アホ共の会話→異変前兆→異変→アホ共との反省
を恒例化しようかと思います。
何事も『反省』が必要である。
とまでは言わないにせよ、何らかの言動を完璧に遂行する人間は非常に珍しい。ましてや俺は学生。成人未満の若造が過ちを犯さないとか気味が悪いにも程がある。
失敗すりゃ反省。
成功しても反省。
人類の歴史は反省で積み重なっている。それが生かされるかどうかは別として。
「――って決まったわけよ」
安定の放課後。
三者面談の期間が終わって憂鬱な授業が再開され、放課後も変わらず美術部で無駄な時間を過ごしていた。俺は紅霧異変……なんか
一つの机を囲んで、現在俺達は立ちながら話し合っているのだ。こいしは勿論机の上で見守っている。
どうして立ちながら話し合っているのか。
答えは机の上にあった。
「っと、ほい」
「ちょ!? 紫苑テメェ! 変な置き方すんじゃねェ!」
「ヤバいヤバいヤバいヤバい! 次僕の番だよ!?」
「……どうしましょうかねぇ。ふふっ」
ジェンガしてます。
四人で囲んで遊んでいる『ジェンガ』とは、同じ大きさの直方体パーツを組んで作ったタワーから、崩さないように注意しながら片手で一片を抜き取り、最上段に積みあげる動作を交代で行うテーブルゲームである。パーツは最上段を除きどこから抜き取っても良いが、最上段に3本そろわないうちにそのすぐ下の段から抜き取ってはならないルールがある。タワーを崩した人が負け。余談だがパーツはそれぞれ極僅かに厚みが異なっており、元々『ジェンガ』という語はスワヒリ語で『組み立てる]という意味の『クジェンガ』に由来している。
いまやってるのは54本の直方体パーツを縦横に3本ずつ組み上げた18段のタワーだ。
不安定なバランスが奇跡的に保たれている現状で、無意識幼女が見守っているのはコレである。俺が抜き取ったパーツを雑に置いたので少しタワーが揺れている。
だから他のアホ共が騒いでいるのだ。
未来が息を止めて新しいパーツを抜き、最上段に置きながら口を動かす。
「あぶなっ……まぁ、後頭部強打だけで済んで良かったじゃん。その吸血鬼ちゃんに紫苑そのものが壊される可能性だってあったし」
「それな。小さくなってるからって油断するとヤバいって痛感したぜ」
「あのガキがンな危ねェ奴だったとはな……姉の行動も間違っちゃいなかったンじゃねェの? つか再度閉じ込めなくて良かったのか?」
あれだけ騒いでおきながら、スタイリッシュにパーツを片手で抜く兼定。その技術が他で生かされる日が来るかは定かではないが、こいしは手を叩いて喜んでいた。
美術部の暗黙の掟『無駄なことは真剣に』を忠実に守っているので良しとしよう。他に『卑怯・汚いは敗者の戯言』ってルールもある。
さて、さらりと兼定が問題提起したから反論することにしよう。俺たちの間ではよくある光景だ。
俺は鞄から購買部で買ったパンの袋を開けながら舌打ちする。この時間になると不思議と腹が減るのは、高校生だとよくあること。ほら、同じように兼定もパンを開封してるし。
「臭いものには蓋をしろってか? 小さい子相手に非情にも程がある」
「甘ったれるな。臭いもンに蓋理論は日本社会では常識みたいなもンだぞ。少数を犠牲にして多数を救う、異質は全力で排除する。綺麗事は必要ねェ。皆でお手手繋いでゴールの世の中で、出来ない奴に人権なンぞ与えられるかよ」
「今まで誰とも関わらずに過ごしてきた少女に、また地下室ニートに戻れなんて俺なら言わねぇ。散々彼女は我慢したんだからひょっとふはひひゆゆははっへほひひひゃはいは」
「別にテメェのことだし解放したきゃ構わねェけど、小さくても危険な妖怪なのは事実だろ。フランドールだっけか。逆に能力暴走して他者を殺したら、ほへほほへほはへはへはいはほふは」
「食べるか喋るかどっちかにしたら? 真面目に論争するんならさ」
未来が呆れながら肩をすくめるが、俺と兼定は首をかしげるだけだった。両方とも口の中にあったパンを飲み込んで、
