機動戦士ガンダム00 変革の翼   作:アマシロ

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追記:敵モビルスーツの数を修正させていただきました。


第8話:大国の威信

 ソレスタルビーイングの多目的輸送艦プトレマイオスは、武力介入を始めてから四ヶ月が経ち、不具合の出始めたガンダム全機のオーバーホールを行うために静止衛星軌道上を航行していた。……なんでも、そこが最も安定的に航行できるからだそうです。

 

 

『エクシア、着艦完了。引き続きアイシスの着艦作業に入ります』

『……背部コンテナ、オープン。相対誘導システム作動』

 

「誘導システム同調。アイシス、着艦します」

 

 

 プトレマイオスは4機のガンダムしか運ぶ予定が無かったので、アイシスは後付けのコンテナに着艦する必要があります。……だからリニアカタパルトも使えないのです。

 なんてちょっと拗ねつつも、相対誘導システムに従ってコンテナに着艦しました。

 

 

『アイシス、着艦しました』

「……はぁ」

 

 

 久々の無重力。かつては嫌いだったのに、どことなく心地よく感じる。全身の力を抜いてアイシスのコクピットをしばし漂い、コンテナが密閉されたのを確認してコクピットハッチを開けた。

 

 

「よぉ、いい着艦だったぞセレネ」

「あ、イアンさん! えっと……おはようございます?」

 

 

「ああ、おはよう―――だが、一応言っとくが今は15時だぞ?」

「……ぅー、相変わらず面倒なのです。さっきまで北米にいたのです」

 

 

 

 イアンさんは「慣れれば分かるようになるさ」と笑い、それから少し厳しい顔で言います。

 

 

「それでだ、駆動部が疲弊しとるアイシスは今回徹底的にオーバーホールする必要がある。とりあえず一通りチェックしてから部品を取り替えるが……勝手に乗り回すんじゃないぞ!」

 

「……ぁぅ。イアンさん、それもう何年も前の……」

 

 

「ワシにとってはつい昨日の出来事だ。というか、1年ちょっとしか経っとらんだろ!」

「そ、それじゃあイアンさん、整備よろしくお願いします。です!」

 

 

 

 そして三十六計逃げるに如かず、なのです!

 アイシスの胸部装甲を蹴って、更にコンテナの天井を蹴って方向転換。久々の上下のない自由な動きに少し感動しつつ、無限壁キックで自分の部屋を目指します。

 

 

「~~♪」

 

 

 東京で覚えた朝のアニメのオープニングを口ずさみながら、四方の壁を不規則に蹴って加速したり手で勢いを殺しつつ移動していると―――廊下の先にティエリアさんが佇んでいることに気づいて慌てて姿勢を正しました。

 ティエリアさんは私のあまりの行儀の悪さに驚いたのか(お願いですから子どもっぽいなんて思わないでください…っ)僅かに目を見開くと、何事か呟きます。

 

 

「……そうか。ガンダムアイシスのあの機動はここから……」

「……え、えっと…? ティエリアさん、こんにちは…?」

 

 

「……ああ」

 

 

 ……って、ちゃんと返事をして頷いてくれたのです…っ!?

 そしてティエリアさんは何を思ったのか、「……マイスターとして移動中も訓練を欠かしていなかったというのか」と呟きながら私が来た方向に私と同じように無限壁キックをしながら進んでいきます。

 

 

「あ、そんなに飛ばすと危ないのです―――…!?」

 

 

 と、部屋の扉が開いて緑のパイロットスーツ……ロックオンが出てきました。

 スピードが出すぎているので、宇宙ではそう簡単には止まれません。

 

 

「―――うぉっ!?」

「―――し、しまった!? す、すまない……ロックオン・ストラトス…」

 

 

 わ、私は何もしていないのです!

