ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ 作:パザー
「さ、流石に右手が死んでるのに調子乗ってやりすぎたか・・・」
「す、すまない・・・私もついカッとなってしまって・・・・」
「いや・・・大人気なかった俺が悪いんだ。気にしないでくれ」
一通りの荷解きと戦争を終え、日も落ち始めた頃。
茜色に染まるお互いが少し苦い顔をしながら見つめ合いながら、玄関でダクネスと少しばかりの談笑をしていた。
そもそも、事の発端はこの屋敷の変なマジックだ・・・俺たちを感知して作動したランタンとあの地下室・・・それにあの日誌、絶対何かしらキナ臭い事情があるんだろう。 だがまぁ、こう言う事は臭いものに蓋をして、見て見ぬ振りをするのが最適解だなんて事が往々にある。今回の事も俺やダクネスの記憶からしばらくすれば抜けてしまうだろう。
夕暮れ時特有の陽気を感じながら、呆けていると彼女が沈黙を破りながら少し前に踏み出し、こちらへ向き直る。
「------さて、私はそろそろカズマ達の元へ帰るとする。今日は楽しかった。ありがとう、サク」
「あぁ・・・っていうか、礼を言うのはこっちだ。ありがとな、おかげで作業が捗った。カズマ達によろしく言っといてくれ、できる限りの手伝いはしてやるって」
「ふふっ------頼もしい限りだ。知っての通り、私は不器用で頼りないからな」
「ったく・・・その攻撃当たらないの、いい加減どうにかしたらどうだ?なんなら俺が微力でも教えてやれる事はない事もないが・・・」
「本当か!?マンツーマンの修行・・・!そして、次第に雰囲気に流され『ほら、ダクネス・・・ここ、こんなに固くなってるじゃないか・・・』と性的な指導へと発展し・・・・・クゥッ・・・!」
「思い出したように変態ドMを発動させるんじゃねぇよバカ野郎」
「ンンンッッ・・・///」
・・・なんだこいつ。今日一日作業ばっかで溜まってたの?
ダクネスが妙に艶めかしく顔を赤らめ顔をくねらせる。 普通の人が見れば簡単に悩殺KOだろう。だけど、彼女の内面を知ってるせいか、全然息子も反応しないしそういった情も煽られることはない。
逆にすごいことだよなここまで来ると・・・
「―――――まぁ、なんだ。今日はお疲れ様だ。何かしらくれてやりたいが・・・適当な酒くらいしかなくて・・・」
「いや、わざわざそこまでしてもらわなくても大丈夫だ。気持ちだけ受け取っておく----それになにやら、アクアが昨日新居祝いの準備だのと言って上等な酒を買っていたようだしな」
「ほうそりぁまた----女神の大盤振る舞いとあっちゃ、さすがに出る幕がないか」
「女神?・・・アクアのことを言ってるのか?」
「あぁいや!あいつにも女神エリスの神託でも降りたんじゃないかってことだ。気にしないでくれ」
「何やら胡散臭いが・・・・・まぁいい、そろそろ帰るとする。それではな」
「----あぁ、気をつけて帰れよ」
そういい、彼女は背中を向け歩き出す。送っていきたいが、カズマ達の酒の席にまでわざわざ送ると、何かと変なことになりそうだしな・・・さて、俺もラヴィーを迎えに行くとするかね。ついでに食材だのの買い出しだ。こんな日だ、それなりに豪勢な食事で迎えないとな。
~*~
「パパおかえり!」
「―――――っと、ただいま。ラヴィー」
以前の住居であった小さな宿。そこの扉を開けると、ラヴィーが胸に勢いよく飛び込み、俺を出迎えてくる。
彼女の頭をなでながら部屋を見渡すと、なんだか哀愁がこみあげてくる。長い人生の内とはいえ、2年間というのは決して短くない時間だ。思い入れもあるし、それとお別れするとなるとやはり心寂しいものがある。
昨日のうちにラヴィーにはしんきょのはなしをしてあったので、特に何ということもなく彼女に引っ張られながら部屋を出る。女将のおばちゃんに挨拶をして、外へ、そして街から市場へと繰り出す。
夕暮れ時のせいか、まばらになった人の間を縫いながらぶらぶらと見て回る。なにかしら計画を立ててから来たらよかったのだろうが、まぁ散歩代わりにもなるし悪くない。隣の彼女もルンルンと鼻歌を口ずさみながら軽快に歩いている。
