ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ 作:パザー
すっかり更けてしまった夜空の下、ゆんゆんは自分の胸の中でスースーと眠りこけている物部朔を必死に抱えながら固まっていた。
彼が吐き出す寝息が自分の晒している胸に掛かってくすぐったさと気恥ずかしさが吹き出してくる。
だが普段の仕事の時の活発な姿からは想像の出来ない幼い寝顔を見て若干得した気分になった。
(フフッ・・・サクさんでもこんな顔するんだ)
クスッと笑みを零しながらもこれからの方針を考える。
どうしたものかとウーンと唸りながら考え込むゆんゆんだったが寒さでクシャミをしてしまう。
(うぅ~寒い・・・・・こんなのじゃ風邪引いちゃう・・・ここから近いのは・・・)
街のはずれにあるゆんゆんの宿よりも街中にある朔の宿の方が近いのは明白だ。
い、行くしかないわね・・・と、決心して彼女は歩き出した。
ズルズルと死体の様に眠りこけている朔を地面に引きずりながら。
そして彼女も一向に気付かない――――――――――ボロボロになっている彼の脇周りの服に。今にも千切れそうな事に。
(お、重い・・・・・でも!この前はサクさんに担いでもらって行ったんだし・・・え?)
自分も彼にこうして担がれながら宿へと連れて行かれたという事になる。
その間、自分は彼に思い切り体を預けて熟睡し、寝顔を見られていた――――――という事になる。
途端に羞恥心が湧き上がり顔を真っ赤にしながら両手で顔を覆い隠す。
その際支えを失ってベチャッと音を立てながら朔は地面へと叩きつけられた。
あぁっ!と我に返り未だに眠っている彼の体を起こした・・・が。
ビリッと彼の来ていたシャツが脇周りのほつれた部分から裂けてしまった。こうして彼の上半身は寒空の下、露わになってしまった。
「ハワ、ハワワワ・・・・・どうしよう!?さ、寒いわよねこれ!?は、早く行かないと!」
こうしてゆんゆんは上半身裸の彼の足を持って引きずりながら走ったのでした―――――――
~*~
アラ、オジョウチャンハ・・・・ヤダ!ツイニサクチャンモツカマエタノネ~!
「いやそういう訳じゃないです!何でもいいので彼の部屋の鍵!貸してください!」
ハイハイ!ワカッテルワヨ~!ホラコレ!ステキナヨルヲスゴシナヨ!
「だから違います!」
女将にからかわれてタジタジになってるゆんゆんだったが鍵を奪い取るように受け取り走り出した―――――
キイイイィィィと重厚な音を立てながら木の扉が開く。
暗い部屋に明かりをともして彼をカーペットの上に下した。
が、ようやくここで彼が引き摺られて泥まみれになっていることに気付いた。
「こ、これは・・・洗った方が良いのかしら・・・?お、おおお・・・お風呂で・・・!」
はい、お風呂シーン入りまーす。
~*~
湯気が立ち込める木造りの立方体の部屋。
そこに薄い白のTシャツを着たゆんゆんと半裸で眠っている朔が入って来た。
彼女がゴクッと生唾を飲み込み彼の体をマジマジと見つめる。
引き締まり盛り上がっている腹や腕の筋肉。彼女には無いガチガチの筋肉に驚きを見せる。
(お、男の人の体って凄い・・・私なんて・・・)
自分の腕に思い切り力を込めて触ってみるが筋肉など14歳の少女に碌にあるわけも無く少しの固さとプニプニとした感触が残るだけだった。
いやそうじゃない!と気を取り直して桶に湯を溜める。
そして桶のお湯を下半身に掛けてしまわない様に手でお湯を汲んでゆっくりと彼に掛けた。
体の筋を伝って泥を巻き込みながら流れていくお湯。振り回すようにかけたり時には手を使い丁寧に泥を落としたりする。その姿はまるで子供の世話を焼く母親の様だったが当の本人は緊張で何も考えられていない。
~*~
「ようやく・・・終わったぁ~・・・・・」
深くため息を吐きながら額の汗を拭うゆんゆん。
目の前にはあれだけの事があったにも関わらず未だ眠っている朔がベッドに横たわっている。
やりきった気持ちに浸りながらも若干気まずそうな感覚に陥る。
なにせ然程広くも無い部屋に男女二人っきり、人見知りな彼女にとっては地獄でしかないが少しだけ嬉しそうでもある。
「あれ・・・?震え・・・てる?」
当たり前だ。布団を被っているかと言って半裸だ。
寝ているとはいえ寒いのは寒いのである。当然身震いの一つもする(謎理論
そして震えている彼を見て彼女は1つ決心をした。
「こ、こうした方が・・・暖かい・・・よね・・・?」
ゴソゴソと音を立てながら彼女が布団に侵入する。急に接近したことにより彼の顔が近づき体温や呼吸も感じられるようになる。その感覚に心臓が大きく飛び跳ね体温が急上昇していく。
近すぎるよ!その一心で一杯になっていく彼女の心だったがここで寝ているはずの彼が行動を起こした。
