大人一夏の教師生活   作:ユータボウ

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 例のアンケートですが、一位は簪ちゃんでございます。参加してくださった皆様、本当にありがとうございました

 という訳なので、現在『もしアインではなくヒロインの誰かが逆行していたら Ver.簪』執筆中です


13話 金銀の加入

 翌日、HRを終えた俺は朝っぱらから織斑、そしてデュノアと共に廊下を全力でダッシュしていた。いや、違うな。俺が織斑とデュノアの全力疾走に合わせて走っている、と行った方が正しいか。いずれにせよ、普通は走ってはいけない廊下を結構なスピードで走っていることに変わりはなかった。バタバタと三人分の足音が響く。

 

 一体どうして俺達は廊下を走っているのか、それは今日からISの実習が始まるからである。男という本来ならば存在しない筈の俺達は、着替えのためにわざわざアリーナの更衣室にまで移動しなければならないのだ。本当はゆっくりと出来ればいいのだが、授業開始時間がいつもと変わらないのだからボサッともしてられない。故の全力疾走という訳だった。

 

 因みに朝のHRはほとんど俺の記憶通りに進んだ。デュノアの登場で教室が沸き、ボーデヴィッヒが織斑を殴ろうとして──俺が止めた。どんな理由があれども初対面の相手にビンタを食らわすのはおかしい。故に俺は彼女を止めたのだ。その際にギロリと睨まれたが怖くもなんともない、可愛いものである。何せ、もっと恐ろしいのを受けたことがあるからな。

 

 「あっ!転校生発見!」

 

 「しかも織斑君と一緒よ!手も繋いでる!」

 

 そんな慌てて走る俺達の前に無数の生徒達が立ち塞がる。あれは三組と四組の生徒か。なるほど、彼女達は新しい男性操縦者の情報収集に駆り出された尖兵という訳だ。掴まれば最後、ありとあらゆる情報を搾り取られて授業に遅刻する。なんとも傍迷惑な話だ。

 

 「くそっ、ならここは──」

 

 「織斑、任せろ」

 

 ルートを変更しようとする織斑を呼び止め、俺は二人の前に出た。当然、目の前には目を輝かせて此方を見ている生徒達が。さて、少しは教師らしいところを見せようじゃないか。

 

 「お前達、こんなとこで油売ってないでさっさと戻れ。授業に遅れるぞ?」

 

 ドスッと、正論の刃が突き刺さる。そりゃそうだ、俺達が授業に遅れるかもしれないという瀬戸際にいるのに、同じく授業がある彼女達が遅れない訳がないだろう。ガックリと肩を落として戻っていく生徒達の後ろ姿を見送って俺達は再び更衣室目指して走り始めた。

 

 「せ、先生、ありがとうございます」

 

 「気にしなさんな。当たり前のことしただけだって」

 

 ははは、と俺と織斑は笑い合う。そんな流れについてこれていないのがもう一人、デュノアだ。こてんと首を傾げる様子はどう見ても男がする動作じゃなかろうに……

 

 「えっと……なんで皆は騒いでたの?」

 

 「「そりゃ男が俺達だけだからだろ」」

 

 ハモる。流石昔の俺、息ピッタリだ。そんなに嬉しい訳じゃないけど。

 

 「え……?」

 

 「いや。だってISを動かせる男って俺達しかいないじゃないか」

 

 「ついでに学園の生徒達の大半は女子校育ちのお嬢様だからな、単に男って生き物が珍しいんだろう。動物園で珍しい動物を見に来るのと同じだ」

 

 俺達二人の言葉にデュノアははっとなって頷いた。駄目だねやっぱ。わざわざ変装までしてここにいるというのに危機感が足りなさすぎる。バレたらどうなるか、彼女は分かっているのだろうか。それともどうにかなると楽観視しているか。なんにせよ、これじゃ近いうちにボロが出てアウトだ。

 

