大人一夏の教師生活   作:ユータボウ

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11話 騒動の前の一時

 それは五月末のことだった。追われていたいつぞやの無人機騒動の後始末も漸く落ち着き始めた、そんな土曜のある日のこと。いつものように出勤して職員室を訪れた俺は、入った瞬間に感じたどんよりとした空気に思わず顔をしかめた。まるで漸く仕事を終えたところにまた新たな厄介事が転がり込んできたかのような、とにかく凄まじく重い空気だった。一体、この職員室に何があったというのか。

 

 「あ……アイン先生……おはようございます」

 

 「おはようございます。あの……どうしたんですか、この空気?ていうか、大丈夫ですか?」

 

 フラフラと覚束ない足取りでやって来た山田先生に俺は尋ねる。今までの疲れが溜まっているのか、その顔色はお世辞にもいいとは言えない。化粧で隠されてはいるものの、目の下にはうっすらと隈も出来ていた。本当に大丈夫か?

 

 「だ、大丈夫です……けど、あの、これを見てください。私も今朝知ったことなんですけど……」

 

 そう言って山田先生が手元のファイルから取り出したのは二枚のプリントだ。確かこれは各国からやって来る転校生の詳細が記されたものだったと記憶している。重い空気の原因はこれかと首を傾げながらも、俺はそのプリントを受け取って目を通し──

 

 

 

 「……マジですか」

 

 

 

 思わず天を仰いだ。あぁ、うん、なるほど。そりゃこんな空気にもなる訳だよ。単なる厄介事ってレベルじゃないぞこれは……

 

 はぁと溜め息を溢しつつもプリントの方に目を戻す。そこに添付された写真に写っているのは、一人が金髪にアメジストの瞳をした少女。そしてもう一人が俺と同じ眼帯を付ける銀髪の少女だった。二人にどこか幼い印象を受けるのは、俺が二年後の彼女達を知るが故だろう。

 

 シャルロット・デュノア

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 未来における俺の大切な恋人達。そして、俺の弱さが彼女達を……

 

 俺はふるふると首を横に振る。駄目だな、いつまでも終わったことを悔やんでいては。そんなことを彼女達は望む筈がない。感傷に浸るのは止め、俺はあらためて目の前のプリントに向き合う。

 

 一見するとプリントに不自然な点は見当たらない。強いて言うなら転校時点ではシャルが男装しているせいで、名前が『シャルル・デュノア』となっており、ついでにわざわざ『性別 : 男』と目立つように記されていることくらいだろうか。まぁ、()()()()()()()()()()()()

 

 「ど、どうしましょう……三人目の男の人なんて……」

 

 「……仕事が増えますね、また」

 

 仕事が増える、それは働く大人からすれば真っ先にお断りしたいことの一つだ。まず転校生が来たということで寮の部屋割りに変更が入る。これはまだ優しい方だ。手間ではあるが言ってしまえばそれだけで済む。

 

 面倒なのは各国への対応だ。三人目の男性操縦者が見つかり、それがIS学園に入学するとなれば、当たり前だがその情報を求めて学園に電話やら文書やらが殺到する。『IS学園はあらゆる国からの干渉を受けない』という決まりがあるため、それ等の悉くを拒否することは簡単だが、それに対して一々返事をしなければならないのが大変なのだ。昼夜問わず絶え間なく鳴り響く電話の音、しつこく食い下がってくる政府の連中、訳の分からないことを喚く女性権利団体の女共、どれもこれもが我々教師のストレスを溜め、睡眠時間を容赦なく削ってくる。

 

 「こりゃ、また徹夜ですかね……」

 

 「「「「「……はぁ」」」」」

 

 その言葉に対して部屋中から吐き出される溜め息。ただでさえ最近まで無人機騒動のことで忙しかったというのに……サービス残業確定だ。恨むぞ、シャルに男装を命じたデュノアの社長め。いや、シャルをここに送ったのはナイスだけど。

 

 「おはようございます……む、なんだこの空気は」

 

 「あぁ、織斑先生。実は──」

 

 ちょうどいいタイミングでやって来た織斑先生。俺は彼女に事情を説明し、数分後にはまたも溜め息が溢れることとなった。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 「だぁあああ!!」

