大人一夏の教師生活   作:ユータボウ

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 原作にないオリジナルの話は作るのが難しい……しかもあんまり面白くないかもしれないという

 例の『お気に入り登録数1500記念』なんですが、お陰さまで無事に達成出来そうです。なので、逆行話の主人公を決めるアンケートは今日の日付が変わるまで、つまり1/17(火)の0時で締め切ります。まだアンケートに投票しておられない方は是非、お願い致します

 因みに現在の優勢は更識姉妹です。同一で一位があった場合には、それぞれを主人公に同じような話を二つ書きます。だってまとめちゃったら孤独感が薄れるじゃろ?


12話 初めまして、愛しい人

 シャル達が転校してくるという知らせが届いて、今日で二週間が経過する。この二週間はもう、とにかく忙しかった。通常の授業に加えて、職員室に鳴り響く電話の呼び出し音に積み重なる文書の山。その一つ一つにきっちり対応しなければならなかったこの二週間は、我々教師には地獄という言葉が見事に当てはまる程の時間だった。どのくらい凄まじかったかというと、織斑先生ですらデスクワーク中にうとうとし始めるくらいには大変だった。出来ることならもう二度と経験したくない。

 

 そんな地獄の二週間を乗り越え、現在俺が何をしているのかというと──

 

 「~♪」

 

 自分の寮長室でちょっとした夕食の用意をしていた。別にふざけている訳でも過労で頭がおかしくなった訳でもない。これにはキチンとした理由があるのだ。

 

 これからこのIS学園にやって来る『三人目の男性操縦者』と『ドイツの代表候補生』の二人をもてなすという理由が。

 

 低い音を立てて動くオーブン二台を横目に、俺は既に使い終えたまな板やフライパンを片付けていく。テキパキ効率良く、そして丁寧に。大変ではあるが俺は料理が好きだ。それは人の笑顔を見るのが好きだ、とも言い換えられるかもしれない。勿論、作るということ自体が楽しいということもあるけれど。

 

 そんな作業を続けること十数分、現時点で出来る洗い物を全て済まして休んでいたちょうどその時、ガチャリと部屋の扉が開く音が耳に飛び込んだ。どうやら織斑先生が戻ってきたらしい。いい頃合いだ。

 

 「お疲れ様です、織斑先生。もうほとんど準備出来てるんで適当に座っといてください」

 

 「あぁ分かった。デュノア、ラウラ、挨拶をしろ。彼がお前達の副担任を務める男だ」

 

 そんな先生の言葉に続くようにして、後ろから二つの人影が姿を現す。一人は金髪にアメジストの瞳をした少女──いや、男装をしている今は少年と言おうか。もう一人は銀の長髪に眼帯が特徴の小柄な少女だ。そんな二人の姿に俺は、ほんの僅かにだが失った恋人達の面影を見た。

 

 「(シャル……ラウラ……)」

 

 大切な二人の笑顔が脳裏に浮かんでは消えていく。だがそれも一瞬だ。俺は素早く意識を切り替えるといつものように軽く笑みを浮かべて二人へ手を差し出した。彼女達は俺を知らない、ならばこう言うべきだろう。

 

 「()()()()()。一年一組の副担任とここの寮長を務めるアインだ。世界初の男性操縦者なんて言われてるがただのしがない教師さ。宜しく」

 

 「えっと……シャルル・デュノアです。宜しくお願いしらしいす」

 

 「……ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 おずおずと言った具合に手を出すデュノアと握手し、織斑先生にやれと言われたボーデヴィッヒとも同じように握手を交わした。うん、そうだ。これでいい。

 

 その後先生を含めた三人をテーブルに着かせ、俺は止まった一台目のオーブンから器に入った熱々のグラタン四つを引っ張り出した。マカロニと幾つかの具材で作ったそれはシンプルながら、焦げ目の付いたチーズの非常にいい匂いが漂っている。この出来具合なら味の方も大丈夫そうだな。

 

 グラタンの出来に満足しながら二台目のオーブンも開き、中からこんがりと焼き上がったフラムクーヘンを取り出す。それを食べやすい大きさにカットし、大皿に移してやれば完成だ。これも問題なさそうだとこれまでの経験から判断する。ベーコンと玉ねぎがしっかり焼けていて美味しそうだ。

 

 「お待たせ」

 

