二人の少女、吹雪と夕立は話し合いの末、彼女らが長門と呼ぶ上官を呼ぶことにしたらしい。吹雪はここに残り、夕立が軍港へかけてゆく。
「今長門さんをお呼びしますから、ちょっと待ってくださいね、えっと・・・」
「何だね?」
「お名前、お聞きしてもいいですか?」
そうか、まだ私は名乗りもしていなかったな。
「私のことは少佐と呼んでくれたまえ。以前の所属の階級だ。名は名乗らなくなって久しい」
「少佐さん、ですか・・・?」
吹雪は疑わしそうな目でこちらを見ている。親衛隊に入って以来幾度と無く疑われたことだ。所属に疑いをかけられるのは最早慣れたものである。
「さて、
彼女から発せられた『艦娘』という言葉。やはり一番気になる点はここである。
「兵士というか、その、私は特型駆逐艦一番艦の吹雪です」
「駆逐艦だと?それは、駆逐艦の乗員ということではなさそうだが、一体どういうことだね?」
「えーっと、だから私が駆逐艦の吹雪なんですが・・・」
吹雪の説明は、このような感じで五分ほど続いた。根本の理解の違いから噛み合わぬ点が多く話が難航していたが、やっとのことで輪郭が掴めてきたようだ。彼女の話をまとめると、彼女達は人類の敵である『深海棲艦』に唯一対抗することのできる戦力であり、彼女達の中にも駆逐艦や巡洋艦、戦艦などの艦種の違いがある。そして深海棲艦の正体は一切不明であるということが、なんとなくわかった。
「深海棲艦、か。く、くく、クハハハッ!あッはッはッはッ!!」
突然の高笑いに吹雪は狼狽しているようだ。だが、笑わずにいられようか?
「素晴らしい!全く持って素敵だ!やはりここは私の逝くべき戦場であった!敵は化物!深海棲艦!そうだ、そうでなくては!!」
愉悦が抑えきれない。新たな戦争が、未知なる戦場が世界に広がっている!
「おーい、吹雪ちゃーん!長門さん達呼んできたっぽーい!」
どうやら夕立が上官をつれて戻ってきたようだ。その後ろには黒い長髪の女と茶髪でショートカットの女の二人が見える。
「長門さん、陸奥さん!こちらの方です!」
「ああ、吹雪、ご苦労だった。・・・私が当泊地の現秘書艦である長門だ。御無礼を承知の上でお願いする。まず貴方の身体検査をさせていただきたい」
黒髪の女、長門が私に言った。ということは茶髪の女が陸奥ということだろう。
「この島は全域が海軍の敷地だ。その格好は軍装のようだが、貴方の素性がわからない以上最低限の確認は確保させて欲しい。理解いただけるだろうか?」
「よかろう。当然の権利だ」
長門はうなずいて、身体検査を始めようとする。
「武器の類は?拳銃など所持していれば先に出してくれ」
「そんなものは持っていない。当たった例がないからな」
長門は少し釈然としない様子で検査を始めた。上半身を調べ、下半身に入ったところで、右ポケットから折りたたんだ紙を見つけたようだ。しかし、私自身この紙に覚えは無いが。
「中身を確認していいか?」
「どうぞ自由に確認したまえ」
長門は紙を開き、何か書かれている内容を確認すると、あからさまに驚いた表情をしている。
「おい、陸奥・・・これを」
長門はその紙を陸奥に手渡した。そしてまた陸奥も同様に驚いている。
「偽造された書類ではなさそうね・・・」
なにやら小声でやり取りしている。それが二、三続いた後、急に彼女らは姿勢を正し、私に敬礼して見せた。
「大変失礼いたしました。ご着任、お待ちしていました、提督」
陸奥が私に言った。提督だと?あの紙になにやら書かれていたようだが、いったい・・・。いや、ひとつだけ思い当たることがある。
「・・・あの男か」
そうだ、思い当たることなどひとつしかない。ここに来る前に扉だらけの通路で出会った男。あの男しかいまい。あの男め、確かに、私の逝くべき戦場へ送り出してくれたようだ。
敬礼している彼女らに対して、私もして返し、
「出迎えご苦労。では案内してくれたまえ。新たなる戦争の、その指揮をとるべき場所へ」
こちらへ、といって長門が先導してくれるようだ。そうして彼らは軍港、『鎮守府』へと向かって歩き出した。
「・・・あの人が、ここの提督さんなんだね」
「・・・なんか、本当にやばい人っぽい?」