ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ   作:パザー

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2週間くらいで仕上げたの、めちゃくちゃ久しぶりな気がします。

お気に入りが600件超えました!本当にありがとうございます!!


2ー05 この不思議な依頼に詮索を!

あの日-------俺がパパになった日-------以降、ゆんゆんと言葉を交わしていない。精々、顔を合わせて会釈する程度の交流だけ・・・理由がなんだかは分かってる。

 

変化はそれだけじゃない。なんだか周りから俺を見る目と職場が変わった-------具体的に言うと、勤務時間が俺だけ短くなった。そして何より、帰る場所である宿に待つ人が出来た。

 

酷く荒らされた部屋を憂う日もあれば、疲れ果てた時にも御構い無しに笑う顔に癒される日もある。

 

最初の内は不安な事だらけだった。が、宿主のおばちゃんや近所の人たちに色々とご教授を賜り、何とか暮らせている。 日中はその先輩たちにラヴィーを預けて俺は仕事に励み、日が落ちかける頃に彼女の待つ宿へ帰る。

 

そんな2年ぶりに変わった生活のサークルにも、ようやく体が慣れて来た。

 

そんな事を夕飯時前のにわかに活気付いて来たギルドの裏で思索する。少し早くなった退社時間だが、今日は殊更に早く上がれそうだ。タキシード風の制服を着替え終えた時にちょうど後ろから聞き慣れた女性の声が聞こえてくる。

 

 

「-------それじゃ、今日は上がります。お疲れ様でした、ルナさん」

 

「えぇ、お疲れ様・・・あっそうだ。モノノベ君!」

 

「?・・・どうかしました?」

 

「これ-------家でたまたま見つけたんだけど、ラヴィーちゃん好きかなって」

 

そう言い、彼女が目の前の机に差し出したのは幾つかの木製の知育玩具に絵本。

 

思えば、当たり前といってしまえば当たり前なのだが、俺の部屋にこういった類の物は一切ない。平日の夜や休日に遊べるものが何もないというのは苦痛だろう。

 

周りの喧騒を意に介せず、それらの玩具に目を通す。そしてその内に玩具に刻まれた少し大きめの傷に目が止まる。

それを見ると、さっきまでラヴィーは楽しんでくれるだろうか、これらをどう管理しようかと思考していた筈が、彼女が幼少期にどんな使い方をしていたんだろうと思考を画策させてしまう。

 

 

「-------くん!モノノベくん!」

 

「はっ!-------ど、どうしました?」

 

「どう?気に入ってくれたかしら?-------後、最近なんだかボーッとしてる事多いわよ?大丈夫?」

 

「ラヴィーも気に入ってくれると思います。わざわざこんなに用意してくれて・・・ありがとうございます、ルナさん・・・えっと、俺そんなにボーッとしてます?」

 

「うん、してるしてる」

 

「マジですかそりゃ・・・いや、それなりに慣れたつもりではいたんですけどやっぱ、過剰かもって位に気になっちゃいますね・・・」

 

 

そう俺が苦笑いしながら言う。すると彼女も顔をほころばせながら吹き出す。

 

 

「ちょっ!?珍しく俺が悩んでるのに吹き出すなんて事あります!?」

 

「い、いや・・・ごめんなさい・・・フフッ・・・それにしても、板についてきたわね・・・そうだ、そう言えば最近こんなクエストが流れてきたから、『気が向いたら』モノノベくん掲示お願いね」

 

 

そう言いイタズラな笑みを浮かべながら彼女は仕事に戻る。

軽く挨拶をし俺も彼女から渡された紙に視線を落としながら身支度を始める。

 

 

「板についてきたって・・・で?なになに・・・・・町外れにある屋敷2件の除霊。報酬として屋敷の悪評がなくなり、買い手がつくまでの間、無償でお貸しします・・・なんでこうもあの人には見透かされてんだ・・・ありがたい・・・・・うん?依頼者・・・ウィズ魔法具店?」

 

 

ふと目に付いた依頼者欄の氏名。店名義ではあるものの、そこにはこの街じゃ最強クラスのリッチー、ウィズからの依頼であると示す押印が。怨霊系なら、下手な冒険者に渡る可能性のあるギルドより自分で出向いた方がいいだろうに・・・何をわざわざ?

