ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ 作:パザー
exー18 この未開な大都市で散策を!
「トウ…キョウ…?聞いたこともない地名ですけど、なにか知ってるんですか?」
「……うんまぁ、少しばかり縁がある地ってだけだ」
日差しが照りつけ、それを浴びる人々はあまり良い表情はせずにそこらかしこを行き交う。前にいたアクセル-----あの世界とは似つかない人と建物の街。俺やカズマが暮らしていた世界。店主に伝えても良いことなのかこれは……ひとまず、今は話す時じゃない。
「まずはだ。帰る宛も住む所も物もない。ならまずは生活用品の確保だ。と言うわけで森に戻るぜ、店主」
「えぇっ!?またあの道を戻るんですか!?もう疲れましたよ…」
「そんなこと言ってくれるなよ…正直俺だって戻りたくはないが、ここじゃ人の目が多すぎる」
「それもそう…ですね。戻りましょうか…とほほ…」
〜*〜
1時間ほど歩き通し、ようやく再び鬱蒼とした木が生い茂る森に到着した。太陽の光が枝葉に遮られ日陰と日差しがなんとも言えない調和を図っている。そんな中にタキシードのような服と紫のロングドレスを着た男女が入り込み、一層景色のモヤモヤとした感じを助長する。
「っし…卍解『観音開き紅姫改メ』」
まずは金だが…この国の金は色々と精巧すぎて作れる気がしないから文字通り金の成る木を作るとしよう。
綺麗な形には到底整形できやしないから、とにかく手頃なサイズでだ。
「……っと、店主。こいつ持っててくれ」
「わわっ……これ、宝石ですか?それにしてもなんで…」
「金だよ金。普通なら魔法を使うための媒介だが、この辺じゃ魔法はないし、宝石はただのアクセサリーだ。ってことで、また戻るぜ」
「え!?ちょ…私、散々陽に当たって限界なんですよ!?」
「あっそうだお前リッチーだったな。なんかもう海行ってたりしてたしその設定忘れてたわ」
「せ、設定ってなんですか!?割と命に関わる大事なことなんですよ!」
「わ、悪い悪い…」
必至の剣幕で詰め寄ってくる店主をなんとか宥めつつどうしようか四苦八苦する。
鬱蒼とした森に店主の怒号が響く。しかし日差しが強いせいでこの辺りもだんだんと暑くなってきている。このままじゃ冗談抜きで店主が焼きリッチーまっしぐらだろう。
「ああ分かった分かった!こんな格好じゃ目立ちすぎるから、なるべく普通の服作ってやる!少しなんか自力で木に穴でも開けて待っとけ!」
「は、はい!分かりました〜-----!」
そう対抗するように大声を出すと少し嬉しそうにどこかへテクテクと小刻みに歩いて行ってしまった。
「あぁ言いはしたが…女物の服…ワンピースにちょっとデカめの帽子でも作ってやればいいのか…?」
ラヴィーの為にもこう言うセンスは磨いておいた方がいいのだろうか…?いやひとまずは店主の服だ。サイズはまぁ適当に…
〜*〜
「なんだ…その……あれだ」
「……なんでしょうかモノノベさん」
「……ごめん、センスなかった」
無事に真っ白でフリルだとかは何も付いてはいないシンプルなワンピースとツバが広い帽子になんだか優雅そうなフワッとした日傘。日傘に帽子は割りかしそれっぽく造形はできたんだ……できたんだけども、問題はワンピースの方だった。
形は別になんてことはない普通のワンピースだ。なのだが…店主の胸が豊満すぎたせいでスカートの丈は上へ上へと引っ張られ、あわやパンツが見えそうな領域まで行ってしまった。
こんなんじゃ痴女認定待ったなしなんだが……
「……」
「-------眺めてないで早く直してくださぁいっっ!!!」
「ごめんなさぁいいいい!!!」
〜*〜
店主のあんな剣幕始めて見……いやベルディアの時といい勝負だったなうん…てか最近暴力振られる事多いよね僕……いやまぁ自爆も多いけどさ。
そんな事を思いながら、結局膝下まで伸ばしたスカートの裾を若干鬱陶しそうに横を歩く店主の方に目をやる。
普段は紫色のロングドレスで言ってしまえば若干陰気な雰囲気を纏っていたが白で統一した服に身を纏った彼女は人にはない…リッチーだけどそこは置いとけ…妖艶さと美しさを称えていた。
街に出てからというもの、どこまで歩こうとコンクリートのビル、ビル、ビルと嫌になりそうなほど景色が変わらない。東京を知ってはいるものの土地勘なんてなく、その中で特定の店を見つけようだなんて、少し無理があったか…?
