俺の家が幻想郷   作:十六夜やと

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次回から異変入りたいですね。


22話 大事なことは……

 幻想郷で生まれた『弾幕ごっこ』という遊び。

 人妖関係なく『いかに魅せるか』に重点を置いた娯楽で、パワーバランスがおかしい幻想郷住人が対等に楽しめる遊びだと、幻想郷の賢者様は言っていた。まぁ、弾幕を出せることが前提条件なので、人里という場所に住んでいた一般人だと遊べなかったとか。

 忘れ去られた楽園というだけに、文明レベルが江戸末期~明治初期だと、娯楽の種類は少ないのだろう。

 しかも小さくなってしまったが故に、遊ぶ手段が減ってしまった幻想郷住人のストレスは計り知れない。俺には関係ないけど、紫的には早急に対応すべき問題らしい。

 

 んなわけで紫は俺に相談してきた。

 美術部で少なくないゲームというゲームを遊び嗜んでいる俺に、幻想郷の住人が楽しめるような娯楽はないのか、と。

 

「知らんがな」

「そうよね……」

 

 どんなに頑張ろうとも身長の壁がある限り、スポーツなどの現代娯楽を提供するには無理があるのは紫も分かっていたことなのだろう。

 ベッドに仰向けに寝転がりながら、本を読んでいた俺はスキマから顔を覗かせる紫の相談を切り捨てた。こればかりは幻想郷の面々が工夫して現世を謳歌してもらうしか方法がないと知っていたからだ。

 

 実際にパチェは自分より大きい本を読んでいるし、幽々子とは将棋を時々嗜んでるし、こいしとフランは俺のPCでネットサーフィンをやってる。こういう例があるのだから、探せば娯楽がないわけじゃないからな。

 そこまで考えてやる義理はない。

 勝手に遊んどけって感じ。

 

「……また『弾幕ごっこ』みたいな娯楽を考えないといけないのかしら?」

「そこら辺は紫の裁量次第だろ。幸いと言っちゃ何だが、あの幼女組に助けてもらえばインターネットの閲覧ぐらいは可能だろうし、参考程度にはなるんじゃないか?」

「あの二人現代に溶け込みすぎじゃない?」

 

 紫が顔を引きつらせながらも、幼女組の手助けを検討しているなか、枕元に置いていたスマホが鳴る。通知音からSNSだと判断した俺は、スマホを手にとって確認した。

 俺達4人のグループチャットの書き込みだった。早苗は諸事情から入れてない。そのうち入れるつもりだが。

 発言者は未来。

 

 ……俺はこの時点で想像もつかなかった。

 この何気ないチャット。これが幻想郷の少女達を変貌させる分岐点になろうとは。

 

 

 

『ガンダムしようぜ!』

 

 

 

 これで予想しろとか無理な話だけど。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 なんか家主が黒い変な箱を弄ってる。

 いつもならアイツの行動に目を向ける理由がないから放置しているが、私の家の近くで作業しているもんだから嫌でも意識を向けざるをえない。

 文句を言ってやりたい。でも紫がアイツの行動を優先させているから口を挟めないのだ。

 本当にイライラする。

 

「……なぁ、霊夢。紫苑は何やってんだ?」

「私が知るわけないでしょ」

 

 私と魔理沙は紅魔館前でアイツの様子を眺める。他にも紅魔館の面子、それとアイツにくっついてる姿をよく見かける古明地こいしもいた。

 無意識の妖怪に聞いても「きっと面白いことだよ!」としか言わないから、私は余計なことをしないように見守るだけ。

 

 そして弄ること数分。

 アイツはテレビをつけた。

 幻想郷でも香霖堂などでテレビを見たこともあるが、あれとは違って画面に色がついている。にゅーす?を見るためにアイツは使うらしい。

 

「紫苑、何してるんだぜー?」

「ちょいと友達とゲームを、な……」

「それでゲームできるのか!?」

 

 楽しいことが大好きな魔理沙は興奮したようにアイツの返答にワクワクしながら観察していた。そもそも友達とゲームをすると言ってはいるが、ここにアイツの友達はいないし、どうやってゲームをするのだろうか?