「「え、真面目にしてるとでも?」」
「……うん、知ってた」
真顔で言い切るのだった。
このようなノリに未来は白目で理解を示す。これが赤の他人なら口の中に物を入れながら話すなんてことは絶対にしない。『親しき仲にも礼儀あり』ってことわざがあるが、この程度の無礼なら日常茶飯事だ。
さっきの論争だって冗談だってのは互いに理解している。俺が感情的観念から、兼定が論理的観点から発言するのだから、どちらかが折れない限り決着はつかない。ぶっちゃけ兼定が何を言おうが俺がフランを閉じ込めないし、個人的に被害はないのだから兼定は強く言わない。
つまりはそういうことである。もちろん未来も分かってて止めてるので、龍慧もニコニコ笑いながらパーツを取ろうとする。
やっぱ仲の良い連中とじゃないと今のようなことはできないよね。腐れ縁だけど。
「さて――ふっ!」
龍慧が一番下のパーツを中指をバネのようにして弾く。もちろん一番下の三本は最初から俺と兼定によって一本しか残っていない。
パーツは銃弾のように吹っ飛び、だるま落としの要領で上のタワーは綺麗に保ったまま着地した。弾かれたパーツは使っていない隣の机の角に当たってくるくると上空に躍り、パーツは龍慧の元へ落ちて行く。計算された洗練された動きで龍慧は弾いた方の手でパーツをキャッチ。
「「「「おー」」」」
やっぱりジェンガガチ勢の技はキチガイじみてるわ。
パフォーマンスとしてなら十分と言える特技で、こいしなんかが特に机の上で跳び跳ねながら楽しんでいらっしゃった。龍慧はこいしに向かって仰々しくお辞儀することも忘れない。
これが俺たちのジェンガである。
さて、俺の番だが……どうしようかねぇ。
不安定なタワーを睨んでいると、水分補給している年上のアホがこいしを眺める。
「幻想郷の新しいルール、決まったようですが穴が多々あるようで。紫苑のことだから何か考えがあるのでしょうが、聞いてもよろしいでしょうか?」
「考えてるも何も今の限界がコレってだけ。紫から他住人に話してくれるらしいけど、こりゃ施行して実際に過ごしてみないと分からん」
またもや不安定な場所のパーツを抜いて未来が発狂する。コイツはジェンガ苦手だからな。
俺の説明だけだとイマイチ伝わらない可能性もあるので、まとめた内容をグループLI○Eに張り付ける。それぞれスマホに張られた内容を確認していた。
驚くことなかれ。実は集まっているメンバーの中で一番成績が良いのは兼定である。現代文の如く流し読みで先に内容を理解した外見不良少年は、考えるように唸った。
未来は呼吸を止めてパーツを恐る恐る引き抜いている。
「……悪かねェが、不安要素の多いルールだなァ。俺様だったら今載ってるコレの三つ四つを悪用できるぜ?」
「どんなのどんなの!? 教えて!」
「誰が教えるかよ」
幼女の質問を切り捨てる不良。
この反応は分かりきってたことだが。
「何この心臓に悪いゲーム……紫苑の部屋へは入室OKになったんだ。そこら辺は譲らないと思ってたんだけど」
「許可さえあればな。禁止したらしたで余計に面倒になりかねないから、いっそ許可制にしたってわけだ。下手に縛ると燃えそうな連中なんだよ……」
「僕もそのタイプだネ」
「死ねばいいのに」
それでも呑気に笑う未来。よし、次は際どいところにパーツを置くか。
冗談はさておいて、許可制にしたけど許可なしに入れる幻想郷メンバーも存在している。こればかりは俺が折れて、紫も渋々納得していた。
「おにーさんの部屋で寝ても怒られなくなったよ!」
「通報」
「待てやコラ」
純粋無垢にニコニコ笑うこいしの発言に110しようとした未来にスカイアッパーを喰らわせて、俺は頭をかきながら溜め息をつく。
仕方ないやろ。いつ入ったかも分からんのだから。
「あれ、リビングやキッチンも解放されてる?」
「それが今回の異変での補填だろうなー」
「良かったではありませんか」
