俺の家が幻想郷   作:十六夜やと

26 / 30
 やっと大学始まりました。
 ちなみに時事ネタを入れることはありますが、あんまり本編との時間軸は共有しておりません。そこら辺は頭を空っぽにして楽しまれると嬉しいですm(_ _)m

 あとオリジナル作品を書きました。
 『俺の部下の異世界無双』というテンプレ設定の作品ですが、見ていただけると泣いて喜びながら泣きます。


25話 各々の進行

「こいし? 何やってんだよ? こいし!」

 

 弾幕の光が鈍く輝く。

 それはフランの体を抱くように庇うこいしに殺到し、後ろ肩や背中を容赦なく穿つ。フランは瞳に困惑と恐怖を写しながら、弾幕を撃たれてもなお自分を庇うこいしに、いつもとは違う口調で叫んだ。

 こいしは弾幕の光を歯を食い縛りながら耐え、弾幕が途切れた瞬間に振り向く。手をかざして必死に唸りながら放つ弾幕は、撃ってきた連中――上海と蓬莱に直撃する。

 

 撃墜された上海と蓬莱を抱き抱えたアリスは、こいしに弾幕を撃っていた魔理沙の箒に飛び乗り、白黒魔法使いは無意識幼女への攻撃を放棄して去った。

 その様子を見たこいしは満足そうに口を歪める。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……なんだよ、結構当たんじゃねぇか。ふっ……」

 

 机の上に立つ彼女の足元には赤い液体が流れていた。

 その様を目の当たりにしたフランは声を震わせ、目尻に涙の滴を光らせた。

 

 俺は立ち尽くすしかなかった。

 見ていただけの俺は右手で頭を押さえて、ただ一つの気持ちを胸に、フランと同様に声を震わせた。

 なぜ魔理沙とアリスが牙を剥いたのか、どうしてフランとこいしが狙われたのか、何故こいしが凶弾に倒れようとしているのか。沢山の疑問が頭の中を駆け巡るが、ともかく聞かなければならないことが確実にある。

 だから俺は机の前に座り込みながら、フランみたく声を震わせながら問う。

 

「こ……こいし……。あっ……あぁ……」

「なんて声出してやがる……フラン」

「ごめん、何やってんの?」

 

 こいしは立ち上がってフランに微笑む。

 足元に流れる赤い液体(ケチャップ)をぴちゃぴちゃ音を立てながら、フランに背を向けた男らしい無意識幼女は言葉を紡ぐ。

 その言葉には鉄の意志が感じられた。

 

「俺は……地霊殿在住……古明地こいし、だぞ……こんくれぇなんてこたぁねぇ……」

「そんな……俺なんかのために……」

「鉄血48話見てから何やってんだよ、二人は。あと魔理沙とアリス、何でマジ泣きしてんの?」

 

 フランの言葉にこいしは力強く応える。

 地位と肩書きに相応しい、威厳を持った態度で。

 

「団員を守んのは俺の仕事だ」

「団員って何だよ。というか早苗も何でガチ泣きしてるんだ? え? ちょっと待って、これ俺も乗らないとダメなん?」

 

 深紅の液体の中を歩き、どこかへ向かうこいし。

 その先に何があるのか。

 恐らくは――自分達の目指したものがあるのだろう。

 

「でも!」

「いいから行くぞ。皆が待ってんだ。それに……」

「龍慧もハンカチで目元押さえながらスマホで音楽流さないで。『フリージア』流すとマジでそれっぽくなるから」

 

 言葉を止めて上を見上げる。

 彼女には青い空でも見えているのか? 満足したように微笑む姿は、とても穏やかで美しい。

 

「(サト、やっと分かったんだ。俺たちには辿り着く場所なんていらねぇ。ただ進み続けるだけでいい。止まんねぇかぎり、道は続く)」

「自分の姉のことを『サト』って略すの止めようぜ?」

 

 思い描くのは姉との約束。

 

『謝ったら許さない』

「ああ分かってる」

「そのシーン知らないんだけど」

 

 こいしは重力によって崩れ落ちる。

 ひどく軽そうな体は、自分はここにいると言いたげに質量間をもって、前のめりに倒れた。左の人差し指を頭上に掲げながら、仲間に道を示すかのように。

 無意識の幼女は大きく叫ぶ。

 

「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!」

「ちょ、ケチャップ! ケチャップがプリントに!?」

 

 そして――

 

 

 

 

 

「だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

 

 

 

 こいしは満足げに瞳を閉じた。

 

「……何だこれ」

 

