大隊指揮官殿が鎮守府に着任しました   作:秋乃落葉

24 / 34
Gleich und gleich gesellt sich gern.5

 海原を航行する深海棲艦の艦隊に、数十機の艦上攻撃機編隊が襲いかかる。接近を察知した深海棲艦は対空砲火で迎撃を行うが、抵抗むなしく砲火を抜けた艦攻の雷撃が艦隊に突き刺さり、大きな被害を与えた。

 旋回し、引き返していく艦攻隊を恨めしく睨みつける艦隊旗艦の彼女は、しかし次の瞬間にはその視界を失うこととなった。前衛支援艦隊の撃ち放った砲弾の一発が、彼女の顔面を貫き破壊したのである。続いて降り落ちる砲弾の雨が、既に半壊していた艦隊にとどめを刺す形となり、じきに壊滅するに至った。

 遠方で高く上がる水しぶきを見た金剛達は、予定に滞りなく進軍を続ける。敵艦隊と接敵するのはこれで三回目だったが、そのいずれも飛龍と蒼龍による艦攻隊の雷撃と、支援艦隊の砲撃により本体に被害を受けることなく敵を退けることができていた。もうじきショートランド島近海に到達するころだろう。

「金剛お姉様、前衛支援艦隊から入電。現時刻を持って作戦海域からの離脱を開始、艦隊支援任務は予定通り決戦支援艦隊へ引き継ぐとのことです!」

「I see!いい活躍でしたネー!」

 霧島の伝えた報に振り向くと、その言葉通り航路を離脱する艦隊が見えた。代わりにその後ろに位置していた決戦支援艦隊が距離を詰め、本隊と一定の間隔を保つ。

 ここより先は敵の本隊と接敵する可能性のある極めて危険な海域となる。さらに今回の作戦では、後続の救援艦隊のショートランド上陸を確実なものにするため速やかな敵戦力の撃破、最悪でも作戦遂行に支障のないほどに深海棲艦を抑え込む必要があるのだ。いやが上にも緊張感が高まっていく。

「索敵機からの報告です。索敵途中ではありますが、とりあえず周辺に敵艦の存在は確認できないようです」

 飛龍が金剛に告げた。

「この海域の制海権は私達に傾きつつあるということでしょうか?」

「我々の進撃を警戒して本隊の警護のために下がったのかも知れません、どちらにせよ、油断せずに行きましょう、金剛お姉様!」

 榛名の疑問に霧島が被せる様に答えた。実際霧島の言うように、本隊に合流するためにこの海域の深海棲艦が撤退していった可能性もある。何しろ既に三回も交戦しているのだから、敵本隊に我々の存在が察知されていないはずはないだろう。

「むー、霧島!榛名は金剛お姉様に聞いたんですよ!?」

 どうやら金剛に話しかけたところを横から阻まれたのに立腹のようで、榛名が声を上げた。一方の霧島は悪びれることなく、

「あら、わざわざ旗艦のお姉様に聞かずとも妹だけで解決できることは解決しておくべきじゃないかしら?そうですよね、お姉様!?」

と言ってのけた。

「戦況の把握は全体で行っておくべき事柄です!報連相ができない部下は失格ですよ霧島!そう思われますよね、お姉様!?」

「こらこら、榛名も霧島も金剛お姉様を困らせることをしない!」

「「比叡お姉様は黙っててください!!」」

 両者の争いに介入した比叡は、あえなく弾き出される事となった。どうやらこの争いは長期戦となりそうだ。

「・・・姦しい妹達で申し訳ないデース」

「いえいえ」

「姦しいのはいつものことですから」

 蒼龍も飛龍も、呆れ半分で、しかし咎めることもなくその様子を見守っていた。この姉妹が金剛お姉様LOVEなのは今に始まったことではないし、こう見えて彼女たちが周辺に警戒を払うのをおろそかにしていないのも知っているからだ。むしろ、命の危険も付きまとう出撃中に痴話喧嘩をする図太さにある種の尊敬すら覚えるところだ。

 

 

 

 

「提督、作戦本隊より中間報告です。作戦本隊及び決戦支援艦隊の両艦隊は現時刻を持ってショートランド近海へ到達。前衛支援艦隊は既に離脱を開始しており、作戦計画に遅延なしとのことです」

「うむ、ありがとう」

 鎮守府はいつもに比べ非常に静かで、空気も重い。当然ながらそれは大規模な作戦が遂行されているが故のものである。単純に敷地内に滞在する艦娘が少ないのは勿論、そのいずれもがいざという時の出撃に備えているのだから空気も張り詰めるというものだ。

 報告を読み上げ終えた大淀は改めて耳をそばだて、提督の執務室の近くに他の艦娘がいないことを確認した。

「・・・提督、今回の作戦ですが」

 大淀はその心中に抱えた疑問を口にした。彼女の知るところではないが、その内容はビスマルクがグラーフに語ったものとほぼ同じである。

「ふむ、私は日本の海軍省の作戦展開の全容など知らんからなんとも言えんが。基地が壊滅したという結果があるのだから理由はあるだろう?第三帝国のスターリングラードがそうであったように。君たちの玉砕がそうであったように」

