大隊指揮官殿が鎮守府に着任しました   作:秋乃落葉

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晩餐

「ふう、予定より時間がかかってしまったな」

 大淀との打ち合わせを終えた長門は急ぎ足で鎮守府内の食堂である間宮に向かう。時刻は既に十五時を回りつつある。もうそろそろ陸奥との約束の時間だ。

「「長門さーん!」」

 進行方向のほうから誰かに呼び止められた。駆逐艦のようだから足を止めざるを得ない。

「おお、雷に電か。どうした?」

 彼女達は特三型駆逐艦の三番艦の雷と四番艦の電。仲睦まじい姉妹である。

「司令官が着任したんでしょ?どんな人なの?」

「電も気になるのです!」

 二人が揃ってキラキラとした目を向けてくる。やめてくれ、答えづらくなってしまう。

「あー、そうだな・・・提督には直接各艦娘と交流していただくようお願いしてある。近いうちに機会があるはずだ」

「へー、楽しみね!」

「やさしい人だといいのです!」

 罪悪感を感じる。・・・しかし何れは皆関わらなくてはいけないのだ。

「ところで私はこれから間宮に向かうが、お前達も来るか?」

「あら、いいわね!電もいくでしょ?」

「もちろんいくのです!」

 雷電姉妹を伴って再び間宮へと向かう。既に遅刻気味であるので、急がなくては。

 

 結局間宮についたときには十分弱ほどの遅刻になってしまった。駆逐艦たちにじゃれ付かれては対応しないわけにはいかないので仕方が無いことだ。

「すまない!ずいぶんと遅れてしまった」

「ああ長門秘書艦、遅かったじゃあないか」

 そこには艦娘達に混じって飯を頬張る少佐がいた。あまりの予想外の事態に思わず固まってしまう。

「いやあ和食というものはなかなか美味だな。甘味の類も素晴らしい!」

 長門の困惑を知ってか知らずか、少佐は定食にいくつかのデザートを平らげ、さらにこれから鎮守府特製のカレーに手をつけるところだ。

「あなたが司令官ね?私は雷よ!たくさん食べるじゃない、嫌いなものは無いの?」

「ふむ、雷、知らんのかね?デブが日々を幸福に過ごすには食事の好き嫌いをなくすことが近道なのだよ」

 少佐は会話の間にも食事の手を止めない。事前にあれだけの量を平らげていたとは思えぬ早さである。

「私は電なのです。司令官さん、よろしくお願いいたします」

「うむ、よろしく頼むぞ、電。君達はよく似ているが、姉妹かね?」

「はい、私と雷ちゃんは姉妹なのです!」

「私がお姉さんなのよ!司令官も、私に頼っていいんだから!」

 少佐は早々とカレーを完食し、スプーンをおいて言った。

「ではこのカレーのお代わりをいただこうか」

「はわわっまだ食べるのですか?」

「当然だ。まだまだいくぞ」

 ここからまだ食べるのか。このままいったら正規空母並みに食うんじゃないか?

「提督、食事中申し訳ないが、ここに陸奥は来ていないか?」

「陸奥?ああ、先ほど食堂の場所を聞いたときにあったぞ。なにやら話があるからそのままここで待てといわれたが。ところでこのカレー甘すぎやしないかね?誰の味覚に合わせてるのか知らんが」

 そういいつつ少佐は雷が運んできたカレーのお代わりをまた食べ始めている。

「ごめんなさい、提督、長門、お待たせしちゃった?」

 と、少し息を切らして陸奥がやってきた。

「いや、大丈夫だ。しかし提督をお呼びしたのは何故だ?」

「ええ、それについては今から説明するわ。提督、いい?」

 少佐はもう半分ほどまで減ったカレーを食べる手をようやく止めた。

「ああ、説明してくれ。このカレーが冷めないうちに頼むよ」

「これは提案なんだけど、艦娘全員を招いて着任式典代わりの食事会を開くのはどう?料理の準備があるから今すぐにとはいかないけど、普通の堅苦しい挨拶にするより艦娘達との交流ができると思うの」

「なかなかよさそうじゃあないか。長門秘書艦、食糧備蓄や料理の準備は問題なく執り行えるかね?」

「それは問題ない。艦娘の中から調理の心得があるものを選出して準備に当たらせよう」

 少佐はまたすぐに食事の手を動かし始めた。

「ならばよろしい。準備を進めてくれたまえ」

「料理なら私達もお手伝いするわ!いいでしょ司令官!」

「電もお手伝いするのです!」

「うむ、楽しみにしているぞ」

 こうして私達は食事会の準備に移ることとなった。しかしあの提督、意外と人当たりがいいところもあるのかもしれない。このまま食事会でもうまくやってくれるといいのだが・・・。

