ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ 作:パザー
「いらっしゃいませ!クエストなら奥のカウンターへ!食事なら奥の・・・ってゆんゆんか。どした?」
今日の俺の当番は厨房、それもウェイトレス担当だったのでいつも以上に忙しなく動かなければならない。
来店された客、もしくは冒険者に関しては入り口から1番近くにいたウェイターが対応する事となっているのでたまたま料理を両手に担いで運んでいた俺がいつもの営業スマイルに爽やかボイスで客を迎える。
見知った顔・・・・・は大概の奴らなんだが、その中でも見知った顔が訪れていた。
ゆんゆんはグリフォン討伐の夜以降、こうしてチョクチョク冒険者ギルドに足を運び軽食を頼んでいる。
そして休憩時間とかに俺の相手になってもらっている。
「お待たせしました。ジャイアントトードの酒蒸し、グリフォンの唐揚げでございます」
ゆんゆんと席へ向かう道すがら運んでいた料理をテーブルの上にゆっくりと置いた。
グリフォンの唐揚げは俺たちが討伐した奴を解体して数量限定のメニューとなっている。
顔に掛かる湯気や鼻を刺す料理の香ばしい香りに内心がっつきたい気持ちが芽生える。
・・・だからウェイター嫌なんだよなぁ・・・忙しいしこうやってセルフ飯テロしなきゃならんし。
いや、基本何処も忙しいんだけどさ・・・・・やっぱブラックだなぁ・・・
まぁいいや。ひとまず昼のピークは捌ききったし、裏にはけるとすっか。
「じゃあなゆんゆん」
「あ、はい。お仕事頑張って下さいね!」
任せろと言わんばかりにビシッと親指を立て駆け足で裏へと向かう。
「フィー疲れた疲れた・・・ん?」
愚痴を零しながら扉を開ける。
表とは違いヒンヤリとした空気が顔を撫でる感覚に心地よさを感じる。
だがそれよりも気にかかる事があった。
そうそう会する事の無いギルド職員達・・・受付以外が一同に集まっていた。
珍しいなこんな事・・・こんな事があったのは・・・あっ・・・
と~っても嫌な予感・・・と言うかこれは忙しくなるな・・・栄養ドリンク買いに行かんと・・・
はぁ・・・・・憂鬱・・・・・嫌だなぁ・・・あれ、事後処理とか色々面倒なんだけど・・・
去年は確か・・・栄養ドリンク2,30本は飛んでたっけ・・・
「いや~良く集まってくれたな諸君!」
厳ついオッサンが満面の笑みで話を始める。
低く太い声だったが一語一句聞き取れ・・・・・うるさい。
このオッサン・・・・・ていうか所長が耳元で喋り出した時なんか鼓膜の危機を初めて感じたからな。
うん、間違いなくうるさい人ランキングNo.1なんだよなぁ・・・
「今年もあの季節がやって来たぞ!それは――――――」
「もったいぶらないで早く話してくださいよ、ルドルフ所長」
「ん~モノノベサク!何度も言ってるだろう?私はルドルフではなくルードだ!ルード・アルバートだっ!イッパイアッテナと旅をした覚えなぞないからなっ!!」
「へいへい分かりやしたよ」
「サク君、所長をからかうのは構わないけど話が進まないから静かにしててね?」
「は~いルナさん」
あ~うるせぇ・・・やっぱ所長みたいなタイプは苦手だ。
ルナさんへの対応と所長への対応の差に笑顔を崩さないが困った声を捻りだす所長。
何で所長への対応があれで先輩への対応は―――――――そんな事だろう。まぁそんなんをグチグチと咎める人じゃないのは俺たちの間じゃ当たり前だ。どうせ1時間もしたら忘れてら。
「話を戻そうか!先日
その一声でドンヨリとした雰囲気に早変わりした一室。
もしや何か良い話ではないかと言う一部の職員の淡い期待は消え失せた。
そう、キャベツ収穫祭・・・年に1度だけ行われる緊急クエスト。
一玉捕獲すれば年ごとにバラつきはあるが大体6.7000エリスほどで取引される。
貧乏な冒険者にとっては破格のローリスクハイリターンの高報酬クエストだ。
・・・だが!俺達ギルド職員にとっては地獄でしかないのだ!!
まず襲い掛かるのは冒険者達への報酬の配布!この時点でアクセルのほぼ全ての冒険者に報酬を配らなければならずその処理で数人は落ちる。次に襲い掛かるは調理ラッシュ!捕獲されたありったけのキャベツを全速力で調理し振舞わなければならない!ここで半数は落ちる。こうして残った4割ほどの職員で各地へキャベツの梱包から搬送手段の確保をしなければならない!
