ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ   作:パザー

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2ー09 この強大な要塞に制圧を!

行進により胎動を絶やさないデストロイヤー内。後少しもすればウィズとめぐみんが爆裂魔法を撃ち込む。それまでに、ここのどこかに搭乗しているであろう責任者、そしてゴーレムだのが地上に降下して暴れ回らない様殲滅するのが仕事な訳だが・・・

 

暗く冷たい石の通路の向こうからはいくつもガシャガシャと何かが近づいてくる音がする。

 

 

「迎撃か。こいつらが来た方向にははてさて・・・何があったものかな」

 

 

そう言い、音の方へ向き直るとゴーレムの壁がまるで波のように連なっていた。数の想像などしたくはないが、この1分足らずでこんなに集まったって事はそれなりに重要な区画か、その近くに入れたって事だ。

 

四角く角ばった人型をしたゴーレム達がこちらを冷ややかに見つめる。鋼鉄を思わせる無骨な質感を携えた体とそれから繰り出される殴打を想像しただけで背筋に悪寒が走る。

 

だが、このタイプの奴は・・・

 

 

「フッ!!」

 

 

掌底で思い切り先頭のゴーレムの頭部をはじき出す様に突く。斜め下から滑り込むように繰り出した掌底は頭部を的確に捉え、天井にその首をめり込ませた。そして頭部を失ったゴーレムは糸が切れた人形の様にその場にガシャンと体を崩しながら活動を停止した。

 

頭か胴には少なからず重要な回路が詰まってる。ならそこだけを突けば、一撃一殺は容易だ。刀じゃ接触面が少なくて深く斬り込まないとパーツには届かない。スティールでも使えれば楽なのだろうが、生憎なことに習得していない。よっての徒手空拳だ。両の手足4本でこの数を捌くのはなかなかに骨が折れるが・・・

 

 

「やるしかねぇよなぁッッ!!」

 

 

攻撃をしない限りは襲いはしないようプログラムされていたのか、先頭の一台がやられた途端に壁が押し寄せてくる。数が数だけあってこのままでは簡単に潰されてしまう。

 

ただ、全台を相手してる余裕も時間もない・・・一点突破だ。

 

目の前のゴーレムの目線の高さまで跳び上がり、首を勢いよく捥ぎ取る。回路をブチブチと千切りながら輝きを失った頭部を間髪入れずに今度は第二陣のセンターへと投げ込む。 胴に首が食い込むとスパークを発しながらまた一台が鉄くずになるが、先程スルーした第一陣と二陣のサイドのゴーレムが取り囲み、拳を振り下ろす。

 

4方向から鉄槌が迫る。

狭い通路の中で逃げ道はない。

ならば、逃げずに受け止めてしまえ。盾ならば、周りに大量に転がっているではないか。

 

 

「フッ-------!オラァッ!!」

 

 

背後のゴーレムの足を払い、倒れてくる体を頭上へ強引に引きずり込む。そのまま振り下ろされた3つの拳は盾にしたゴーレムの胴を粉々に砕き、自身もパーツを撒き散らしながら砕け散る。そして、空中に舞っている腕をキャッチし、魔力で補強しながら正面のゴーレム二台に思い切り突き刺す。

 

胴を貫きながら壁に貼り付けになった腕を起点に飛び上がり、一瞬だけ残りのゴーレムの数を確認する。

見たところ、後三陣か・・・だが、おかわりが来るだろうし、速攻で片付かなけりゃな・・・

 

 

「韋駄天とまではいかないが-------鈍い鉄くずが追いついてこれるかな?」

 

 

床を本気で蹴り出す。幾つかの石材を撒き散らし、ゴーレムの波へ突貫していく。1つ2つ3つと後続のゴーレムを一台ずつ巻き込みながら計三台を地面に叩きつけ、刀で素早く首を落とす。刀はそのまま床へ突き刺し、落とした首を拾い上げては投げつけていく。

 

三台やって、残り六台・・・この首で三台やるとして、後三台は・・・後で考えよう。

 

投げつけた首が次々とゴーレムをお釈迦にし、残る三台と相対する。こちらには床に刺さった刀とゴーレム三台分の残骸。・・・よし閃いた。

 

腕をもぎ、素早く突貫しながら正面と右端のゴーレムに押し倒すように二本の腕を突き立てる。二台は沈黙、残る一台がこちらに拳を振りかざす。

 

 

「こう単純だから、相手にすらなんないんだよ-------全く」

 

 