 けれどこのまま逃げるのも申し訳なかったので、「いいってことよ」とロックオンが呟くのを確認してから、私は逃げるようにブリッジに向かいました。

 しかし、唐突に真横からアレルヤさんが現れ―――。

 

 

「――――甘いのです…!」

「うわぁ!?」

 

 

 アレルヤさんの頭の真横の壁を蹴り、軌道修正。ギリギリで回避した私は減速しつつブリッジに入ろうと――――して、アレルヤさんの陰に隠れていた刹那に飛びついてしまいました。

 

 

「―――っ!?」

「ご、ごめんなさい、刹那! だいじょぶです…っ!?」

 

 

 反動で背中を壁に軽くぶつけてしまった刹那に慌てて謝りますが、顔が少し赤いような気がするのです…っ!? 

 

 

「は、はやく医務室にいきましょう!」

「も、問題ない…」

 

 

 と言いつつも、ようやく刹那の顔がものすごく近くにあることに気づきました。………あれ、そういえば私は一体何に抱きついて―――…っ!?

 パイロットスーツ越しでも中に引き締まった肉体が入っていることを感じさせる感触。刹那にぴったりと密着するような姿勢になっていることにようやく気づいた私は、顔から火が出るのではないかと思いつつ慌てて壁を蹴って離脱しました。

 

 

「そ、その……ごめんなさい…っ!」

 

 

 逃げるようにブリッジに飛び込み、フェルトのオペレーター席を利用して勢いを殺すと、そこに座っているフェルトが驚いたように言います。

 

 

「……どうしたの?」

「ぅ、ぅぅ~~…っ、なんでもないのです……」

 

 

 

 

 一方、思わぬアクシデントでセレネに抱きつかれた刹那は、セレネの想定外の軽さと柔らかさに驚きながらも、呆然と立ち尽くしていた。

 

 

「……えーと、刹那? 大丈夫かい…?」

「……いや、問題ない」

 

 

 あれでガンダムマイスターとして平気なのだろうか? と少し心配しつつ、しかし全く不満や不安は無い……そして抱きしめられた感触を思い出している自らの思考に気づく事も無く、刹那はぼんやりと自分の部屋に向かった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ……今日はフェルトの両親の命日で、体調が悪いというフェルトを心配して部屋に行くとロックオンとフェルトが仲良く話していました。どうしてか邪魔しない方がいい気がしたのですが、アレルヤさんが部屋に入ってしまいました。ドンマイなのです。

 

 ……そういえば、刹那は……な、なんでもないのです…!

 

 

 

 

 

 さて、ガンダム全機のオーバーホールとなればそれ相応の時間が掛かるので1日や2日では終わりません。……正直、イアンさんやハロたち、整備ロボットさんに任せきりなので私には細かいことは分からないのですが……。

 

 

「――――ハイパーブーストです…!」

「……切り裂く…!」

 

 

 ソレスタルビーイングの総力を結集した3次元ガンダムバトルゲーム……ではなく、実際にコクピットを使ったシュミレーションモードで、私は暇つぶ……刹那と訓練をしていました。なんだか刹那に会うと、その……抱きついてしまったことを思い出してなんだか恥ずかしかったのですが、先程まで訓練していたロックオンが「休憩するから刹那、代わりにやっといてくれ」と言って刹那を連れてきたのでなし崩し的に訓練が始まり、戦いが始まれば互いに近接戦闘に特化したもの同士としてヒートアップしました。

 

 ちなみにこのシュミレーション、本来はフラッグやティエレン、ヘリオンなどと戦うだけのものなのですが、つい昨日にこの対戦機能が解放されました。

 

 

 

 爆発的な加速力を誇るハイパーブーストですが、どうしても動きが単調になりやすいという欠点があります。対刹那用にGNソードを装備したウィングアイシスとエクシアが凄まじい勢いで激突し、しかし刹那は刃を立てないようにして受け流して見せました。

 

 

「……はぁぁっ!」

「――っ!?」

 

 

 エクシアの左手がGNブレイドを掴み、鋭く一閃する。

 咄嗟にブーストでアイシスを上に動かし―――それを読んでいた刹那が同方向に加速しながら本命のGNソードの突きを放った。

 

