ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ 作:パザー
後、タイトルの表記を少しばかり変更しました。
〇〇ー〇〇
↑最初の2つには巻数(例:2巻→2、番外編→ex等々)、次の2つには話数(最初の二桁が変わる度にリセットされます)が入ります。
これからもよろしくお願いします!
(な、何も言い返せない・・・!)
テーブルを囲んで作戦を練っている中、依頼側・・・・・キノア達のあもりにもひどすぐるノープランのせいでギークに呆れられてしまい、辛辣な言葉を貰ってしまった一同。
暗い顔をしたまま俯いているとどんどんと空気は悪くなっていく。そんな中、キノアが深いため息を吐いてから何かを決心したように口を開いた。
「仕方ないですね・・・私が一肌脱ぎましょうか」
「ンだよ・・・なんかあるならさっさと出せ。何を渋ってンだよ」
「あ?出来る限り使いたく無かったんですよ。だからその汚らしい口を閉じやがって下さい犬コロ」
「てめェ・・・・・どの立場でンな口聞いてんだ・・・殺されてェのか?」
「ちょ、ちょっと皆さん!」
「キノアちゃん抑えて抑えて!」
瞬く間に剣呑な雰囲気の絶頂まで登りつめた2人をゆんゆんやミツルギがどうにか宥める。一向に冷める気配も無いが何とかキノアとギークに残された小さな互いの理性の必死な訴えで2人とも再び椅子に体を預けた。
ピリピリと肌を刺すような突っ張った雰囲気が消え、ほっと息を吐く3人。しかし、何か進展があったわけではなくむしろ最悪の一歩手前でギリギリ踏み止まっている事。それを自覚しているからかこれからを憂う気持ちは晴れない。
「疲れるから・・・出来る事なら控えたかったのですがね・・・『探す人、探す物、探すべき処・・・その一切合切に我を導け、飛ぶ者よ・・・彼の人の元へ・・・風水明探』」
(詠唱・・・私たち紅魔族の口上とは違う・・・こんな魔法があるのね・・・)
「・・・綺麗ですね」
ウィズが自然と口から呟きを漏らす。
机に置かれたハンカチの周りに淡く光る青色の魔法陣に照らされながらキノアがかざした手のひらから伸びる銀色の糸。それがハンカチを包み、何かを形取って行く。
見たこともないような幻想的な光景に約1名を除いて惚けている者たちを他所に造形が終わろうとしていた。
糸が彼女の手のひらへと吸い込まれ、同化していくような様に再び目を疑う一同だったがそれ以上の衝撃が1つ。
鳥のような形に作られたハンカチが動き始めたのだ。まるでそこに存在しているかの様に。羽ばたき、息をし胸を膨らませ、首を動かし周りを見渡している。
「これは・・・魔法が使えない僕には何がなんだか・・・」
「私にもサッパリです・・・こんな魔法、店主さんは何か分かりませんか・・・?」
「私も・・・見た事が無いです。詠唱のいる魔法自体、殆ど使われませんし・・・エルフ独自の術である・・・としか」
「私の魔法の話はもういいでしょう。それよりも、鳥に変化したという事はあまり近くはありませんが・・・決して遠くはない場所にいますよ」
全員がゴクリと生唾を呑み込む。やけに重たく感じる空気を吸い込みながら決心を固め、席を立つ。
恐怖や緊迫。拭い去ろうとも決して離れる事の無い感情が固めた決心を揺るがす。付きまとう負に飲み込まれない為なのか、無意識からなのか、ゆんゆんの口からは小さな奮起の声が漏れた。
「よしっ」という、気弱な彼女には似合わない勇ましい声は凍りついた場に笑いをもたらした。
全員がクスクスと小さく口を抑えながら笑っている。そんな光景に軽く憤慨を起こした彼女は無邪気な子供の様で、焼け石に水を注いだだけであった。
瞬く間に笑いの渦に飲み込まれた一同とその中心にいる酷く赤面したゆんゆん。その雰囲気に神妙な顔をしていたキノアの顔も綻ぶ。
ゆんゆん達が吹き出したキノアを少し驚いた表情で見つめる。そんな事は御構い無しに涙を溜めながら笑う彼女は途切れ途切れの言葉を紡ぐ。
「あっ・・・いや・・・すいません、皆さんの・・・姿を見てたら何だかおかしくって・・・」
「・・・えっと・・・それで良いんじゃ・・・ないかな・・・なんて」
「・・・え?」
ゆんゆんの思いがけない一言で面食らった様な表情をするキノア。ごちゃごちゃの脳内を整理している間、ミツルギも笑いを止め口を開いた。
「キノアさん、君は・・・なんて言うか、背追い込みすぎてる・・・んじゃないかな。だから、偶には誰かに甘えて、泣いて、頼って、そうやって何もかも忘れて・・・自分でいた方が良いんじゃないかな。ゴメンね、知った様な口を聞いちゃって」
「・・・・・そう・・・ですね・・・」
そう言ってキノアは俯いてしまう。だが、その口には小さな笑みが浮かび、依然として顔を綻ばせていた。
それを見て安心した様に微笑むウィズだったが、ここで、店から出ようとしているギークの姿を視界の端に捉える。
「悪ィが、そういうのは柄じゃァねェ」
「・・・・・」
