大人一夏の教師生活   作:ユータボウ

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 お待たせしました、大人かんちゃんでございます。もうなんか別キャラじゃね?って感じが否めませんが、原作より5~6歳上なので「変わったな~」くらいのつもりでご覧ください
 当然ですが性格改変&独自設定注意です。ついでに改行も多いので、読みにくいと思った方は閲覧設定を弄ってください


特別編① 大人簪の教師生活

 「見つけた……!」

 

 暗雲の下で押し寄せる無人機の群れを退け、私は漸く漆黒のIS『黒騎士・災禍』の前に立った。薙刀型近接武装、泡沫を握る手に力が入り、また胸の奥からドロドロとしたどす黒い感情が次々と湧き出してくる。

 

 

 

 亡国機業(ファントム・タスク)最強のIS、黒騎士・災禍。

 

 その操縦者、織斑マドカ。

 

 沢山の人が死んだ。IS学園の生徒も、先生も、知らない人も、友達も。

 

 そして──幼馴染みを、恩師を、仲間を、お姉ちゃんを……失った。

 

 目の前の、彼女達のせいで。

 

 

 

 「……貴様は、更識の妹か」

 

 ポツリと黒騎士を駆る織斑マドカが呟く。聞きたくない。お前が、その声で話すな。あの人と──織斑先生と同じ声で。

 

 「……だったら?」

 

 「いや……何者であろうとも私の前に立つなら斬るだけだ。来るがいい。殺したいのだろう?姉さんと……そしてお前の姉を殺した、この私を」

 

 「っ!?ぁあああああああああああ!!!」

 

 その一言で、私の中の何かが切れた。第五世代機『練鉄』両肩部及び腕部の展開装甲を荷電粒子砲に切り替え、溢れ出す衝動のままに撃ちまくる。箒やシャル達からは深追いだけはするなと言われているけれど、どうやらそれは守れそうになかった。こいつだけは、このISだけは、絶対に私が……!

 

 「壊れろッ!壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろォ!!」

 

 「ふん、そんな攻撃が効くものか」

 

 放たれた白い閃光は、しかし黒騎士の一刀の下に呆気なく斬り捨てられる。淡く輝く刀身──単一仕様能力(ワンオブ・アビリティー)の零落白夜だ。ありとあらゆるエネルギーを無効にして消し去るその力は、対象がISの武装であっても例外なく消滅させることが出来る。

 

 私はこの零落白夜の恐ろしさは身に染みて理解している。恩師と、そして最愛の人が扱う最強の力だ、知らない訳がない。模擬戦で攻撃を受けて敗北した回数は数えきれないし、故にあの刃に当たった瞬間に敗北が決定することも分かっていた。

 

 でも、それでも、逃げる訳にはいかない。

 

 「それなら!」

 

 ガコン、と練鉄の後ろに浮かんでいた八基の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が開き、その中から数えるのも面倒になる程の誘導ミサイルの弾頭が覗く。24×8の合計192発、それら全てが独立稼動型というデタラメなそれは練鉄最大の武装、豪火だ。本来ならば仲間との連携において真価を発揮するものではあるが、この場にいるのは私一人のみ。しかし──

 

 「轟け、豪火!」

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!

 

 192発のミサイルが一斉に火を吹き360度、上下左右の全ての方向から対象を塵も残さずバラバラにせんと襲い掛かる。勿論、黒騎士はそれらを避ける。だが、避けても避けても豪火のミサイルは何度も旋回し、黒騎士へと降り注いだ。当然の話だ、あれらのミサイルは()()()()()()()()()()()()()()

 

 「……ちっ」

 

 「はぁあああああああ!」

 

 まだだ。私は握り締めた泡沫を構え、個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)で以て一気に接近し、荷電粒子砲でミサイルを迎撃していた黒騎士へ斬り掛かった。ギィン、ギィンと音を立てて泡沫は防がれるが、しかし迎撃が止まったことで無数のミサイルが次々に押し寄せる。

 

 「面倒な……!」

 

 「っ……!」

 

 だが敵も流石というべきか。私の攻撃を防ぎつつ、そしてミサイルにも隙なく対応してみせた。認めたくはないが織斑先生、そしてお姉ちゃんレベルの実力者であることは疑いようもない事実みたいだ。それでも、私は動じない。泡沫が防がれる、ミサイルも避けられる。だが、それがどうした?