 

疑問が浮かんでは消えるが、家で待つラヴィーの事が頭をよぎる。

 

 

「まぁ・・・明日は幸い休みだし、件の屋敷に向かう前に事情だけ聞いて見るか・・・・あっ」

 

 

ルナさんの置いていった大量の玩具に目をやる。彼女は自前の袋に入れて持ってきたみたいだが、俺にその類の物はない。そして、両手では余る量がそこにはある。

・・・・・ちょうど、物資をくくる為の麻縄が少しだけ部屋の隅に転がっていた-------

 

〜*〜

 

「おかえりパパ!----------あはははっ!どうしてパパそんなおもしろいことしてるの〜!?」

 

「あ、あぁ。ただいまラヴィー・・・・この格好については・・・触れてくれるな・・・」

 

 

満面の笑みで出迎えるラヴィーが1番に見た俺の姿。それは大量の児童用玩具を手足にまるで甲冑のように装備し、背中にはこれでもかと言わんばかりに絵本が巻きつけられた世にも奇妙な姿だった。

 

 

「「・・・・」」

 

「・・・どうしたの?パパ」

 

「・・・・・喜べラヴィー、オモチャを沢山もらったぞ・・・代償にパパの威厳とかが吹き飛んだが・・・」

 

「オモチャ!?ありがとうパパ!!」

 

「・・・今度ルナさんって言うお姉さんに会ったらちゃんとお礼を言うんだぞ」

「うん!」

 

 

そう言い、俺の体から玩具をもぎ取って遊び始めるラヴィー。そんな姿を見ながら晩飯の用意に着手する。

 

・・・さて、明後日くらいにはこの宿ともおさらばか・・・・おばちゃんにはほんと世話になった・・・ちゃんと礼を言っとかないと・・・

 

油が跳ね、食材が焼けていく音に耳を傾けながらひどく虚ろに、無心になる。ラヴィーがキャッキャと遊びに惚ける音も、夜の帳やガヤも何もかもから切り離され、1人になっていくような感覚に落ちる。

 

 

「------あ"ぁ"っつあ"ぁ"っ!!?」

 

 

いつのまにか時間が経ってしまったのか。それともただ運が悪いのか。どちらにせよ放置された料理が怒り油を飛ばして来たんだろう。飛沫が大量にフライパンを持つ手に降りかかる。

 

凄まじい温度による痛みが瞬時にフライパンを手放しさせる。が、視界が焦げ始めている食材とコンロに直撃して悲惨な事になってしまいそうな様子をしっかりと捉える------------『捉えてしまった』。

 

反射的に手を伸ばし、フライパンを捉え、料理をなんとか救おうとする。

 

だが、反射的に伸ばした手は全速力でフライパンへ直行する。それ故に手を止められたのは取っ手を遥かに通り過ぎた後だった------

 

 

「--------オオオウウアアアアァァァッチイイイイイイッッ!!」

 

 

シュアッという乾いた音ともに少し赤熱し始めた鋼鉄部に触れた手から水分が飛び劇熱と共に皮膚が焼けていくのを感じる。

 

 

「------あ"あ"あ"っつい"い"!!あかん!!あかんこれシャレにならん!!イフリートに焼かれた方が遥かにマシだ!!あづゔいいい!!」

 

「パパ!どうしたの!?」

 

「いぃいや大丈夫だあ心配するなぁ!!そ、それよりほら、オモチャがどこかに転がって行っちゃってるぞ大丈夫かなぁ!?」

 

「あっ!ほんとだまてまて〜!」

 

 

ふぅ〜なんとかラヴィーにこの間抜けな醜態を見られずに済んだが・・・いや呑気に安心してる場合じゃねえ!!

