大人一夏の教師生活   作:ユータボウ

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 お待たせしました、更新します。前回からたくさんのお気に入り登録があり、皆様に今作を読んで頂けたことを深く感謝致します

 しかしまぁ、お気に入り登録数が15話時点と16話の上下を投稿し終えた現在とを比べると予想よりも遥かに大きく増えまして……16話(上)で触れましたお気に入り登録数2000突破の特別編がまだ決まってすらいません

 つきましては、活動報告にある「アイデアボックス」にて、特別編の内容を3/6(月)の0時まで募集致します。宜しければどうぞ

 長くなりましたが本編です。今回で二巻も終わりです



17話 湯煙と理性と

 「くぅ~……!疲れた……!」

 

 今日の騒動についての事情聴取を終えて解放された俺は、周りに誰もいないことを確認してからぐっと大きく伸びをした。およそ一時間くらいだろうか、質問の受け答えくらいは問題なかったのだが固い椅子に座りっぱなしというのはどうにも疲れる。なんにせよ時間も時間だ、今日はもう疲れたしさっさと部屋で夕食を済ませて眠ってしまおう。

 

 「あ、お疲れ様ですアイン先生」

 

 寮へ向かって歩き出そうとした俺の耳に飛び込む声、くるりと振り返れば山田先生がパタパタと此方へ向かって小走りで近付いてきた。もしかして俺をわざわざ追い掛けてきたのだろうか。だとするとなんとなく申し訳ない気持ちになる。

 

 「お疲れ様です山田先生。何かありましたか?」

 

 「えっと……一つお伝えし忘れたことがありまして。今日から男子の大浴場使用が解禁なんです」

 

 おお、と俺は思わず声を上げた。なんという朗報、この知らせだけでも今日一日頑張った甲斐があるというものだ。思わず頬が緩みそうになるのを必死で抑える。思い出してみれば今日は大浴場のボイラー点検をする日で、元々生徒達が利用出来ない日だったか。男の俺には無縁の話と思って忘れかけていたが……いやはや、実にありがたい配慮である。

 

 「ですのでそれを織斑君に伝えていただければ……あ、アイン先生も宜しければ利用してくださいね。此方が鍵になってます。はい、どうぞ」

 

 「分かりました、ありがとうございます」

 

 「いえいえ、今日は本当にお疲れ様でした」

 

 受け取った鍵をポケットに仕舞うと俺は山田先生に頭を下げ、彼女の笑顔に見送られながらその場を後にした。そのまま寮へと向かうのだがその足取りはやけに軽い。どうやら俺は自分でも思っていた以上に風呂というものが楽しみらしかった。

 

 そういえば最後に湯船に入ったのは何ヵ月前だったか、少なくともはっきりしないくらい前であることは確かである。なるほど、これなら楽しみになるのも当然かもしれない。まるで子供みたいだ。校舎から寮までの百メートルもない道で、俺は一人そんなことを思った。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 IS学園の大浴場はとにかく広い。どのくらい広いかというと思わず、もう少し小さくてもいいんじゃないかと貧乏臭い考えを抱いてしまうぐらいには広い。何百人といる生徒達が利用するのだから広くない訳がないのだが、なんにせよこんな広い浴場を二人で使えるなんていうのは、贅沢この上ないことだった。

 

 

 

 そう。()()()、である。

 

 

 

 「ところで織斑先生……なんでいらっしゃるんですか?」

 

 「おかしなことを聞くなアイン、ここに来る理由など風呂に入るからに決まってるだろう?」

 

 隣で得意気な笑みを浮かべる織斑先生に俺はがっくりと肩を落とした。おかしいな。今日この浴場は男子専用で、俺以外の男子である織斑も少し前にデュノアと一緒に入らせたから、もう浴場を使えるのは俺だけだぜヒャッハーと意気込んでやって来た筈なのに……一体どうしてこうなった?