 

 

 

「あー、チェック、チェック・・・マイク音量大丈夫?チェック、ワン、ツー・・・。皆様、本日はお集まりいただきましてありがとうございます。これより、提督の着任式典兼艦娘との親交を深めていただくためのお食事会を開催いたします!」

 拍手の音がホールに鳴り響いた。ここは式典やイベントを行う際に使用される多目的ホールになっている。

「本日の司会進行は私霧島が勤めさせていただきます!それでは皆様、提督の入場です!盛大な拍手でお迎えください!」

 再び拍手が起こる。

「・・・あのー、金剛お姉さま?着任式ってこんな軽い感じで行っていいんでしょうか?」

「大丈夫ネー、問題があれば長門が止めているはずデース。きっと提督もpartyを楽しんで欲しいと思ってるんじゃないですカー?」

「はっ!?さっすがお姉さま!この不肖比叡にはそこまで思い当たりませんでした!!」

「比叡お姉さま、提督が来ますから静かにしたほうが・・・」

 ホールに少佐が現れた。少佐はそのまま演壇へと登り、艦娘達を見渡す。

「一同、起立!敬礼!」

 長門が声をかけると、艦娘達は一糸乱れぬ動きで敬礼をして見せた。

「ありがとう諸君。着席してくれたまえ。私がこの鎮守府に着任した提督だ。食事を前に長々とした口上は無しにしよう。さあ、杯を持ちたまえ。そしてこの宴を存分に楽しむと良い!乾杯(Prosit)!」

 乾杯の音頭をとった後、少佐は早々と演壇から降りてきた。

「意外だな。私はてっきり演説の一つでもするものだと思っていたのだが」

「人間が人間たらしめている物はただ一つ、己の意志だ。君達艦娘は曲がりなりにも、己の意志で深海棲艦の打倒を目指してここにいるのだろう?ならば演説など必要なかろう。意思が故に迷い、悩み、意志が故に化物を打倒する。それが人間だ。他者の意思決定に従うだけならば化物にもできることだ」

 長門は既に理解を諦めたのか、度し難いといわんばかりに少佐の言葉に肩をすくめ、少佐を席へ案内した。

「・・・さあ、提督のご挨拶も終わったところで、本日会場にはカラオケマシンを用意しております!皆様奮ってご使用ください!」

「はいはーい!一番手、那珂ちゃんいっきまーす!・・・皆さん聞いてください!『恋の2-4-11』!」

 曲が始まると、皆一斉に席を立ち始めた。食事はビュッフェ形式になっている。

 皆が食べ物をとり終え、席に戻る頃には少佐の下に訪れる艦もかなり多く見えた。ただかなりの勢いで食事をしている少佐を見て、挨拶だけで戻っていくのがほとんどだったが。歌のほうも那珂が歌い終え、次に嫌嫌ながら正規空母が引っ張り出されてきている。

「・・・えー、一航戦加賀です。・・・『加賀岬』」

 なにやら皆大盛り上がりしている。見ればよくわからない動きで踊っている艦娘もいる。この鎮守府で人気の曲なのだろうか。

「提督、お疲れ様です」

「ん?霧島か。ご苦労」

 食事までの司会を終えた霧島がやってきた。なにやら機械を持っている。

「提督も何か歌われませんか?」

「すまないが私は日本の歌はよく知らんのだよ」

「あ、大丈夫です!洋楽なども色々入ってますから!」

「ふむ・・・わかった、ではこれにしよう」

 席を立ち、ステージのほうへ向かう。提督が歌うということで、周りもまた少し盛り上がり始めた。

「マイクはこれかね?では歌わせていただこう」

 

 

Stolz weht die Flagge Schwarz-Weiss-Rot (黒白赤の旗が我が艦のマストに翻り)

 

dem Feind weh', der sie bedroht, der diese Farben hasst!(敵はこの旗を脅かし、この旗色を憎む輩だ)

 

Sie flattert an der Heimat Strand im Winde hin und her(祖国の浜辺から風は吹き寄せて我が旗は靡く)

 

und weit vom deutschen Vaterland auf Sturmbewegten Meer!(祖国ドイツから離れた嵐の海であろうとも)

 

Ihr woll'n wir treu ergeben sein Getreu bis in den Tod,(我等はあなたに忠誠を誓う 死ぬまで忠誠を)

 

ihr woll'n wir unser Leben weih'n,(我等は黒白赤の旗に)

 

der Flagge Schwarz-Weiss-Rot!(我等の命を捧げる)




なかなか少佐を書くのは難しい・・・。
そのうちおまけのほうのオタクに変貌するかもです

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