大隊指揮官殿が鎮守府に着任しました   作:秋乃落葉

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プロローグ3

「・・・以上が、私の知り得る艦娘についての情報です、提督」

 鎮守府の中の庁舎の一角、 その中枢たる提督の執務室に舞台は移る。そこには一人の小太りの男と一人の艦娘が向き合っていた

「なるほど。艦娘は何らかの理由で艦の記憶を持ち、深海棲艦に対抗しうる武装たる艤装を運用することができる。なぜ艦の記憶を持つか、なぜ艦娘にしか艤装が運用できないのかは不明、君達自身にも理解しえぬことであるということか」

 長門の話を聞き終えた少佐が言った。その表情は心なしか愉悦を湛えているようでもある。

「ああ、それと敬語は不要だ。楽に話してくれたまえ」

「そうか、では普通に話させてもらうぞ」

 少佐が提督と判明して以来、少し緊張したようだった長門であるが、これで多少は弛緩した様子である。最も、提督として着任してきた男が最初に問うた言葉が「艦娘とは何か」だったのだから、不信とまではいかずとも疑問を抱くのは当然ともいえるだろう。

「提督の前歴については私からは詮索はしない。軍には様々な人間がいるからな。ただ提督はほとんど艦娘と関わったことが無いようだから、私としては任務に入る前に艦娘達と十分に交流することをお願いしたいのだが・・・」

「長門秘書官」

 少佐が長門の言葉をさえぎるように名を呼んだ。

「君は私をどの様な軍人だと想像しているのかね?艦娘を兵器として無慈悲に振るい、非道に徹する士官か?少女を軍人として扱うことに抵抗を覚えるような、青臭い将校か?はたまたうら若き艦娘を性処理の道具としか捉えていないような卑劣漢に見えているのかも知れん。だがそれは無意味なことだ。どれも本質を捉えるに至っていない。ならばあえて私から君に、問おう」

 長門はあっけにとられているようで、言葉がでない。しかし、少佐はそれに構うことは無く、

「君達艦娘は人間か?兵器か?それとも深海棲艦と同じように化物か?」

 長門に問いをぶつけた。

「・・・艦娘は人間だ。艤装を外せばごく普通の、どこにでもいる少女達だ。深海棲艦と戦うことを運命付けられていたとしても、私達は人間だ。ただ使われるだけの存在じゃない。断じて化物などではない!」

 長門は声を荒げて言った。そしてはっとする。少佐がその顔に満面の笑みを張り付かせていたからだ。

「ならばそれが答えだ。私は君達艦娘を人間として、か弱く、そして気高い人間として捉えている。かつて私の好敵手であった男はこう言った。『化物を倒すのはいつだって人間だ』、と。彼は紛れも無く化物だった。人間の様な姿形をしていても、それは化物だ。そして彼を打ち倒した私は人間だ。たとえ体を機械に換装し、肉体を放棄していようとも、たとえ幾千の化物を従えていようとも。化物と対峙する君達艦娘もまた、人間でなくてはならない」

 少佐は嬉々として語り続ける。

「艦娘を兵装し、艦娘を構築し、艦娘を教導し、艦娘を編成し、艦娘を兵站し、艦娘を運用し、艦娘を指揮する。化物に対峙するのに化物など、最早不要だ。我々は、人間として、深海棲艦を打倒する!果てしなき闘争の末に!」

 少佐の狂気的ともいえる語りに長門は反応に困っている。この提督の思想は、正直理解の範疇を超えているのだ。

「艦娘との交流の件は検討しよう。私としても興味のあることだ」

「・・・感謝しよう。しばらくは鎮守府内の施設の把握や艦娘との交流を頼む。任務が開始されるときには大淀を担当につけることになっている。では、私はこれで」

「ご苦労。下がりたまえ」

 少佐に一礼し、執務室から退室する。なんだかどっと疲労が押し寄せてくるようだ。

 

 

「お疲れ様、長門。提督はどんな人だったの?」

「ああ、陸奥か。・・・そうだな、一言で言うなら、狂人だろうか」

 陸奥はこちらの言葉が理解できなかったようで、目をしばたたかせている。

「なんというか、こちらの想像とかけ離れすぎているというか・・・理解の及ばない思考をしているというか・・・」

「ちょっと、大丈夫なの?無茶な指揮をして轟沈艦でも出たら洒落にならないわよ?」

 これまた厄介な提督を迎え入れてしまった。果たして、どう補佐していけばいいのか・・・頭痛がしてくる。

「とにかく、提督には任務の指揮を執られる前に艦娘との交流をしてもらうよう言っておいた。後は各々に任せるしかないな」

「長門が匙を投げるなんて、よっぽど難しい人なのね。私からも他の子たちにお願いしておくわね」

「よろしく頼む。私はこれから大淀と話してみる。どの道、艦隊指揮が駄目ならば、大本営に提督の交代を要請しなくてはならないからな」

 各鎮守府の提督は大本営の人事の元派遣されているわけだが、本当に提督が職務を全うするに問題ありと判断される場合、艦娘から申し立てを受けることになっている。もちろんそれぞれの関係が悪いからといってすぐに変更されるわけではないが、艦隊指揮が取れなくては当然話は別である。

「じゃあ長門、また後で間宮で合流しましょう」

「うむ、面倒をかけてすまないな」

 いいのよ、といって陸奥は艦娘達の宿舎のほうへ向かった。私も大淀を探さなくてはならない。急に押し寄せてきた疲れや不安感などをなんとか思考の外に追いやって、長門もまた、歩き始めた。




大分小刻みな投稿になってしまいましたがこれでプロローグは終わりの予定です。
次回以降はもう少しまとまった量での投下にするつもりです。

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