ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ 作:パザー
ドサッという音と共に朔が地面へと倒れ伏した。
・・・それも尻から血をダラダラと流し、白目を剥いたままという類を見ない最悪の姿で。
尻からズボン越しに滲んでいる血を見て傍にいたゆんゆんが慌てふためく。
(ど、どうしよう・・・!?これ、動かしちゃダメなのかな?でも、このままじゃ・・・)
そう言って彼女らを上空から悠々と見下しているグリフォンにちらりと視線を移す。
一番厄介であった朔が倒れた事で余裕が生まれたかのように彼女たちを一瞥した後、再び上空へと飛び立った。
すると真っ先に倒れている朔に視線を向けて容体を推し量る。
ショックで気絶しているのだろうか、脈はしっかりとしているが動きは無い。
ひとまず平原のど真ん中で看病する訳にもいかず辺りを見回した。
「おーい!こっちだゆんゆん!」
「早く来てください!グリフォンは何時また襲ってくるか分かりません!」
西の方角、森林の手前に生えている大木の前で和真にめぐみんがこちらへ手を振っていた。
2人の後ろには体操座りをしながら顔を伏せているアクアの姿もうっすらと見て取れる。
それを見るや否や彼の脇に手を回して上体を起こす。
しかし彼女の細腕には成人男性を担ぐのは無理があり、ズルズルとゆっくり引きずる姿勢となってしまう。
焦りが彼女の胸中を覆い尽くすがそれで何が変わるという訳ではない。
流石に不味いと感じた和真も木の傍から駆け出して朔の左腕を掴む。
多少速くなりはしたが芋虫の這う速度が餌を担いだ蟻程度の速度になっただけだ。
グリフォンも旋回を止め、彼らに向かって突進を始めた。
空気を切り裂く甲高い音を響かせながら速度を急上昇させるグリフォン。瞬く間に距離を詰め、舞い起こる風に2人が顔を顰める。
「あぁー!!もうダメだわ!!詰んだわ!!人生やり直してえええぇぇっ!!」
「う、うぅっ・・・!も、もうダメ・・・お父さん・・・っ!」
和真が頭に両手を当てながら遺言・・・というか懺悔を叫ぶ。その拍子に朔の体は地面へと顔面から叩きつけられた。・・・しかし、その時漏れた小さなうめき声はかき消されてしまう。
諦めの色を浮かべた2人を余所に目と鼻の先まで迫ってきてしまう。
そしてグリフォンの鉤爪が2人に襲いかかる。
鮮血が辺りに飛び散る。
雄叫びを上げて上空へと飛び立ってしまうグリフォン。
・・・飛び散った鮮血は・・・2人の物では無かった。
グリフォンが胴体を真一文字に切られ、羽をユラユラと散らす。
深手を負ったせいなのかユラユラと安定しない飛行を行うグリフォンだったがすぐさま羽を翻し後退してしまう。
「ケ・・・ケツが・・・割れる・・・綺麗に・・・真っ二つに・・・これ休暇もらえるかな?」
「「心配そこなの!?」」
自分の尻の心配よりもギルドに帰った後の心配をする朔。
そのずれた心配に思わず敬語を忘れて突っ込んでしまうゆんゆんに和真。
紅姫を杖にしながら立ち上がると剣を振るい、刀身に付着した血を振るい落とす。
そのいつもと変わらぬギルド職員の姿を見た2人が安堵のため息を吐く。
「――――――――アクア!!ありったけの支援魔法だ!!それにめぐみん!!合図したら全力で爆裂魔法を撃て!!」
突然平原に響いた大声。大きく肩を震わせるがすぐさま気を取り直してアクアが朔に向けて攻撃、防御、素早さ、命中率、運、ほぼ全てのステータスを上乗せするバフを放った。
そして木の傍でバサッとマントを翻して杖を掲げながら詠唱を始めた。
杖の先端にあしらわれている彼女の瞳と同じ色の水晶に黒色の奔流が収束され始める。
和真とゆんゆんもそれに感化されて戦闘態勢を取った・・・・・約1名、全く役に立たないが。
「『
「『フローズン・・・レイ』ッッ!!」
こちらへと距離を詰めるグリフォン。
金色の瞳と彼達の視線が交錯しあう。その瞬間、朔にゆんゆんから先と全く同じ技が放たれた。