(え・・・?いきなりモゾモゾし出して・・・)
抱き枕と勘違いしたのか彼女の体を掴むと自身の体に乗せてしまった。
何が起こったのか分からず混乱するゆんゆん。しかし理解すると同時に気恥ずかしさで何も頭が回らなくなってしまう。
(えええええぇぇぇっ!!サクさん何でこんな事してるの!?これって寝相なの!?サクさん寝てるよね!?・・・でも・・・寒がっての行動なら、私にも非がある・・・わよ・・・ね・・・恩返しになるかは分からないけど・・・)
そう言って自分の下敷きになっている朔の体に腕と足を回して抱きついた。
そして途轍もない恥ずかしさと彼の心臓の音を感じながら彼女は眠りに就いた―――――――
~*~
「ゆんゆん様!私は!物部朔めは何か過ちを犯してしまったのでしょうか!?」
俺こと物部朔は自分の宿で正座しながらゆんゆんを拝むように両手を合わせていた。
目の前で仁王立ちしているゆんゆんをゆっくりと見上げる。
するとゆんゆんは何かを考え込んでいた・・・ホント俺何も犯してないよね!?何もやらかしてないしナニをしてもないよね!?大丈夫なんだよね!?
(どうしましょう・・・そうだ!少し・・・イタズラしちゃいましょうか・・・フフッ)
「え、え~?何故そんな性悪な笑みを・・・」
「サクさん」
「何でしょうっ!?どんな罰だろうと甘んじて受けます!!」
「罰として私と・・・何処かで日程の合う日、一日デ、デデデデ・・・・・」
「デ・・・?」
デから始まる罰・・・電流?
怖い・・・日本じゃ電流を流されてもアフロになるだけで済むスーパーマサラ人もいるが・・・
死ぬよ?普通に死ぬよ?アフロどころか心臓の鼓動が大人しい髪型になっちゃうよ・・・?七三分けになっちゃうよ・・・?
「デートして下さ「喜んで」・・・え?良いん・・・ですか?」
「喜んで」
いやっふぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!
デートやったああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!
ゆんゆんとデートふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!天国じゃあああああぁぁぁぁぁぁいっっ!!
これなら仕事滅茶苦茶頑張れるよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
ありがとおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!
「―――――ありがとうございます!」
「いや俺の方が嬉しいよ!ホントありがとう!―――――――って!時間やべぇ!じゃあな!日程決まったら話に行くから待っててくれ!」
こうして俺は部屋を勢い良く開けて走り出した―――――――――
~*~
「サ、サクさんと・・・デート・・・えへへぇ・・・」
部屋を借りた当人が居ない部屋の中。
ゆんゆんは鼻の下を伸ばしながら少し下品な笑いを零していた―――
~*~
ギルドの裏の部屋。そこで制服に着替えた俺は勤務時間が始まるまで待っていた。
昨日の熱気は何処へやら。若干冷気の漂う石造りの部屋で暇を持て余す・・・・・ん?あれって・・・
「どしたんすか?所長?」
「モノノベサク、君に1つ仕事を頼みたい!」
所長に呼ばれて部屋の隅で密談をするかのような体勢をとる俺達。
・・・・・いやな予感がする・・・面倒くさい仕事を・・・押し付けられる気が・・・
「・・・何でしょう?正直・・・嫌な予感が・・・」
「いや!安心してくれたまえ!君の仕事!晴れては我々の仕事まで減らせるような朗報だ!――――――君には新人の教育係を頼む!」
「きょ、教育係・・・?それって俺が最初にルナさんに受けてたあれみたいなもんですか?」
「あぁ!ここでは新人が入った場合、1番の若輩が新人の教育をする事となっている!」
へぇ~そんなしきたりがあったのか・・・
まぁ教育係ってこたぁそこまで面倒でもないだろ・・・てか受けたくないって言っても無駄か。
「それで?その新人は何処にいるんですか?」
「うむ!それでは入って来てくれ!」
そう言って1人の少女が入って来た。
銀髪のボブカットに青い瞳、垂れ目と目もとの泣きホクロが若干不幸そうな様相を醸し出していた。
その子に近づいて手を出すと彼女も恐る恐る手を差し出してきた。
「俺は物部朔。よろしく頼む・・・え~っと・・・」
「あっ!わ、わたしキノアといいます。よろしくお願いします!モノノベ先輩!」
何だろうこの感じ・・・悪くない・・・
お気に入り200件突破イエーイ
誰かとコラボとかしてみたいけどボッチなんで無理っすね(白目