俺の家が幻想郷   作:十六夜やと

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お久しぶりです(`・ω・´)ゞ
この前の活動報告の通り、このまま話を進めたいと思います。
では本編をどうぞっ。


14話 問題と答え

 とても懐かしい夢を見た。

 ……懐かしい? 分からない。

 

 視点が低いから、俺が小さい頃の場面なのだろう。

 しかし、俺にはその光景に見覚えがないのだ。だから自分が何歳なのかが特定できないし、そもそも今立ってるところがどこなのかが分からない。

 自分に身に覚えのない光景。

 それでも――会話は進んでいく。

 

 

 

『……君が私を助けてくれたの?』

『ん? そうだよ』

 

 

 

 どこかの公園のベンチ。

 それに座って居るのが女性だとは認識できるのだが、首から上に陰りがかかっていて誰なのか判別がつかない。こう……どれだけ凝視しても、逆にどんどん分からなくなっていく不思議な感覚。どこかで聞いたことのあるような声? それとも初めて聞いた?

 記憶が酷く混乱している。思い出そうとしても何故か思い出せない。

 

 

 

『君の名前は?』

『僕? ■■紫苑だけど……』

『そう……綺麗な名前ね』

 

 

 

 もはや自分ですら忘れていた名前。どうして忘れていたのだろうか。

 小さな少年(自分)の口から発せられる家名は、今の両親に引き取られる前に名乗っていたもの。

 この女性と会ったのは本当の両親が健在だったころの話なのか? 少し出も思いだそうと現在の状況把握に努める俺。

 

 

 

『おねーさんの名前は?』

 

 

 

 よし、ナイス昔の自分。

 名前さえ聞ければ糸口が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私は■■■■■の■■■よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この記憶のセキュリティ硬ぇなオイ。

 彼女が名乗った時だけ耳に流れるのは酷い雑音。彼女がどこの誰なのか、少年は『そうなんだ!』と納得しているが、俺としては何一つ理解していない。

 おい、昔の俺。ちょっと彼女の名前復唱しろや。

 

 

 

『おねーさんは……どこの人?』

『■■■ってところから来たの』

 

 

 

 お前は『おねーさん』で通すのか、そうなのか。

 ちくしょう。ヒントくらい寄越せよ紫苑jr。

 

 出身地すらも雑音が混じって聞こえない。

 彼女の声は聞こえる。どこか温かみのある、妖艶で不思議な声色。確か龍慧が『美女は美しい声をしているものです。なぜなら、骨格が整ってるので、美しい声を出しやすいんですよ』とか無駄知識を披露していたが、あのアホの言葉を参考にするのなら、彼女はきれいな顔立ちをしているのだろう。

 ……ならば、なぜ思い出せない? 首から下は見えることに加えて、声まで聞こえる。判断材料なら腐るほどあるのに、記憶の片隅にも引っかからないのは不可思議にもほどがある。

 まるで思い出すのを阻害されている(・・・・・・・)ようで――

 

 その考えに辿り着いたとき、俺の視界がぐらりと揺らいだ。

 少年と女性は会話の途中なのだが、俺には何を言っているのか理解できなかった。おそらく現実世界の俺が起きるのだろう……たぶん。

 

 

 

『―――――』

『―――――』

 

 

 

 一つだけ分かったことがあるとすれば。

 そう遠くないうちに――彼女に会えそうな、そんな気がした。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 目を開けるとリビングの天井が見えた。

 ここで俺は脚立から受け身も取らず落ちて気絶したことを思い出す。打ち所が悪かったのだ――いや、むしろ良かったのか? 死ななかっただけマシと考えれば、腹立たしさが沸いてこない。

 ポジティブシンキングって大切だよね。

 

「お、紫苑! 起きたか!?」

「……魔理沙?」

 