 

 俺は先生に気付かれぬようにチラリと彼女の方へ目をやった。すらりと伸びた手足に染み一つない肌はまるで宝石のように美しい。そしてタオルの巻かれた上からでも分かる抜群のプロポーション。別に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、正直、これを意識するなという方が無理な相談である。いやホント、せっかく疲れを癒そうと思ったのにこれでは新しい疲れが溜まりそうだ。畜生、湯煙仕事しろ。

 

 「さ、さて、まずは体でも洗うか……」

 

 「はぁ……了解です」

 

 そんな俺などまるで構わず、織斑先生はスタスタと歩いていってしまう。そんな態度に意識してるのは俺だけなのかなぁと溜め息をつくが、顔を上げれば彼女の耳元が遠目にも分かるくらい赤くなっているのが目に映った。まだ湯船にも浸かっていないし……どうやら恥ずかしいのはお互い様らしい。だったらなんで来たんだという話になるのだが……まぁ、それを今尋ねるのは野暮というものだろう。こういうのは場の雰囲気や空気を読まなければいけないのだ。とにかく、自分だけではないと分かれば少しは気が楽になるというものである。本当に少しだけだけど。

 

 「よ、よし座れ。背中を流してやる」

 

 「あの……別にいいっすよ?そんな無理しなくても……」

 

 「べ……別に無理などしていない!ほら、早く座れ!それとも……わ、私では不満か!」

 

 「……じゃ、お願いしますよっと」

 

 真っ赤な顔のまま早口で一気に捲し立てる織斑先生。そんな彼女をなんだか昔の箒みたいだなぁと思いながらも、言われるがまま俺は腰掛けへと腰を下ろして一度湯を被った。なるべく俯いて、彼女を視界に入れないようにしなければ。全く、さっきまでの余裕は一体どこへ消えてしまったというのか……いや、俺だって恥ずかしいけども。

 

 しかし理由はどうであれ、背中を流してくれるというのなら断る理由はない。他人の好意は素直に受け取るべきものであり、またそれが美人の誘いなら尚更だ。俺も一端の男、男とはいつの時代も美人には弱いものなのである。精神的にも、物理的にも。

 

 「で、ではいくぞ……!」

 

 そんな怖々とした声と共に始まる彼女は泡立ったネットを手に取り、俺の背中をおっかなびっくり洗い始めた。個人的にはもう少し力を入れてくれても問題ないのだが……うん、これは存外に気持ちがいい。やはり人からこういう風にしてもらうのは本当にいいものだなぁ。

 

 「ど、どうだアイン?」

 

 「あ~……上手い、上手いですよ織斑先生。なんか申し訳なくなるくらい気持ちいいです……」

 

 「そ……そうか。うむ、ならいい」

 

 率直な感想を述べるとなんとなく先生の声の調子が良くなった気がする。目の前の鏡が曇っているせいで後ろの彼女は見えないのだが、その表情を僅かに緩ませているであろうことは容易に想像出来た。それに先程まで覚束なかった手つきも馴れてきたのか、ゴシゴシと力が込められてきてかなりいい感じだ。

 

 「ところで織斑先生」

 

 「どうした?」

 

 「いえ、水を差すようで申し訳ないんですが、一体どういった風の吹き回しで?勿論、背中を流してもらえるのは気持ちいいしありがたいんですが……」

 

 お互いに落ち着いてきた頃合いを見計らって、俺は気になっていたことを織斑先生に尋ねた。当たり前だが彼女はこんなことをするような女性ではない。ではどうしてこうなったのか、気にならない訳がないのである。

 

 そんな問いにピタリと俺の背を洗っていた手が止まった。そして聞こえ出すゴニョゴニョとした声。今の状況を再認識してまた顔を赤くでもしているのだろうか?なんとまぁ、初々しいというか……可愛らしい反応である。

 

 「あの、先生?」

 

 「いや……その……これはだな……礼のつもりなんだ……」

 

 れい、と俺は思わず聞き返した。()()とはやっぱり、お礼の()()なのだろうか?俺は何か織斑先生に感謝されるようなことをしたかなぁと首を傾げるが、その答えはすぐに彼女の口から語られることとなった。

 

 「お前には弟と、そして教え子を助けてもらったからな。お前がVTシステムを止めていなければ二人は……いや、二人だけでなく篠ノ之にデュノア、他にももっと大勢の者達が被害を受けていたかもしれない」

