかもしれないが、専用機持ちだとこのコアの理解というものは、その動きや機能にはっきりと現れてくるのである。

 

 因みに俺の場合だと状況に応じて、スラスターやら荷電粒子砲やらシールドやらの様々な役割を果たす展開装甲が、いつの間にかスラスターにしかならなくなっていた。その分出力がえげつないことになっていたが。と、まぁこんな具合に操縦者の癖を見抜いてコアがISを変えることがあるのだ。

 

 「先生!それって彼氏彼女みたいなものですか!」

 

 「ん~……恋愛関係には発展しないから親友とか相棒とかの方がいいぞ。先生も流石にISは恋人!なんて言う人は見たことがないからな」

 

 一気に賑やかになる教室だが、ちょうどそのタイミングでチャイムが鳴った。女子特有のやたら甘い雰囲気に酔ったのか、織斑は最前列で机に突っ伏している。でもこればっかりは馴れろとしか言えないんだよなぁ。内心で彼を案じながら他の二人の先生と教室を後にした。

 

 「やっぱり流石ですね~アイン先生は。私もあんな風に上手く出来たらいいんですけど……」

 

 山田先生が不意にそんなことを呟く。今更なんだが俺ってこの人より教師生活は長いんだよなぁ。未来の恩師が今は後輩っていうのは、なんだか変な感じだ。

 

 俺の授業スタイルだがモデルとなっているのは、やはり未来における真耶さんの授業だ。あの人の授業は本当に上手かった。教師という教える側になった今だからこそ理解出来る、あれに比べたら俺など足下にも及ばない。

 

 「いえ、俺なんて大したもんじゃありません。山田先生の授業こそ分かりやすいと思いますけどね。男の俺じゃ、女の子達の気持ちはよく分からないんで」 

 

 「その割には生徒達の扱いは上手いな、アイン先生は」

 

 「……上手いですか?」

 

 「「上手いぞ(です)」」

 

 マジかよ。っていうか織斑先生が言うと誉められてんのか皮肉で言われてんのか区別がつかねえや。少しだけモヤモヤした気持ちを抱えながら、俺は次の授業の準備のために二人と並んで職員室へと足を運んだ。

 

 

 

     ▽△▽△

 

 

 

 「聞いたわよ?イギリスの代表候補生と試合することになったんですってね」

 

 「十蔵さんといい君といい、皆本当にその話題が好きだな。そんな気になることか?」

 

 「ええ♪」

 

 時は流れて放課後。生徒会室にある一番豪華な机に座った赤目の生徒、更識楯無はニコニコと笑顔を浮かべた。その張り付けたような心のこもっていない笑顔が、はっきり言って俺はあまり好きではない。その裏で何かしらの良からぬことを考えているのが目に見えているからだ。それが単に俺をからかうものなのか、想像もつかないような陰謀なのか、見極める術を俺は持ち合わせていない。

 

 「ただでさえ少ないあなたの戦闘データが採れるんだもの、気にならない訳がないわ」

 

 「毎回それを聞く度に思うんだが、これの稼働データってのは一体どこで役立ってんのかねえ?」

 

 「ひ・み・つ♪」

 

 バッと『秘密』と書かれた扇子が開かれる。彼女のことだからこれ以上聞いても無駄だろう。大人しく引き下がった俺は淹れたばかりの紅茶を更識のところへ置いた。そこへお茶請けを用意するまでが一連の動きとなる。

 

 「どうぞ」

 

 「ありがと……ん~いい香り!虚ちゃんと同じくらい上手ね。あなた本当に先生なの?執事とかじゃなくて?」

 

 残念だがただの教師だよ。セシリアのお願いで紅茶の入れ方やマナーなんかは完璧になったし、執事の真似事もやったことはあるが、それも全部昔の話だ。

 

 「んじゃ、俺行くから」

 

 「どこに?」

 

 整備室、とだけ短く答えて俺は部屋を出る。ついでに仕事しとけよと釘を刺すのも忘れない。いつも布仏姉に怒られてるにも関わらず懲りねえんだから……全く困ったもんだ。

 