「キノアちゃん・・・・」
消える事の無い怨恨。ただならぬ気配をギークに注ぐ視線を放つ暗く、濁った彼女の目を見て、ゆんゆんには再び一抹の不安が芽生えてしまった-------
〜*〜
場所は移り変わり、一行は森の中を進んでいた。それも、人が開拓した道でもなければ獣道でもない、整備も何もされていない純然たる自然の中を草木を掻き分けながら行進していた。
劣悪な歩き心地に辟易しながらも全員が決して足を止め弱音を吐く事も無くただただ進み続けている。
まるで軍隊の行進の様に統制されてはいるが身の振り方は十人十色だった。魔法使い組は不規則な道に翻弄され、息が切れ始めているがギークやミツルギの戦士組はそんな物に負けじまいと力強く歩を進めている。
そんな者たちの先頭をまるで後ろの低層社会に我関せずを決め込んでいる様に悠々と飛んでいる一羽の鳥。羽ばたきの度に銀色の粒子が飛び散り、それらが日に照らされ輝いている。
これを生み出した本人曰く『おそらく私が魔法を放った事もあってか、それを感知してこっちに向かっているのでは』と推測。
事実、なんの脈絡もない様な場所で歩いて向かえる距離に目的の人物がいる、というのは偶然にしては出来すぎている。
と、言う訳で現在はお互いに引かれ合っているという憶測を立て、こうして行進している。が、いかんせんこうも道が悪いと憂鬱にもなってくる。
そんな鼓舞したはずの気持ちをなんとか舞い戻そうとどうにか悪戦苦闘している。
しかし、ここで一辺倒だった状況に変化が起こる。
先陣を切っていた銀色の鳥。それが急に勢いを無くしたかと思うと萎んでいくように形を失い、元の布切れへと戻ってしまった。
全員がまるでこれまでに何もなかったと思わせる様な機敏な動きで構えを取る。探し人との遭遇----これがこの現象の意味である。というのが共通の認識。
閑散とした密林にザッザッと足音が響く。鳥たちが足音に合わせ散っていく中、全員の視線はとある木陰、音の出所へと釘付けになっていた。だんだん、足音の間隔が長くなっていく。
足音が途絶えた。
木陰から微かに輪郭を覗かせていた影。それが白日の下に晒され、顕となる。
中肉中背、多方向へ跳ねている黒髪、そして異彩を放つ左目。
まるで剥き身の白刃を突きつけられている様な感覚をこれでもかと味わわせる冷たく、研ぎ澄まされた息の詰まる殺気。
傍から見たらただただ睨まれているだけの筈。だが、動けば間違いなく殺られるという、揺るがない確信は深く食い込んで来る。
「・・・・・ギークか。確かに、お前らの戦力で対抗しようと思ったら、そうなるな・・・悪くない」
「サクさん・・・・」
「その紅魔族・・・あのフヌケが随分と入れ込んでいた様だったが・・・・・」
「おいおい、サクさんよォ・・・何をブツブツ言ってやがるんだァ?つうか、ンなまどろっこしい事ァ抜きにして・・・いい加減殺されろよ」
「精々吠えていろ駄犬。誰が貴様なぞの為に死んでやるか」
瞬間、空気が弾ける。
爆心地から押し出される様に流れる空気の波が辺りを撫で回し、去っていく。
金属同士のぶつかり合いによる火花と金属音。
一瞬の躊躇もなく刃を交え始めたサクとギークに完璧に遅れを取りつつも臨戦態勢を取る。
しかし、心を鷲掴みにする恐怖感。狙いが自分であったならば、間違いなく殺られていた・・・如実に突きつけられた歴然とした実力差。それが、恐怖を植え込み、判断を鈍らせる。
1つ2つ、3つ4つと、局所で起こる衝撃。
目には軌跡でしか捉えられない速度。
そして、ゾワリと背筋を泡立たせる殺気。
感情など余分な物であり、そんな物はとうに削ぎ落としてある。
そう嫌でも感じさせる混じりっけのない純粋な意思の表れ。
自分に向けられずとも分かるほどの『気』に完璧に3人は萎縮してしまった。
足が竦む、震えが止められない。
植え付けられた『死』。一度芽生えてしまえば、拭い去れない深く、黒い予感。
そして、思い知らされる。
いくら自分が1人であっても、1人で闘って来たとしても、自分たちはまだまだ子供で、大人達に守られてきたんだという事を。
行き場の無い悔しさが自分たちの中で膨らんでいく。
死への恐怖、それを拭おうとする勇気。
一生残る悔恨、それに負けまいと立ち上がろうとする葛藤。
そして、それらは自分を自滅にしか導かない、死に急ぐ必要はない、だって------自分たちはまだまだ子供、大人達に任せれば良いじゃないか。そう囁く理性。
「
「・・・何だと?」
戦局が動いた。
王を捉えた龍がその鋭牙を喉元に突き立て、屠る。
音も立てず、鮮血が飛び散る。生々しい鮮やかさを持つそれは四方の至る所に赤い染みを着色した。
ドシャッとまるで糸の切れた操り人形の様に力なく彼の体が崩れ落ちる。
「あ・・・あ・・・あ、あぁ・・・・・!ああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」
紅目の少女の悲しげな咆哮が辺りに木霊した----------