機動戦士ガンダム00 変革の翼   作:アマシロ

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第25話:刹那

 

『―――その程度の攻撃で、このアルヴァトーレに対抗しようなど……片腹痛いわ!』

 

 

 アレハンドロ・コーナーと名乗る男の言葉、それは決して大袈裟なものではなかった。エクシアとGNアームズによる集中砲火も強力なGNフィールドに阻まれてかすり傷一つ負わせることができていない。

 

 刹那の焦燥を嘲笑うように、アルヴァトーレの上背部の両側面のカバーが開き、片側十一門、計二十二門の粒子ビーム砲が現れ、一斉に閃光を放つ。

 

 

 刹那はその撒き散らされる粒子ビームの間隙を縫って一気に接近し、GNフィールドに向けて近距離からライフルモードにしたGNソードから連続してビームを放つ。しかし、それでもあっけなく弾かれ――――お返しとばかりに撒き散らされる十一門の粒子砲に即座にエクシアを後退。しかし回避しきれずにGNシールドが粉砕された。

 

 

「――――ちぃっ!」

 

 

 シールドの破片を振り払いつつ、更にアルヴァトーレから距離取り―――そして、不意に金色の機体を包んでいたGNフィールドが消失した。

 

 

「………!?」

 

 

 活動限界が来たと考えるには、早過ぎる。

 更なる攻撃の予兆であると読み、粒子ビームを牽制に放ちつつ更に距離を取り、そして金色のエイのようなその機体。その尾に当たる部分が開いた。

 

 

 そして、飛び出してくる六本の何か。ミサイルのようにも見えるが、赤いGN粒子を放ち、粒子ビームを撃ちながら縦横無尽に急接近してくる。

 

 

「―――……スローネと同じ!」

 

 

 

―――GNファング。

 

 

 スローネツヴァイと同じ六本の牙が、エクシアを四方八方から狙う。刹那はそれらを回避しつつライフルモードのGNソードと両手首のGNバルカンで応戦するが、撃墜することができない――――。

 

 

 

『―――刹那、ドッキングだ!』

「了解…!」

 

 

 

 ラッセの声に応じ、ファングを牽制しつつGNアームズとのドッキングに移る。

 慎重に、しかし迅速に接近するGNアームズが変形を開始し、上下に機体を展開したGNアームズの中央。GNドライヴとの結合部へエクシアが背中を押し込む。

 

 GNアーマーTYPE-E――――エクシア用にカスタマイズされたGNアーマー。左右の腕には大型のGNソードと、その両側にGNビームガンを備え、両肩にはデュナメスによるTYPE-Dと同様に二門の大型GNキャノンがある――――。

 

 

 

『行くぞ、刹那!』

 

 

 

 ファングを仕留めなければ、いい的になってしまう。

 半ば怒鳴るようなラッセの声に応じ、射撃が得意ではないと自覚している刹那は、意図的に意識的に彼の言葉を叫ぶ――――。

 

 

 

「――――狙い撃つ!」

 

 

 エクシアのGNソード・ライフル、GNアーマーのビームガンが、あたかも吸い込まれるように次々とファングを撃ち落とし、GNキャノンが纏めて吹き飛ばす。

 それはそう、まるで彼の―――ロックオン・ストラトスが力を貸してくれているかのようだった。

 

 

 

(……俺は、ロックオンの命を背負っている。戦っている。俺の中で、俺と共に…!)

 

 

 

 操縦桿を強く握り締め、刹那はGNアーマーを金色のモビルアーマーに突進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 GNアーマーが放ったGNキャノンが最後のファングの消滅させ、そのままアルヴァトーレに襲い掛かる。しかしそれもGNフィールドに阻まれて無効化される。

 すると、再びGNフィールドが霧散し―――それと同時に機体中央のスリットが開き、中から口―――大型粒子砲が現れ、鎌首をもたげた。

 

 

(くっ……!?)