 俺が魔理沙の声を認識すると同時に、白黒魔法使いは大声で他の住人の元へと向かった。

 起き上がって少し眩暈を感じたけれども、それ以外の違和感は感じない。外が暗くなっており、時計がカップ麺食っていた時より二時間ほど経過している。

 スマホを取り出して確認しても時間経過は同じだ。Twitterやソシャゲの通知が増えている。

 

 後頭部を摩りながら立ち上がって周囲を見渡し、そういえばミラーボールを取り外している最中だった現実が広がった。つまり倒れた脚立と転がってるミラーボールだな。ミラーボールは天井からぶら下げる部分が消し飛んだだけだったので、そこさえ直せばまた使えるようになるだろう。コレをまた使う機会があるのかは別として。

 天井にはまだミラーボールを支えていた部分が残っているが、今日はもう片付ける気にはなれない。脚立を元の場所へ戻そうとしていると、

 

「貴方、大丈夫なの!?」

 

 悲鳴に近い声が背後から聞こえる。

 振り返ってみると――

 

「ん? おっはよー」

「え、あ、あぁ。おはよ――じゃなくて!」

 

 少々怒り気味の幻想郷の賢者様だった。

 そこで初めてリビングの方の様子も窺えたのだが、スカーレット姉妹が正座をしているのがチラっと確認できた。今日はレミリアさんが正座をする日なのかな?と思ったが、半分は自分のせいなので口にすることはない。

 俺の目の前まで飛んできた紫は、手に持った扇子で俺の頭を叩く。痛みは皆無。

 

「そこの脚立から落ちたって霊夢から聞いたのだけれど、どこか痛いところはないのかって聞いてるのよ!」

「……机の角に頭をぶつけたわけじゃないし、本調子じゃないことを除けば大丈夫じゃねーの? 寝れば明日には普通に戻ってるって」

「……本当?」

 

 俺の弁明を聞いても尚、疑わしそうに半眼で睨んでくる紫。派手な落ち方をしたのは自覚があるから、後ろめたいことがなくとも彼女から目を逸らしてしまう。

 気絶までしたからなぁ。

 

 これ以上心配されるのも考え物だ。

 話題を逸らすために、一番気になっていることを半笑いをしながら紫に尋ねてみる。

 

「ははっ、んなことより俺の目にはスカーレット姉妹が半泣きで正座させられているように見えるが、あれ放っておいて大丈夫なのか?」

「あぁ、そのことね」

 

 露骨に話題逸らしてきやがった……という顔を一瞬見せたが、紫の顔つきが幻想郷の賢者に相応しいそれに変化する。その様子を見た俺も顔を引き締める。

 ルールを早急に決めていなかったツケが回ってきたわけだな。

 

「今回の異変は明らかに幻想郷の存続……最悪この家が全焼しかねない案件だった。それを踏まえると紅魔勢は幻想郷から追放するのが然るべき対応――なんだけど」

「幻想郷からこっちに来て数日も経ってない上、彼女達には火を起こすイコール家が燃え尽きるかもしれないなんて考えにくいもんだ。自分達の背が小さくなっているから、家の中にいるって感覚がないのも情状酌量の余地はあると思う」

「それ以前に私達は新幻想郷の詳しいルールを作ってないから、彼女等を裁く法がない」

「うんうん、それが問題」

 

 要するに俺達にも非があったわけだ。決めるのが難しいからって、後回しにしてきた結果がコレだ。

 彼女――フランドール・スカーレットの暴走も含めて、俺は考えや配慮があまりにもなかった。どーして俺がんなこと考えにゃいかんのか、と溜息の一つや二つもつきたくなるもんだが、巻き込まれたからには手探りにでも進まないといけない。

 かと言って紫に全部任せると、今回のように俺の家そのものに被害が及ぶ可能性もある。

 

 まぁ、今回の件は厳重注意に留めておくのが正解だろう。

 少しの会話のキャッチボールがあった後、そういう風に考えがまとまった。

 俺は彼女に今後の処理や通達を任せて、二階の自室へ戻ろうとする。

 