 流石に一人では一度に全ては運べないので、小さなキッチンとテーブルの間を数回往復して料理を運ぶ。元々一人、二人用の部屋だけにこうして四人も入ればかなり窮屈だな。しかし現在は八時過ぎで寮の食堂も閉まっており、広々とした空間が使えないのだから仕方がない。料理が食卓に運び込まれる度に三人からちょっとした声が上がった。

 

 「……アイン、お前はシェフか?」

 

 「いやいや、ただのしがない教師ですけど。料理学校も通ってなければ調理師免許もありませんよ」

 

 とりあえず作った料理はそれが全てなので、「食べ始めてもいいですよ」と三人にゴーサインを出し、その間に俺は手早くエプロンと髪を括っていたゴムを外す。ファサッと灰の髪が揺れ、手梳でそれを整えながら畳んだエプロンを仕舞う。

 

 免許の類いはないが少々、というかかなり味に煩い恋人達がいたのは確かだ。随分と舌の肥えた子達だったので満足させられる料理を作れるまでは苦労したものである。お陰で和、中華、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア料理くらいには料理のバリエーションが出来てしまった。でも一番得意なのは普通の家庭料理なんだよなぁ。そんなことをぼやきつつ出来る片付けを終えて戻って来た頃には──大半の料理が既に終わっていた。早いよ。

 

 「アイン、もうないのか?」

 

 「ふぅ……凄く美味しかったです……」

 

 「うむ、悪くない味だった」

 

 三人が口々に述べる感想を聞く限りでは料理は存外に好評だったようだ。そして、個人的にボーデヴィッヒから評価をもらえたのは大きい。なんとなくこの頃の彼女には食に無頓着なイメージがあるからな、気に入ってくれたなら何よりである。そんな中で一つ言わせてもらうとするなら織斑先生、人の冷蔵庫から勝手にビール持ってきて飲むのはちょっとどうなんですか?

 

 「教え子の前ですよ、織斑先生」

 

 「何、今は休日の夜だ。問題はあるまい」

 

 そういう問題かなぁ。先生の言葉に首を傾げつつも俺は席に着いて食事を始める。フラムクーヘンが完売したから俺の飯はグラタンだけだ。三人が満足してくれたならそれでいいんだが……後でもう一品作ろう。流石にこれだけでは腹が減る。心の中でこっそりと呟き、俺はまだ熱いグラタンを頬張った。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 「あの~……アイン、先生?」

 

 後ろから聞こえるデュノアの声に俺は首だけを向けた。夕食は既に終わっており、織斑先生とボーデヴィッヒはいなくなっているので、この寮長室にいるのは俺とデュノアの二人だけだ。明日よりそれぞれの部屋に入る二人だが、今日だけはそれぞれの寮長室で過ごすこととなっている。一応男扱いのデュノアは俺と、そしてボーデヴィッヒは織斑先生とだ。因みに先生の寮長室は掃除済みなので問題はない……筈である。

 

 「洗い物、手伝いますよ」

 

 「気持ちだけ受け取っとくよ。悪いがキッチンが狭くてな」

 

 俺はやんわりと彼女の好意を断って洗い物を続ける。寮長室は生徒達の部屋とほとんど同じ作りであり、そのためキッチンは入り口からすぐのところにある小さなスペースにしかない。一人で作業をこなす分には十分な大きさだが二人──それも片方が男ならば逆にやりずらくなってしまうのだ。

 

 「あの、アイン先生」

 

 「なんだ?」

 

 「もう一人の男性操縦者……織斑君って、どんな人なんですか?」

 

 ふむ、織斑ね。どんな奴かと聞かれると……ん~……

 

 「真っ直ぐな奴だな」

 

 「真っ直ぐ……ですか?」

 

 おう、と俺はクエスチョンマークを浮かべるデュノアに返事する。その頬は自然と上がっていた。

 

 「困っている者は見捨てない。悪い奴はやっつける。仲間は絶対に守る。そんな漫画やアニメのヒーローみたいなことを本気で信じて、そしてやってのけるような男だよ。身の丈に合わないことにまで突っ込もうとする癖と朴念仁な部分を除けば……まぁ、いい奴だとは思うな」

 

 「よ、良くご存知なんですね……」

 

 「教師ですから」

 

 洗い物を終えてタオルで手を拭きながら軽くドヤ顔をするとデュノアはくすくすと笑った。実際は自分のことだから多少は詳しいって事情もあったりする訳だが……それは言ったところで意味のないことだ。俺も昔は織斑だったんだよね~、なんて誰が信じるんだ……

 

 「デュノア、良かったら先にシャワーを使ってくれ。俺は少し外に出てくる」

 