 

 

 刹那が危険を察知した瞬間、眩い光の柱が放たれる。ヴァーチェのバーストモードを彷彿させる凄まじい閃光がGNアーマーを呑み込もうと襲い掛かり、急速後退しつつ回避行動を取ることで辛うじてビームから逃れる。背後で資源衛星群が消滅するが、それに目を向ける余裕はない。

 

 

『突っ込むぞ、刹那ぁ!』

 

 

 ラッセの声とともに、加速によって刹那の体がシートに押しつけられる。

 アルヴァトーレが十一門の粒子ビーム砲を乱射してくるが、それをこちらもGNフィールドを展開することで弾き飛ばし、更に加速して突っ込む。

 

 

『―――直接攻撃で!』

 

 

 

――――激突する寸前でGNアーマーはGNフィールドを解除し、エクシアの右脚を固定するパーツに内蔵されたクローを閃かせる。

 

 しかしそれは命中する直前で敵の鋏によって掴まれ、敵の粒子ビーム砲が一斉にこちらに砲口を向け――――。

 

 

「―――くっ!」

 

 

 咄嗟に、大型GNソードを左脚を掴んでいる敵機の左腕に叩き込む。高周波振動し、更にGN粒子を纏う刀身が接触した装甲と火花を散らし――――あっけなく金色の腕を両断した。

 

 

 

『くたばれぇっ!』

 

 

 ラッセが叫び、そこに更に至近距離からGNキャノンを叩き込む。敵機は咄嗟に逆の腕でそれを受け止めるが――――装甲自体は無事だったものの、その勢いに押されて関節が吹き飛ぶ。

 しかし、お返しとばかりに近くにあった二門に粒子ビーム砲が火を噴く。

 

 

 その片方はエクシアの左肩を掠めるだけだったが――――もう片方が、GNアームズのコクピットの至近を貫いた。

 

 

「ラッセ―――!」

『まだまだぁ!』

 

 

 被弾の衝撃で流された機体を立て直し、GNアーマーが再び突進する、交差する瞬間に放ったGNビームガンが金色の機体の右半身に爆発を起こし、敵の斉射した粒子ビーム砲がGNアーマーの装甲を削り落とし―――。

 

 

『……刹那、俺たちの……存在を……!』

 

 

 ラッセの呟きが聞えた直後、爆発とともに通信が途絶する。

 

 

「―――ラッセ…!?」

 

 

 返事が無い。表示されるデータではコクピットは全壊してはいないようだったが、多大なダメージを受けたことは間違いない。刹那の脳裏に、消滅したアイシスのコクピットがよぎり―――。

 

 

「――――貴様ぁ…っ!」

 

 

 ラッセの作ったチャンスを―――無駄にはしない!

 

 GNアーマーの装甲を砕かれながらも、構うことなく突進する。

 右腕の大型GNソードを真っ直ぐに突き出し――――激突した。

 

 

 これまでに受けていたダメージの影響なのか、突き刺さったGNソードが刀身の半ばで砕ける。しかし敵機のGNフィールドもまた、受けた損傷からか消滅し――――そして、GNアームズも続けざまに小さな爆発を起こし、機能不全に陥る。

 

 刹那は即座にドッキングを解除し、GNソードを展開。周囲に散らばる爆煙とGN粒子を突っ切り―――金色の巨体に躍りかかった。

 

 

 

「おおおおおおぉぉぉぉっっ!」

 

 

 アルヴァトーレが迎撃しようと粒子砲をこちらに向けるが―――遅い!

 雄叫びをあげる刹那が、エクシアが、その斬撃の届く距離に、懐に飛び込み―――GNソードが、金色の装甲に深々と突き刺さった。

 

 

 

「―――ぁぁぁぁああああああっ!」

 

 

 

 その勢いのまま、深々と突き刺したGNソードで敵の装甲を切り裂く。縦に、横に、そしてそのまま、真っ二つに引き裂く!