 

 真っ正面から振り下ろされる織斑の剣、雪片弐型。気迫だけは大したものだがそれ以外は赤点だな。千冬姉のような全てを斬り伏せる強さもなければ、マドカのような純粋な殺意もない。ただただ振っているという、それだけだ。

 

 俺はそれを訓練機、打鉄の標準装備である近接ブレード、葵で以て受け流し、隙を晒した織斑の横っ腹に蹴りを決め込む。直後に後ろから響く独特の音に合わせてシールドを向ければ、その部分にオルコットのビットによるレーザーが命中、そこに凰の衝撃砲も加わって大変なこととなった。まぁ全部防ぐか避けるんだけど。

 

 「くっ、畜生!」

 

 「甘い織斑。ほら、そこはオルコットの射線上だぞ?」

 

 え、と俺の言葉に一瞬呆ける織斑。しかし次の瞬間には後方より放たれたオルコットの攻撃を背中に受け、驚きと共に墜ちていった。周りを見ずにただ突っ込むからそうなるんだぞ~。近くから「一夏さん!?」とオルコットの戸惑うような声も聞こえるが一切無視。凰がバシバシ撃ってくる衝撃砲を斬り捨て、アサルトライフルで牽制しながら彼女に接近する。

 

 「ちょっ、ちょっと!?なんで龍咆が見切られるのよ!?」

 

 「さて、どうしてだろな?」

 

 軽口を叩きつつも凰と近接戦を繰り広げる。別に龍咆は弾自体が見えなくとも発射音はする訳であり、それから一直線に飛んでくると分かっていれば避けることは難しくない。そして、避けることが難しくないということはそのまま斬り伏せることも同じなのである。少なくとも鈴の龍咆・轟に比べればこんなのは可愛いもんだぜ。

 

 「ふっ!」

 

 「きゃあ!?」

 

 動揺で雑になった刃を往なして隙を作り、装甲のない剥き出しの部分を斬り裂いて凰を倒す。うん、やっぱり装甲がないと駄目だわ。絶対防御があるから安心なんて考えは未来で戦っていた無人機達には通用しなかった。どいつもこいつも絶対防御無効化装置なんて物を搭載して、マジで殺意に満ちた連中だったからなぁ……

 

 さて、とりあえずこれで残ったのはオルコット一人になった。訓練の成果か、今では三基までならビットを操作しながら自身も動けるようになっているが、残念なことにそのビットは今や二基しか残っていない。キュインキュインと独特の音を発しながら迫り来るライフルにビット、それをかわし、防ぎ、斬り払いながら一気に接近戦へと持ち込む。別にオルコットが苦手だから接近したんじゃない、俺が得意だからだ。

 

 「はっ!」

 

 「負けませんわ!」

 

 オルコットのショートソード、インターセプターと俺の葵が、ギチギチと音を立ててつばぜり合う。一々名前を呼ばなくとも出せるようになったか、流石だな。だが──

 

 「振りが大振りすぎる、ショートソードの小回りを生かせ」

 

 「は……はい……」

 

 得物を弾き飛ばされ、喉元に刃の真っ先を突き付けられたオルコットは観念したように呟いた。これで全員無力化、訓練終わりっと。ゆっくりと着地するとそこに織斑と凰が寄ってきた。俺にまるでダメージを与えられないのが不服なのか、なんとなく納得いかないという表情をしている。

 

 時は進んで現在は放課後、俺は織斑を初めとする専用機持ちの訓練に付き合っていた。本当ならば客席から見てるだけだったが、こうして運良く訓練機を借りることが出来たこともあり、『強くなりたい』という三人の要望に答えて実戦を行ったのである。結果は……まぁ、見ての通りだが

 

 「よ~し、反省会すんぞ~」

 

 俺は打鉄の戦闘ログを表示し、そこから気になった点を幾つか上げる。強くなりたいと言ったのは向こうだしな、修正点ははっきりと言った方が良さそうだ。

 

 「分かってるとは思うがまずコンビネーションが皆無だったな。専用機三体が訓練機に負けたのがその証拠だ。倒してやろうって気持ちが高まるのは分かるが、だからって自分勝手に動けば逆にそれは仲間の動きを制限してしまう」