スカイアッパーをものともしない未来がルールの一部を見て驚く。散々な目に遭った俺が、唯一得をした部分と言えば『家主はリビングとキッチンの利用を自由にできる』の一文だろう。
ルールができる前に起こった異変だから罰則は与えられなかった紅魔館だけれども、それでも無罪放免は幻想郷の賢者的に納得できなかった紫が、紅魔館勢の領域は自由に使ってもいいわよね?みたいな感じで解放してくれたのだ。紅魔の主も(半強制的に)首を縦に振ってくれた。
これで不規則極まりないコンビニ弁当やらカップラーメン生活が幕を閉じ、最近は気合い入れてキッチンに足を運んでいる。
「テメェの料理はプロ顔負けだからなァ」
「無駄に美味しいからね」
「無駄は余計だ」
滅多に他人を誉めない兼定からの御言葉。
自慢ではないけれど、俺は料理だけは多少の自信はある。下手な飲食店で出てくる飯より美味しいものは作れるはずだ。
数少ない俺の特技の一つだし。
ちなみに三者面談の学校から早く帰る期間に――つまりコイツ等と顔を会わせる前に、一部の幻想郷メンバーに料理を振る舞ってみた。そこの無意識幼女と金髪吸血鬼、桃色の食欲魔神とスーパーまで買い物に行き、日本人の大半が大好きなカレーを作ってみたのだ。
インスタントじゃない。スパイスから何やら厳選してルーから作る本格的なやつ。
元々は買い物についていった三人が俺の飯を食いたいと話になり、姦しい博麗神社勢にも振る舞ったわけだが……
『これ美味しー!』
『お兄様って料理上手なんだね!』
『………(モグモグ)』
『ふーん……まあまあなんじゃないの』
『何これっ、美味っ!?』
『や、ヤバい。美味し過ぎて太るかもコレ』
好評だったらしい。
暑っ苦しいアホ共とは違って、可愛い女の子達に喜ばれるのは嬉しいもの。幼女勢を考慮して作り慣れない普段より甘めのカレーだったが、お気に召されたようだった。
幽々子は二皿分のカレーを軽く平らげたが。
あれ普通なら物理的に無理なんじゃねーの?
こうしてキッチンの所有権は奪還することに成功した。オマケにリビングも得たので、○点も見れるようになったのも大きい。皆も観てみてよ、笑○。
紅茶の茶葉も献上して紅魔の主とも和解できたし、異変で得たものはプラスだったんじゃないだろうか。
「そして内職要員も増えた、と」
「そういうことになるな。いやー、そのうち俺の懐から金を出さなくて済む日が来ると思うと待ち遠しいぜ」
「料理を食わせて仲間を増やすRPG」
「ゲーム要素どこだよ」
またもや手品のようにパーツをかっさらっていく龍慧。それ言うなら『飯で釣って労働要員を徴収するRPG』の間違いじゃ?
ブラック漂うキャッチフレーズだ。
そろそろ自分が適当に重ねてきたツケが回ってきたようだ。少し衝撃を与えただけで崩れそうなタワーから、パーツを抜き取って上に置く。
ギリギリってレベルじゃないぞ。
「糸口が見つかって良かったですね。私達も紫苑の料理を集りに……頂きにお邪魔できそうです」
「つっても連中が自力で稼げるまでは油断できねェな。どう見繕ってもテメェの支出が上なんだしよォ」
「ルールも完全じゃないから今後が勝負所か。こんだけ苦労して序の口とか笑え――」
ガラガラガラガラ
崩れ落ちる不安定だったタワー。
机を転がりながら落ちてきたパーツを回避する緑髪の少女と、瓦礫の山と化したタワーの前に立つ未来。
「「「「「………」」」」」
一時期の無言の後、俺達は未来に頭を下げるのだった。
「「「ごちになりまーす」」」
「くそおおおおおお!!」
今日の飯代が浮いた。
紫苑「異変終了。次からほのぼの日常回だな」
龍慧「ドタバタ騒がしい日常回なのでは?」
紫苑「そうなりそうだよなぁ」
龍慧「話は変わりますが」
紫苑「突然だな」
龍慧「そろそろ作者が小説投稿始めてから一年が経つそうですよ」
紫苑「もうそんな時期か( ゚σω゚)」
龍慧「何か特別企画したいですな( ゚σω゚)」