 

 

 

「―――ぅぉぁぁあああああ―――ッ!」

 

 

 

 金色の機体が無残に切り刻まれ、各所からスパークを散らす。

 刹那は敵機に十分なダメージを負わせたと判断し、金色の装甲を蹴飛ばして距離を取る。エクシアへの反撃の砲火は無く―――敵機が、盛大な爆発をあげる。一発、二発、三発と連続する爆発の閃光が、そして溢れだすGN粒子が、アルヴァトーレの黄金を包み込んだ。

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 終わっていない。終わってなどいなかった。

 敵機が爆発したのを見て、そう判断したのは早計だったと、刹那が通信の途絶してしまったGNアームズに呼びかけていた時に思い知らされた。

 

 僅かに聞えた、通信回線を復活させようとするノイズ。それとほぼ同時に、ロックオンされたことを報せるアラートが鳴り響いた。

 

 

 咄嗟にエクシアの追加スラスターを閃かせ、放たれた赤い粒子ビームを回避する。

 そしてエクシアを振り向かせ―――見た。

 

 死に体となったはずのアルヴァトーレの、その口のようなスリットの上部の二門の粒子砲が、こちらを狙っていた。そして、その部分が僅かに身動ぎし―――開いた。

 

 

 そして、そこにはやはり金色の――――モビルスーツ。

 二門の粒子砲はビームライフルであり、カバーとなっていた部分が背中に回って翼となる。顔はガンダムようなものではなく、目を翡翠色のゴーグルで覆ったもの。

 

 

(……まさか、あの巨大な機体はGNアームズと同じ…!?)

 

 

 あくまで向こうは強化パーツでしかなく、本体はあのモビルスーツか…!

 刹那が即座に身構え、その金のモビルスーツが右手のビームライフルを投げ捨ててビームサーベルを構え、GN粒子を放出しながら突進してくる。

 

 

 振り下ろされる光剣を、咄嗟にGNソードで受け止め――――。

 

 

『さすがは、オリジナルの太陽炉を持つ機体だ』

 

 

 敵の声が聞こえ、それと同時にモニターにウィンドウが開いて敵パイロットの顔が表示される。見覚えのある顔――――アザディスタンの技術支援の要請に応じて訪れた、国連査察団の代表―――国連大使!

 

 

『未熟なパイロットで、ここまでこの私を苦しめるとは』

 

 

 その肩書き、そしてこの金のモビルアーマー、モビルスーツを操っていたこと……ある程度以上の立場にある人間だと判断して、刹那は叫んだ。

 

 

「――――貴様か……イオリアの計画を歪めたのは!」

『計画通りさ……ただ、主役がこの私になっただけのこと! そうさ、主役はこの――――アレハンドロ――――』

 

 

 

 さも当然のように語る男は、しかし最後まで語ることはできなかった。

 

 

 

「………な、ことで……」

『……なに…?』

 

 

「―――そんな、下らない理由で――…ッ!」

 

 

 そんな理由で、ロックオンは……レナは……っ!

 認めない……認めるものか…!

 

 

 エクシアの追加スラスターが閃き、敵の斬撃を弾き飛ばす。間髪入れず、がら空きになった敵の胴をしたたかに蹴り飛ばす。更に、慣性で弾かれる機体に向けてエクシアを突進させつつ、GNソードをライフルモードに切り替えて乱射する。

 

 

 

『―――くっ!?』

 

 

 しかし、それはGNフィールドによって弾かれ―――敵がビームライフルを乱射する。

 

 

『ソレスタルビーイングの武力介入によって<世界>は滅び、統一という再生が始まった! そして私はその世界を、私色に――――!』

 

「――――黙れ!」

 

 

 

 敵機の下に潜り込むように急接近したエクシアがGNソードを閃かせ、敵機は辛うじてビームサーベルで受け止めるが、左肩の追加スラスターを閃かせたエクシアが、そのコクピットと思われる腹部に、強烈なボディーブローを叩き込み――――。

 

 

 

 

『―――ぐぉぉっ!? くっ、その新しき世界に、貴様の居場所はない…ッ!』

 

 

 敵モビルスーツの背面の翼が、妙な動きを見せた。

 咄嗟に刹那はエクシアに僅かに距離を取らせ――――そして、敵機の両翼が水平になり、その先端が金色の機体を挟むようにして突き出される。

 

 

 翼と翼の間に、エネルギーの線が幾重にも描かれ――――。

 

 

(――――まさか…っ!?)