 僅ながら私も興味を持つ。

 アイツは何かしらの機械に手をつけた後、座椅子と水分補給用のペットボトルを持ってくる。座ると同時にこいしが彼の元へ移動したので、私たちもそれぞれの方法でアイツの近くに集まる。

 

「あー……あー……聞こえるか?」

「アイツ誰に話しかけてんの?」

「お兄様が耳に着けてる機械がイヤホンマイクって言って、遠くの人ともお話ができる機械だよ。遠くの人とも遊べるオンラインって形式で遊ぶんじゃないかな?」

「ちょっと待ってフラン。貴女いつの間にそんな知識を」

 

 私の小馬鹿にした発言にフランが説明を入れ、それにレミリアが焦ったように反応した。姉として現代知識で完全に劣っている現状に、物凄い危機感を抱いたのだろう。おもに威厳がどうのこうのって。

 しかし……なるほど、遠くの人間とも会話できる機械か。

 あそこまで小さい機械なのに、とても便利な機能がついているようだ。

 

「おーっす、ルーム作るわ……え?……シャッフルで良くね?……ふーん……あー……それな!……OK、それでいこう」

 

 ……たぶん友人とやらと会話しているんだろうけれども、一人で何か喋っているようにしか思えない。ぶっちゃけ頭のおかしい変人みたいだ。

 その視線を悟られたのか、手元の薄い機械を操作する家主。すると他の人間の声が私たちにも聞こえるようになった。フラン曰く『スピーカーモード』に変更したらしい。

 

『どれ使おうかなー、もうオールランダムでいいかな?』

『ZZ使うわ』

『確かX3が上方修正されたとか……』

 

 もしかしてコイツ等が、あの馬鹿が幻想郷の存在を教えた奴等なのだろうか?

 

 

 

「あ、この会話こいし達も聞いてるからな」

『『『りょーかい』』』

 

 

 

 なるほど、コイツ等か。

 

「……ねぇ、フラン。紫苑は何のゲームをやってるの?」

「うーん……自分の選んだものを自由に動かして戦う『アクションゲーム』かな? ほら、お兄様は弾幕ごっこできないでしょ? でもあのゲームなら弾幕ごっこみたいな遊びもできるんだって」

 

 つまり現代の人間は『弾幕ごっこ』が出来ない代わりに、このような自分で操作することのできる機械を使って、弾幕ごっこのようなゲームをする、と。この自由度の高いゲームにはルール内で相手を倒すと勝てるらしい。

 彼等はゲームのルールを破ることは出来ないし、ある意味私のような監視役の存在は必要ないのだとか。

 実に合理的だ。

 

 そして幾つかの会話と雑談の終わって、そのゲームが始まる。2対2で相手を複数回早く倒した方の勝ちで、複数の人形の機械を操って戦う。

 戦闘開始――

 

「うぉい!?」

『チッ、外した』

 

 と同時に放たれる極太のビーム。それはアイツの操作している機械を狙っていて、ギリギリのところで回避した。太いビームは魔理沙のマスタースパークのようで、当の魔理沙は目をキラキラさせて興奮していた。

 これ魔理沙の好きな分野じゃないか。

 他の面々も興味深げに観戦している。

 

『紫苑前出て、僕は龍慧押さえとく』

「あいよ」

「紫苑! 紫苑! アイツみたいなマスパ出せないのか!?」

「俺の機体は接近格闘なんだけど」

 

 とか言いながらも、今度は小さな機械が家主のアイツにビーム攻撃を放ってくる。

 ふわりと浮き上がって回避する様を、パチュリーは目を見開いてブツブツと独り言のように考察する。あの攻撃に何か思うことがあるらしい。

 

「自立型の攻撃、ね……動かずに相手を牽制できるし、当たれば相手を麻痺させることも可能……スペルカードで再現できないかしら?」

「投げたナイフを爆発させる……」

「あの蝶みたいな攻撃は何て優雅なの……!? 後で真似してみよ」

 

 それはパチュリーだけじゃなかった。これを観戦している全員が、その美しい弾幕のような攻撃の数々に魅了されていたのだ。悔しいけれど私も参考になるような場面もいくつかあった。

 ただの人間がよくここまで弾幕のような攻撃手段を思い付き、それを小さな画面で再現できたものだ。現代の技術は河童とは別の方向で進化しているのだろう。

 ゲームが終わったあとも、魔理沙は今までにないくらいの笑顔だった。

 