 

 「……実際に止めたのは、織斑ですけど」

 

 「確かに最後は一夏だ。だがお前がいなければそうはいかなかった。お前があの暮桜を追い詰めていたからこそ、一夏が倒すことが出来たんだと私は思っている。だから……これはその礼なんだ」

 

 ありがとう。織斑先生はそう言うが、俺個人としては俺がいようがいまいが結末に変わりはなかったんじゃないかと思う。実際、織斑一夏()は一人でVTシステムを撃破出来たのだから。俺がやったことと言えば、倒せる筈の暮桜をあえて倒さず、あろうことか織斑に戦わせたこと。つまり、彼をみすみす危険に晒しただけなのだ。これでは感謝されるどころか、批難されたっておかしくない。

 

 「俺はてっきりふざけるなって言われるのかと思いましたよ。よくも弟を危険な目に、とか」

 

 「誰がそんなことを言うものか。あれは一夏の我が儘で、お前はそれに付き合っただけだろう」

 

 ヘラヘラと笑う自分の言葉を織斑先生はばっさりと斬り捨てた。此方としては責められることを覚悟してただけに、その一言で済まされたことが随分と呆気なく感じる。本当にそれでいいのだろうか?

 

 「……そんなもんですか?」

 

 「あぁ。終わり良ければ全て良し、結果として一夏はお前が守ったお陰で怪我はなかった。それに一夏もこの結果に納得しているんだろう?なら、私からは何も言うことはないさ」

 

 彼女は最後にふっと笑い、そして流すぞと一声掛けた後にシャワーで泡だらけの背中を流し始めた。シャワーから走るちょうどいい温度の湯が泡をどんどん落としていき、また背中を湯が伝う感覚が非常に心地いい。

 

 それに対して俺の心はまだはっきりしないままだった。果たしてどう動くことが最善だったのか、もっともっと良い終わり方が出来たのではないか、流れる湯の温度を感じつつもぼんやりとそんなことを考えるが、正しい答えなど出る訳もない。結局、考えすぎる前に思考を打ち切らざるを得なかった。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 「あぁ~……」

 

 「ふぅ~……」

 

 体を洗い終えてから湯船に肩まで浸かった俺達はゆっくりと脱力し、大きく息をついた。やはり風呂は最高だ。全身から伝わるこの温かい感覚は部屋に備え付けてあるシャワーでは到底味わえぬものであり、更に久々ということも相まって底知れない幸福感が俺を包んでいく。まるで溜まっていた疲れが全てなくなっていくような、とにかく素晴らしいの一言に尽きる。

 

 「やっぱり風呂はいいですね~……生き返る~……」

 

 「あぁ……全く……その通りだ……」

 

 それから暫しの間、俺達は無言でこの入浴を楽しんだ。しかしこうしていると次にやって来るのは睡魔だ。押し寄せる甘い微睡みは抗い難く、ついこの身を委ねたくなる。まぁその先に待っているのは溺死一択なので絶対に寝たりしないが。

 

 「……なぁアイン、一つ聞きたいことがある」

 

 「ん、なんです?」

 

 「……お前には、好きな人でもいるのか?」

 

 突如隣の織斑先生から飛び出したその言葉に不安定だった意識が一気に覚醒する。質問と言われて僅かに身構えたのだが、これは完全に予想外の問い掛けだ。全く意図が読めない。真っ白になった頭が戻るまでたっぷり十秒もの時間を有した。

 

 「別に深い意味はない。別に深い意味はないが、お前という奴は女だらけの学園にいるというのに浮わついた話の一つもないからな、想い続けている相手でもいるのかと思っただけだ」

 

 それに、と彼女は一旦言葉を区切る。その細い指が俺の顔へと迫り、ちょうど向かい合うようになる方へと動かされた。その際にそっと眼帯のないことで晒された火傷の痕を撫でられ、体がビクッと跳ねる。

 

 「こうして私といるというのに、お前はまるで動じんではないか。プロポーションには自信があるのだが、こうも無反応だと結構ショックだぞ?」

 

 「いや……その……」

 

 実際は無反応なんじゃなくて、意識しないようにしてただけなんです。そんなことよりとりあえず、今まで意識して視界から外していた部分まで見えてしまうので、すぐにでもこの見つめ合いの体勢を変更したいのだが……織斑先生の両手がガッチリと俺の顔を押さえているためにそれも無理そうだ。いやほんと、まるでびくともしないんですけどこの人の力どうなってんの?それに真っ赤になって恥ずかしいなら離してくれませんか?