 

 

 怒りのあまり、接近しすぎていた。

 このままでは、避け切れない――――!

 

 

 

『―――塵芥と成り果てろ――――エクシア…ッ!』

(くっ、間に合え―――ッ!)

 

 

 

 咄嗟にコンソールを叩きつけるように操作し、あらん限りの力で操縦桿を引き絞り、ペダルを踏みつける。しかし、禍々しい巨大な光の矢が、エクシアのコクピットのモニターを埋め尽くし―――――。

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

「………ふっ……ふはははっ……!」

 

 

 あまりにもあっけない。このアルヴァアロンと私の前では無力だったようだな。

 あの距離で避けられるはずもない。そう、例えあの時点でイオリアのシステムを使おうとも避けられるものではない――――!

 

 

「ははははははははっ! 残念だったな、イオリア・シュヘンベルグ! 世界を統合し、人類を新たな時代へと誘うのはこの私……今を生きる人間だ!」

 

 

 

 アレハンドロは、心の底からわきあがる高揚にその身を委ねていた。ガンダムを失ったソレスタルビーイングを傀儡にすることなど容易。ソレスタルビーングの監視者、そして表向きの大きな地位も持っているアレハンドロが、これからの世界を導くことができる――――!

 

 

 しかし、その時。

 彼の目に信じられないものが映った。

 

 

「………バカな……なぜ……っ!?」

 

 

 粒子ビームが消え去った跡。塵をも残ってはいないはずの漆黒の宇宙に、眩いばかりの緑、そして真紅の輝き――――。

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 エクシアのコクピットに、トランザムの発動に伴って残りの粒子量が表示されていた。しかし、それは刹那には全く目に入っていなかった。

 

 エクシアを庇うように大きく腕を、蒼い翼を、そしてそこから眩いばかりの粒子の翼を広げた、そしてトランザムによって真紅に輝く、純白の機体―――ガンダムアイシス。

 

 

「……レ、ナ……?」

 

 

 右腕と左脚を喪失し、そして、コクピットに開いた虚空にはやはり何も見えない。

 しかし、確かにそこに存在していた。アイシスの背後で、ウィングパックと合わせてGNフィールドを最大展開していたフォートレスパックが耐え切れずに爆散する。アイシスがGNフィールドを解除しつつ、左腕に構えたGNソードを展開し―――そして、金色の敵機に、それを向けた。

 

 

 

 

――――戦う。

 

 

 その意志を感じ取り、刹那は疑問を、涙を飲み込む。

 大きく息を吐き出し、操縦桿を握り締め、敵機を見据え、叫ぶ。

 

 

 

「―――……見つけた」

『……なに……?』

 

 

 

 

 

 トランザムによって刹那の求めるままに、いや、それ以上に応えるエクシアを駆りながら、そして何も言わずとも逆方向から敵機を挟み込むアイシスの存在を感じながら、刹那の脳裏をロックオンの言葉がよぎる。

 

 

 

『―――何が悪いとかじゃねぇ。けどな、どうしたって世界は歪む……そして、俺はその歪みに巻き込まれて、家族を失った……失ったんだよ……!』

 

 

 

 そうだ、世界が歪むのは誰のせいでもない……はずだった。

 しかし、もしそうでないのだとしたら。

 

 

 

『……一人でも多くの人を助けるために。平和な世界にするために、わたしたちは……』

 

 

 

 俺たちの、そして、レナの願いを踏みにじる輩がいるのなら――――…。

 

 

 

「――――見つけたぞ、世界の歪みを……ッ!」

 

 

 

 自分勝手な欲望で、世界を歪ませるもの――――!

