この作品は作者の考えたオリジナル未来から一夏が逆行する話です。名字で呼ぶのは現代の人達、名前や愛称で呼ぶのは基本的に未来の人達だと思ってください
1話 アインという教師
「さて、まず感想を聞きましょうか?」
目の前に座る壮年の男、轡木十蔵IS学園理事長はティーカップに注がれた紅茶を嗜みながらそう問いた。一般生徒や教師からは用務員として「学園内の良心」と呼ばれ親しまれている彼だが、その実相当な切れ者である油断ならない相手だ。尤も、別に俺は彼と敵対している訳でもなく、今もただの世間話をしているだけなのでそこまで警戒する必要はない。テーブルに置かれたお茶請けのクッキーを一つかじり、紅茶を一口。うん、どちらも自作ながらよく出来ている。
「感想ってなんの感想です?日本語は省かずに話さないと伝わりませんよ」
「これは失礼。では……織斑一夏君のクラスの副担任となり、今日一日過ごした感想を聞かせてください」
にこりと笑う轡木十蔵IS学園理事長──もとい十蔵さん。やっぱりアンタの仕業かい。おかしいと思ったわ、一年一組担任織斑千冬、副担任山田真耶&俺って、どう考えたって悪意しか感じないっての。俺は一つ溜め息をついた。
「ん……まぁ大変でしたよ。授業は別にいいんですけど織斑先生や織斑目当ての生徒がキャイキャイ騒ぐわ騒ぐわ……」
「多分その中にはあなたも含まれていると思いますが」
「でしょうね」
俺は思わず苦笑する。確かに織斑千冬は世界最強のブリュンヒルデで引退した今でも多くのファンが存在し、その弟の織斑一夏は世界でたった
などと他人事のように言っているが、俺だってISを動かせる男の片割れだ。教師という立場上、織斑に比べれば寄ってくる生徒の数はまだましだが、年度の始めはいつも苦労するのだ。ぶっちゃけるともう馴れてたが。何年俺が異性だらけの場所にいたと思っているんだ。
「織斑一夏君の様子はどうでしたか?馴れない環境は大変でしょうね、きっと」
「あー……まぁそんなもんじゃないですかね。
脳裏に浮かぶのは机に突っ伏し、うんうん唸る織斑の姿だ。授業はまるで理解出来ず、また周りは異性の生徒しかいない。一日目から参ってしまうのも仕方ないだろう。贔屓だと言われない程度にフォローしてやった方がいいかもしれないな。織斑先生は身内には厳しいし。
「あと聞きましたよ。彼、セシリア・オルコットさんとクラス代表を賭けた試合をすることになったとか」
「知ってるならわざわざ聞く必要ありませんよね?」
「まぁいいじゃないですか。それにあなたも巻き込まれたんでしょう?」
「いやいや、知ってるならわざわざ聞く必要ありませんよね?確かに巻き込まれましたけど」
そう、あれは今日の三時間目、クラス代表を決めることになった際の出来事。他薦によりクラス代表に推薦された織斑と自薦したセシリア・オルコットによるクラス代表決定戦が行われることになったのだが、何故かそこに俺も巻き込まれてしまったのである。言い出しっぺのオルコット曰く、「ISを動かせるかなんだか知りませんが私より弱い人に教わることなどありませんわ!」とのこと。プライドの高い彼女らしい言葉だ。
「ははっ、それで一体どうするつもりです?」
「決まってるでしょう、倒しますよ。教師は舐められたら終わりですから」
口に出したのはオルコットだが、内心では俺のことを怪しく思っている生徒は少なくないだろう。ここで一つ実力を見せつけてやるのも悪くない……って、よくよく考えれば去年も同じようなことを言ってたな。「今年も新入生をボコったぜ☆」なんて三年生の整備科の子達に話せば爆笑されそうだ。
「
「当たり前でしょう」
はっはっはっ、と笑う十蔵さんだが一瞬だけ目がマジだった。その視線は俺の左手の中指にある指輪に向けられている。ていうか、どんだけ俺を大人げない奴だと思っているんだこの人は。セシリアならともかく、オルコットなら十秒ともたないだろうけど。
「んじゃ、そろそろ仕事に戻りますわ」
「おや、もう行ってしまうのですか」
「校内放送でいきなり呼び出されたと思ったら雑談に付き合わされる身にもなってください。こちとらそこまで暇じゃねえんですよ」
軽口を叩きなから自分で飲んだティーカップを片付ける。一般の教師なら特別な理由でもない限り来ることはない理事長室だが、特殊な事情持ちで来ることの多い俺には第二の私室みたいなものだ。大体の物ならどこに片付けたらいいのか分かる。