「……店主、休憩いるか?」
「あっいえ別にまだまだ大丈夫ですよ?-------あ、なんだかあの建物、他と違くないですか!?ほらほら!」
「ん?-------あぁ、ありゃ…デパートか?うし、涼みたいし寄ってくか」
向こうの世界ではあり得ない様な景色や人達に暑さのことなどそっちのけで目を輝かせ俺の袖をつまみながらはしゃぐ店主。
普段から接しているせいであまり意識した事はないが彼女はやはりかなりの美人だ。スタイルもいいし、この日差しに照らされて映える白のワンピースも相まって彼女の所作一瞬一瞬のどこを切り取ろうとも幻想的な画が撮れるだろう。
そんな彼女になんだか顔が熱くなるがなんか癪なので誤魔化す様にそっぽを向いて足早にデパートへ向かう。
まわりの社畜からの視線が痛い…許してくれよ、俺もある種同類なんだから…
〜*〜
「わぁ----!すごい!すごいですよモノノベさん!こんなに涼しいし何よりいろんなお店がたくさん!」
「あ、あぁ分かった。分かったからもうすこし落ち着こうぜ?じゃないと平日とはいえ周りからの視線が…あっ御構い無しですかそうですか…」
都心のものという事もあり、中々に豪勢な嗜好をこらした店内。そんな店内に普段からあんな地m……質素な店で暮らしている反動でこれまでに見た事ないくらいはしゃいでいる店主に珍しく振り回されるがままになる。目的があるってのになぁ…
「店主ー、その辺うろつくのは構わないけど、違う階には行かないでくれよー」
「〜〜〜〜!〜〜〜!」
……なんて言った?もうどっか行っちゃったよ…まぁとりあえずはだ。エレベーター辺りにでもマップがあるはず…
冷房の効いた店内をブラブラと歩き回る。外と温度差がありすぎて若干肌寒さを感じる。この感覚も久々に味わう、贅沢な悩みってやつだ。向こうだと空調なんてものはないから、暖炉で薪を燃やし続けてもしもそれが無くなってしまったらチャンチャン。極寒の中外出して薪を買いに行くなんていう憂鬱なクエストの始まりだ。
ホンットなんであんな面倒な世界に行っちまったんだろなぁ…素直に生まれ直しとけば良かったものを……おっあったあった。……二階になんかそれらしい店があるな。うし。
「な〜にしてるんですかぁ?モノノベさんっ!」
「くぁwせdrftgyふじこlpッッッ!?!?」
「わぁ〜ひ〜どいですねぇそんなに悲鳴あげるなんてぇ」
耳元で急に囁かれた冷ややかで妖艶な声。
脳が震え、体が縮みあがり心拍が加速する。
脳はフル回転し、それに比例して体は酸素を求めて呼吸を加速させる。恐ろしい程に鮮明な畏怖。それらが一気に体を駆け巡り、思考をフリーズさせた。
「て、店主かよ……ビビっt酒臭くね?」
「にへへ〜」
赤く染まった頰に惚けた顔をして夢うつつな店主。彼女からほのかに香った酒の匂い。そして辺りを見渡すと、エプロンを着た店員らしき男が店先に立ち何かの試飲を行く先々の人に勧めていた。 彼の後ろにはオシャレな石造りに様々な瓶が陳列されている。
なるほど断りきれず飲んじまったのか…いやそれにしても下戸すぎん?
「あー店主。シャキッと立て。最上階に行くぜ。そんなフラフラした足じゃろくに動けんぜ?」
「最上階ぃ?連れてってくださいよほら〜-------ん!」
「その手は……はいはい分かった分かった。エスコートすればよろしいですか、お嬢様?」
「にっへへへへ〜〜」
〜*〜
……どうしてこうなった。ホント、どうしてこうなった?
少しばかり一階とは様相の変わった最上階。コミケがどうだのと書かれたオタクショップを横目にしながら訪れた質屋。そこで宝石を換金してホクホク顔で出て行こうとした矢先だった。 悲鳴があがり、防火シャッターが降りてきて、俺たちのいる一角は閉鎖された。けたたましいサイレンを打ち消す銃声が辺りに轟いた。
「お前らあ!!妙な動き見せるんじゃねぇぞ!!この娘の頭が吹っ飛ぶのを見たくなかったらなぁ!!!」
その小さな女の子を人質に取った男の怒声を合図に、目出し帽の男数人が角から飛び出して銃を突きつけて辺りの人間を中央に集めた。
……どうしてこんなに冷静かって?それは…
「あらら〜なんだか変な人たちが出てきましたね〜?あの手に持ってるものは何ですかぁ?」
この酔いどれ店主が粗相を起こさないか冷や汗全開で逆に落ち着いてきてるからです。 全くどうしたものか……人質は拳銃を突きつけられている女の子と銃を持った5人から監視されている俺たち含め十数人……はぁ、場所が悪いな。手段さえ確保できれば逃げやすい最上階に質屋がある一角…まぁうってつけの場所だわな。 多分、人質の安否をまるで考えなければ脱出はできる。だけどそれでもし死人が出たら胸糞悪いな……魔力は…何でか少しだけ回復してるな。これなら…
(店主!店主!周りにいる人たちに壁を貼ってくれ。んで、合図したらあのドアの方に走ってこい)
(イッタタタタタ!つ、つねらないでください!…あれ?どういう状況ですかこれ?そ、それに壁って…)
(説明は後。もしもの時はカバーを頼む)
(……はい、よく分かりませんが了解しました)
(頼もしい…んじゃ-------行くぞ!)