 その後俺は通いなれた整備室へとやって来た。ここに来た理由は数日後の対オルコット戦で俺が使用する訓練機の調整だ。今日になって漸く、一機のISを試合用に調整してもいいという許可が出たのである。ちなみに最適化(パーソナライズ)は禁止とのこと。

 

 整備室にあった端末をちょこちょこっと操作し、アリーナの倉庫に眠っていた一機のISをここに運ばせる。IS学園に配備されているISは二種類あり、俺が選んだのは『ラファール・リヴァイヴ』の方だ。『打鉄』を選ばなかった理由は防御が必要ないから。当たらなければどうということはないのである。

 

 「~♪」

 

 目の前にやって来たネイビーの翼を持つフランス製の第二世代機、それを鼻歌混じりにどんどん弄っていく。こういう整備や調整関連の技術は簪より教えられたものであり、それが上達したのは皮肉にも亡国機業とのドンパチ中にISをひたすら触っていたからだ。白式・零なんかの第五世代機に比べればラファールはまだ作りが単純でいい。ついでにカスタマイズの遣り甲斐もある。

 

 まず最初に手をつけるのはスラスター系だ。操作性と安全性を犠牲にして出力を限界まで上げてやる。邪魔なシールドも全て撤去し、とにかくスピードだけを求めて調整をしていく。駆動系が悲鳴を上げているような気がするがあえて無視する。ついでに関節部分も千切れてしまうかもしれないがこれも無視。終わった後の修理が大変そうだなぁ……

 

 次に選ぶのは武装。俺の最も得意とする戦い方は超至近距離での高速戦闘だ。故に中距離戦闘用のアサルトライフルは外し、ハンドガンを二つ拡張領域に放り込む。そして攻撃の要となるブレードには、刀身が少し短めのショートソードを二本チョイスした。ぶっちゃけこれだけでも十分なのだがラファールの拡張領域は流石に広い。余裕がありそうなので牽制用としてサブマシンガンを入れておこう。

 

 

 

 後はもう少しだけ手を加えて……完成。

 

 名付けて『ラファール・リヴァイヴ(Ver.アイン)』だ。

 

 

 

 ……なんつーか、シャルが見たら怒りそうなことになってしまったな。ラファールの利点である安定性とか使いやすさを全部潰してる。いやでも彼女だって使ってた機体は名前こそラファールと付いていたが、あれは()()()()()()()()()()()()()()I()S()と言うのが一番しっくりくる。多分許してくれるだろう、多分。とりあえずこのラファールのコアには謝った。

 

 一応完成したこいつ(ラファール)は試合当日まで倉庫に戻しておこう。間違って生徒達が使わないように貸し出し禁止に設定しておくのも忘れない。こんな機体を生徒に使わせられるかってんだ。一通りの作業を終えた俺は程よい達成感を味わいながら整備室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういえば途中から誰か見ていたが十中八九更識の妹だろう。『打鉄弍式』、だったかな。織斑が出てきたことで開発が中止になった専用機を組み立てていたんだろう。

 

 まぁ彼女を救うのは俺じゃなく、織斑一夏(ヒーロー)の仕事だ。俺が首を突っ込むのは野暮ってもんだろうよ。勿論助けでも求められたら話は別だがな。

 




 アイン 旧名織斑一夏。教師としての山田先生をかなり尊敬しており、授業スタイルも彼女のものを真似たもの。生徒会の顧問を務める。ヒロイン達には一夏と幸せになって欲しいという思いがあり、彼女達と関わるのはあくまで教師としてと決めている

 セシリア(未来) アインに執事の真似事をさせていた。貴族であるが故に紅茶や礼儀作法に厳しい

 シャルロット(未来) 専用機は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムV』。ラファールと名前に付いているがラファールらしい要素はほとんどない

 簪(未来) アインにISの整備技術やその他の技術系を教えた張本人。お姉ちゃんとアインが同じくらい好き

 山田先生(未来) 教師としてのアインの目標。またIS操縦技術もずば抜けて高く、アイン以外の生徒達からも憧れられていた

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