俺の家が幻想郷   作:十六夜やと

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お久しぶりです(*`・ω・)ゞ


2章 幻想郷の日常
16話 お仕事


 学生たるもの勉学が本分。

 例え心の中では『学校に隕石落ちねぇかな……』なんて思っていたとしても、それが叶うことなど机上の空論にすぎないのだから、おとなしく課題をこなすのが賢い選択だと俺は思う。特に可能かもしれない幻想郷の住人に何ぞ口が裂けても言えない。

 フランドール・スカーレットのように〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕なんて規格外のチート能力を持ってる住人もいるのだ。下手なことを言って取り返しがつかなくなることなんて、この世には腐るほど存在するのだから。

 

 というわけで俺は休日に学校から出された課題を黙々とこなす。

 国語・数学・英語は当然のこと、他の科目も『宿題』が出されている。学校の授業だけでは足りないとこや、覚えて欲しいところ。そういうのを課題として先生が用意するのだ。仕方ないが受け入れなければならない。

 だが物理。テメーはダメだ。

 

 よし、BGMでもかけなければヤル気が出ない。

 ちょうどいい雑音が、かえって集中力を増加させるって龍慧の祖母(ばっちゃ)が言って――

 

 

 

 

 

『あー……魔理沙、もうちょい左上』

『ちょっとフラン! 丁寧に運びなさい!』

『レミィ、次はここに訂正のシールを貼る作業よ』

『……私の刀はシールを切るために使うものではないのですが』

 

 

 

 

 

 BGMいらねぇか。

 恐らく後ろで行われているであろう、幻想郷の協力的な住人による『シール貼りの内職』に嘆息しながら苦笑いを浮かべるしかなかった。彼女等も真剣にやっているのだから、笑うのは不謹慎だと思うけれど……そこは多めに見て欲しい。

 試しにチラッと後ろを確認してみると、十人そこらの小人達が騒がしく封筒にシールを貼っているのが見えた。遠くから見て指示を出す者、封筒の束を運ぶ者、仕事の整理をする者、シールを分割する者――人一人でするはずの仕事内容を、可愛らしい(物理的に)小さな女の子達がワイワイ作業をしているのは癒しとも呼べるだろう。

 生活費のためだからね。そりゃ真剣にもなる。

 

 俺が嬉しく思う背景には、この仕事を提供してくれたアホ共の働きもある。

 ネットで内職の簡単な仕事を探してみたのだが……何ともまぁ『詐欺まがいの広告』の多いこと。そして内職の仕事が思ったより少ないことも判明し、加えて信憑性も確かではないことから頭を抱えていた。俺は高校生。メディア・リテラシーの乏しい俺は内職の求人を選べなかった。

 しかし、内職言い出した未来が当てもなく言うはずがない。アイツ経由の親戚の仕事場での紹介で、封筒や商品に値段やバーコード、訂正のシールを貼る仕事を持って来てくれたのだ。持つべきものは友である。仕事を斡旋してくれたことに、紫も感謝していた。

 ん? どうして俺の部屋で彼女等が仕事してるのかって?

 ここに荷物が置かれてるからだよ。俺の部屋は仕事部屋じゃないのに。

 

 それでも彼女等の雑談は俺の勉強の妨げになるほどではない。

 誠に遺憾ながらも許可してる。

 

「見て見て! 上手く貼れたよ!」

「お兄様! 私のも見て!」

「ほー、よくできてんじゃん」

 

 コイツ等を除いては。

 ここまで飛んできて封筒のシールを見せびらかす幼女達に、内心は溜息をつくも外面に出さずに対応する。勉強の邪魔はしないでほしいなと考えるが、よそ見していたこともあり強く言えない自分がいる。

 あんな単純作業を彼女等が喜んでする理由を知っているだけに、こいしとフランの笑顔が余計に眩しい。

 

 自分達の食い扶持は自分で稼ぐ。

 幻想郷の賢者様はそう言って未来の持ち込んだ仕事をこなしているのだが、紅魔館メンバーと神社勢のヤル気は非常に低かった。手伝ってくれるだけマシ……と紫は諦めかけていたが、つい先日転機が訪れる。

 きっかけは平日に俺が朝に歯を磨きながらリビングのテレビでニュースを確認していたとき。とある新幹線の玩具を紹介していたCMを紅魔館組と姦し娘達が見てしまったのだ。食い入るようにCMを見ていた彼女等に嫌な予感がして、俺が風呂に入ってる間に無意識幼女がPCを用いて情報収集。

 そして幼児組を使ってのアピールを始めたのだ。

 