 

 

 

「――――そうだ、お前がその元凶だ!」

 

 

 エクシアが粒子ビームを放ち、敵が応射する。しかしエクシアはそれを残像を残しつつ回避し、その隙に敵の背後、至近に近づいたアイシスがバーストモードに移行し、粒子砲となったウィングスラスターから粒子ビームをGNフィールドに叩き込む。

 

 

『―――再生は既に始まっている…ッ!』

 

 

 吹き飛ばされた敵機がアイシスに粒子ビームを乱射するが、ハイパーブーストを作動させたアイシスが残像だけを残して掻き消え――――。

 

 

『まだ破壊を続けるか!』

「―――無論だ…ッ!」

 

 

 ようやく見つけたのだ。黒幕を。計画を歪めたものを。

 その歪みで、ロックオンは、レナは……。

 

 今の刹那には、刹那に銃を向けたロックオンの気持ちが痛いほどに分かっていた。

 そして戦争根絶の意志を自分勝手に利用する者を、許すつもりなどない―――…ッ!

 

 

 

 エクシアとアイシスの放った粒子ビームが同時に敵機に殺到し、しかしそれもGNフィールドに阻まれる。……だが、対処法は分かっている。

 球体を形成する圧縮粒子の流れ。それを、実体剣で切り裂く――――!

 

 

 

 

 

 そうだ。いつかの、ロックオンに言われた言葉――――。

 

 

 

――――…刹那、なぜエクシアに実体剣が装備されているかわかるか?

 

 

 

 それは、GNフィールドに対抗するため。対ガンダム戦も計画には入っているから…。

 

 

 

――――もしものときは、お前が切り札になる。任せたぜ、刹那……。

 

 

 

(……わかっている、ロックオン……今の俺は、戦うことしかできない破壊者……だから、戦う………この、争いを生み出す者を倒すために!)

 

 

 

「――――この歪みを、破壊する!」

 

 

 

 赤い輝きを纏い、エクシアが金色のモビルスーツ、アルヴァアロンへ向かって駆ける。同時に、アイシスのガンナーパックがGNミサイルと粒子ビームを撒き散らしながら敵機の頭上に向けて突進し、更に敵機の直上で自爆し、爆煙とGN粒子を撒き散らす。

 

 そして、その煙が晴れた時――――アレハンドロが見たのは、眼前で同時にGNブレイドをアルヴァアロンに突き立てる、エクシアとアイシスだった。

 

 

 

『貴様ら……っ!』

 

 

 アレハンドロが自らの肉体を傷つけられでもしたかのように呻き声をもらし、それに構わず、刹那が叫ぶ。

 

 

「―――――武力による、戦争根絶――――それこそが、ソレスタルビーイング!」

 

 

 

 敵のGNフィールドが損傷に耐え切れずに消滅し、エクシアとアイシスは鏡合わせのように同時にビームサーベルを抜き放ち、突き立てる。

 

 

「――――ガンダムが、それを成す…ッ!」

 

 

 更に、エクシアが腰背部に装備したGNダガーを、アイシスがソードパックに装備したGNビームサーベルを、二本ずつ敵の胸に突き立てる。

 

 

 

「……俺と……俺たちと、共に……ッ!」

 

 

 更に残ったビームサーベルを、今度こそ確実に仕留めるべく金色の機体に突き立てる。

 

 

 

「――――…そうだ、俺が……!」

 

 

 折り畳まれてたGNソードを展開し、アイシスと同時に、袈裟切りに金色の機体を切り裂き――――そして刹那の脳裏に響く声とともに、振り抜いた。 

 

 

 

「――――俺たちが……ッ!」

『――――私たちが……っ!』

 

 

 

「『―――――ガンダムだ…っ!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金色の機体が一瞬だけの恒星となって、そして消滅する。

 刹那はそれをしっかりと確認し、エクシアと同時にトランザムを終え、純白の機体を静かに佇ませるアイシスにエクシアを向き直らせた。

 

 

「………レナ、いるのか……っ!?」

 

 

 通信を入れ、叫ぶ。しかし返事はない。コクピットはやはり虚空のままで、それでも刹那は、あることに気づいた。

 

 

(……レナは、脳量子波で機体を操縦する……GNパックが遠隔操作できるのなら、アイシスも……!?)