 そんなことを考えつつも織斑とデュノアが軽く自己紹介をして仲良くなる様子を眺め、その後漸く更衣室へと辿り着いた。パシュという圧縮空気が抜けて扉が開く音が妙に心地いい。さて肝心の時間は……結構ギリギリか。織斑もそれに気付いたようで、慌てて制服とシャツを脱ぎ捨てる。そしてそれに驚いたように叫ぶのが……デュノアだ。

 

 「わぁっ!?」

 

 「……あれ、なんでシャルルは着替えないんだ?早く着替えないと遅れるぞ?うちの担任は時間に厳しい人だから──」

 

 「う、うん……着替える、着替えるよ。でも、その、あっち向いてて……ね?」

 

 ……マジで本当に大丈夫かこの子。ていうか織斑、お前も少しは怪しむくらいしろよ。絶対、不思議な奴だなぁ、くらいにしか思ってないだろお前。そんなんだから女の子達の好意に気付かず朴念仁呼ばわりされるんだ。あぁ、むず痒い。

 

 「……うぇ、先生もシャルルも着替えるの超早いなぁ。着替える時に引っ掛かったりしないのか?」

 

 「引、引っ掛かったり?」

 

 腰までISスーツを通した織斑が俺とデュノアを見てポツリと呟く。確かに彼の気持ちは分かる。すっごく分かる。ただな織斑、例え同性でもセクハラって適応させるんだぜ?

 

 「ほら、馬鹿言ってないで急げ。本当に洒落にならんぞ」

 

 俺は織斑とデュノアを急かし更衣室を出てグラウンドへ走った。織斑先生怒りの出席簿の巻き添えを食らうのはごめんだ。因みにこの後、織斑とデュノアが家庭の話で互いに地雷を踏み合ったり、遅れかけたことを怪しんだオルコットと凰の二人が出席簿の餌食となったりするのだが、そこは割愛させてもらおう。

 

 

 

     △▽△▽ 

 

 

 

 さて、いよいよISの実習が始まったのだが、手始めに戦闘の実演としてオルコットと凰が山田先生に完敗した。全く……何がアイン先生じゃないから大丈夫、だ。馬鹿者め。完全に翻弄された挙げ句に最後はグレネードで同時に終了とは、それでいいのか代表候補生よ。

 

 「さて、これでIS学園教師の実力が理解出来ただろう。以後は今まで以上に敬意を持つように」

 

 織斑先生のそんな言葉が晴天の下に響き渡る。さて、これからが本番だ。生徒達全員の意識が切り替わっていくのが分かる。

 

 「専用機持ちは……五人か。では専用機持ちをリーダーに一班八人となって実習を行う。さぁ、分かれろ」

 

 「あ、出席番号順で一人ずつグループに入るように!男子のとこへ集まるのは禁止だからな!」

 

 ピタッと。織斑先生のゴーサインと共に駆け出そうとしていた生徒達の動きが止まる。うん、まぁこうなるよな。予想通りすぎる行動に苦笑していると、隣の織斑先生が眉間に指を当てて深い溜め息をついた。苛立ったような呆れたような、そんな表情をしている。

 

 「はぁ……アイン先生の言う通り出席番号順にグループに入れ!行動は迅速に!遅れた者はグラウンド周りを百周させるぞ!」

 

 なんと恐ろしいペナルティ。しかし辺り一帯に木霊した鬼教官の一声は浮わついた彼女達には効果抜群のようで、ほんの数分のうちに五つの班が形成された。早いな君達。いや、教える側としてはありがたいけど。

 

 「それでは各班のリーダーさんは訓練機を取りに来てください。打鉄が三機、ラファール・リヴァイヴが二機です。一班一機の早い者勝ちですよ~」

 

 ラファールに乗ったままの山田先生がふっと微笑む。今の彼女からはいつものどこか危なっかしい雰囲気はすっかり消え去っており、むしろ軽く胸を張るその姿からは頼もしさすら覚える程だった。

 

 いやぁそれにしても大きい。素晴らしいな。別に小さいのも好きだけど大きいのもまたいい。眼福眼ぷ──

 