「そうですか、ではお仕事頑張ってください──
「はい、失礼します」
最後に俺は頭を下げ、この理事長室を出ていった
△▽△▽
「む」
「おや」
「あ、アイン先生。呼び出しがありましたけどどうされたんですか?」
理事長室から出て職員室に向かっていると二人の女性に
「いえいえ、特に大したことじゃありませんよ。二人は教室ですか?」
「えっと教室じゃなくて織む「あぁ。織斑の奴に寮の鍵を渡さなくてはならなくてな」……先輩」
山田先生を遮って織斑先生がそう答えるが俺は知ってるぜ、肝心の鍵は山田先生が持っているということをな。だって
せっかくなので俺も二人のお供として一緒についていく。職員室に戻ってやる仕事も急ぐようなものじゃないし、個人的にもこっちに付き合った方が面白いのだ。で、手始めに教室に向かえば案の定、織斑は一人教科書相手に睨めっこをしていた。周りは当然女子生徒の群れ、あれじゃろくに集中も出来てないだろう。
「あ、織斑君。まだ教室にいたんですね」
「あ、はい」
とてとてと音が聞こえてきそうな足取りで彼の近くに移動する山田先生。相変わらずこの人は一々が可愛らしいな。本当に二十歳越えてんのか?ていうか、隙あらば睨むの止めてくれませんかね、織斑先生。
「寮の部屋が決まったのでその鍵を渡しにきました」
そう言って彼に渡された鍵は1025室のものだ。相方は篠ノ之箒。確かこの時は家から通うもんだと思っていたんだったかな。如何せん、昔の記憶も曖昧になっていてよく覚えてない。
「えっと……前に一週間は家から通学って聞いてたんですけど……」
「はい。でも織斑君は事情が事情なので……」
山田先生は織斑にだけ聞こえるように耳打ちをする。が、やはりまだ十五歳の少年である彼は異性に近付かれることに馴れていないのか、少し離れていても分かるくらいに顔を赤くしていた。まぁ大きいもんな、彼女の胸。箒の胸もかなり大きくなっていたがやはり真耶さんには勝てなかった。
「あの、でも俺、荷物とか全然用意出来てないんですけど」
「それは私が手配しておいた。携帯の充電器と着替えがあれば十分だろう」
必要最低限じゃねえか、と突っ込んだ俺は悪くない。織斑も苦笑いを浮かべているが、あれは「何か言いたいことはあるけど言ったら理不尽な目に遭うから言わないでおこう」という顔だ。俺には分かる。
その後織斑は晩飯の時間帯やら部屋での注意を聞き、大浴場が使えないことにショックを受けていた。残念ながら彼は男、流石に女子と同じ風呂には入ることは出来ない。シャルが来るまで我慢するんだな。いつだったかは忘れたけど。
「う~……マジかよぉ……」
「まぁ元気出せ。別にずっと入るなって言われた訳じゃない。俺からも掛け合ってみるさ」
去っていく二人の先生を見送ってからグロッキーな状態の織斑に声を掛ける。かつての自分に声を掛けるというのはなんとも不思議な感じだ。少しだけ緊張する。
「あ、ありがとうございます。えっと……」
「アインだ。たった三文字、覚えやすいだろ?学園に二人しかいない男同士だ、ボチボチやってこうぜ」
俺は先生だけどな、と最後に付け足すのも忘れない。敬意を払えとは言わないし話し掛けるなとも言わない。ただ馴れ馴れしく友達のように接されるのは少し困るのだ。その辺の立場の違いというものも一応伝えておく。彼は聡明な男だ、その辺りはキチンと弁えてくれるだろう。
物語はこうして始まる。
「頑張れよ
独り廊下を歩きながら、俺はポツリと呟いた。
付け足し的な何か
アイン 身長180超の21歳。色素が抜けて灰色になった長髪と顔面の左半分についた火傷の痕、そしてそれを隠すために付けた眼帯が特徴。その正体は織斑一夏だが、変わりすぎて千冬にも気付かれない。逆行して辿り着いたのは原作開始の三年前で、ごたごたを終えて教師を始めたのは一年後。千冬と同期である。超強い
箒(未来) おっ○いも更に成長したが山田先生には及ばなかった
セシリア(未来) 一夏や他のヒロインと互角に戦う。超強い
シャルロット(未来) 初登場は男装してた子。あざとい
山田先生(未来) 大きい、どこがとは言わないが大きい
詳しいことは後々に追加していくのでお楽しみに