 

 

 アイシスの脇腹に残る、ビームサーベルに貫かれる前につけられたと思われる、コクピットまで切り裂かれた痕。もし、そもそもコクピットを貫かれた時には既に脱出していたとしたら……?

 

 

「レナ、機体を―――!」

 

 

 レナがアイシスを自分のところにまで呼び戻せば、刹那もレナを見つけられる。

 そう思った瞬間――――飛来した赤い粒子ビームの光が、アイシスの頭を吹き飛ばした。

 

 

 

「―――なっ!?」

 

 

 驚きと共に、刹那は粒子ビームを放った機体――――漆黒の機体に、半ばから切り落とされた真紅の翼と同色の粒子を纏った、黒いアイシスを見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 二つ装備していた擬似太陽炉の一基を失い、エクシアから隠れるために資源衛星帯に潜伏していた黒いアイシスを駆るセレネは、確かに倒したはずのセレネ……レナ・キサラギの、オリジナルの脳量子波を感じ、満身創痍の機体で、しかし確実な殺意を持って純白のアイシスを狙った。

 

 

 

「………どう、して…っ!」

 

 

 確かにコクピットを貫いた。即死だったはずだ。

 でも、動いている。動いているなら――――。

 

 

「……こんど、こそ…っ! 今度こそ―――っ!」

 

 

 オリジナルなんかがいるから、私たちはあんな目に遭わされる……っ。

 そうでなければ……そうでなければ……っ。

 

 

「――――私は、殺されるために生まれたんじゃない…っ!」

 

 

 なんで生きているのか。

 死ぬか、あるいは殺すため。

 

 死んだら何も残らない。だから殺さなければ。

 殺して、今度こそ、私は――――…!

 

 

 狂ったようにトリガーを引き絞り、連続して放たれる粒子ビームが棒立ちのアイシスの腕を、翼を、脚を吹き飛ばしていき―――。

 

 

 

『―――やめろぉぉぉっ!』

 

 

 

 エクシアが、GNソードを構えて突進してくる。

 通信が繋がり、相手の声が聞こえ、そして画面に映る黒髪の少年が驚愕する気配が伝わってきた。

 

 

 

『……っ!? セレネ……!?』

 

 

 GNソードと、アイシスの構えたGNビームサーベルが激突する。 

 しかし、少女……セレネには、その言葉に『似ているが、セレネではない』という響きを感じ取ってしまった。

 

 俯き、唇を噛み締め、涙を堪え、叫ぶ。

 

 

 

「――――ちがう…っ! 違うっ! 私が……私が、セレネ・ヘイズです!」

 

 

 否定する。皆揃って私を否定する。

 ……同じだから。『私』は「わたし」になれない。偽者。クローン。コピー。

 

 じゃあ、『私』は一体誰なの……っ?

 セレネ・ヘイズなのに、誰でもないのなら、私は……っ。

 

 

 

『………お前は……』

 

 

 怒りに燃えていたはずの少年が僅かに目を伏せ、セレネの知らない感情の篭った瞳でセレネを見ていた。全てを見透かされているような、そんな―――。

 

 

 

「――――ぃ、ぃゃぁぁああっ!」

 

 

 知らない。しらない。そんな感情は知らない。

 ブースターを閃かせたアイシスがエクシアの剣を押し切り、突き飛ばし、ビームサーベルを振り下ろす。エクシアのエクシアの左腕が肩から分断され―――。

 

 

 

『――――…お前は、何故戦う…っ!』

 

 

 少年の声が、コクピットに響く。

 アイシスがエクシアの胴を両断する軌道で剣を振るい、しかしそれは受け止められる。

 

 

『なぜ、レナを殺そうとする…っ!』

「―――私は……偽者なんかじゃない……っ! あの子がいなくなれば―――!」

 

 