 「ふん!」

 

 「ごふっ!?」

 

 油断していた鳩尾に織斑先生の鉄拳が突き刺さり、体がくの字に折れ曲がった。ナノマシンやら薬やらの影響で常人に比べればかなり頑丈になっている俺の体だが、世界最強のブリュンヒルデが繰り出す一撃を受ければただでは済まない。あまりの激痛に思わずその場に膝をついて腹部を押さえる。

 

 「お……織斑先生……!」

 

 「む、どうした?まだ足りないのか?いかんぞアイン先生、生徒の前であんなだらしない顔を晒しては。思わず手が先に出てしまった」

 

 ポキッ、ゴキッと拳を鳴らし極低温の視線で此方を見下す織斑先生。確かに全面的に悪いのは俺なので何も言い返せないのだが、出来ることならもう少しだけ優しくしてほしかったなぁ……なんて。だからごめんなさいごめんなさい二発目は結構ですいやホントマジで勘弁してください。

 

 「ふん……分かったならさっさと仕事に戻れ」

 

 「イエス、マム」

 

 ラウラ直伝のやたらキレッキレな敬礼をしてから意識を切り替える。さて、もう大半のグループでは実習が始まっているみたいだな。各人、指示の出し方に特徴が出ていてなかなかに面白い。織斑はおっかなびっくり、オルコットは理路整然と、凰は感覚頼りで、そしてデュノアは懇切丁寧に、と言った具合だ。残るはボーデヴィッヒだが……うん、ありゃ駄目だ。フォロー入ろう。

 

 「ボーデヴィッヒ」

 

 「……なんだ」

 

 声を掛ければ無機質な紅の瞳が俺を捉えた。不機嫌丸出しだなおい。

 

 「実習の指揮を執るのはリーダーたる君の役割だろう?何故役割を果たさない?」

 

 視線を移せば訓練機は用意したものの次に何をすべきか分からなくなっている生徒達の姿が目に入る。まだ数える程しかISを動かしてないせいで勝手がまだ分からないんだろう。本来ならばそこで専用機持ちからの指示なりフォローなりが入る筈なのだが、この兎さんときたらそれを放棄してただただ突っ立っているだけなのだ。この班だけが他と比べて明らかに遅れている以上、流石に黙って見ている訳にはいかない。

 

 「ふん、こんな連中にはISを教える必要もない。教える価値すらない。ただそれだけの話だ」 

 

 「……ISをファッション程度にしか思っていないような生徒達には、か?」

 

 ボーデヴィッヒにしか聞こえないように呟いた言葉に彼女はこくりと頷く。そういえばこの頃のボーデヴィッヒはこんなキャラだったかなぁ。必要がないだの価値がないだの……馬鹿馬鹿しい。思わず溜め息が溢れた。

 

 「ボーデヴィッヒ、価値がどうだとかなんてのは関係ない。そしてそれを決めるのもお前じゃない。言われている筈だぞ、専用機持ちをリーダーに実習を行うと。他でもない織斑先生に、だ」

 

 「っ……」

 

 織斑先生の名前を出した途端に大人しくなったボーデヴィッヒは一度舌打ちをすると、不機嫌オーラを撒き散らしながら生徒達の方へ向かっていった。不貞腐れちゃってさぁ……世話の焼ける子だよ本当に。これがあのラウラになるかもしれないんだから人間ってのはどうなるか分からない。もう一度だけ溜め息をついてから、俺は彼女のサポートをすべく歩を進めた。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 「疲れた……」

 

 「疲れた~」

 

 放課後、生徒会室に呼び出された俺は布仏姉の用意してくれた紅茶で本日の疲れを癒していた。全く、問題児のフォローも楽じゃない。因みに隣でぐだっているのは布仏妹で、お姉ちゃんの方からしっかりしなさいと怒られている。そんな性格は正反対とも言える二人だが、端から見ていても分かるくらいにはとても仲がいい姉妹だ。少なくとも、そこの机に縛り付けられて書類を片付けている生徒会長姉妹とは比べ物にならない。

