ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ 作:パザー
「こ、ここここちらのクエストは・・・え、え~っと・・・」
冒険者ギルド。
日々ならず者の冒険者達が金のため、食事のためと訪れるアクセルでも一際大きな建物・・・なのです!
そんなギルドを経営する労働者・・・ギルド職員に私、キノアは就職したんだけど・・・
どうしよう!?
受付をしてるけどこういう時ってどういう対応をすれば良いの!?せっかくモノノベ先輩に色々教えてもらったけど緊張で・・・頭が回らないよ・・・
そんな事を目の前の冒険者が差し出してきたクエスト内容の書かれてる紙に視線を落としながら考える。
今の私・・・酷い顔してるんだろうなぁ・・・視線の焦点は定まってないし泳ぎまくってるし・・・何より顔も真っ赤で呂律が回らない・・・向いてないのかな・・・この仕事。
「搬送物の護衛、報酬は10万エリスに受諾料は1000エリスだ。キノア」
モ・・・モノノベ先輩・・・!!
あたふたしていたわたしに助け船を出してくれたのかな・・・耳元で先輩の声が聞こえてきたよ・・・!
えぇ~っと、今言われた内容を伝えれば良いんだよね!
「すいません!荷物の護衛ですね!こちら、報酬は10万エリス、受諾料は1000エリスになります!」
「あいよ。ほら、受諾料だぜお嬢ちゃん。見たところ新入りだろ?兄ちゃんもちゃんと世話したれよ?」
「は、はいっ!頑張ります!」
「ハハ!先輩も頑張るさ。所で・・・そのクエストの目的地だが最近モンスターが多いらしい。気を付けろよ」
「そうか、ありがとよ!」
そう礼を告げてギルドから出ていった冒険者さん・・・というか世話って・・・いや、実際はそうなんだろうけどさ・・・もうちょっと言い方というものが・・・
というか先輩はどうしてモンスターが多いなんて知ってたんだろう?
「ありがとうございました、モノノベ先輩」
「うん?────あぁ、別に構わないけど・・・てか最初はこんなもんだ。俺だって最初の内は録に話せなかったしな」
「そうだったんですか・・・あっ!そういえばどうしてモンスターが多いなんて知ってるんですか?」
「それは────経験と、俺がちょっと外回りが多いからか風の噂で、な」
へぇ~・・・経験かぁ・・・そういえば所長さんが言ってたかな・・・モノノベ先輩はこの街じゃ1、2の元冒険者だって。それじゃどうして職員になったんだろ・・・踏み行ったことにならないなら今度聞いてみよっかな・・・ん?
私が視線を感じてカウンターから身を乗り出すと何やら食堂の一角から黒色のマントに紅い目をした私より・・・いや、同い年位かな・・・とにかく、少し特徴的な女の子がトンでもなく恨めしそうな視線にオーラを向けていた。
何か恨みを買うようなことしちゃったの!?こ、これまでも田舎で目立たず過ごしてきたのにいきなり呪殺されそうな感じになってるのは何故!?
「モ、モノノベ先輩・・・冒険者って怖いです・・・」
「ん?」
身を引いて震える声で呟く。それに対して先輩は不思議そうに首を傾げると私に休憩時間だと告げ、裏へと掃けてしまった・・・
~*~
・・・何でこんな俺は詰め寄られてんだ?
刑事ドラマの尋問でもこんな詰め寄られんぞ。
「サクさん!あの娘は誰なんですか!?」
さっきからず~っとこんな調子だ。
頬を膨らませフォークを縦向きに持ち、グワッと机から身を乗りだし問い詰めてくる。
・・・こらこら、そんな体勢じゃ胸にしか視線が行かないじゃないか。・・・役得役得。
「新入りだよ。新入りのキノア、俺のはじめての後輩」
「こ、後輩・・・ですって・・・!?」
俺がそう言い放つと今度は素早く身を引いてしまった。それに右手を顎辺りに持っていき白目を向いて某ベルサイユの様な表情をしている。忙しい奴だ。
そんな事を考えつつ、また一口料理を頬張る。うん、やっぱりここの料理はウマイ。この賄いを毎日食べられるってのがこの職場の数少ない良いところだな。
それにしてもゆんゆんは・・・・・何かあったのか?
