大隊指揮官殿が鎮守府に着任しました   作:秋乃落葉

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Gleich und gleich gesellt sich gern.3

 ボロボロになった建物の中を、慎重に歩き進む少女が二人。一人は凛と迷いなく、一人はフラフラと危なげに進んでいた。

「ユー、気をつけろよ。どこの床が抜けるかわからん。まあお前は軽いから大丈夫だと思うがな」

 その前者、グラーフ・ツェッペリンがユーと呼ぶ後者の少女に声をかけた。ユー、正式にはU-511という名の潜水艦である彼女は、マイペースに、ところどころひび割れた床をぴょんぴょんと飛び越えながら、グラーフに続いて進む。

「ユー、気をつけます。ユー、軽い・・・。グラーフ、重い?」

「いや、そういう意味ではないのだが・・・。そういうことはビスマルクには言うなよ?割りと気にするからな、あいつ」

 ユーは不思議そうな顔で首を傾げている。子供は時に残酷だ。まあ、戦艦はどうしても筋肉質な体になってしまうため、ある程度体重が増えるのは仕方ないことだと思うのだが、本人が気にしているのだからあえてそこをどうこう言ってやる必要はないだろう。

「グラーフ、さっきの通信機は、良いの?さっきの部屋は、こっちの方じゃない、よ」

「ああ、あっちにはビスマルクが行ってるからいいんだ。私達はここの提督の執務室に行こうと思ってるんだよ」

 先程の探索時、通信室を見つけて来たのはユーであった。その間、グラーフは貯蔵資源と生存者の探索を行っていた。結果は散々なものであったが、収穫がなかったわけではない。わずかあまりの資源もかき集めれば多少の足しにはなるし、普通の小銃とて無意味なわけではない。艦娘といえども、艤装がなければ一般人と何ら代わりない。その状態で野生動物に襲われでもしたら、普通に怪我だってする。しかし、わざわざ野犬やイノシシ・・・がいるのかはわからないが、それらにいちいち艤装の砲を使っていては弾薬の無駄だし、何よりオーバーキルも甚だしい威力である。何よりもちょうどよいものを選択するのが一番だ。

 さて、話は少々逸れたが、先の生存者の捜索の折、他より一層被害の大きな一角でこの泊地の司令官であったであろう人物の亡骸を発見した。おそらく、避難の途中で悲運にも爆撃の直撃を受けたのだろう。その亡骸は正直見るに堪えないものではあったが、辛うじて原型をとどめていた。日本式の供養はこれでよかったか、と思いつつ遺体に手を合わせ、他の遺体に行ってきたように持ち物などを調べていく。その中に気を引くものが一つあった。グラーフはそれを手の中で転がす。

「死を間近にしてなお、死してなお後生大事に握りしめていた鍵だ。有用なものがしまい込まれているかも知れん」

「鍵、ですか?」

 そう、鍵だ。他に気を引くものがない中で、これだけは彼の手に握り込まれていた。

「避難するのに握りしめていたということは、地下壕か何かの鍵かな。だからこの建物の見取図のようなあったら渡してくれ」

「わかった。ユー、頑張って探します・・・!」

「頼りにしてるぞ。役に立ちそうな物があったら何でも持ってこい」

 鍵にはタグのようなものもなく、何のものかをうかがい知ることのできる情報がない。さすがにまったく関係のないものの鍵ということはないだろうが、これが泊地の外の物となると、お手上げだ。

 そのまましばらく歩くと、ほかより重厚な扉の部屋が見えてくる。どうやらあそこが提督の執務室であったようだ。周辺に大きなひびや崩落がないことを確認し、扉を開いた。

 執務室の中は爆撃の衝撃からか、棚が倒れていたり、物が乱雑に散らばっていたりと、かなり荒れていたが、皮肉なことに致命的な被害はなかったようだ。避難が遅れていたならば死ぬこともなかったのかも知れない、というのはいささか希望的過ぎる観測であるが。

「これは・・・探索も一苦労だな」

「ユー、お片づけします。・・・グラーフ、あれ、金庫?」

「ん・・・だが扉が開いている。この鍵とは関係がないようだ」

 ユーのいうように、部屋の片隅に金庫が転がっている。中も空なので、ひとまず関係はなさそうだ。

 倒れた棚を起こし、足元に散らばる書類をかき集めて目を通していく。出撃の記録や本国からの通達などの諸々、今のグラーフたちには必要のないものばかりだ。そりゃそうか、と書類の束を棚に適当に置き、部屋を見渡す。鍵穴のありそうなところといえば、鍵つきの書類棚と提督の執務机くらいのものだが、書類棚のほうはガラス面が割れているためあける必要もなく、そもそも鍵の形も合わなかった。執務机のほうも鍵は合わなかったが、先ほど拾った拳銃で強引に鍵を破壊した。中身は判子や提督の私物など、持ち出してやりたいが、今役に立ちそうなものはない。