 

一瞬だけ安心で視線を落とす。そして今目の前で起こっている大惨事に再び目を勢いよく戻すとそこには油が跳ねまくる魔女の釜の様な景色から、燃え盛る火山の様な光景が。

 

 

「おいいいいい!!なんでフランベされてんだよ!香りじゃなくてコゲを刻みつけてどーする!?水!とりあえず水だ!!------っと、今朝汲んどいた井戸水は------!」

 

 

急いで木桶を持ちだそうと走り出す。幸いすぐ真横の流しの側に水をいっぱいに張った木桶を見つけられる。

乱暴に持ち上げ底を右手で支えて上から料理を台無しにする覚悟で水をかけようとする。

 

だが、料理の最後の抵抗だろうか。

 

ゴウッと強く燃え上がった火と共に火の粉が舞い散る。その火の粉が今度は土台を攻め落とさんと足の甲に大量に降りかかる。

 

もちろん、我慢できる様な熱さではない。

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"っっ!!クソッタレ------エ"エ"エ"ェ"ェ"ンッ!!」

 

 

水を派手にぶちまけ、料理を鎮火という訳わからない目的を達成する。が、火の粉の抵抗で足を辺りにブンブンと振り回してしまう。

 

そしてここはそれなりに色々あるとはいえ、決して大きいとは言えない一室。その一角であるキッチンは人1人で一杯なほどの広さ。

 

勢いよく振り回された足は鈍い音を立て、流しの角に直撃する。当然、小指が1番に被害を受ける。

 

そしてそれでも有り余る運動エネルギーが小指を押しつぶす様に更に追い討ちをかけてくる。

・・・とどのつまり、小指をぶつけてめちゃくちゃ痛い。

 

 

「いっ・・・・・あぁっ・・・・あかん・・・し、しぬ・・・・!」

 

 

ショワアアアアと水で熱が奪われる音を俺は床に頬を預けながら耳にした。結構な火傷を負った右手を天井に掲げ左手で小指を必死にさする。

 

・・・・・信じられるかな・・・こんな俺がほんの2年前にゃ、伝説の冒険者だ・・・・・骸王がフランベ自爆芸だよ全く・・・最高のお笑い種だよ・・・

 

皮膚がこんがり焼けた右手に触れる空気を恨みながら、小指をかばいつつ起き上がる。

 

ガーゼ・・・あったあった。

 

ガラガラと棚を漁り見つけたガーゼを乱雑に巻きつけ糸で縛り付ける。テーピングなんて物はないし、ガーゼも日本のみたいに繊細な表面をしてない。

少しばかり強めに巻いた糸の痛みに顔をしかめていると服の裾が引かれる。

 

 

「パパ・・・ほんとにだいじょうぶ・・・?」

 

 

振り返るとそこには心配そうな目でこちらを見つめるラヴィー。ひどく思い悩んでいる様な表情は真剣に心配しているんだろう・・・こんな顔させてちゃパパ失格だよな・・・

 

 

「------あぁ!俺は大丈夫だよ・・・それより、どこかに行ってご飯食べるか!」

 

「わぁっ------!うん!食べる!!」

 

「よし!それじゃ行くぞー!」

 

「おー!」

 

 

そう言い彼女は手を振り上げ、太陽の様に笑顔を咲かせる。・・・少しばかりはパパ、出来てるかな・・・ルナさんは板に付いてきたって言ってたけどまだまだだな・・・

少なくともこの子はヴァストローデだけど、俺みたいな道には進んで欲しくはない・・・・・いや、どう進むかはラヴィー次第だし、それを見守るのが役目か・・・

 

頑張らないとな。どんなクエストより難しいねぇ・・・子育てってのは。だけどまぁ・・・最高に幸せな日々だ。

 

〜*〜

 

「店主〜、いるか〜?・・・・・って、何やってんだ?おい」

 

 

翌日。依頼をこなす前の情報収集・・・という程、立派なものでもないか・・・疑問が少しばかり気にかかったので俺はウィズ魔法具店のドアを開いた。

 

するとそこには握手する店主とアクア。

 