キノアがビビってたのもこいつがあいつにトンでもない視線を向けてたからだし・・・
「私というものがありながらサクさんは・・・ブツブツ」
当のゆんゆんは顔を伏せて黙々と・・・ブツブツと何かを呟きながらフォークで料理をつついて口に運ぶのを延々と繰り返している。
まぁ良いか。午後からは確か事務・・・っていうか食材とか資材の調達担当か。面倒なところだがまぁキノアに仕事を教えるわけだし・・・多少マシか。
「悪いなゆんゆん、時間だ。じゃあな」
「あっはい・・・お仕事頑張って下さい・・・」
お盆を持って立ち上がった俺に暗い顔のまま生返事をゆんゆん。・・・今度、なんか奢ってやろう。もしくはプレゼントかな───何が良いかな?キノアに聞いてみるか。
「ほれキノア。仕事再開するぞ」
「は、はいっ!ただいま!」
俺が壁際でちみちみ昼食を食べていたキノアの肩を叩いて声を掛けると彼女は返事をして食べるスピードを上げる。
・・・ちょっと悪いことしたな・・・ごめん。
さてさて、今日のリストは・・・
「サク君、今日はこれお願いね」
「分かりました。ルナさんも仕事頑張って下さいね」
「ありがとう・・・流石にこの量は堪えるわよ・・・」
心なしかげっそりしているルナさん。自慢の栗色の巻き毛も若干ボサボサになっている気がする・・・無理ないか。
あの量だもんな・・・
ルナさんの事務机に積まれている大量の紙束に目を向ける。身長の低いキノアなら見上げなければ上が見えないほどの量だ。どうやら未だにキャベツ狩りの事後処理に手こずっているらしい。どうせ上の方が経費を出し渋ってんのとその癖、詳しいレポートを寄越せ・・・とか言ってんだろ。迷惑な連中だ。
キノア。この量だと馬車が要るから、業者の所に借りに行くぞ」
「ま、待ってください先輩!」
書類の塔を見上げて唖然としているキノアを連れて専門の業者の所へと歩を進める。
・・・これじゃアクセルで集めんのは難しいな・・・仕方ない、隣街まで行ってくるか・・・
~*~
馬車の荷台というのは非常に乗り心地が悪い。
幾ら大きな車輪とはいえ木製。道端の小石を跳ねるだけでも荷台は右へ左へと大きく揺れる。
そんな劣悪な状態に辟易しながら俺とキノアは隣街へと向かっていた。
向かう先はイムル。決して大きいとは言えないが農業が盛んで様々な野菜がアクセルよりも安価で売られている。
その為か案外アクセルよりも栄えている・・・かもしれない。いやホント農家しかないもんなあそこ・・・
キノアはというと・・・・・・荷台の隅っこでメソメソしながら悲しいオーラを漂わせていた。
何故かというと俺が業者と話を付けている間、キノアに自由にしていいと告げ、彼女は馬小屋へ行き馬を見ていた。
そして俺が彼女を呼び戻しに行ったんだが・・・
~*~
『可愛い可愛いお馬さん、今日は何処へ行くの?』
『フフッ、そうだな・・・キノアちゃんを乗せられるのなら何処へでも俺は走っていくぜ』(キノア低い声ver
『キャー!お馬さん大好き!』
『ハッハッハッ!そんなに抱きつくものじゃないぞ!』(キノア低ry
~*~
という、一人芝居もとい黒歴史を目撃してしまったからだ。そのせいか彼女の方からは『もうやだ・・・』『恥ずかしい・・・消えたい・・・』等々、とてもブルーな呟きがちょくちょく聞こえてくる。
はぁ・・・
「ま、まぁ元気出せよ?他の奴等には言わないし俺も忘れるからさ、な?」
「うっ・・・ぐすっ・・・ホント・・・です?・・・ホントに言いませんか・・・?」
「大丈夫だ。俺はこういう約束は守るから!」
「なら・・・」
「?」
「高級料亭のディナー・・・お願いします」
「ファッ!?」
・・・な、中々に逞しい奴だな・・・
今年最後の投稿、いかがでしたでしょうか?
それではよいお年を!