 

 いかん、思考回路が滅茶苦茶で全然まとまらない。ついでに顔から火が出そうなくらい熱い。落ち着け、今までにこんなことは何度もあっただろう。だから落ち着くんだ俺……!あぁでも上気した頬とかうなじとか胸元の谷間とか、もう全部色っぽすぎて理性がぁ……!

 

 「お、織斑先生……」

 

 「千冬と呼べ、馬鹿者が」

 

 「あ、はい」

 

 ガリガリと削れていく理性を感じながら左目を瞑る瞼へ更に力を入れ、唯一開いている右目を全力で逸らす。落ち着いていこうと自分に言い聞かせ、一度大きく深呼吸をする。

 

 「で、どうなのだ?いるのか、いないのか?」

 

 「え……と、まぁ、()()とだけ言わせてもらいます」

 

 「過去形か、振られたのか?」

 

 「亡くなったんですよ、ちょっと……色々ありまして」

 

 未来で起きた戦争で、なんてとても言える訳がない。こんなぼかした言い方になるのも仕方がないだろう。そして案の定、織斑先生──もとい千冬さんははっと目を見開くとすぐに俯いてしまった。頬に添えられていた手も離れる。

 

 「……すまない、無神経だった」

 

 「いえ、大丈夫です。もう終わったことですから、何もかも」

 

 「……だが、今のお前は悲しそうだぞ」

 

 ……俺が悲しそう、ね。一応笑っているつもりなんだが端から見ればそんな風に映っているのか。こればかりは流石に自分でも分からないからどうしようもないな。俺は一旦表情を崩し、そしてもう一度あらためて笑みを浮かべる。

 

 「まぁ悲しくないことはないんですが……いつまでも引き摺ってたらきっと怒られると思うんです。亡くなったことには整理もついてますし……だから、大丈夫です。多分」

 

 恐らくだが一度箒達のことを考え始めると一生終わらないだろう。あの時ああしておけばとか、あそこであれをしなければとか、後悔という名の底無し沼にズブズブと沈んでいくのは火を見るより明らかだ。そんなことはきっと彼女達も望んでいない筈。

 

 故に、俺がすべきことは過去を振り返らずに今を生きることだけだ。

 

 「……強いな、お前は」

 

 「半分考えるのを止めてるだけです。そんな大したものじゃありません」

 

 小さく溢した千冬さんの頭へと手を伸ばし、その頭をゆっくりと撫でる。抵抗はない。

 

 「それに今は寂しくなんかないですよ?千冬さんや、皆がいてくれますから」

 

 「っ……!」

 

 その言葉で赤い顔が更に真っ赤になった千冬さんはすぐに手を振り払ってそっぽを向いてしまった。声を掛けても返事はない。流石に今のはくさい台詞だっただろうか?しかし言ってしまったものはどうしようもなく、結局俺は風呂を上がるまでの時間をブツブツと何かを呟く千冬さんを眺めて過ごすのだった。

 




 シャルルがシャルロットと判明したり一夏がラウラの嫁になる辺りは、アインがいてもあんまり流れが変わらないのでカット。ただ、専用機持ちが教室で専用機出したり箒が日本刀出したりして一夏が狙われる場面はアインが止めました。ギャグなら許されるけど普通に考えたら流石にあれはアカン

 今回は千冬とお風呂でイチャイチャ(?)回。女体とか未来でハーレム築いてたアインには見馴れたものなので、今回みたいなハプニング自体には驚きこそするものの適応はめっちゃ早いです。それこそ、深呼吸したら大丈夫になるくらいには

 次は特別編になると思います。3巻の内容はその後ですね。さて、例の天災をどう動かそうかな……?

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