「そう言われたら、まあ、そうなんですが」

 少佐の言うことは尤もであるのだが、どうもそれだけでは納得のいかないような気がして、大淀は言葉を濁した。勿論戦況を読み違え、孤立した末の結果という可能性が一番現実的であるということもわかってはいるのだが。

「だがまあ、そうだなぁ」

 少し思考に意識が沈んでいた大淀が少佐に意識を向け直すと、彼の顔には先ほどよりわずかに、何かこれから楽しいことが起こるのを知っている子供のように、薄い笑みを浮かべているのに気づく。

「あの鹿島とか言う監察官には気をつけたほうがいい。まだ何か腹に一物抱えているぞ?」

 

 

 

 

 場面は戻り、ショートランド沖を進撃する二艦隊は極めて順調ながら、不気味にも感じるほど静かな海の上にいた。しかしこの穏やかな海もすぐに艦隊決戦の舞台になることは明白であった。というのも、たった今飛龍の放った索敵機の一機が遠方に敵本隊と見られる重編成の艦隊を発見したためである。

「さーて、ここからが私達の腕の見せ所デース!比叡!榛名!霧島!金剛型四姉妹の面目躍如たる活躍、見せますヨー!」

 ここまで活躍の少なかった、というより戦術的理由により弾薬消費を抑えられていた金剛型の四人は、いよいよ本隊との交戦を目前とし、再度気を引き締めあって激戦に備える。

「はい!気合!いれて!いきます!」

 比叡が金剛に呼応して答えた。榛名、霧島も各々それに続いて気合の入った返事をし、士気を高めていく。

 と、そのときである。艦隊からさほど離れていない地点から、突如雷撃が放たれ、艦隊を襲う。最も早く反応したのは、艦隊直掩機の視点を持っていた蒼龍だった。

「艦隊右側面から魚雷接近!」

「回避運動開始!支援艦隊の駆逐艦は爆雷投射、お願いしマース!」

 その急報に金剛が即座に命令を下し、行動を開始する。支援艦隊からの爆雷が水柱を多数撃ち立て、敵魚雷の進路を逸らそうとするがさほどの効果はなく、一路突き進んでいく。魚雷は比叡の足元に到達し、一際大きな水柱を立てた。

「ッ!比叡!」

「痛っつつ・・・!大丈夫です!航行、戦闘共に問題ありません!」

 比叡の言葉通り、その艤装は中破級の損傷を負っているように見えるが作戦行動は続行出来るようだった。次に魚雷を放ってきた敵潜水艦のいるであろう方向を見やる。既に支援艦隊から発艦した対潜哨戒機が攻撃を開始している。こちらも問題はなさそうだ。

「急ぎ敵本隊を叩きマース!榛名と霧島は比叡をcoverしつつ周辺警戒!蒼龍、飛龍は敵本隊への攻撃に備えて艦載機発艦!支援艦隊は潜伏する敵精鋭潜水艦に備えて対潜哨戒を厳としてくだサーイ!」

 

 

 

 

「機動艦隊が敵主力とみられる艦隊と交戦開始・・・始まったかクマ」

 金剛達がいるであろう海域の方を眺めながら、球磨は呟いた。当然その姿は肉眼で見えはしないが、海風が砲火の匂いを運んでくるような錯覚を覚える。

「主力艦隊・・・。向こうの皆は大丈夫かしら・・・」

「大丈夫さ。金剛型戦艦四姉妹に二航戦の二人の精鋭揃いだよ?暁は人の心配をする前に自分の心配をすべきじゃないかな」

「なっ!うるさいわね!レディは他人に気配り出来るほど心に余裕があるのよ!!」

 暁と響がじゃれ合っている。ちびっ子は元気があっていい、などというと自分が年寄りであるかのように感じるが、実際そう思う。戦場にミスマッチなその無邪気さは、脆くも得難い。できれば守ってやりたいものだが。

 そんな目で最後尾まで見渡すと、特三型四人娘とは打って変わって真剣な面持ちでいる島風が見えた。なるほど、こちらは薬が効いたようだ。元より島風は戦闘に関して高い技術を持ち、尚且つ賢い子だ。これまでは高い能力が故に自尊心が強いというところがあったが、あの一件で大分とコントロールがつくようになったらしい。

「さて、各員上陸準備クマ。往きはなんとか問題なく到着、帰りがどうなるやら、だクマー」

 球磨が全員に声をかけた。前方に見える、半壊した施設が立ち並ぶ基地。ショートランドである。ドイツ艦隊救出作戦は、いよいよ最も重要な局面へ向かいつつあった。




前回遅れた分なるべく早めの投稿です。

いよいよ次回、独艦救出(予定)です。期間を空けてしまいまして申し訳ございません!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。