 

 「う~ん……虚ちゃ~ん……もう許して~」

 

 「いけませんよ会長。まだ各部活動からの申請が残っているではありませんか」

 

 「も~!どこもかしこも、予算なんてそう簡単に増やせないわよ~!」

 

 むが~っと怒りを露にする我らが生徒会長、更識。チラチラと此方を見ても無駄だぞ。悪いが手伝おうとすると布仏姉から怒られるんだよな……俺が。という訳なので俺は威厳もへったくれもない非常に残念な更識の様子を適当に眺めながら、お茶請けのスコーンを布仏妹と共にもしゃもしゃと頬張って寛いだ。うん、美味しいぜ。

 

 「アイン先生助けて~。可愛い教え子が困ってるわよ~……」

 

 「手出しは無用ですよ、先生。さぁ頑張りましょう」

 

 憐れ更識。だがしかしそれが生徒会長の役割なんだし諦めてくれ。頑張れ~、と気の抜けるのほほんとした声で応援する布仏妹を横目に、俺はまだ半分程紅茶の残ったカップに手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 「あ~……終わったぁ……」

 

 「お疲れさん、更識」

 

 「お疲れ様です会長」

 

 「かいちょ~お疲れ様~」 

 

 がくりと机に突っ伏した更識に労いの言葉が掛けられる。あれからもう一時間くらいは経っただろうか、よくもまぁあれだけの書類を捌ききれたものである。なんだかんだ言いつつも手際はいいんだよなぁ。流石生徒会長で暗部のトップ、と言うべきか。ともあれ、これで漸くだな。

 

 「で、更識。肝心の俺をここへ呼んだ理由は?」

 

 「あ~……それはあれよあれ、転校生について~」

 

 「……デュノアだな?」

 

 その言葉に更識はこくりと頷いた。近くにあった紅茶を豪快にも一気飲みして喉を潤す。

 

 「ふぅ……先生は多分気付いてるだろうけどデュノア君は女の子よ。狙いは十中八九織斑君、ただその目的の詳細を私達も全部把握出来てる訳じゃないの」

 

 「だから捕まえずに泳がせてるのか。で、俺の役目はなんだ?出来るったって精々監視くらいだぞ」

 

 「十分よ。それにこの件は織斑先生や山田先生にも伝えてあるし、放課後には私だって動けるわ。許可を貰って織斑君の部屋にも幾つか仕掛けを用意してあるから……余程のことがない限り大丈夫な筈ね」

 

 わぉ、錚々(そうそう)たる面々だな。世界最強に学園最強、そこに学園トップクラスの操縦者と未来人?ときた。なんかもう、デュノアに同情すら覚えるレベルだ。一応俺の記憶が確かなら特に何も起こらなかったと思うが、事が事だけに用心するに越したことはない。

 

 ということは、だ。俺の役目はデュノアの監視にボーデヴィッヒのフォローの二つになるのか。はっはっはっ、ここに普通の仕事も追加なのだから間違いなく過労だ。まぁしかし俺に出来ることなんてこれくらいしかないし、気合い入れてやってやりましょうかねえ

 

 「せんせ~頑張れ~」

 

 「布仏妹よ、クラスメイトなんだから君も協力しなさいな」

 

 相変わらずのほほんとした彼女の頬っぺたを俺は苦笑しながら指で突っついた。

 




 次回からラウラお世話編の始まり始まり。クラスで孤立してる子をこの世話焼きが見逃す訳がない。サクサク進んでいけたらいいなぁ

 アイン 旧名織斑一夏。実は生徒会の顧問。なんだかんだぼやきつつも仕事は楽しんでいたりするので嫌いじゃない

 ラウラ(未来) アインの恋人の一人。軍属で力に拘っていた過去があることから、誰よりも正真正銘の兵器である第五世代機の扱いには注意深かった。刀奈には及ばないが高いカリスマの持ち主で、学園の生徒達からは慕われていた

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