 

 

 

 

『お兄様! 鉄道敷いていい!?』

『俺ん家をアミューズメントパークにするつもりか?』

 

 

 

 

 

 呆れた俺だが幻想郷の住人には物珍しい鉄道。

 子供使って催促してくるのは嫌らしいなぁと感じたけれども、モチベーション向上のために後日紫からも提案された。彼女等の稼ぎの範囲内で敷くと言ってたし、邪魔にならなければと俺も許可した。どうせ俺の財布から諭吉が消えないんなら問題ないし。

 小人化してる彼女等にとって、鉄道の玩具は物資移動の助けにもなる。玩具程度で物が運べるのか?と意地悪な質問もしてみたが、どうやら機械弄りの好きな妖怪にアテがあるらしい。何でもアリだな、幻想郷の奴等ってのはさ。

 俺も見てみたいと思ったのは内緒だけど。

 

 それにしても幻想郷の賢者様は理解してるのだろうか。

 ……プラレールを家中に敷くとして、どのくらいの金が必要なのかを。

 

「鉄道早く見たいね、こいしちゃん!」

「そうだね!」

「「ねー!」」

 

 なんて現実的な話を彼女等の前で話すわけがないが。

 子供の夢を目の前で粉砕するほど、俺の性根は腐っていない。いや、彼女等の方が年上なんだろうけども、重要なのはそこじゃない。

 

 それにしても食い扶持だけじゃなく鉄道網を家中に敷くとなると、リアル程ではないにせよ結構な金がかかるような気がする。内職程度では余程頑張らないと、そういう余裕を作るのは難しいんじゃなかろうか。

 紫のことだから抜かりはないと思うけどさ。

 そこんところが俺は気になった。

 

「そのシール貼りの仕事、一ヶ月で幾らぐらい稼げるのか知ってるか?」

「ふん、馬鹿ね。そのくらい知ってるわ。これだけ私が頑張ってるのよ?」

 

 振り返りながら幻想郷の住人に尋ねてみると、代表して霊夢が俺を小馬鹿にしながら自信満々で宣う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽く5000兆円ぐらいでしょ?

何夢見てんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず真顔でツッコんでしまった。

 内職程度で月5000兆円稼げるのなら、この国のインフレが目に見えそうだ。つか実質経済破綻だよ。ジンバブエドルじゃねーんだぞ?

 その事実に幻想郷の住人が「なん……だと……」と、作業を中断して俺を見上げる。漫画なら劇画タッチになってそうなくらい、一部除いて皆が凄く驚いていた。

 

 そこでスキマから現れたのは大賢者様。

 右手に胃薬を携えながら、仕事をしていた幻想郷の住人達の近くに現れる。スキマから上半身だけ覗かせている感じだ。

 最近は扇子片手に優雅な貴婦人を連想させる姿よりも、向日葵の種の代わりに胃薬をボリボリかじるハムスターのイメージが強くなりつつある八雲紫は、雰囲気だけは幻想郷のリーダーを思わせる態度を示す。

 

「どう? 仕事は捗っているかし――」

「ねぇ、紫!? どういうことなの!? これで5000兆円稼げるんじゃないの!? お賽銭ガッポガッポになって私ウハウハになるんじゃないの!?」

「ちょ、霊夢……苦し……!」

 

 胸ぐら掴んで紫をスキマから引きずり出し、ブンブン振り回す博麗の巫女様。

 遠心力により生まれる砂嵐が小宇宙を産み出すわけがないけど、ソレに近いレベルで霊夢は振り回し、とにかく彼女の食べた胃薬を吐き出しかねん勢いに、俺がストップをかけた。

 つか他の連中見てないで助けろよ。

 

「なぁ、この仕事をすれば私達が働かなくて済むくらいのお金が手に入るんじゃなかったのか?」

「は? そんなわけないでしょう? こんな仕事程度で一生分の資金が集まるなんて、幻想郷でもあり得なかった筈よ。ここでも一緒」

 

 魔理沙の発言に正論で返す紫。それに白黒魔法使いはぐぅの一言すら返せなかった。

 良かった。幻想郷の経済事情を知らない俺からして見れば、くっそ簡単な仕事でポンと大金が手に入る楽園にコイツ等住んでたんじゃないかと錯覚してしまった。それか盛大なインフレを起こしているのかと。

 むしろ何で5000兆円貰えると思ったのか。

 

 紫も同じことを思ったらしく、幻想郷メンバーを見渡しながら「誰がそんなこと言い出したの?」と問い質す。

 俺も気になって椅子に逆方向に座り、背凭れに腕を回しながら事を見守る。両肩にはそれぞれ天使と見間違うほど可愛らしい妖怪が鎮座している。

 

「え、霊夢が言ってたから……」

「魔理沙が旨い話があるって……」

「妖夢に紹介されて――」

 

 と、アリスから始まり盥回しに名前を連ね、最終的に紅魔館の主で止まった。

 コイツか。

 

「貴様か、かりちゅま吸血鬼」

「その呼び方は止めなさいっ! ……え、だって私が働いてやってんのよ? そのくらい貰えるんじゃないの?」

「んなわけないでしょ!?」

 

 吸血鬼やべぇ……金銭感覚やべぇ……!

