ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ   作:パザー

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exー06 この骸王に復刻を

 

「「ゆ、幽霊船だああああぁぁぁぁっ!!」」

 

 

俺と和真の叫びにアクアやめぐみんが青い顔をし、店主、ミツルギは重い腰を上げて戦闘体制を取る。

 

ていうかどうする!?このままだとゆんゆんとダクネスが素っ裸でクラーケンにテイクアウトされるしかといって幽霊船を放置してたらアクアが先走って店主が星になっちまう!

 

 

「ミツルギ!お前はクラーケンの方に行け!幽霊船は俺と店主でどうにかすっから!和真!お前はアクア抑えとけ・・・あ」

 

 

俺の声でクラーケンの方へ走り出したミツルギの後ろで起こっていた出来事。既に浄化魔法を放とうとしていたアクアに必死に泣きついているウィズの姿があった。もう、手遅れだったか・・・店主、骨は拾ってやるから、墓は・・・・・ドロップの缶でいい?

 

 

「お願いしますアクア様ぁ!浄化魔法だけは!どうか浄化魔法だけは止めてください~!私、成仏しちゃいます~!!」

 

「・・・ウィズ、私は知ってるわよ。あなたは大アンデッドのリッチー。そんなあなたが高々水の女神である私の浄化魔法で消える訳がないって、知ってるから・・・ね?良いでしょう?」

 

「良くありませんよ~!!とんでもない位未練がましく成仏するのは嫌です!!」

 

 

こんな状況で呑気だな・・・あ、アンデッドに追いかけられてる。・・・あ、捕まった。しばらく寄らんとこ。

いつの間にか背後を取られていたアクアと店主はアンデッドから距離を取ろうと走り出したがもう時既に時間切れ。夏場のアンデッドの腐乱臭を擦り付けるように二人は絡まれている。

 

アクアの猿と揶揄される叫び声と珍しく声を荒げて叫んでいるウィズの姿は何だか・・・アクアにどれだけ色気が無いのか、とういうのが痛い程伝わった。

だってさ、もうあぁいう状況の女の子はね、不思議とエロくなるものじゃない?だけどね、あの駄女神は一切無いのよ。もう逆に凄いよ。どんな状況でもそうやってギャグに出来るのは。

 

・・・どうしよ、取り敢えずゆんゆんとダクネスには・・・

 

 

「啼け、紅姫!―――騙し紅姫(だましべにひめ)!」

 

 

そう告げると同時に切っ先から赤黒いオーラの様な物が飛び出し二人を数秒間だけ、包み込む。

そして二人が出てくるとあら不思議。いつもの黒いローブ姿に白い鎧姿のダクネスが出てきたではありませんか!まぁ所詮は見かけだけでアイツらは今殆ど裸みたいな格好をしてるんだろうが。

 

この作品の存在が危ぶまれるのだ。致し方なし、許せ和真、そして読者たちよ。脳内補完でどうにか妄想に耽っていてくれ。・・・という、謝罪のような、嘆願の様な天の声・・・もとい中の人の懺悔が聞こえた気がする・・・が、無視しよう。

 

 

「全く・・・ウィズにアクア(あの二人)は働けっての・・・・・俺みたいな奴がアンデッドを殺ろうと思うと結構面倒だってのに・・・そらっ!」

 

 

海岸に幽霊船から降ろされた階段を駆け上がり勢い良く雪崩のように迫ってくるアンデッドを切り払う。

一閃、また一閃と剣を振るい頭を跳ね、体を斬り倒していく。その度にドロドロの腐った血液が辺りに飛び散り、惨状の跡を痛々しく刻んでいく。

 

 

「ショートカットだ・・・っらあっ!!」

 

 

躍起の咆哮と共に飛び上がり勢い良く甲板へと降り立つ。目の前には大量のアンデッドが大挙をなし、壁を形成している。

おどろおどろしいその形相にまるで大気が萎縮しているように冷気を漂わせ頬を撫でる。

 

が、その中でも一際異彩を放つ大きな影が1つ。

他のアンデッドよりも巨大な体躯と構えている獲物はこれまでの非道を象徴するように赤黒い血に染まっている。

コイツは・・・ちょいとマジメに行くとしよう。少しばかり・・・・・

 

 

「面白くなりそうだ」

 

 

自然と口角がつり上がり顔に影が落ちているのが分かる。不気味な笑み、それ以上の殺気と狂気を放った俺を死しても尚動き続けているアンデッド達の体を硬直させ身を退かせる。しかし、やはりと言うべきか。ボス各であろう巨大なアンデッドはその荘厳な態度と仁王立ちを崩さない。

 

 

「ただでは死なねぇし―――死なせねぇぞ」

 

 

その声と同時にアンデッドの持つ巨大な斧が降り下ろされる。相当な重量の斧は慣性で速度をドンドンと増しながら風を切り俺に迫ってくる。

 

すんでの所で身を翻す。止まることを知らない斧は轟音を立てながら甲板の床板を大きく抉り、あまつさえ周りにいたアンデッドも巻き添えにし、痛々しい肉塊へと姿を変えさせる。

 

鬼気迫る表情で斧の柄に紅姫を沿わせ顔面を狙う。

渾身の力を込め、最速で迫った細身の刀は確かにアンデッドの顔を捉えた。が、その巨躯は揺らがない。

それどころか腕を伸ばし刀をがっしりと掴み片手で斧を操り俺を叩き潰そうと動き出す。

 