身を翻し、ゴーレムの真横に付く。空を切る拳をよそに腰を落とし、渾身の裏拳を叩き込む。壁に叩きつけられながら、それも敢え無く沈黙した。

 

 

「さてさて、探索を急がないとな-------ってオォッ!?」

 

 

爆音が響いたかと思うと、凄まじい揺れとともに壁に叩きつけられる。少しすると爆音が収まり、デストロイヤー内で絶えることのなかった振動がなくなり、まるで時間が停止したように廊下は静寂な空間と化していた。

 

 

「痛っつつ・・・店主とめぐみんがやってくれたか・・・あ?なんだアレ・・・」

 

 

視界の先には恐らく慣性と老朽化により抜けた扉だったであろう板が転がっている。歩みを進め、その部屋に入る。そこには、幾層と積まれた書物に、それに埋もれるようにして佇む玉座と白骨。

 

・・・多分書物は研究資料だかで、この白骨は玉座に座ってる辺り責任者・・・・の成れの果てか。まぁ綺麗な骨になってるなおい・・・

 

そう感心していたのも束の間。突然、非常に耳に悪い警告音が辺りに響き渡った。

 

 

『警告、この機体は活動を停止しました。排熱、及び機動エネルギーの消費ができなくなっています。搭乗員は速やかに避難してください。繰り返します-------』

 

 

そんなアナウンスが流れ始めた。そしてそれと共に、乗り込んだ時とはまた違う小刻みな揺れが始まり、心なしかそれは段々と大きくなってきている。

 

 

「ひとまず・・・外の様子を見にいかねぇと・・・!」

 

 

慣性で投げ出された方向が恐らく今カズマたちがいるであろう方向、つまりデストロイヤーの正面だ。そうと分かれば話は早い。とっとと階段なり見つけて上がっていこう・・・めちゃくちゃ忙しいぞクソ・・・

 

〜*〜

 

「-------見えた!-------カズマ!どうなってんだ-------」

 

 

とにかく出口のあるであろう方向へ前へ上へと進み続け、そこまで時間もかけずにデストロイヤー内部から脱し、外界を久々に見る。デストロイヤーの高度から見ると、いくら足がなくなったとはいえ相当な高さなのだろう、カズマ達がギリギリ識別できるくらいだ。

 

柵から身を乗り出しながら叫ぶ。-------が、その言葉を言い切る前に冒険者達の「乗り込めー!!」という雄叫びと共に何かが顔面の真横を刹那に通り過ぎる。 見ると、顔面の真横には重たい鉄の矢じりと地上へ垂れ下がる長いロープを携えた弓矢が外壁を軽く砕きながら突き刺さっていた。こんな物が直撃したと考えると、ギャグ補正があっても『見せられないよ!』状態になるのは確定的だろう。

 

 

「いや-------危ねぇじゃねぇかおい!!・・・・ったく、この阿呆どもめ・・・・!」

 

 

ギルド職員とは思えない悪態が誰にも届かず虚しくなったが、アイツらはどうもアボンしそうなこのデストロイヤーを止めようとしている。・・・今の俺はギルド職員じゃない、冒険者だ。なら、郷に入ればなんとやら・・・・・

 

 

「-------ッシャ行くぞォァ!!5人程度で固まって確実に一体一体倒せ-------いや、リンチにしていけ!!方法は任せる!!」

 

「「ウオオオォォォォ!!」」

 

 

指示・・・というよりも山賊に自由行動の時間だと声高に宣言する。すると駆け出し冒険者ばかりの街の住人だということを疑いさせる様な速度で次々とゴーレム達がスクラップになっていった。・・・数の暴力って怖い・・・・・

 

そんなことはさておき、辺りの魔力をどうにか探ってみると、俺が侵入した辺りの魔力が冒険者達と合流する前とは比べられないほどに高まっている。あの玉座・・・いや?よくあの部屋の全貌が思い出せない・・・脳に霞がかかってるみたいに・・・・・流石に、2、3分前の事を忘れるほど落ちぶれちゃいない・・・・・・認識阻害・・・っていう魔法の類か・・・?・・・・あそこにコアがあるってか?確かめてみる価値はあるだろう・・・どの道、この人数なら、ローラーでもさほど時間はかからん。

 

 

「----っし!そうと決まりゃ-------!」

 

「・・・うおっ!?職員サン、どこ行くってんだ!」

 

 

駆け出した後ろからテイラーの声が聞こえてくるが、無視だ無視。ていうか、アイツが見てくれたら十中八九カズマ達も俺の後を追ってくるだろうし。

 