 

 

 

 一夏ならミサイルを振り切った。

 

 箒なら攻撃自体意味がなかった。

 

 セシリアならビットで、鈴なら衝撃砲で、シャルなら高速切替(ラピッド・スイッチ)で、それぞれミサイルを撃ち落とした。

 

 ラウラなら停止結界で全てを止めて見せた

 

 そしてお姉ちゃんなら──

 

 

 

 「あぁあああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 だから、こんなことで私は諦めない!諦めて堪るもんか!正義のヒーローは悪を必ず倒すのだ!そして何より──私はあの人の妹だ!学園最強の……お姉ちゃんの妹なんだ!絶対に、負けたりなんてしない!

 

 

 

 グッと鍔迫り合う泡沫に力が込められる。目にも止まらぬ斬撃の応酬が、ここに始まった。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 「……夢」

 

 目を開けばそこには黒騎士の姿はなく、見馴れた天井があるだけだった。どうやら昔の夢を見ていたらしい。しかもよりによって私が死んだ、あの日の夢だ。どうせならもっと幸せな夢を見させてくれても良かろうに。これから一日が、しかも特に大切な日が始まろうというのに……憂鬱だ。

 

 「……はぁ」

 

 まだ穿たれた感触の残る胸に手を当てつつ溜め息をつき、ゆっくりとベッドより身を起こしてやや重い足取りで洗面所まで向かう。まだ少し眠い、けど惰眠を貪る訳にはいかない。バシャバシャと顔を洗って鬱陶しく纏まり付く眠気を払い、ふと頭を上げれば鏡に写るやや呆けた自分と目があった。

 

 やや垂れた赤紫色の瞳に内側へ向いた空色の癖毛。お姉ちゃんと仲直りするまで好きではなかった瞳と髪だが、今となってはこの二つは私の誇りだ。そう考えれば少しだけ嬉しくなる。

 

 腰の辺りまで伸びた髪を丁寧に解かし、寝間着を脱ぎ捨てていつも着ている黒のスーツに袖を通す。あらためて確認してみると、学生時代に比べれば身長も伸びたしスタイルも随分と良くなったと思う。流石にお姉ちゃんを筆頭にした他の子達には勝てないけれど。特に箒の胸、あれは最早暴力だ。

 

 そんな懐かしい記憶に浸りながらも着々と準備を整え、最後に眼鏡を掛ければ準備完了だ。さぁ……行こう。

 

 

 

 今日はIS学園入学式。この日から……全てが始まる。

 

 大丈夫だ、もうあんな悲劇は起こさせない。きっとそのために、私がいるのだから。

 

 

 

 

 「(私が──皆を守るんだ)」

 

 憧れたヒーローのような決意を胸に、私は空腹を満たすべくIS学園教員寮から食堂へと歩を進めた。カッコ悪いとか、そういうのは言わないでほしい。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 コツコツと階段を上がっていく音が響く。それ以外は静寂に包まれていて、まるでこの世界で動いているのが私一人だけのようだ。まぁ案外今のは間違ってないような気もする。周りに人がいるのに時々感じる孤独感は、恐らくこの世界で私にしか理解出来ないだろう。

 

 誰もいない廊下を歩いていくと、段々と生徒達の声が聞こえ始めてくる。キャイキャイと騒がしい、少女達の声だ。この声の原因は多分()なんだろうなぁと思いつつも、しかし歩くスピードを落とさずに私は一年一組の教室を通り過ぎる。私の居場所は、ここじゃない。そのまま二組、三組も同じように通り過ぎ、そして辿り着いたのがこの四組だ。

 

 ……正直、私をここの担任に任命した理事長からは悪意しか感じられない。全くあの人は何を考えているのか、思わず溜め息が溢れるが決まったものは仕方がない。一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから、ゆっくりと一歩を踏み出して扉の前に立った。

 

 そして、自動で扉が横へスライドし──

 

 「(……懐かしいな)」

 