「わぁ~っ!おいしそうなものがいっぱい!」
「なんか食いたいものはあるか?」
「うんっとね~・・・・これと・・・・これと・・・あれと・・・これ!」
そう言い彼女は手頃な店に立ち入り、品を目利きし始める。選んだのはなかなか手が出せないような物から立ち寄ったらとりあえず買っておく様な手軽な物まで三者三様だ。
こいつらでどんな料理をしたものか・・・・まぁ、ある程度は調理済みのやつでも買ってくかな。
「っと------こんなとこか」
「うん!じゃあ、はやくあたらしいおうちいこうよパパ!」
「そだな。ラヴィー、今日のメシは豪華だぞ〜?」
「めしだめしー!ごうかなめしー!」
俺の言葉を反芻しながら彼女がまた先を行く。食材の入った紙袋を担ぎながらそんな彼女を見ていると自然と顔が綻びる。
日本にいた頃は子供だとか苦手だったんだが・・・まぁ人は変わるもんなのか・・・
〜*〜
豪勢な食事を終え、洗い物に手をつける。流しから見える彼女の後ろ姿を見るとどうやら満腹になって眠たいらしい。 フラフラと体を揺らし、首はカクンと一定の周期で上下を繰り返してる。
「------食べてすぐ寝ると牛になるって言いたいけど・・・まぁこんな日だ。そこのソファーででも寝てて良いぞ」
「ほんとぉ・・・?それじゃ、おやすみなさいパパ・・・・・」
「あぁ、おやすみ」
そう言い、小さな音を立てながら彼女がソファーに横たわる。静かな部屋に流水の音と小さな寝息が響く。 窓から覗く空は黒で塗りつぶされ、そこに白の星々がそこらかしこに散りばめられ、街の灯りと鏡写しの様になっている。
さて・・・こいつが済んだら俺も風呂に入って寝ようかな・・・寝室にラヴィーを連れてって、俺もその脇で寝ようそうしよう。
「・・・ん?」
洗い物を済ませ、脱衣所で服を脱いでいるとポケットや襟の隙間などから何か数枚の紙切れが落ちてくる。 色褪せてボロボロになったこれは・・・あの部屋で見つけた研究日誌?か・・・多分破いた時に舞った破片が入り込んだのか・・・
消えかけているが確かに何かしら文字が入っているのを見つけ、どうにか読み取ろうと目を凝らす。
読み取れたのは『ろ・・・やー・・・・・いと・・・うかん・・・』と訳の分からないひらがなの羅列。間間に何かしらの文字が入っていた跡があるから、もっと意味のある言葉があったんだろうが・・・・まぁどうでもいい。 いつまでもラヴィーをソファーで寝かせる訳にはいかん。そんなダメ人間にお父さんは育てないゾ。・・・人間?
〜*〜
「いい風呂だったな中々に・・・・・」
湯上りのポカポカと火照った体に眠気を誘われる。タオルで髪を拭きながら適当に酒をグラスに注ぐ。一杯だけを今は念頭に置いてグラスを一息に煽る。
食道から胃へ酒が流れ込み、湯上りの体の高揚を更に助長する。適度な眠気に誘われ、自然と首がカクンと何度か倒れ始める。
思考も鈍ってきてちょっとでも気を抜けば寝落ちして目の前のシンクに顔面を叩きつけるのは確定だろう。そんな事にならない内にラヴィーをベッドに運んでやらないと・・・
ソファーで穏やかな寝息を立てるラヴィー。パジャマの薄い生地の下に華奢な白い肌が見え隠れしている。何もケアしてないとは思えない程綺麗な体だ。・・・・・可愛いけど、流石にエ◯いとは思わないよ?そんなロリコンじゃないし、ラヴィーにそういう情を抱いてたら生活がままならない。
そんな事を考えながらゆっくりと彼女の体を抱き上げる。サラサラとした彼女の細い髪が腕に触れひどくくすぐったい。・・・・いやもう・・・ダメだ・・・もう・・・・眠すぎる・・・・・今日は荷ほどきとか頑張ったし・・・・うん・・・・早い所寝てしまおう・・・
そう思いベッドに彼女を横たえ、即座に俺もその側で寝る体勢に入る。
・・・・・酒臭くないかな・・・
そんな平和な思考を最後に、俺の意識は闇に落ちた-------
〜*〜
「・・・・・なんだって?ルナさん・・・もう一回、30文字くらいで簡潔にお願いできます?」
「デストロイヤーが接近中。早く逃げないと。・・・・30文字弱で説明したわよ」
「なんてこったい・・・・新居に住み始めたばっかなんですけどね・・・・」