〜*〜

 

・・・どうしよう。迷った。いや待て待て待て・・・流石に来た道を再現くらいは出来る、うん。間違ってはないはずなんだ。よくある思い込みとかじゃなくてマジで。・・・・・突拍子な発想になるが、まさか・・・(部屋の配置が)入れ替わってる!?・・・ふざけるんじゃあないぞ俺・・・・・冷静になろう。部屋の配置が変わったというよりもこれ多分、壁が動いて1つのデカイ部屋を作ってるんだろうな・・・・・体感だが上がる時より、奥へ移動する時間は短かったが、横へ移動する時間が長かった・・・・つまり、中央に巨大なスペースができてる・・・・って事はだ。俺の真横の壁・・・

 

暗い、狭い通路で1人ウンウンと唸ってみる。何も反応は返ってこないが・・・答えは得た・・・合ってるかは知らんが。まぁいい・・・走り続きで軽くイラついてたとこだ。全力でぶち抜いてやろう。

 

 

「・・・・チェストォォォッッ!!」

 

 

そう叫びながら全力で放出したただの魔力の塊は目の前の壁に大きな穴を穿つ。そして、穴の向こうには薄暗いながらも確実に空間がある事を確認できた。

 

恐る恐る中へ足を踏み入れると、奥の闇からガシャガシャと今日何度目かも分からない音が。・・・まぁ、俺の予想が当たってりゃ、ここはぶっちぎりレベルで重要な部屋だ。なら当然、守護がいる。

さっき倒したのが確か15台程度、侵入して来た冒険者の迎撃に当たってるのもそれなりの台数だろう。この軍団がデストロイヤー内では最後だと信じたいが・・・何台いやがる?まぁいい、冒険者達が来れば数の暴力でどうにかなる。ならそれまで疲れない程度の塩梅で処理していこう。

 

 

「ふぅ・・・『絶対零度の氷河(グレイシア・ホライズン)』」

 

 

久々の魔法だ。制御・・・・は別に考えなくてもいか。この床一帯凍りつかせてやる。

足元から伸びた氷がゴーレムの足を捉え拘束する。だが、決して分厚くはないことを考えると、拘束はせいぜい1分だが・・・俺が絶対に割りながら暴れるからな・・・とっとと片付けよう。

 

片っ端からゴーレムの頭部を捥いで回る。だが、捥いだ際の力で確実に床の氷に亀裂が入り、それはドンドンと広がっている。が、何でだろう。少しずつ楽しくなって来た俺にはそんな事、気づきすらしなかった。

 

 

「ハハハハハ!もぎもぎフルーツだぁ!次はお前だ!-----------アアァッ!?」

 

 

後ろから鋼鉄が羽交い締めをかまして来る。それに直前まで気づかないほどに油断していたせいで完全に拘束され、動かせるのはせいぜい手足の首から上くらいになってしまう。 拘束されて締め付けがドンドン強くなっていく中、正面や左右からも更にゴーレムが加わり、完全に押しつぶす陣が整っていく。

 

背筋に冷や汗が走る。

冷やされた脳裏によぎる最悪の未来。

それら全てが体を焦燥で埋めていく。

が、冷やされた頭はほんの一瞬だけ、行動の取捨選択をする猶予を与えた。

 

 

「-------吹き飛べェェッッ!!」

 

 

消費など度外視した全力の魔力放出。たった一瞬だけふかしたとはいえ、残りの魔力4割程を注いだ放出は纏わりついていたゴーレムを1つ残さず壁に叩きつける程に吹き飛ばした。

 

放出による凄まじい倦怠感が膝をつかせる。肩で息をしながらどうにか呼吸を整えようと大きく息を吐く。

 

元から一方的に蹂躙する為に、下手くそな制御も無視しての闘い方をしてきたんだ。それに加えてさっきの放出で残りの魔力は3割強あるかないか・・・

 

背後に駆動音とともに、威圧感が蘇る。ゴーレム共の第二陣か・・・数は20弱・・・体はろくに動かない。だがまぁ・・・

 

 

「出てこいやここを襲いやがった責任者ァ!!とっちめてやるっ!!」

 

 

罵声とともに入り口のドアが勢いよく破壊される。なんで誰もマトモに入ろうとしないんだろうな。 こじ開けられたドアから雪崩のように冒険者達が流れ込み、実に効率的にゴーレム達を蹂躙していく。

 