「鍵はここのものではなかったか。となると、範囲が広がるな・・・」

 少しため息をついてユーをほうを見た。まだ散らばった書類の束に目を通しているようなので、そちらを手伝いに回る。

「・・・ん、あった、よ。見取り図、じゃない?」

 十分強ほどたったころか、ユーが見取り図を見つけたようだ。

「おお、でかしたぞ。・・・地下に施設があるな」

 見取り図によれば、予想通り地下に何か施設があるようだ。執務室にこれ以上の発見がなければ、次はそちらへ向かうことになるだろう。

 

 

 

 

「大本営海軍部より至急電です。『先ニ陥落シタショートランド泊地ヨリ救援要請ノ報有リ。貴泊地艦隊ハ此レノ救援ニ当ルベシ』、とのことです。同救出任務の目標は同盟国独逸より派遣された艦娘四名の回収です。本作戦の是非は日本と同盟国の関係を左右するものであり、一刻も早い救出が望まれます。これを受け、当泊地では、水雷戦隊を主軸とする救出部隊と、敵主力艦隊と交戦、これを撃滅することを目標とする機動部隊の両艦隊を派遣することを提案いたします」

 作戦会議室に集められた面々を待ち受けていたのは、緊急に大本営より送られてきた任務の通達であった。ことは遡ること数日、ショートランド陥落の報を受けて程なく、大本営にドイツ艦隊を名乗る艦娘から救援を要請する旨の通信が届いた。この艦隊がドイツからの戦力提供によるものであることから、救援の遅延は外交問題を招きかねないということで、救出作戦実施の命令が下ったのである。

 しかしこの男は、そのような事情には興味を示さない。

「ああ当然承認する。そんなことよりもドイツ艦隊を早く救出してくれ給え!この世界でドイツ艦と出会う事ができるとはなんと素晴らしい!心が踊るなあ!」

「金剛・・・提督はなんであんなに燥いでるんだクマ?」

 軽巡洋艦である球磨が、隣席の金剛に小声で聞いた。彼女達二人は、それぞれ水雷戦隊、機動部隊の旗艦として選出され、この会議に出席している。

「提督は出身がドイツらしいデース。やっぱり自分の国の艦娘と出会うのは嬉しいんでしょうネー・・・。Damn it!私がドイツ出身の艦だったら良かったんですけどネー!」

「いや、流石に無理があるクマー。あとヴィッカースを始めとする各方面が悲しむからやめてやれクマー」

 本気か冗談かわかりかねる金剛のリアクションに、球磨が極めてまともに返す。

「ショートランドで救援を待つドイツ艦娘は燃料、弾薬が不足しているとのことですので、救出部隊でこれに補給を行うための資源輸送をお願いします。また、同海域には強力な敵主力艦隊の展開が予測される他、敵主力と接敵するまでにも多数の敵部隊との戦闘が予測されます。その為、先に説明致しました作戦主力二艦隊とは別に、道中護衛を行う前衛支援艦隊、敵主力艦隊との交戦時に火力支援を行う決戦支援艦隊の両支援艦隊の二艦隊の派遣を具申します」

「おお、それはまた素敵な戦争になりそうだ」

「現段階の当泊地に於いての全力出撃となります。既にお伝えした通り、救出部隊となる水雷戦隊旗艦は球磨さん、敵主力を攻撃する機動部隊旗艦を金剛さんにお願いしています。支援艦隊については現在急ぎ編成中です。ここまでで何か質問のある方はおられますか?」

「投入戦力だけ聞くと火力過剰に聞こえるけど、それほど敵は多いクマ?」

 球磨が質問を飛ばした。確かに救出艦隊は差し引いても、三艦隊を投入するとなるとかなりの戦力だ。通常の海域であれば球磨の言うように過剰な戦力だといえるだろう。

「展開する敵戦力の情報がないのでなんとも言えませんが・・・。本作戦には政治的な問題も絡んでおりますので、万全を期した編成になっています」

「ふーん・・・。ま、やることは変わらないクマ」

 大淀が他の面々に視線を向ける。質問がないのを確認し、最後に長門へ言葉を渡した。

「本作戦は短期間ながら、大規模な作戦展開を行う事となる。事態は一刻を争うものだ。各自、迅速な行動を心がけ、万全の体勢での作戦遂行に務めるように。では、解散!」




前回日にちを開けてしまったので早めの投稿です。

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