当然一度見知っている動きだ。・・・だがグリフォンの背後、そこにはそれの巨躯をもスッポリと覆ってしまいそうな巨大な赤黒い網が展開されている。
「『
見事に引っかかったグリフォンを一瞬で雁字搦めにしてしまう。
拘束されたグリフォンは体を必死に動かしながら脱出しようと試みる。
それなりに時間は稼げそうだが解かれるのも時間の問題だろう。
1本1本確実に網の目を切り裂いていきほぼ右半身は自由となってしまう。
「
「はい!―――――――――『ライト・オブ・セイバー』ッッ!!」
突然網が発火し出し巨大な火だるまを造り出す。
更にゆんゆんが空中に振るった手刀の軌跡から金色の光の刃が飛び出した。
・・・しかしゆんゆんの刃は道半ばで消滅してしまった。
――――こんな時に制御が・・・!その気持ちで胸がいっぱいになる。
悔しそうにゆんゆんが歯軋りをするがそんな彼女の心に掛かった暗雲を晴らす一喝が響く。
「まだだ!まだ終わってねぇっ!!――――――闘え!!」
もう拘束は持たないだろうと判断し技を解いてしまう。
所々は焦げてしまっているが依然、俊敏な動きは崩さない。
「『ライト・オブ・・・・・セイバー』ッッ!!!」
渾身の魔力を込めて放たれた黄金の刃が一直線に向かう。
しかし、当然の事ながら回避しようと旋回を始める。
「逃すかってんだ!!『重撃白雷』!!」
切先から放出された細い糸の様な白い雷撃。
雷は何者にも躱せない。この世に存在する中で光に次いで速い物だからだ。
だが、体をほんの数秒硬直させるのみの雷撃だ。
雷撃が直撃し、ほんの一瞬グリフォンの体が硬直した。
すぐに気を取り直すかのように頭を振り前に向き直る。
だがそれの眼前には刃が迫っていた。
「・・・ようやく仕舞か・・・めぐみん!!」
「ようやくです・・・ようやく・・・『エクスプロージョン』ッ!!」
刃がグリフォンの羽の端から端まで真一文字に切り裂いた。
バランスを崩し巨体が重力に沿って落下していく。
彼の声に詠唱を続けていためぐみんの杖から一筋の漆黒の閃光が走り抜けた。
グリフォンに突き刺さった閃光は途端に収束したかと思われたがとてつもない轟音と目も眩むような黒の光が辺りに広がった。
全員が爆風に耐えようと足を踏ん張る。
数十秒で爆煙がようやく晴れたかと思うと辺りには半径20メートルほどのクレーターが痛々しく、魔法の威力を物語るかのように広がっていた。
「やったか・・・!?」
「朔さん・・・・それアカン奴。復活される奴」
「カズマさん!それってどういう事!?」
「ふ、ふふ・・・我が名はめぐみん・・・グリフォンをも屠りし者・・・!」
魔力を使い果たしためぐみんを背負いながら和真の復活する発言に突っかかってくるアクア。
一方めぐみんは恍惚の表情を浮かべながら爆裂魔法の快感に浸っていた。
「やったな、ゆんゆん」
「えぇ・・・まさかこんなサクさん以外低レベルのパーティーでグリフォンを倒しちゃうなんて」
「ハハッ!こんなん奇跡だろ!本気でグリフォン倒せるたぁ思ってなかったわ!」
戦闘中の鬼気迫る彼の気迫は何処へやら。
いつもの軽薄なただのギルド職員と化していた。そんな彼にクスッと笑いを零すゆんゆんだったが突然、虚脱感と睡魔に襲われる。思わず足を滑らせてしまう。
「あっ――――――」
「っと・・・・・大丈夫か?・・・・・寝ててもいいぞ」
彼女を抱きかかえるかの様に体を支える朔。
ゆんゆんの魔力もめぐみん同様尽きかけているのを察して耳元で誰にも聞かれない様に呟く。
すると頬を赤く染めながら『ズルい人です』と呟いてそのまま寝息を立て始めてしまった。
その穏やかな寝顔を見て軽く笑ってから彼女を背中に担いだ。
押し付けられる大きな胸と柔らかい体にドキッとしてしまったが尻の痛みで何時ぞやの様にはならずに済んだ。
(ケツイテェ・・・これ痔になったりしないよね?大丈夫だよね?)