 席に着いている生徒達を見た瞬間に、遥か奥深くで眠っていた記憶が凄まじい勢いで蘇ってくる。あれは誰で、あの子はあそこで、なんてことが唐突に分かるようになった。そんな中でも何より嬉しいことが──()()()()()()、ということだろう。まだ戦争なんて起こってないんだから当然のことなのだけど……それでも、嬉しいものは嬉しい。

 

 先にHRを始めてくれていた副担任の先生にお礼を言ってから、あらためて皆に名乗る。思いっきり偽名なんだけど、そこは正直に名乗る訳にもいかないからと割り切った。この名前で過ごすこと既に三年、随分と馴れたものである。

 

 それに、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 チラリと確認した最後尾の窓際の席、そこには私と同じ髪と目をした女の子が座っていた。どこか思い詰めたような瞳をして、一人落ち着かないとばかりにそわそわしている。そんな彼女の心境が、私には手に取るように分かった。

 

 ──こんなことをしている暇なんてない。

 

 ──一秒でも早く、専用機を完成させなくちゃ。

 

 きっと、そんなことを考えているに違いない。しかし今あらためて考えてみると、よくもまぁ途中で開発の中止された専用機を独力で完成させようなんて無茶をするものである。昔の機体データもなく、そして誰にも頼らない、本当に一人っきりの独力でだ。そこにはあの子なりの意地やらプライドやらがあるのだろうが、いくらなんでも流石にそれは無理があるだろうに。仮にISを本当に一から作れる人がいるとするならば、それは生みの親である篠ノ之博士を除いて存在すまい。

 

 脱線しかけたがとりあえず今は自分の役割を──教師としての仕事を果たそう。私が現れたことで止まってしまっていた自己紹介を再開させれば、偶然にも次に自己紹介をするのはあの子のようだった。彼女が席から立ち上がる時、ふわりとセミロングの髪が揺れた。そんな姿が、自分と重なる。

 

 

 

 ……いや、違うな。

 

 あの子はあの子で、私は私だ。

 

 あの子は更識簪。そして私は、■■■■なんだ。

 

 

 

 「では次、更識さん」

 

 「……更識簪。宜しくお願いします」

 

 短く一言、たったそれだけで彼女はさっと席に座ってしまった。そのあまりの短さに教室内がなんとも言えない空気に包まれる。しかしきっとこの中で一番頭を抱えたくなったのは、恐らく他でもない私自身に違いない。

 

 覚悟はしていた。過去にいるということは当然かつての自分に出会うこともある。それ故にまだ未熟な己の一面を見る可能性もあるだろうということも。

 

 いや、でも、それにしてもだ。

 

 自己紹介すらまともに出来ないって……

 

 「(これはなかなか……キツいかな)」

 

 皆だったらどんな反応をするだろう?皆の昔なんてあまり知らないし覚えてないけど一夏や箒、それに鈴とシャルなら笑って許容しそうだ。あの四人はとても優しかったし。

 

 ただセシリアやラウラは厳しそうだな。うろ覚えの聞いた話だと確かセシリアは女尊男卑思想──未来では死語と化した言葉だけど──を持っていたらしいし、ラウラは織斑先生を心酔していて力が全てだと思っていたらしい。そんなかつての自分を二人が見たら……うん、考えるだけでも恐ろしい。

 

 お姉ちゃんはきっと未熟な自分をこてんぱんに叩きのめすのだろう。それでその後に物凄く厳しい指導を与えそうだ。学園最強がこの程度でどうするのかしら、とか、そんな実力じゃ皆を守れないわよ、とかプライドを散々刺激して。そんな姿が容易に想像出来てしまった。やはり姉妹だからだろうか?

 

 閑話休題

 

 再びずれていく意識をもう一度切り替え、今度こそ自己紹介をしっかり進めさせた。今の私はここの担任だ、今やるべきことを見失ってはならない。

 

 自己紹介終了後は普通に授業だ。IS学園は入学式を行った日からでも通常の授業が始まり、更に土曜日にも午前中は授業がある。IS関連についてはとにかく学ぶべきことが多く、強引にでも授業をしなければ卒業までに間に合わないからだ。

 

 私は教科書片手にさっと生徒達を一瞥し、頭の中に一人の恩師を浮かべる。あの人の授業は本当に素晴らしかった。教鞭を振るう立場になった今だからこそ理解出来る。あの人は──真耶さんは、やっぱり凄い人なんだなって。