「『アイシクル・ウォール』!」
「お、おい!!何をしてやがる!大人しくしねえと-------」
膝を曲げ、立ち上がる。
風を切り、走り出し肉薄する。
目出し帽越しの驚いた視線と呆気にとられ動けない周りの男たちを一瞥する。
紅姫を抜刀し、リーダー格の男の真下に潜り込みながら腕の腱を切断する。 短い悲鳴とともに人質の女の子と銃も落としながら悶絶する男を蹴り飛ばす。
顎に的確に入った上段蹴りで動かなくなった男を見てようやく周りの男達が状況を飲み込んだ。 怒号とも悲鳴ともつかない叫び声をあげながら発砲しだす。
「ちょっとここで待っててくれよ?大丈夫だから」
「-------ッ」コクッコクッ
「いい子だ-------っと危ない危ない」
近くの柱に人質の子を隠し、状況整理を始める。敵は5人。全員躱す事は不可能の武器持ち。ただ柱に身を隠して撃ってくる様子もない。手前の2人を不意打ちで一旦片付けるべきか-------
「『
「ぐあああっ!ああああああっ!!」
「なっなんだ!柱に隠れろお前ら!!」
刀からの斬撃で手前2人の足と腕を落とさないくらいに斬りつけ無効化する。流石に四肢が落ちかけた経験はないのか、叫びながら地面をのたうち回り、そんな姿を見て他3人は柱に姿を隠した。
……まぁ、こんな国で起こるレベルだ。正直、最初の手際こそ良かったがそれ以外は全部成り行きで組んだであろうずさんな作戦。それにこういう戦いにも慣れてないと見えるし…これでもう、俺は仕掛けるだけの側じゃなくて待つのも仕掛けるのも自由自在な優位に立った。
「…『
「は、はい!」
一気に真横へ回り込み雷撃を放つ。さっきまでの戦いを見てもまるで考えなしにタイミングを伺っていた男たちは反応できるはずもなく、3人仲良く気絶した。制圧完了だ。
「飛ぶぜ!準備し「まっ----待って!」ちょっとおおおおおおおおおおおおおお!?!?」
店主と一緒にビルから飛び出してトンズラしようと踏み出した瞬間。背中に急に重みと人肌の温かさがかかる。ただ、もう足は止める事のできない所まで進んでしまっている。
「ちょちょちょ!止ま、止まれないのにアカンだろおおおおおおおおおおおお!!!」
「モ、モノノベさん!落ち、落ちちち落ちないでくださいね!?絶対ですからね!?」
〜*〜
デパートからいくつかのビルを谷間を飛んできた先。コンクリートの上でペタンと座り込んでいる店主をよそ目に、同じく座り込んでいる黒髪の女の子に問いかけていた。
あの状況で飛びついてくるなんてとんでもないなホント…しかもまぁよくも割と平然として…いや強がってるだけだわこれ。
「えっとその…なんで付いてきたのかな?」
「…あ、あの状況から助けてもらったのにお礼もしないなんて名家の名折れよ!それに何なのよ貴方達…変なもの飛ばしたり銃を持ってる大人に臆せず立ち向かっていったり----」
「ん〜……弱ったな…ごめん、詳しくは説明できないんだ。えっと…」
「西園寺よ!西園寺こころ!14歳!説明できないならいいわ、貴方達。何か望む物はないかしら?なんでも叶えてあげるわよ!」
そう自信ありげに力説を続けるこころと名乗る少女。よくよく見てみればその年齢にしては知識のない俺でも分かるくらいに上等な服や小物を身につけている。うーん…この年の子に何か頼みごとをするってなんか人として……いやでも背に腹は変えられないか…
「なんでもか……んじゃあ出来るならで構わないがマンションの一室を貸して頂くとか…?」
「そんなのでいいの?一室だなんて言わずワンフロア、一件とか言えばいいのに。ていうか何で住む場所なのよ?そんな良さげな格好しといて住む場所ないの?」
「っと…俺たち、生まれは日本なんだけど、殆ど海外にいてね。そこのお姉さんと一緒に帰ってきたんだけど、向こうの方に国籍あむたりで色々面倒な事になってさ。だからいいかなーって。ていうか、ワンフロアとか一件って-------」
「貴方…西園寺グループ知らないの?まっ、海外にいたんじゃしょうがないのかもね。-------良いわよ、私の住んでるマンションの一室を貸したげる」
期せずして有難い恩恵が生まれたな…それにしても西園寺グループか…確か、俺が日本に住んでた頃から世界規模で有名な財閥…ホント、すごい恩恵だわこりゃ…
そうして久々に見上げた日本の空は何だか無性に腹の立つ快晴だった-------