「あれ私にもできるのか!?」

「ゲームは無理だろうけど、その弾幕ごっこの参考になるもんは沢山あるんじゃないかなぁ。適当にアニメなり特撮なり見ればいいんじゃね?」

 

 アイツは適当にテレビを見ることを促す。

 この出来事以降、幻想郷の住人がテレビを見始めるのだが――これが大きな変革をもたらすことになろうとは。

 

 

 

 私は予想もしなかった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 現代では人が成長する過程において、テレビやネットなどの情報を得るための媒体は非常に重要なものとなっている。その人の性格や知識などに大きく関わってきたり、その後の人生の方針などの参考になったりと、読者の皆様なども差はあれど見に覚えはあるのではないだろうか?

 故にメディアリテラシーなどの問題も発生するわけだが、そこら辺は今は置いておこう。

 大事なことは漫画から教えてもらった。純文学の○○に感化された。ニュースを見ていて事件を知った。色々あると思う。

 

 さて、話は変わるが幻想郷の住人もテレビを見始めたようで、リビングを多いに賑わせている。

 先程の事例は妖怪や魔法使いにも当てはまるようで……

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 

 ワンシーンも逃さないという雰囲気を醸し出しながら、幼女組+αは金曜日のゴールデンタイムにある映画を鑑賞していた。ほら、ジブリって人の心を豊かにさせてくれるじゃん?

 まずテレビが珍しい環境で育ち、見たことも聞いたこともない設定の番組が二十四時間流れる情報媒体。それだけでも彼女等がテレビにハマる理由はでき上がっている。

 

 映画のコメディシーンはこいしと魔理沙が大笑い、シリアスシーンを霊夢とさとりが食い入るように見つめ、心地好い音楽が流れるシーンでは咲夜や美鈴が聞き入り、ラストシーンでアリスやレミリアが涙する。

 この約二時間でも彼女等は満足するのだ。

 他種族なので理解できない場面があっても、それでも分かるところを全力で楽しむ。

 

 もちろん彼女等だけではない。

 他の幻想郷の住人も、何の番組を見ればいいのか、時折だが質問しに来る。こいしやフランのように自分で調べる手段のない小人達。

 

「何か植物に関する番組はないかしら?」

 昼頃の園芸関係の放送を勧めた。

 

「私は歴史に興味があるのだが……どのようなものを観ればいいのか分からない。教えてくれないか?」

 深夜帯にある歴史系番組を教えた。

 

「現世の治世について知りたいです」

 ニュースやゴールデンタイムの政治関連番組を紹介した。

 

「その、仏の教えを伝えているような番組は……」

 深夜帯の歴史系番組の中で、仏教やってそうな日付を指示した。

 

 あるときは紹介した番組を見て満足し、またあるときは自分が思っていたのと違うという感想を戴いた。俺自身そこまでテレビを見ない人間なので、途中から新聞を取り始めて幻想郷の住人達に渡したぐらいだ。

 『テレビ視聴異変』と揶揄されるレベルに流行ったが、不思議とチャンネル争奪戦争は起こらなかった。それぞれが見る分野が違うのも理由の一つなのだろう。裏で誰かが調整していたのかもしれんな。

 テレビ見過ぎるなよ……と俺が注意することもなかった。自分の興味のない放送は見ないのが幻想郷の住人。まぁ、金曜の映画は基本的に多くの小人が集まったけど。

 

 テレビを放映するのは人間だ。

 中には妖怪や神様が首を傾げる表現もあったのだろう。

 

 けれども――小さい妖精や妖怪の子供達は口を揃えて後に述べたと言う。

 

 

 

 大事なことはテレビで教わったと。

 

 

 

「クリリンのことかあああああああああ!!」

「目がああああ!! 目がぁあああああ!!」

「ゴオオオオオオオオオオオッドフィンガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ハルトオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

 余計なことを教えるのもテレビだな。

 

 

 

 




裏話

早苗「おぉ! ガンダム! ザク! ジム! ガンキャノン! ガンタンク!」
紫苑「ちょ、早苗?」
早苗「これ自分の手で動かせるんですか!? 凄いです! 楽しいです!」
未来「なんか初代好きだね、彼女」
紫苑「それな」

 ――後の『ガンタンク早苗』である。

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