青い顔をしながら嫌な事を考え込む。
しかし、めぐみんをアクアから受け取った和真が話しかけてきた。
「朔、そろそろ帰ろうぜ?」
「・・・ん?あぁ、そうだな」
「ねぇ早くあのグリフォンとカエルの討伐報酬を換金しましょうよ!報酬はもちろん山分けよね?」
「「このバカは・・・」」
「バカって何よ!?」
何時までも緊張感の無い駄女神はもう少しカエルの中に居ればよかったのに・・・
そう思う2人は傾き始めた日に向かって歩み出した―――
~*~
「あれ・・・?そうやゆんゆんの宿って・・・何処?」
クエストの報告・・・肝心のジャイアントトード5匹の討伐はまるで進んでないのだが。
ギルドに帰ってきた俺達を待っていたのは歓声とルナさんの肩揺さぶり質問地獄だった。
尻の傷とゆんゆんを理由に何とか解放されたが・・・疲れたなあ・・・
俺がもうちょっと早く感覚戻せてたんなら楽だったんだが・・如何せん久しぶり過ぎて力が全然出せなかった。
なっさけないなぁ・・・我ながら・・・
ま、俺以外は怪我人も居なかった訳だし上出来か。うん、そう考えよう。
というかゆんゆんどうしよ・・・こいつの宿の位置何処だっけかな・・・
ダメだ、思い出せん。
そんな事を考えながらかれこれ1時間程ゆんゆんを担ぎながら夜の街を彷徨っていた。
昼時の麗らかな陽気とは裏腹に冷気に包まれ下手したら風邪でも引いてしまいそうだ・・・
・・・・・これは・・・あれか・・・・今度は俺の宿に連れてく奴か・・・
俺は結城リ〇じゃないんだが・・・・・
そうこうしている内に何とか宿へと到着した。
受付のおばちゃんに鍵を貰ってから自室へと向かう。だが、その際に・・・
アァラサクチャァン、オンナノコツレテカエッテクルトハアソビニンニナッタモンダネェ!
オイオイジョウダヨシテクレヨオバチャ~ン!ア~ッハッハッハ~!
「「ア~ハッハッハッハ~!」」
こういう悪乗り、嫌いじゃないよ?
「お休み、お姫様」
そう呟いてベッドへ動かないゆんゆんを寝かせ布団を掛ける。
やっぱ綺麗・・・だな・・・
改めて感じる彼女の浮世離れした容貌に心を奪われそうになる。
整った顔立ちやサラサラとした両肩から垂らして纏めてある黒髪。白く綺麗な肌にとても13歳とは思えないほどの発達した体。もうホント完璧だよな・・・こいつ。
まぁ良いや、とっとと俺も寝るか・・・机で・・・
~*~
「・・・ないよ・・・かし・・・くだ・・・ね」
・・・・・?
この声って・・・あぁ・・・体が重い・・・
やっぱ机で寝るもんじゃないな・・・ロクに疲れも取れやしねぇや・・・
って!そうじゃねぇ!!
「ワッ!・・・起きちゃいました?」
「・・・おはよ」
「深夜ですよ?今。ほら、月があんな綺麗に・・・」
「そうか・・・イテテ・・・」
痛む尻を摩りながら立ち上がる。
食器棚へと近づきカップを2人分取り出す。
そしてココアを用意するためにガラス瓶に水を溜める。
コポコポと音を立てながら熱せられる湯を見ながらボーッと何も考えず突っ立っていた。
軽く首のストレッチがてら後ろへ向けるとゆんゆんはベランダから星空を見ていた。
・・・そろそろ良いか。
粉と湯をかき混ぜて簡単だが飲み物を確保した。
鼻腔を刺激する特徴的な匂いや手から伝わる温かさ。
若干眠気に誘われるがそんなのは気にも留めずカップを以てベランダに居るゆんゆんの所へとゆっくり歩く。
足音に気付いたのかこちらへと向き直ったゆんゆんの目は暗闇の中で煌々と輝いていた。
カップから撒き散らされる湯気が上空へと消える中、ココアを一口啜る。
彼女もそれに習って一口啜る・・・が案外彼女にとっては熱かったらしい。アチッと小さく声を漏らしてフーフーと息を吹きかけココアを冷まそうと試みていた。
「ハハ!あちぃぞ、気ぃ付けろ?」
「あ、熱かったです・・・」
「そうか。まぁ・・・あれだ。旨かったか?」
「は、はい。美味しいです」
「そりゃ良かった」
そう言って同時にもう一口ココアを啜る。
口から食道、胃に至るまでの道のりに熱い液体が流れ体が温まっていくのを感じる。