「あら、貴方もフランドールに言いたいことの一つや二つあるんじゃないのかしら?」

「こんな巨人に怒られるとか拷問レベルだろ。叱りつけるのは君達に任せるよ」

 

 自分よりも数百倍も大きな奴に怒鳴り散らされてみろ。フランのような精神年齢が子供な奴には一生もののトラウマになりかねない。レミリア含める紅魔勢や金髪娘達は別として。

 手を振りながらリビングを出ようとする俺を、心中を悟った紫は複雑そうな表情を浮かべながらも了承し、「面倒だから」という本音を言わずに厄介事から離脱する。全部任せるわけじゃないが、もう終わったことの後始末くらいは引き受けて欲しいところだ。

 

 玄関近くの荷物を回収して、二階の自室へと移動する。

 そこらへんの床に鞄を投げ置いた俺は、鞄の中からプリントファイルと筆記用具を取りだして、机の上に放り投げた。荷物を運びながら、課題プリントを配布されて提出期限が明日だったことを思い出したのだ。今は特に勉強などやりたくはないのだが、やらなきゃ怒られる。

 適当に洗って乾かした後の洗濯物の山から引っ張り出したジャージに着替えて、席に座りながら大きく息を吐くのだった。

 教科は数学。得意じゃないが苦手でもない科目。

 

 黙々と問題を解きながらも、独り言のように呟いては考える。

 そして聞きなれた合いの手。

 

「大問一問四、3x²-xの因数分解は……っと」

「x(3x-1)だね!」

「……そだね」

 

 いきなり机の上に現れて俺の解いていた問題の答えを声高々に述べ、胸を張ってドヤ顔をキメる無意識幼女。俺は彼女の答えを確認し、苦笑いを浮かべるしかなかった。

 俺と一緒に学校へ行っては授業を聞いていた古明地こいし。最初は全ての授業例外関係なく頭上に疑問符を浮かべていた彼女だったが、どうやら因数分解ができるようになったらしい。彼女のスペックが高かったのか、はたまた数学の先生の授業が幼女にも理解できるくらい分かりやすかったのか。

 どちらにせよ、恐らくこいしは今のところ幻想郷で一番、外の世界の知識を吸収しているんじゃないかと思う。

 できれば答えは胸の内に秘めて頂けたらよかったのになぁ……と思うのは贅沢だろうか? 

 

 こいしと一緒に楽しく(?)お勉強をすること数十分、センター入試の過去問らしき問題を解いていた時、控えめに自室の扉がノックされた。

 控えめに俺は聞こえたが、たぶんノックした人物は全力で叩いたんじゃなかろうか。

 

「どぞどぞー」

「……お兄様」

 

 扉を開けて入ってきたのは金髪幼女の吸血鬼。

 彼女の声を聞いた瞬間、俺はペンを止めてプリントの上に置き、扉が開かれた方へ向き直る。先ほどの失態は犯さんよ? 俺だって学習する生き物なんだぜ?

 話半分で彼女の話を聞くのではなく、幼き妖怪と面と向かって会話せねば。

 

「フランか、何のようだ?」

「え、えっと……その……」

 

 先ほどのようにミラーボールを外しながら適当に対応されただけに、このように真剣に真正面から話を聞いてもらえると思わなかったのだろう。俺の反応に気圧されたフランが空中でもじもじと言葉を言いあぐねる。

 もちろん俺は喋ってもらえるまでフランから目を逸らさない。

 例えこいしが俺のプリントに答えを書こうとしても、だ。

 

 流れるのは気まずい空気。カリカリとシャーペンの音だけが響く。

 こいしが気にせず答えを不器用な文字で書いていく中、沈黙を破ったのはフランだった。

 

 

 

 

 

「――ごめん……なさい……」

 

 

 

 

 

 小さく儚い少女の謝罪。涙目の吸血鬼が発する言葉は静かな空気だからこそ聞こえたものであり、小さいながらも気持ちは十分すぎるほど伝わった。

 言葉ってのは不思議なもんだ。

 彼女の震えた声に、俺は優しく微笑む。

 

「良く言えました。えらいぞ、フラン。つっても俺もフランのことを何も分かっちゃいなかったがな。こっちの方こそ謝らせてくれ――すまんかった」

「……お兄様はフランのことが怖くないの? 怪我までさせちゃって」

 

 頭を下げた俺の鼓膜を震わせる幼女の言葉は、子供が心配するにはあまりにも酷な内容だった。

 ゆっくりと顔を上げた俺は相変わらず微笑むだけ。その笑みには少しばかりの寂寥が含まれていたんじゃないかな?