 俺の解いていたプリントの中央に倒れたケチャップまみれの無意識幼女と、見事BGMに合ったタイミングで名言を言ったことに、歓喜の声を上げる周囲の面々。

 シャーペン持ちながら、俺は後ろに倒れて溜め息をつくのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 幻想郷の大賢者。

 それに従いし式神は私に問う。

 全てを見透かすような、長年の積み重ねにより生まれた貫禄とも呼ぶべき堂々とした佇まいに、私は怯むことも圧倒されることもなく対峙する。

 

「異変を解決するのが博麗の巫女の使――」

「いや、確かにそうなのは分かってるわ。それよりも洗濯物みたいにスキマから垂れ下がりながら、白目剥いて泡吹いてるアンタの主人は大丈夫なの?」

「大丈夫なわけないだろう?」

 

 彼女の横にスキマから身体だけを乗り出すように現れ、幻想郷――アイツん家のリビングの惨状に耐えきれなくなり、真っ白に燃え尽きたスキマ妖怪。

 自分の主人から目を逸らしながら、九尾の妖怪は若干冷や汗をかいて肯定する。

 威厳もへったくれもない。

 

 リビングの惨状……それは、一面の銀世界だった。

 リビングからキッチンにかけて、どこを見ても白い粉――恐らく小麦粉が綺麗に散乱しており、これを見たらアイツも紫と同じような状況に陥るだろうことは想像に難くない。それはそれで見てみたい気もするが、自分の神社までもご丁寧に真っ白くされたのは許せない。

 というか小麦粉で埋め尽くされたんだけど。

 小麦粉を袋に入ってたやつ全部をひっくり返したように、小麦粉の山に埋もれた神社。間違いなく私に喧嘩を売ってるようにしか思えないんだが。

 

 そして、遠くから「こ、紅魔館がぁぁぁあああああああ!! 真っ白館にぃぃぃいいいいいいいい!?」と叫ぶかりちゅま吸血鬼の声を背景に、私はとあることに気づく。

 

「……なんか寒くない?」

「あぁ、エアコンがフル稼働してるからな」

 

 現在の幻想郷が快適な温度を保っている理由。

 それは窓際の上辺りに取り付けられて、涼しいを通り越して寒い風を送っている機械が原因であり、今は私達に牙を剥いていた。

 かつての幻想郷の冬に比べれば遥かにマシな寒さだが、だからといって気温調節できるのに放置しておくわけにはいかない。

 

「エアコンの気温調節する機械はどうしたの?」

「リモコンのことか。それなんだが、どこを探しても見当たらないのだ」

 

 肩をすくめた籃が自分の持っている情報を開示する。

 

「この小麦粉の散乱はリビングとキッチン内、二階まで続く階段限定で、畳の敷き詰められた居間や一階客室には撒かれていない。……が、リモコンは他の部屋のものまで取られており、結構な苦情が出ている。一部の妖精を除いて」

「小麦粉を出来るだけ片付けしやすいように配慮しつつ、かつ的確に幻想郷民のみを苦しめる。この()()といい、黒幕が分かりやすいわね……」

 

 隠すつもりは元よりないのだろう。

 確実に黒幕は、幻想郷においてアレと親密な関係を結んでいる、二階のアイツの部屋横を根城とする連中……白玉楼の管理人のせいだろう。

 全くもって余計なことをしてくれたものだ。

 

「……あれ? こういう時って必ずしゃしゃり出てくる白黒のアレが見当たらないんだけど」

「うん? 言ってなかったか? 魔理沙はアリスと一緒に、彼に着いて行ったらしいぞ」

「はぁ!?」

 

 昨日の夜に『たぶれっと』という機械を経由して、『らいん』を使ったもので連絡が来たらしい。あの鞄の中に二人は侵入していたらしく、今はアレの友人の家で遊んでいるのだとか。

 ……なんか頭痛くなってくる。

 二人の性格からして、止めようとしたアリスを伴って、魔理沙が暴走した形なのだろう。

 

「ただ……」

「ん?」

「彼女等が無事なのは確認できたが、それ以上の情報は開示してくれなかった。どうやらタブレットを使っている永遠亭の連中は、連絡云々どころではないらしくてな、機械の使用が認められなかったんだ」

「何でアイツ等が独占してんのよ……」

 

 後から聞いた話によると、その連絡機能を有する機械を持った永遠亭の連中は、怒りを露にして『ついったー』というもので遊んでいたとか。

 

『はぁ!? たつき監督降ろされた!?』

『ふっざけんなKADOKAWAなめてんじゃないわよ!』

『けもフレ二期楽しみにしてたのに!』

『問い合わせ送ったるわ!』

 

 妹紅がドン引きするくらいに、引きこもり姫は珍しくブチ切れていたそうだ。その話をしていた永遠亭の医者も「……せっかくの癒しが」と悲しそうに語っていた。

 アイツ等俗物に触れすぎじゃない?