 

「……くっ!」

「―――まだです…っ!」

 

 

 咄嗟に右脚をブースターで加速させてエクシアを蹴り飛ばしますが、左足をGNソードに持っていかれます。一瞬悔しさが頭を満たし―――。

 

 

「それ、なら……! バーストモー―――」

 

 

『――――緊急連絡です、Eセンサーに敵通信装置! こちらの場所が探知されています!』

『各マイスターはガンダムで待機して!』

 

 

 

 焦ったようなクリスさんの声が艦内放送で流れ、少し遅れてスメラギさんの声が聞こえます。私は慌ててシュミレーションを終了させると、通信回線を開きます。

 

 

『イアンさん、アイシスの整備状況は!?』

『―――問題ない! デュナメスが脚部のジェネレーターを使えんが、アイシスとエクシアの整備は終わったところだ!』

 

 

『キュリオス、ヴァーチェを先行発進! 敵部隊を陽動する動きをとりつつ、敵の背後に回りこんで!』

『トレミー、カタパルトモードに移行します!』

 

 

 にわかに慌しくなる通信の中、私は必死に頭の中で状況を整理していました。

 

 

(双方向通信機をばら撒いて粒子による通信遮断領域を特定した……?)

 

 

 どれだけの物量作戦なのですか!

 AEU、ユニオンの最近のガンダムによる被害を最小限に抑えようとする方針から考えると、恐らくは人革連。でも、これは恐らく相当な戦力が投入される……。

 

 

『ダメです! 敵通信エリアから抜け出せません!』

『オービタルリングの発電衛星へ向かって。あそこは電磁波の影響で通信空白地帯になる。状況を5分に持ち込めるはずよ』

 

『了解っす!』

『キュリオス、発進しました。ヴァーチェをカタパルトデッキへ移行させます!』

 

 

『ガンダム2機で、陽動作戦か?』

『それもあるけど―――』

 

 

 と、そこでフェルトの声も聞こえます。

 

 

『……遅れました!』

『フェルト、発進シークエンスお願い!』

 

『……了解!』

『ヴァーチェ、ティエリア・アーデ。いきます』

 

 

 

 ……私はまだなのでしょうか?

 ちょっとヘルメットを被りなおしつつ、アイシスの状態に異常が無いことをチェックしながらとても長く感じる数分間を待ちます。

 

 

『トレミー、オービタルリングの電磁波干渉領域に入りました!』

『……光学カメラが敵部隊を補足』

 

 

『来たか』

 

 

 呟く刹那に、私はじわりと汗が滲む手で操縦桿を握り締めます。……そうだ。今回は武装を持たないトレミーが攻撃を受けることになる。私が……私たちがフェルトたちを守らないと…!

 

 

――――おかあ、さん。

 

 

 ……もう、あんな思いはしたくない…。

 血が滲むほどに唇を噛み締め、搾り出すように言う。

 

 

 

 

「……イアンさん、フォートレスパックの射出用意もお願いします…っ」

『―――セレネ…っ!? ……わかった!』

 

 

「スメラギさん、ガンナーアイシスのフルウェポン出撃を提案させてください…!」

『許可します! デュナメスが万全じゃない今、貴女が守りの要よ……お願い!』

 

 

『敵艦、最大望遠でモニターに出ます!』

『……接近する艦影は人類革新連盟軍、多目的輸送艦、EDI-402ラオホゥ、5隻と断定』

 

『2隻がそれぞれ左右に展開してます。恐らく、キュリオスとヴァーチェの攻撃に向かったかと』

 

 

 ……モビルスーツの艦隊戦は接近して包囲するのがセオリーなのに、陽動に乗った!?

 私はアイシスをコンテナから出撃させ、ガンバーパックとドッキングして状態をチェックしつつ息を呑みました。

 

 先程少し聞えましたが、スメラギさんの作戦は陽動と見せかけて挟み撃ちにすること。この状況、精鋭部隊であるはずの相手が間抜けすぎるというのは考えられない。ということは、スメラギさんの作戦が読まれて……!?