 

 「それでは、授業を始めます」

 

 私も、あの人のようにやれているだろうか。そんな考えを胸に仕舞い、私は授業を始めた。

 

 

 

     △▽△▽

 

 

 

 「──今日一日お疲れ様。寮に戻ってしっかり休むように。では解散」

 

 その一言に生徒達はわいわいと一斉にお喋りを始める。担任としての仕事を終えた私も少しだけ肩の力を抜き、用がないなら早く帰りなさいとだけ告げてから教室を後にした。やはり先生という仕事は楽じゃない。しかも受け持つのがこの一年四組なのだから尚更だ。なんだか、妙に神経を使ってしまう。

 

 ふぅと一息つきながら廊下を歩いていると、当たり前だが一組の前を通過する。そこには放課後になっても未だに多くの生徒達が集まっており、彼女達の視線の先には一人の男子生徒が一人、参考書や教科書を相手にうんうんと唸っていた。そんな彼を見た瞬間、胸の奥が酷く痛んだ。

 

 「(……一夏)」

 

 

 

 彼の名前は、織斑一夏。

 

 殻に閉じ籠っていた私を救い出し、お姉ちゃんとのわだかまりも取り去ってくれたヒーロー。

 

 カッコ良くて、

 

 素敵で、

 

 愛しくて、

 

 誰よりも優しくて、

 

 本当に……本当に大好きだった人。

 

 

 

 「(でも……彼は……)」

 

 彼は、私の知る一夏ではない。そして、彼もまた私を知らない。私にとっての織斑一夏は未来に残してきたあの人だけだ。彼ではない。彼ではないと、分かっているのに──どうしてこんなに悲しくて、辛いのだろう?

 

 張り裂けそうな胸の前でぎゅっと手を握り、名残惜しさを振り払うように足を動かした。私にとって幸運だったのはこの教室にあの子が──布仏本音がいなかったことだろう。彼女と一夏、私の瞳にこの二人が同時に映っていたなら、きっと私は……

 

 

 

 ──簪

 

 ──かんちゃん

 

 

 

 「(逢いたいよ……一夏……本音……お姉ちゃん)」

 

 底知れない孤独感に苛まれながらも、それでも私は前に進んだ。

 

 こんな思いを、もう誰もしないで済むように。

 

 皆が笑って過ごしていけるように。

 

 左手の薬指で輝く指輪──待機形態の練鉄をそっと撫で、まだ見ぬ脅威を滅ぼす覚悟を強く固める。正義のヒーローは必ず悪を倒すのだ。今度こそ……今度こそ、私は勝つ。亡国機業に、そしてマドカに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、そういえばまだ私の名前を言ってなかったかな。

 

 私の名前は──白咲華織(しらさきかおり)

 

 IS学園一年四組の担任教師。そして第五世代機、練鉄の操縦者です。

 

 更識簪なんて言われてたけど……それはもう、昔の話だ。

 




 はい。精一杯考えた結果、こんな風になりました。かんちゃんの名前ですが、『さらしき』のアナグラム=しらさき+一夏、簪、刀奈の『か』=華+織斑の織、という感じです

 マドカの言った姉さん=千冬、お前の姉=刀奈です。分かりにくくてすみません

 簡単な紹介

 白咲華織 旧名更識簪。専用機は『練鉄』。腰の辺りまで伸びた空色の髪に内側へ向いた癖毛が特徴。眼鏡を掛けているがヘッドギアは外されている。刀奈と一夏、そして本音を筆頭とした仲間達を大切に思っており(特に刀奈の妹であることには大きな誇りがある)、そんな人達を失う原因となった亡国機業を絶対に滅ぼすことを誓っている
 口数はあまり多い方ではないが自分の意見や考えは理論的にしっかりと述べるタイプ(そうでなくては個性の強い他のヒロインに一夏を取られてしまうから)。淡々としているように思われがちだが結構な寂しがりで、時々未来のことを思い出しては涙を流す

 続きは未定です。また記念で特別編を書くことはあるかもしれませんが、かんちゃん以外のヒロインで書く可能性が高いですのでご了承ください

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