 

「とにかく異変起こしてる妖夢と幽々子をシバけばいいんでしょ? はぁ、本当に面倒だわ」

「――なら、その異変解決に同行してもいいかしら?」

 

 博麗神社(だったはずの小麦粉の山)の前で話していた三人……一人意識がないけど、私と藍の所に舞い降りたのは、紅魔館のメイド長だった。

 カツカツと小麦粉の雪に足跡をつける。

 

「お嬢様に『くっそ寒いから異変解決してきて!』と命じられたの。それにエアコンのつけっぱなしは電気代が非常にかかるんでしょ? 次の首脳会議で閻魔に経費削減されかねないし」

「うっ……それもそうね」

 

 幻想郷の財布を握る閻魔。

 内職という肉体労働をせず、内職で得た金銭を各勢力に分配する仕事を担っている。一見楽そうに見えるけれど、あの個性の強すぎる連中相手に分配とか、面倒以外の何物でもないだろう。ぶっちゃけ身体動かした方がマシだ。

 本人も不本意ながら従事している。ここには死者が居らず、裁く必要性がない。そもそも裁くべき死者がいないのだから。

 その彼女が分配している内訳には、幻想郷民全員が使うもの――光熱費や水道代なども含まれている。『公共料金』と言うらしいが、もしも無駄に使ったならば各勢力の分配資金が少なくなる。是非とも避けたい。

 

 余談だが、エアコンのつけっぱなしは想像以上に電気代を使わないらしい。あの憎たらしくも幻想郷の真の主であるアレ曰く、「エアコンの電気代は部屋をその気温まで変化させるのに金がかかるのさ。つまりエアコンつけっぱにしとけば、一定温度保つための電気代しか必要ないわけ。無駄につけたり消したりする方が高い。……まぁ、設定温度が高すぎたり低すぎたりすると、その分電気代は必要になってくるけどな」とか。

 閻魔はひどく感心しながら話を聞いていた。

 

「あ、そうそう。藍に言っとくけど、妹紅と布都をキッチンとリビングに入れないでね。私はまだ死にたくないわ」

「「あー……」」

 

 私の発案に二人は納得する。そして、藍は彼女に警告を促すためにスキマの中へと消えていった。ついでに違う意味で真っ白になっていた紫を回収して。

 咲夜も苦い顔をしている。

 

 どうして名指しで二人を入れないよう言ったのか。それは先日テレビで放映されていた番組で紹介されていたものが原因だ。

 どうやら小麦粉に火をつけると粉塵爆発というものが起こるらしく、科学について詳しく解説する番組での実験で、実際に粉塵爆発がどの程度の威力を起こすかを私達は見て知った。

 ばら蒔かれている小麦粉の量から考えて、少なくともフランの比ではない爆発が起こるだろう。

 

 というか家が無事じゃ済まなさそうだ。

 私にとっても望む結果じゃない。

 

「どっかの鴉天狗と不老不死の連携……」

「その妄想止めなさい、咲夜。その舞った小麦粉と着火は洒落にならない」

 

 アレに迷惑かけないよう今のタイミングを狙ったのだろうけど、小麦粉を雪に見立てる考えは正直どうかと思った。紅霧といい今回といい、もしかして幻想郷を消滅させたいのかしら?

 確か幽々子と妖夢は例の番組を見ていないから仕方ないのか。仕方ないで済ますレベルじゃないけど。

 

 私は頭を掻きむしる。

 今日はジブリの日だってのに。

 

「あー、もう! 金曜ロードショー前に片付けるわよ!」

「そうね、ハウルあるものね」

 

 私とメイド長は軽やかに跳んで、アレの部屋の横にある白玉楼へと向かうのだった。

 

 

 

 




【裏話】

龍慧「ところでコレを」(スッ
アリス「こ、これは……!?」
魔理沙「バルバトスの!?」
龍慧「自分で組み立ててみるのも楽しいかと」
こいし「やったー!」
フラン「わーい!」

龍慧「これで勉強に専念できますな」
紫苑「そのために鉄血見せたのか」
早苗「……ガンキャノン」
紫苑「早苗待って、マジで」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。