 

 人間は排他的な生き物だ。少しでも自分達の違うものを排除する傾向にあり、それに対して人間はどこまでも残酷になれる。全員がそうというわけではないが、それでも多数なのは事実。

 彼女の言葉を吟味するならば、俺よりも長い時を生きる彼女は自分の能力のせいで心なき言葉を投げかけられた過去があるんじゃないかと推測する。言葉だけならまだいい。フランの反応といい、物理的に迫害を受けた可能性も否定できない。幻想郷にも人間が住んでいるわけだし、あながち最近もあったかもしれない。

 どこまで人間はクソッタレな生き物なのだろう。フランが人間と言う単語を出していないから完全に俺の妄想の域を出ない人間批判。けどレミリア・スカーレットの態度を見るからして――的外れな考えじゃないと思う。

 

 倫理学の授業以外でこんなことを考えさせられるとは思わなかった。異種間交流なんてレアな体験、俺はするつもりはなかったんだけどなぁ。

 今この場所に悟り妖怪がいないからフランにこの内心が漏れることはない。

 

「あれはフランが望んで起こしたものじゃないだろう?」

「う、うん……!」

「なら事故だ。俺はホラ、この通り生きてるわけだし。次は気をつけてくれれば俺は何も言わないよ」

 

 そこで俺はわざとらしく声色を変える。

 

「あー、でもフランには『俺がそれしきのことでフランのことを嫌いになる奴』って思われてたのかー。うわー、お兄様ちょー悲しいわー。そこまで薄情な人間って認識だったとか泣けてくるわー」

「そ、そんなつもりじゃ……!」

「――なーんてな。ははっ、そんな悲しそうな顔すんなって」

 

 俺はフランに笑いかける。さっきみたいな微笑みではなく、ニカッと歯を見せるような笑みだ。

 

 

 

 

 

「確かにフランの能力は怖いよ、正直に言って悪いけど。でも、見くびってもらっちゃ困る。()()()()でフランのことを嫌いになるなんて断じてないわ」

 

 

 

 

 

 この言葉をかけられて、フランドール・スカーレットはどう思ったのか。少なくとも泣きながら、そして安心したように俺の胸で泣く彼女に僅かばかりは響いたんじゃないかって思う。

 小さなフランを両手で包み込みながら、俺はカーテンを閉めていない窓から外を眺める。

 

 

 

 初めての異変。

 多くの問題点。

 複雑な家庭事情。

 

 

 

 騒がしくも大変な一日だったが。

 そんな中、俺は何かを得たような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった! 全部解けた!」

「え、ちょ」

 

 

 

 




魔理沙「更新遅かったな」
紫苑「いろいろ事情があったんだよ、作者にも」
魔理沙「活動報告のこととかか?」
紫苑「それもあるが――中でも一番ヤバかったのは、大学の履修登録で作者が卒業できないことが判明したことじゃね?」
魔理沙「( ゚Д゚)ハァ!?」
紫苑「まさか必修科目と演習科目の時間が重なるなんてなぁ。両方必要だし、『単位取れてるのに卒業できない』なんて面白展開が繰り広げられるところだったわw」
魔理沙「笑いごとで済むのか!?」
紫苑「とりあえず演習変更したから大丈夫らしいよ。あの作者それで更新できずに大学走り回ってたわけだし。履修はみんな気をつけてね!」
魔理沙「_(:3」∠)_」

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