視界に入る手元にはアクアから店主へ、確かな魔力の流れが見られる。

そしてこちらをプルプルと震え、涙目になりながら声にならない叫びで何かを訴える店主と意地の悪そうな表情のアクア。

 

・・・また駄女神がロクでもないことをしやがってんのか・・・おいおいカズマ(保護者)、出番だろうに。

 

 

「や、やめてくださいアクア様!ドサクサに紛れて浄化しようとしないでください!」

 

「フハハハハハハハハハ!邪悪で醜悪なリッチーに情けなんてかけるわけ無いでしょう!?このまま私の神聖な魔力で浄化したげるから、光栄に思いなさい!」

 

「「おい、いい加減やめてやれ」」

 

 

調子に乗って魔力を大量に送り込もうとするアクア。

流石にあの量は店主が浄化されてしまう。なぜかその光景を凝視しながら黙り込んでいたカズマも流石にと手を出す。

 

繋いだ手と頭にチョップをかまされたアクアはアウッとやかましい笑い声を途絶えさせ、その場に頭と手を抑えて座り込む。

 

アクアが大人しくなった直後、今度は店主が涙目で青い顔になりながらこちらに泣きついてくる。

 

 

「あう〜・・・・ありがとうございますう!サクさんカズマさん!」

 

「何よ!2人揃って酷いじゃない!この女神たる私にチョップを2コンボするだなんて!」

 

「うるせぇ!元はと言えば素直に魔力を吸われてればいいのに下手にウィズに手を出したテメェが悪いんだろうが!!」

 

「だって〜!!」

 

「・・・あの2人は置いとくとして、店主。あの依頼はどういうこった?お前なら屋敷の除霊なんて片手間で終わらせられるだろうに」

 

「えぇ〜長くなってしまうので簡潔に言いますと・・・非常に言いにくいのですが〜・・・・その・・・」

 

 

そう言い指をモジモジさせながらちらりとカズマと取っ組み合いになっているアクアを見やる。

はぁ・・・あの女神は全く・・・

 

 

「あの駄女神はカズマが抑えてるし、いざとなったら俺がどうにかするから。ほれ、魔力吸わしたるから話してくれよ」

 

「・・・私がある種日課みたいにしてた集団墓地の除霊を諸事情でアクア様に任せる事になったんですが、どうも結界を張ったせいか悪霊が流れ出して、件の屋敷に移っちゃったらしくて・・・その除霊を私が依頼されたのですが、さっき見てもらっても分かる通り、浄化されかけて力が無いんです・・・ですから一件はカズマさん達、もう一件は受付嬢さんに取り合ってモノノベさんにやって頂こうと・・・あ、魔力少しばかり失礼します・・・」

 

「・・・はぁ・・・・・」

 

 

やっぱアクア絡みか・・・・いやもう段々慣れつつある自分がいるんだけど。

だけどなんか、バツが悪くなったのもあるけどアクアが自分から引き受けたらしいしな・・・それに免じて、俺も素直に依頼をこなすとしよう。

 

俺の手を握りながらリッチーとは思えないような謙虚な量の魔力をチマチマと吸い出す店主。

そんな彼女を見つめながら今回の経緯に呆れため息をこぼす。

 

いや、これで家が提供されるのは嬉しいんだけど・・・その代償なのかねこの右手・・・

 

 

「・・・カズマ、ダクネスを借りてってもいいか?もちろんこっちで仕事が終わり次第そっちの屋敷に送る」

 

「イダダダ!!------うん?どうした急に」

 

 

反撃したアクアにコブラツイストをかけられながらもカズマがキョロっとこちらに向き直る。

そして我関せずといった風にお茶を楽しんでいためぐみんが不思議そうな顔をし、当の本人はというと

 

 

「------へ?」

 

 

私?と言わんばかりに素っ頓狂な表情で自分に指を指していた------

 




【追記】
3/10、14:24分。執筆を始めました。どうにか10日以内には上げたいと思います。もし上がらなかったら桜の木の下に埋めてもらっても構わないよ(フラグ

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