 

 その予想を裏付けるように、スメラギさんが噛み締めるように呟きます。

 

 

『やられた……アレルヤたちへの通信は…!?』

『電磁波干渉領域です、無理ですよ…!』

 

 

『リヒティ、軌道を急速変更! オービタルリングを盾にして、敵艦との距離を取って!』

『りょ、了解!』

 

 

 私は通信を聞き流しつつ、アイシスに追加の武装を装備させます。

 

 

「フルウェポン……GNスナイパーライフル、ミサイル、キャノン、ライフル2丁、フルシールドの接続良好。イアンさん、次は多分フォートレスになります…っ」

『分かった!』

 

 

 特別にカスタマイズして、上にGNキャノンを装備できるようにしたフルシールド、そして腰にはGNミサイルを、両腕でスナイパーライフルを装備し、更に背中のマウントにはGNビームライフル。明らかに装備過多であるが、GN粒子の重量軽減効果もあって問題はない。勿論、その分粒子の消耗は激しくなるが―――。

 

 

 

『全乗組員に、戦術予報士の状況予測を伝えるわ。接近する艦船は輸送艦、ラオホゥ3隻。恐らく、そこに敵戦力の全てが集中しているはずよ』

『どういうことです…!?』

『敵艦2隻が、キュリオスとヴァーチェの迎撃に向かったはずだ』

 

 

 クリスさんとラッセさんの声に、スメラギさんの声が答えます。

 

 

『……本来はそうしてほしくなかったの。最初のプランではこっちの陽動を見抜いた敵艦隊がアレルヤたちを無視して本艦へ向かう。そうなれば後方に回り込んで挟み撃ちできたんだけど……。敵は、こっちの陽動に陽動で応えたのよ。恐らく、攻撃に向かった敵輸送艦に搭載されたモビルスーツは既に発進済み。アレルヤとティエリアは迎撃に時間を取られているはず……』

 

 

 そう、こちらの作戦は完全に読まれていた。

 ガンダム2機は足止めされ、こちらは集中攻撃を受ける。

 

 

『敵の陽動を受けたアレルヤたちが戻って来るのは、私の予測だと6分。その間、敵モビルスーツ部隊の波状攻撃を受ける事になる……』

 

『ミス・スメラギがそう予測する根拠は?』

 

 

 ロックオンの声に、スメラギさんは苦々しげに言います。

 

 

『18年前、第4次太陽光紛争時に、これと同じ作戦が使われたわ。……人革連の作戦指揮官は、『ロシアの荒熊』の異名を取る、セルゲイ・スミルノフ…!』

 

 

 

……………

 

 

 

『……エクシア、デュナメス、コンテナハッチオープン。エクシアはプトレマイオス前面で迎撃体勢で待機しつつ、砲撃するアイシスの援護をお願いします』

 

『了解した』

 

 

 プトレマイオスの前面、既にガンナーパックにつけられるだけ武装を付けたアイシスの隣に並ぶようにエクシアが浮かび、背後のコンテナでは脚の代わりに鉄骨をつけたデュナメスが狙撃体勢をとります。

 

 

『……デュナメス、脚部をコンテナに固定。GNライフルによる迎撃射撃状態で待機』

『トレミーのプライオリティを防御にシフト。通常電源をカットする』

 

『ほ、ほんとに戦うの…!? この船、武装無いのに…っ!?』

『ガンダムが、いますよ!』

 

『3機だけじゃない…っ!』

 

 

 ……そういえば、クリスさんは実戦は初めて……。

 私は最悪の事態を想像して震える自分の身体をそっと抱きしめて、それから小さく呟きます。

 

 

「だいじょうぶ、です。……やらせない……みんなは、絶対に守ります…っ」

『その意気だ、セレネ。俺たちに任せとけって』

『目標を駆逐する』

 

 

『―――さぁ、そろそろ敵さんのお出ましよ! 360秒、耐えてみせて!』

 

 

 まるでその言葉に応えるように、リングの陰から2隻の敵艦がこちらに向かってくる。

 

 

『リングの陰から、敵輸送艦出現!』

『デュナメス、アイシス、高狙撃戦開始!』

「『了解!』」

 

 

 私はあらかじめ構えておいたライフル型コントローラーを握りしめ、照準を―――。

 ……ラオホゥのブリッジが切り離されている! つまり、無人艦…!