 アイシスのブースターが再び閃き、しかしそれと同時にエクシアも追加スラスターを閃かせる。激しいスパークと共にバチバチとGNソードとビームサーベルが悲鳴をあげ、そして少年が叫んだ。

 

 

『―――そんな必要は、ない…っ!』

 

 

 少年の気迫に応えるように、エクシアのジェネレーターが、GNドライヴが唸りを上げる。その勢いに押し負け、隙だらけになったアイシスの右脚を切り飛ばされる。

 

 

「どう、して……そんな――――っ!?」

『――――お前は、お前だ!』

 

 

「――――そんな慰めなんて……聞きたくない…っ!」

 

 

 最大出力にしたウィングスラスターが悲鳴をあげ、前回の戦闘での損傷がたたって爆発を起こす。しかし突き出したビームサーベルがエクシアの顔面に突き刺さり、貫きこそしなかったが首からもぎ取る。

 

 

『――――生きる意味は、与えられるものじゃない……!』

 

 

 エクシアがGNソードを振り抜き、アイシスの頭を刎ね飛ばす。

 

 

「――――だから、私はあの子を殺して―――っ!」

 

 

 アイシスの右拳がエクシアの腹部をしたたかに殴り飛ばし、更に左脚を叩きつける。

 

 

『―――それは、歪んでいる!』

 

 

 

 エクシアが機体を制動し、GNソードをライフルモードに切り替えて乱射する。アイシスは役に立たなくなったウィングパックをパージしつつそれを回避し、再びビームサーベルを構える。

 

 

 確かに、確かに歪んでいるかもしれない。

 けど、けど……っ!

 

 

「―――…わたしには…っ、他に何も……っ!」

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「………違う」

 

 

 刹那は、小さく呟いた。

 そんなものは、自分の意志での戦いなどではない。

 

 同じ……そう、この少女はセレネと同じなのだ。

 生きる意味に悩み、苦しんでいた、セレネと……レナと……。

 

 そして、そこに付け入られた。

 

 

「―――お前は、他人の意志に流されているだけだ!」

『それ…でも……私は――――っ!』

 

 

 

――――歪んでいる。

 

 

 歪められている。この少女も、誰かによって歪められた存在……。

 偽者か、本物かなど関係ない。刹那にとってレナだけが特別であるように、この少女も、本来であれば誰かにとっての特別な存在になれた……。

 

 そんな歪みを許してしまう世界も、歪んでいる。

 それならば、どうするのか。決まっている―――!

 

 

 

 

「お前のその歪み――――この俺が、断ち切る…ッ!」

 

 

 

 エクシアにGNソードを構えさせ、GNドライヴの最大出力で敵機へ向けて真っ向から飛翔させる。

 

 

 まやかしを、歪みを、粉砕する。

 世界の歪みを破壊する。

 

 「戦争根絶」のため、自身の、仲間たちの、そして一人の少女の願った平和な世界のため。ソレスタルビーイングが、ソレスタルビーングであるために。

 

 ガンダムがガンダムであるために。

 俺が、俺であるために。

 そして、レナのためにも―――!

 

 

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉっ!!」

 

 

 

 刹那が叫び、モニターに敵機が迫る。

 そして、次の瞬間――――永遠にも思える静寂と共に、GNソードが敵機を貫く感触。そして、エクシアが貫かれる感触――――。

 

 

 コクピットは、貫かなかった。貫かれなかった。

 ただ、途絶しかかった通信に、少女の泣き声が聞えた。

 

 

 

『………わた、しは………なんの、ために……』

「………お前は、お前の……生きる、意味を……」

 

 

 

 

 だから、刹那が呟いた言葉も届いたかは分からない。

 次の瞬間、エクシアとアイシスが爆発の輝きに包まれ――――。

 

 刹那は、きっと生きていると信じて、少女の名を呼んだ。

 もう一度会えるように、願いを込めて。

 

 

 

「………レ、ナ……」

 

 

 

 

 宇宙に、一瞬だけ眩い光が煌いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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