フウッと一息吐いてから柵にカップを置き軽く身を乗り出す。
顔に掛かる冷たい夜風を感じながらアクセルの街並みを見下ろす。
すっかり黒に染まってしまった街並みに若干驚きつつもチラリと横目で彼女を見てみた。
・・・・・何故だがこちらをジッと彼女が見ていたせいでバッチリ目が合ってしまった。
まるで何かをしようとしているが躊躇っているように。
「・・・・・どしたの?」
「いえ、踏み入った話になるかもしれないんですが・・・聞かせてくれませんか?サクさんが冒険者だった頃の話・・・とか・・・」
「何だ、そんな事か・・・長くなるかもしれんが?」
「全然構いません!むしろ大歓迎ですし!楽しみです!」
――――――――――俺も4年くらい前まではお前たちと同じひよっこ冒険者だった。時には1人でやったり何人かとパーティー組んでやったりとかな。ドラゴンを倒したり、グリフォンの群れとやったりパーティーメンバーと手合せして実力を測ったりとかもした。とにかく楽しかった、何回死にかけたかも分からないが。悪友とバカやれてホント、充実してたし、満たされてたんだ。
それでまぁ・・・色々あって
「す、凄い人だったんですね・・・サクさん。驚き・・・です。今の態度からじゃ想像できませんよ」
「ハハッ!昔のパーティーメンバーに今の俺見られたら爆笑されること間違いなしだぜ?」
そうして段々と弾んでいく会話。
眠気も時間の流れも感じられない程に楽しい会話は久し振りだ。
ゆんゆんはちょっと人見知りが激しそうな性格だが・・・こうやって明るく話せて嬉しい。こういうタイプは一度仲の良い友人が出来れば付き合い続けるからな。
「他には!?他には無いんですか!?」
「あるにはあるが、また今度にお預けだな」
「エエッ!?何でですか!?もっと話聞いてたいです!」
「何でってそりゃ・・・」
俺が回答までをわざと溜める。
すっかりテンションが上がってしまい興奮気味の彼女は顔をズイッと近づけながら問い詰めてくる。
この世界の子ってさ・・・テンション上がると顔を近づけて演説する癖でもあるんかね?
めぐみんとかさ向こうが俺の顔知ってたくらいでも俺が呼んだ途端に飛び付いてきたしさ。
というか・・・こうして美少女の顔が至近距離に寄せられるのは童貞には非常に堪える・・・嬉しいけどさ、恥ずかしくもあるんだよ。分かる?男なんて基本内弁慶なんだよ。
・・・そろそろ突進とかかましてきそう。
俺が返答を出し渋っているせいか痺れを切らしたようにソワソワし始めるゆんゆん。何時催促が飛んでくるか分かったもんじゃない。
「・・・お前とこうやって話す機会が増えるからさ」
「えっ──────?」
我ながら・・・・・恥ずかしすぎる。
あぁ!何でこんなこと言ったんだろ!いきなりこんなんじゃ間違いなく引かれるよなぁ・・・
「わ、悪い!気持ち悪・・・かったか?」
ゆんゆんは赤い顔をしたまま俯いて何も話さない。
何か良からぬ事をしてしまったなと思い俺が慌てて謝る。
すると、それを聞いてゆっくりと顔をこちらに上げる。
赤く染まっている頬は若干大人な彼女を年相応の少女に見せ、いつもと違う印象を受ける。
「わ、私、目を合わせて話すこと・・・とかも苦手だし、自分からじゃつまらない話しか出来ないし、長続きもしません。そんな私でもお話・・・してくれるんですか?」
「もちろん。むしろ数少ない有給とってでも話に行くぜ?何時でも来いよ。愚痴でも悩み事でも、自慢話だろうと何でも聞いてやるからさ」
・・・俺は案外こいつを気に入っているらしい。
出会って2. 3日なのにどうしてここまで肩入れするんだろうと不思議に思う。
「本当ですか!?その・・・毎日行ったりとかしても引きませんか?クエストが無くて、日程の合う日とかだったら一緒にいてくれますか?」
「ああ、良いぞ・・・というか大歓迎だ」
「あ、ありがとうございます・・・!」
感激して深々と頭を下げているゆんゆんの顔を上げさせ、俺はくしゃくしゃと彼女の頭を撫でてやった────
ダイスの神楽しいお・・・( ;∀;)
マスタークラスで200憶位負けちまったぜ・・・( ´_ゝ`)