 

 そのことに嫌な予感を感じつつも、人がいないのならと躊躇い無くトリガーを引いた。

 

 

「――――いけ…っ!」

『行けよ! ……っ、機体重量の変化で照準がズレていやがる…!?」

 

 

 GNキャノンとスナイパーライフルが火を噴き、アイシスの狙ったラオホゥが爆散。それと同時にラオホゥの陰に隠れていた20機以上のモビルスーツが散開する。

 しかし、デュナメスの狙撃が外れてしまう。ぐんぐんと加速するラォホウに照準を直しながら、叫ぶ。

 

 

「スメラギさん、ラォホウは無人です…っ!」

『まさか、無人艦による特攻!?』

『……ミサイル接近! 数24!』

 

 

 ……数が多いっ!? しかも、特攻…!?

 恐怖にお腹の奥が冷たくなるような感覚を感じつつも即座にアイシスのスナイパーライフルをフルシールドにマウントし、背中から2丁のビームライフルを抜き放って散開したモビルスーツに片方、ミサイルにもう片方を向けた。

 

 

『―――狙い撃つぜ!』

「全弾発射…っ!」

 

 

 速射モードのビームライフルが連続して火を噴き、一瞬の間をおいてGNキャノンがミサイルを纏めて吹き飛ばす。取りこぼしをロックオンが狙い撃ち、刹那も何発か撃墜しながらアイシスを狙う挙動を見せる敵機を牽制してくれる。

 

 

『ミサイル、全弾迎撃を確認!』

「―――まだです…っ!」

『やらせねぇ!』

 

 

 続けて、特攻してくる無人艦にデュナメスとアイシスの放ったGNミサイルが命中。内部に粒子を注ぎ込まれた敵艦は瞬く間に膨張、爆発した。

 

 

『もう片方の輸送艦の後ろにも敵モビルスーツ部隊を確認した!』

『敵総数、48機…!』

 

 

 ロックオンと刹那が呟き、操縦桿を強く握り締める。

 再びライフルを腰に戻したアイシスはスナイパーライフルに持ち替え、狙う。

 

 

 

「――――当たれ…っ!」

 

 

 粒子残量を気にする必要はない。立て続けに放つ狙撃に、脚部を大破したティエレンが慌てて逃げ―――逃げない…っ!?

 

 

「……っ、宇宙なら脚がなくても動けるから…!?」

『くっ、死角に入られた! ブリッジ、コンテナを回転させてくれ!』

 

 

 刹那が急速接近してティエレンを1機GNソードで切り裂き、残り47機。しかしティエレンたちはエクシアが接近しようとするのを察知すると三々五々散ってしまい―――。

 

 

「甘いのです!」

 

 

 正確に照準されたGNキャノンがティエレン2機の下半身を吹き飛ばし、更にライフルがその武器である長滑空砲を爆散させ、その2機は撤退し更に2体減る。すると、敵機はアイシスにも砲撃をある程度集中させつつ更に距離を取る。

 

 

(おかしい……一気に包囲殲滅してこない…っ!?)

 

 

 嫌な予感がどんどん膨れ上がるのを感じながら、一切粒子残量を気にしないアイシスの猛攻と、それに合わせたロックオンの狙撃が更に2機のティエレンを無力化するものの、敵モビルスーツ部隊は時間稼ぎをしているような…?