 その発言に俺は吸血鬼の本当の恐ろしさを思い知って真っ青になり、紫はレミリアおぜうさまに怒鳴る。

 

「じゃあ幾ら貰えんのよ」

「……基本的に出来高制だから、ここにある分を作ったとして一万そこらじゃないかな? 追加で発注先から送ってくるようだし、君達の頑張り次第だと思うけど」

「「「「「少なっ!」」」」」

 

 確かシール貼り一セットで二円換算だった気がする。内職なんてそんくらいだろ? 外に出なくても稼げる反面、安定しないし低収入ってのが内職のデメリットなんだから。

 俺より稼げたら今のバイト辞めるわ。

 暇なときシール貼ってるわ。

 

 レミリアおぜうさまの勘違いにより気力をなくした幻想郷メンバーだが、どうせ働かないと飯が食えなくなると紫が何とか説得して仕事を再開する。

 それでも文句を垂れる博麗の巫女。

 

「あー、やる気でないわー」

「頑張れー」

「うっさいわね、アンタも手伝いなさいよ」

 

 棒読みで応援してやると、霊夢は半眼で俺を睨んできた。彼女はキレ気味で手伝いを示唆するが、俺は反転して椅子に腰掛け、顔だけを彼女達に向けて笑うのだった。

 

「学生の本分は勉学だから、これが終わらないと手伝えないんだよねー。そんなに面倒なら仲間数増やせば?」

「働かざる者食うべからず、じゃないの?」

「残念、俺だって稼いでいるんだなぁ。君達の仕事を手伝わなくても、食費は自分で払ってるわけですよ」

「……幾らよ」

 

 俺も無職で偉そうに言ってる訳じゃない。

 実際に俺の帰りが遅いときはバイトをしているわけで、霊夢は悔しい気持ちをこらえながら月給を聞いてくる。えっと……時給が○○○円で、週○で入ってるから……。

 頭の中で大まかな計算をした俺は、顔を向けずに答えるのだった。

 

 

 

「ざっと五万くらい?」

「むきぃぃぃいいい!!!」

 

 

 

 この県の最低賃金は全国平均と比べても遥かに低く、割かしシフト入っているが時給が低くて稼げない。それでも内職よりは収入は多い。

 そのことに霊夢は奇妙な唸り声を上げて、いつもの不仲な光景に幻想郷の住人は微妙な反応をするのだった。

 

 俺を働いていない風に罵倒した霊夢へのちょっとした意趣返しだが、ぶっちゃけ俺のバイトは忙しいんだぜ? 田舎の飲食店の給料に見合わない仕事量は本当に洒落にならん。土日祝日なんか特にそうだ。

 飲食店とコンビニバイトはブラック。

 これが俺の周囲の人間の共通認識だ。逆に内職を羨ましく思う俺だった。

 

 

 

 

 

「もう、咲夜! どうして教えてくれなかったの!?」

「……お嬢様が自信満々で言う姿が可笑し――可愛らしくて」

 

 

 

 

 

 貴様もか。

 

 

 

 




紫苑「太字導入しました。見やすいかな?」
こいし「ねーねー、どーしてブラックな場所で働いてるの?」
紫苑「その理由は後々出てくると思うよ」
こいし「そっかー」
紫苑「一番の理由は作者のバイト先が、ねぇ?」
こいし「( ´_ゝ`)」


紫苑「余談だが作者が小説投稿初めて一年が経過する」
こいし「よく続いたねー」
紫苑「んなわけで何か企画を考えてるわけでして、活動報告欄に『企画募集』してる。全部やれるとは思えないけど、何かアドバイスを頂けると嬉しい」
こいし「感想欄に書くと消されちゃうからね」
紫苑「ついでにTwitterのリンク先も乗っけとく。投稿のお知らせとか呟くから是非見てね( ・`д・´)」
こいし「唐突だね!」


https://mobile.twitter.com/1735yato

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