こうして事後処理に3週間ほどかかり、その後には職員達の屍の山が積み上がる―――それがこのクエストの闇だ!
・・・・・ホンッッッッット嫌だあああぁぁぁぁ・・・!!
・・・ん?仕事量を減らせれば・・・・・
~*~
「キャァベツ―――――――狩りじゃああああああぁぁぁぁぁぁいっ!!!」
ウオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ!!!
アクセルの街と平原を隔てる大門の正面。
そこに俺は腕組みに仁王立ちの体勢で陣取っていた。
あの後、すぐにルナさんによる緊急放送がなされ俺と同じように冒険者たちが集まった。
鉛色に垂れ込んだ空の下、彼方の空に浮かぶ緑色の斑点を凝視して固まっている俺達。
「来た・・・」
俺がポツンと呟いた。
斑点は時を重ねるにつれて大きくなっていきただの丸ではなく上部に羽の様な部分が生えているのも見て取れた。
武器を構え臨戦態勢を取る。
よし・・・・俺もやるとするか。
「啼け『紅姫』・・・ん?」
羽ペンをつばの無い細身の刀に変化させる。
というか・・・・・俺の隣でフンッと荒々しい鼻息を吐いた人物・・・めぐみんだ。
しかも何やらブツブツと呟きっていうか・・・詠唱・・・こいつの詠唱って・・・・・ば・・・爆裂魔法?
まっずい!爆裂魔法なんてやらせようもんならキャベツの全て・・・肉の最後の一片までも絶滅させられるうううぅぅっ!!AMEEEEEEEEEEEN!!!・・・あれ?キャベツの肉って何?まぁいいか。
いやそうじゃねぇ!早く取り押さえねぇと!!
「『縛り紅姫』!」
「むぐっ!?―――――むぐぅ!!むぐむぐぅっ!!」
「どうしためぐみん!?・・・誰だ貴様?・・・って!ギルドの人ではないか!なぜこんな所に・・・?」
こいつのパーティーメンバーなんだろうか。
白を基調とした鎧に腰に掛けた長い大剣。長い金髪を後ろにポニーテールで纏めた18・・・位の少女が俺に向けて怪訝そうな顔で問い詰めてきた。
・・・え?何?俺なんかした?
特に突っかかれるようなことをした覚えは・・・
「おーいめぐみん!どうしたー・・・って朔か?・・・ていうか何でめぐみんふんじばってんの?」
「おぉ、和真か。いや考えてもみろよ。こいつに爆裂魔法でも撃たせたら・・・」
「・・・・・マズイな。ありがとよ。おいダクネス、あんま絡むなよ」
「い、いやしかし・・・」
「ダクネスダクネス!ダメよ朔さんに突っかかったら!ヤバいのよ!彼は色々ヤバいのよ!」
「ヤ、ヤバいって・・・何がどうヤバいのだ?ちょっとそこを詳しく・・・」
ダクネス・・・・と呼ばれている女騎士が何故か顔を赤らめている・・・Mか。
結局集まってしまった馬鹿共・・・もとい和真たちのパーティー。個性的だなぁ・・・駄女神に一発屋の魔法使い、ドM騎士・・・美少女だけどさ。
「サ、サクさん!?」
「はいはい朔さんですよ~?」
この声はゆんゆんのか。
こいつも参加してたか――――――全員参加って通告したのギルドだっけ。
後ろも振り向かず、手だけをヒラヒラと振った。
彼女は俺の右隣で立ち止まった。縛られてるめぐみんを踏みつけながら。
「むぐぅっ!?むぐ!むぐぅ!」
「お、おいゆんゆん?ちょっと悪意の無い暴力っていうか・・・うん、ただの暴力事案が発生してるんですが」
「うん?どうかしました?」
「あっ・・・・・いえ、何でもありません」
「
フゥ・・・案外S気質があるのか・・・ゆんゆん。
・・・・・・ピンクのレオタードに鞭を持って高笑いするゆんゆん・・・似合わん。
ていうか、もうだいぶ近づいて来たな。
よし、ボーナスの稼ぎ時だ・・・!グリフォン戦以来若干感覚は戻ってきたし、技のキレも全盛期にゃ遠く及ばんが前よか全然動ける。
「っし!じゃボーナスが欲しいんで・・・物部朔行っきまああああああぁぁぁぁすっっ!!」
「「「「おういえい!!」」」」
「
ヒャッハー!ショクインニツヅクゾヤロードモー!!
オウイエエエエエエエエエエエエッッ!!
こうして俺たちは高速で突進するキャベツに向かって行くのであった―――――――俺たちの戦いはこれからだ!!
消滅都市楽しいなぁ・・・