襲われたとは思えない野蛮さです。どう見てもこっちが襲撃した側です本当にありがとうございます。

 

 

「ぎゃあああああ!腕っ!腕がああああ!!」

 

「だ、大丈夫ですかカズマさん!?重い物を持ってる相手にスティールは-------!」

 

「別に、ヒビも入ってないわよ。一応ヒール位はかけたげるけど-------」

 

 

どこからかそんなおバカなやり取りも聞こえてくる。それに軽く安堵しながらようやく落ち着いてきた呼吸をゆっくり繰り返しながら立ち上がって辺りを見渡す。

 

俺が一部の足を氷漬けにしておいたのもあるだろうが、冒険者達の士気は凄まじく、すでに殆どのゴーレムが鉄くずになり、残りのゴーレムも絶賛リンチにされて制圧は終わっていた。

 

冒険者達が止める手段はないかとあれやこれや部屋を散策している中、部屋の最奥には1つ人だかりが出来ていた。 人だかりでは先程のテンションが嘘のように皆沈んだ表情をして軽く俯いている。

 

 

「・・・おっ。カズマに職員サンか、良いところに来たな。・・・見てみろよこれ」

 

 

そう言い、これまた浮かない表情のテイラーが何かを指差す。その先には、俺が侵入したての頃に発見した白骨が。それを見たアクアは静かに首を振る。

 

 

「・・・成仏してるわね。そりゃもう未練のかけらもないぐらいにそれはそれはスッキリと」

 

「・・・いや、これ絶対アレだろ。1人寂しく無念タラタラのまま死んでったみたいなアレじゃん・・・」

 

「てか、それじゃあデストロイヤーっていつからかは定かでないにしろ、完全に自立して暴れ回ってたのか・・・とんでもない兵器だな全く・・・って、アクア。お前なんだそれ。また厄介ごとを引っ張って来たんじゃ・・・!」

 

 

俺とカズマが白骨を見つめながら首をかしげる中、アクアは何やら周りの書物の山からノートを手に取っていた。 保護者が何かの厄介ごとを警戒して語調を強める。

 

 

「何これ・・・日記かしら。どれどれ・・・」

 

「ホッ・・・日記だけなら流石にこの女神も安心だよな・・・な?朔」

 

「いや、俺に聞かれてもな・・・とりあえず素直に内容を聞いとこうぜ?」

 

〜*〜

 

◯月△日 国のお偉いさんが突然押しかけてきたかと思ったらありえない量の金を積んで何やら兵器を作れと言ってきた。こんなに金もらったら断るに断れない。仕方なく依頼を受けた。

 

×月◇日 アイデアがなかなか浮かばない。女研究員達の見る目が養豚場の豚を見るそれだしもう嫌だ。いっそのこと金と酒だけ持って逃げてしまおうか。

 

□月◯日 あーもーダメだ。詰んだ。終わった。ヤケになってパンイチになってもうこいつダメだろってお払い箱にしてもらおうとしたらあの女、「それも脱げよ」だって。俺も大概だけどこの国も終わってるんじゃなかろうか。

 

△月□日 最終日。終わった。なーんも進捗がない。作業が滞るとか言って人払いをしたが、亡命的なのの準備をする為だしілмвлцвдслмкд!!〜〜〜・・・・・終わった。本当のマジに終わった。大嫌いな蜘蛛を反射的に叩き潰したんだが、なんとそれは設計図に蜘蛛型のシミを作っていた。このご時世、ここまで良質で大きな紙は貴重だし・・・・もういいや、このまま出してしまおうそうしよう。

 

◇月♤日 なんかアレが案として通った。いいの?ただ蜘蛛叩き潰しただけの紙だよそれ?なんなら俺の汚い汗とかもちょっと付いてるよ?まぁそれは置いとくとして、引くくらい作業が急ピッチで進んで行き、俺はこれまで見たことのないような金で遊び倒している。最高!!!

 

♧月♡日 やっちゃったよこいつら。小さな城となんら変わらないくらいのアレを動かしたかったら、伝説のコロナタイトでも持って来いやと適当に啖呵をきったらやりやがったよやり遂げやがったよ。どうしよ動く見込みなんてないよ?お願い!!動いてぇ!!

 

♤月♧日 やったー動いたー国滅びたマジ卍ー・・・ったく誰だよこんな兵器作ったやつ・・・あっそれ、俺でしたテヘエッ

 

〜*〜

 

「「舐めんなぁ!!!」」

 

満場一致の怒号であった。


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