 

 

「―――っ!? スメラギさん…っ!」

『……まさか、相手の真の目的はガンダムの鹵獲…っ!?』

 

 

 

 私と同じ答えに至ったスメラギさんが叫び、私もGNパック内の粒子が危険域に達したのを確認して即座に通信で呼びかけます。

 ……どれだけの敵部隊がいるのか分からない! 下手をすれば、分断されたアレルヤとティエリアが罠を張られて多数の敵機に待ち伏せを受けている……!

 

 

 ……だめっ、それは……それ、だけは…っ!

 私は、もう………っ。嫌なの…っ!

 

 

 

 冷たい頬も、何も見ていない瞳も。そして、狂った笑いも。溢れる緑の光と、思考が溶けるような激痛も――――手が震える。勝手に涙が溢れ、視界が滲む。

 

 

 気がつくと、私は叫んでいた。

 

 

 

「―――イアンさん! フェルト!」

『準備はOKだ!』

『了解…! カタパルトより、フォートレスパックを射出します!』

 

 

 

「―――ガンナーパック、パージ! 刹那、おねがい…っ!」

『了解…!』

 

 

 スナイパーライフルをマウントし直したフルシールドを中心とし、腰のミサイルパックや腕に付属した照準補助装置が一体となってパージされる。それと同時にガンナーパックは搭載AIに従って内蔵されたスラスターでトレミーのコンテナへ。

 

 純白の機体を晒したアイシスに敵の砲火が集中しかけるが、アイシスの前に躍り出たエクシアが飛んでくる砲弾を防ぐ。

 

 

『……フォートレスパック、いきます!』

「―――ドッキングセンサー!」

 

 

 飛来する装甲の塊―――としか見えないフォートレスパック。

 四肢を大きく広げたアイシスの背中から放たれる同調用センサーとパックが連動し、塊となっていた装甲が人型に大きく展開され――――。

 

 パックが背中の太陽炉につながり、背後からアイシスを抱きしめるように、装甲がアイシス全体を包み込むように装着される。そして右腕にはGNバズーカ。一旦外したGNキャノンも再び肩に装着される。

 

 そして、アイシスのツインアイが紅く輝き―――。

 

 

「――――フォートレス・アイシス、目標を殲滅します…っ!」

 

 

 各部装甲、GNバズーカ、キャノン、接続良好……GNパック内の粒子、99%、問題なし……! 敵部隊の密集地点は――――…!

 

 

「GN―――バズーカ…っ!」

 

 

 慌てて逃げ出そうとする敵機の間を眩い光が駆け抜ける。

 強烈なビームの余波に巻き込まれた4機のティエレンはそれぞれ腕を、脚を、頭を吹き飛ばされ、しかし辛うじて爆散はせず、ふらふらと撤退行動に移る。

 

 

―――なんとか、無事…っ!?

 

 

「……ぅく、はぁ……はぁ…っ! まだ、です…っ!」

 

 

 止めていた息を吐き出すと滝のように汗が噴き出し、全力疾走した直後のように息が乱れる。けれど、今は……っ。早く、二人の救援に―――…っ!

 

 

 

「……刹那、守りは私とロックオンに! …スメラギさん!」

『―――許可します! クリス、GNフィールド最大展開!』

『……了解! ―――エクシア、目標を駆逐する!』

 

 

 

 恐怖を植えつけて撤退に追い込む…!

 GNパックとアイシス、それぞれの粒子残量に素早く目を走らせ、呟く。

 

 

 

「――――…死な、ないで……っ」

 

 

 

 エクシアが前に出たことで、慌てて敵機がプトレマイオスに攻撃することでエクシアを引き剥がそうとする。身勝手だって分かってる。けれど……わたしは…っ。

 ……アレルヤを、ティエリアを………仲間を……みんな、だけは……っ!

 

 

 

「―――ああぁぁぁぁ…っ!」

 

 

 

 GNバズーカとキャノンの光が駆け抜け、暗い宇宙を爆発の光が照らした。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回予告


 罠に嵌ったソレスタルビーイング。キュリオスはその中で覚醒を促され、そして、少女もまた……次回、『ガンダム鹵獲作戦』。―――君はガンダムの涙を見る……。



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