 

 特に織斑、と俺が指摘すれば彼はばつの悪そうな表情を浮かべた。オルコットのフレンドリーファイアで沈んだせいか、その辺の自覚はあるみたいだな。

 

 「白式の武器がその刀一本だけだから、どうしても接近戦を仕掛けなければならないのは分かる。でもな、白式をこういう多対一で生かすなら一撃離脱がベストなんだよ。零落白夜ってのは一撃必殺の力だろ?周りの仲間に隙を作ってもらってそこを突く、これが一番だ。これなら燃費の悪さもある程度は気にせずに済むしな」

 

 「な、なるほど……」

 

 一応尤もらしいことを言ったつもりだが、最終的には多対一でも一対多でも関係なく速攻で敵を倒すという、脳筋丸出しのスタイルに落ち着くのは秘密だ。文字通り先手必勝という訳である。

 

 「次は個別だな。凰からいくぞ」

 

 「え~、別に反省点なんてなかったんじゃないの?」

 

 いやいや、なかったらわざわざ言わねえっての。流れるログに目を通しながら内心でぼやく。

 

 「そうだな……やっぱり凰は不慮の事態に弱い。自分の実力に自信があるのは結構だが、それが破られた時には動きが極端に鈍くなりがちだ」

 

 衝撃砲が通用しなかった時とかな、と。その一言に彼女はうっと言葉を詰まらせた。それと、焦れたらすぐに衝撃砲を連発するのも止めた方がいいな。焦れる時ってのはイコールで攻めきれていない時のことだ。そこで無闇に攻撃したところで効果は薄いだろうし、今回のような集団戦では迷惑以外のなんでもない。

 

 「次、オルコット」

 

 「は、はい!」

 

 オルコットは……多対一に馴れていないせいか、ビットの使い方に勿体無さを感じるな。前衛との連携が噛み合えばかなり化けるに違いないだけに、惜しい。セシリアがどれだけ上手かったのか、こうしているとあらためて思い知らされるな……

 

 「後はショートソードだ。オルコット、君は織斑の振り方を真似ているな?」

 

 「え、ええ。そうですけど……」

 

 「残念だがそれは止めた方がいい」

 

 オルコットのインターセプターは一撃の威力より手数を優先した、どちらかと言えば俺の雪片に近い剣である。小回りの利く剣を刀と同じように振ることは明らかに無駄だ。某狩りゲーで例えるなら、片手剣で大剣や太刀のモーションをしているような感じか。せっかくの長所を潰すのは流石に頂けない。

 

 「さ、ラストは織斑だ」

 

 「お、お願いします」

 

 やや緊張した面持ちで答えるかつての俺。さて……果たして何から指摘すべきか。やっぱりなぁ、言い出したらキリがないんだよなぁ。昔の自分だし、もっとこうするんだよって部分が有りすぎる。だがそれはあまりにも酷だ。とりあえず──

 

 「動きが馬鹿正直すぎるな」

 

 「うぐっ……!」

 

 「いいか織斑、ISバトルってのは言ってしまえばルールなんぞないようなもんなんだ。そんな場であんな分かりやすい動きをすれば間違いなく読まれるぞ。俺でなくてもな」

 

 ついでに、と俺は一言追加する。

 

 「零落白夜、あれを常に展開させるのはシールドエネルギーの無駄だから止めろ。極端な話、あれを使うのは敵に当たる一瞬だけでいい。流石にまだそれは難しいだろうけど、せめて攻撃の時だけとか使うタイミングを自分で決めておいた方が賢明だな」

 

 一通り言うべきことを言い終えた俺は、ふぅと一息ついて三人の様子を確認する。納得いかないと頬を膨らます者、真摯に指摘を受け止める者、困惑して顔を引きつらせる者、反応は様々だった。

 

 まぁ、強くなりたいのなら少しずつでもいいから直していってもらいたいもんだな。未来の彼等と比べた結果出てきたアドバイスなのだ、強ち間違ったものではない筈だろう。俺はむむむと唸る三人に苦笑を溢した。

 




 ……まるで話が進んでない。という訳で頑張って次話を書きます

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