 「あ、はい」

 

 どうしてか無性に煙草が恋しくなったので、シャワーをデュノアに譲っていつものごとく屋上へと歩を進めた。俺がいると彼女も入りにくいだろうしちょうど良かろう。ゆらゆらと揺れるライターの焔を眺めながら、俺はゆっくりと煙草に火をつけ屋上を囲うフェンスへ背を預けた。

 

 明日からはデュノアとボーデヴィッヒの二人が一組に加わる。その後はISの実習が行われ、織斑がデュノアの正体を知って、オルコットと凰がボーデヴィッヒに敗れ、学年別トーナメントが開かれ、ボーデヴィッヒがVTシステムを使って、最後は織斑に助けられてハッピーエンド。もううっすらとしか思い出せない朧気な記憶だが、ここから二週間くらいはこんな具合に動く筈だ。

 

 さてここで一つ、俺はこれからどう動くべきだ?

 

 対処すべき事柄なら間違いなく学年別トーナメントのVTシステムだろう。学年別トーナメントは生徒だけでなく政府の関係者や企業の者も集まるイベントだ。要人の避難及び事態の収拾、我々教師がやるべきことはこの二つとなるか……

 

 一応デュノアの件もあるっちゃあるが、あれはもうスケールが大きすぎて一教師の俺がどうこう出来る問題じゃないので却下する。フランスって国が絡んでることなんだ、俺ごときに一体何が出来ると言うのか。全く……現実というものはなかなかに厳しいもんだな。

 

 俺がなんとかするから大丈夫だ、なんてカッコいい台詞を堂々と言えたかつての自分が羨ましい。己の限界と現実を知った今では口が裂けても言えそうにない台詞だ。戦争で肝心のデュノア社がぶっ潰れてうやむやになったことだが、何事もなければ昔の俺はどうするつもりだったんだろうか?我ながら謎である。

 

 「(ん……まぁ、それにしても──)」

 

 結構変わってたんだな、あの二人って。なんていうか、シャルって俺の中では三つ編みのイメージがかなり強いせいで、今のデュノアは少し物足りないような感じがしてしまう。後は胸とか。まぁこれは男装中だから仕方がないんだが。 

 

 ラウラは……その……あれだ、うん。人の持つ可能性って凄い、としか言いようがない。どうやったら今のスレンダーなボディから胸だけがたわわに成長するというのか。いつの間にか大きくなっていた胸を見て鈴が発狂していたのはいい思い出である。別に俺は大きくとも小さくとも大歓迎なんだがな。

 

 そう言えば髪型も違っていた。ボーデヴィッヒはいつでも単なるストレートだが、ラウラは普段ツーサイドアップで戦闘時には髪を一つ括りにしていたのだ。やはり髪型は人の印象を随分と変えるなぁと、すっかり長くなった自分の髪を弄りつつ苦笑する。

 

 「(……戻るか)」

 

 灰皿に灰を落として口臭消しのガムを口へ放り込み、最後に空を見上げてから屋上を後にする。俺が部屋を出てからそろそろ二十分が経つし、風呂ならともかくシャワーだけならばそろそろ終わっている筈だ。うっかり風呂上がりの彼女とばったり、なんてかつてのようにならないことだけを祈りながら、俺は寮の階段を一人トントンと下っていった。

 




 作者「ラウラの髪型どうしよっかな~。ストレートのままでもいいけど、ツインテールも可愛いし……」

 作者「ん、ツーサイドアップ?なんだこれは……」

 作者「ロングとツインテの魅力が二つ……だと……!?」

 はい、そんな訳でラウラはツーサイドアップです。戦闘時にはシンプルに一つ括り、異論は認める

 ……実はフライングして書き始めようとしてたのに、アンケートが予想以上の接戦で話がまだ書けてないんじゃ。必ず書きますが遅れることはご了承ください

 アイン 旧名織斑一夏。一番の得意料理は肉じゃがだがそれ以外にもかなり沢山の料理をそつなくこなせる、一家に一人は欲しい逸材。曰く、なんでも出来る正義の味方は期間限定らしい

 シャル(未来) スタイルの良さと三つ編みがトレードマークのフランス少女。家庭的でとても優しいが怒らせると怖い。極太パイルバンカーで後ろからズドン

 ラウラ(未来) 身長150センチ、ツーサイドアップの妖精。バストはシャル(原作)くらいの大きさだが体が小さいため大きく見える。食いしん坊

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