 

「チッ―――破道の十一、綴り雷電(つづりらいでん)!」

 

 

刀から発せられた電撃が腕を伝いアンデッドの全身へと駆け抜ける。

一瞬。ほんのまばたき程度の間だった。

その秒も無い間だけ、動きを止め力を緩めた。

 

俺にとっては十二分なインターバルだ。

これでもう終わり。

少しの虚無感が心を覆うがそんな場合ではない。

 

巨大なアンデッドの背中。

背後を取られること、それは即ち。

 

 

「終いだ・・・剃刀紅姫(かみそりべにひめ)

 

 

死を、意味する。

 

深々と突き刺された紅姫。体の中に入っている刀身から無数の赤い刃がその巨躯を切り裂きながら辺りへ振り撒かれる。

 

四散した体が糸の切れた人形のように揺らめく。

 

決して揺らぐ事の無かった体は脆く、情けなく、大した事もなく小さな音を立て崩れ落ちた。

 

 

「やっぱ・・・・・ダメか」

 

 

うわ言が自然と口から零れる。

 

残念そうに、悔しそうに、負の感情であればなんとでも取れる声色。

 

ただただ、作業のような闘いだった。

何の高ぶりもありはしない、襲われたから応戦しただけ。

 

それ以外、何も無かった。

 

ありはしなかった。

 

自分が何故、こんな感情を抱いているのか。

 

疑問が心の深層から浮かび上がってくる。

 

俺は何故・・・闘いを欲する?

 

ここの所・・・ベルディアとやった時からか。その時から拭いきれない虚脱感と一抹の退屈。

 

何をしてもしつこく纏わり付いてくるこの感覚は恐らく・・・俺の闘いの感覚。

 

『骸王』と揶揄され、人間からも魔王軍からも恐れられていた時代。

 

取り付かれた様に闘いに明け暮れ、闘いに充足を感じ、それ以外では満たされない何か。その何かも最近は鳴りを潜め、俺自身も満喫していると感じられる生活を送っていた。

 

だが、再び呼び起こされたこれ(何か)は収まる所の知らない狂気となり、俺の体を操ろうとする。

 

 

もっと殺せ。

 

もっと苦しめろ。

 

もっと殺されろ。

 

もっと苦しめ。

 

 

そう、言われている気がする。

 

正気を保っていられてるのは恐らく・・・皮肉な事に闘いで無駄に図太くなってしまった精神のおかげだろう。

 

狂気に駆られては終わり。

 

もうそれは人でなく狂気に取り付かれた亡霊であり、狂気の言いなりの操り人形、犬に成り下がる。

 

 

「・・・クソッ」

 

 

不意に漏れたその一言。

 

その一言の綻びで、行き場の無い感情(狂気)がほんの一瞬。

 

体を持っていかれた。

 

困惑する自我とは裏腹に体は動き出す。

 

最も合理的な、最速の摘み方を取っていた。

 

~*~

 

気付いたときには跡形もなく船は崩落し周りにはバラバラになった何かの肉片と血に染まった海だけが視界を覆い尽くしていた。

 

体を包む砂の感触が何故か新鮮な感じがする。

ギシギシと痛む体を無理矢理起こすと膝元でゆんゆんが、隣でダクネスが眠っていた。

 

そして正面には険しい顔をしたミツルギに店主とその後ろに隠れる怯えた和真とめぐみん、アクアが居る。

 

 

「モノノベさん、自分との決着は付いてないんですか・・・?」

 

「俺は一体・・・何をした・・・?」

 

「あなたは幽霊船を壊して飛び出して来たんです。そしてアクア様やウィズさんを追い回していたアンデッドを、ゆんゆんさん、ダクネスさんを捕まえたクラーケンを討伐しました。この全てがほんの数秒の事でした。しかし、その間のあなたは・・・明らかにこれまでのあなたではありませんでした」

 

 

呑まれた・・・のか・・・俺に。

 

こうなっちまったら・・・もう、居られない・・・かな。・・・いや、少なくともちゃんと俺とのケリを付けないことには・・・戻れないな。

 

 

()()()()()、お前ら・・・ゆんゆん」

 

 

膝元で眠っているゆんゆんの髪を出来る限り優しく撫でてやる。

 

心なしか安らいだような顔をした彼女を見ると自然と頬が緩んだ。

 

少しだけ笑顔を浮かべ、紅姫の始解を解いた。

 

それを見て切羽詰まった表情の店主にミツルギがこちらへ駆けてくる。

 

・・・もう、遅いさ。

 

~*~

 

ウィズにミツルギ、二人の伸ばした手は虚しく空を切った。

 

静寂に消えていった彼が何処へ行ったのか。

皆目検討も付かないが・・・・それ以上に思うことがあるのか。

 

ウィズが言葉を漏らした。

 

 

「ゆんゆんさん・・・この人を置いていって・・・どうするんですか・・・!あなたは・・・彼女の・・・光・・・だったのに・・・」

 

 

ウィズの悔しげな言葉が1つ、また1つと虚空へと消えていく。

 

その情景を他の四人は黙って見つめ、悔しさに歯を噛み締めていた―――――

 




次回からちょっと長めのストーリー入るかもね。

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