君の名は・パニック   作:JALBAS

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さて、相良宗介と入れ替わるということは、必ずしも、アパートで朝を迎える訳では無いという事になります。当然、ミスリルの基地や、トゥアハー・デ・ダナンの中で目を覚ます事もある訳です・・・・・今回は、そんなお話です。


《 第三話 》

「ん・・・んんっ・・・・・」

な・・・こ・・ここは・・・・・・ん?

私は、見たこともない、殺風景な部屋のベッドで目が覚める。いや・・・部屋というか・・・ここって・・・・倉庫か何かの?狭くて、天井も低い・・・・ベッドは、小さくて硬くて・・・何より、壁もドアも鉄でできてて・・・独房?そうじゃなきゃ・・・テレビ漫画に出てくる秘密基地の中みたいな・・・・・こ・・これも夢なの?

また、体にも違和感を感じる。この間と同じように、男の子の体になっている・・・でも、服装が・・・・これって軍服?鏡は・・・・この部屋には無いわね・・・・・この間とは、違う夢なのかしら?・・・・・

私は、とりあえず、鉄の扉を開けて外に出る。そこは、通路のようだった・・・・・そこも狭くて、鉄でできていて、パイプのような物が何本も走っていた・・・・何か、本当に秘密基地みたい・・・・

通路を少し歩いて行くと、同じ軍服を着ている男の人とすれ違う。敬礼をされたので、私も一応敬礼で返した・・・・・通路は、少し歩くと分岐して、どっちに行けばいいのか分からないので、適当な方に歩いて行ったら・・・・迷った・・・・・

私、どっちから来たんだっけ?え~ん!同じ景色ばっかりだから、わかんない!

「宗介っ!」

「えっ?」

後ろから、声を掛けられた。振り向くと、同じ軍服を着た、金髪のイケメン男性が立っていた。

今、“宗介”って呼んだわよね?それって、この間の男の子?でも、高校生じゃ無くて、兵隊みたいなんだけど・・・・夢の設定が変わったの?

「何、キョロキョロしてんだよ?」

「い・・いえ・・・ま・・・迷ってしまって・・・・」

「迷ったあ~?」

目の前の男性は、呆れた顔をする。

「お前、昨日今日配属された新兵じゃあるまいし、何でダナンの中で迷うんだよ?」

「だ・・なん・・ダ・ナ・ンって?」

「は~ん?この潜水艦の事に、決まってんだろ!」

「え?・・・ここって、潜水艦の中やの?」

その男性は、すごく怪訝そうな顔をする。

「お前、相当おかしいぞ!悪い事言わないから、部屋に帰って休んでろ!」

「い・・いえ・・その・・・どうやって、帰ればええの?」

今度は、“だめだこりゃ”という感じに、顔を天井に向けて、それを手で覆っている。

結局、その男性に案内してもらい、元の部屋に戻される。

 

しばらく部屋で、ベッドの上に座って呆けていると、ドアがノックされ、今度は、ショートカットの女性の兵士が入って来る。

「宗介、クルツから聞いたんだけど・・・・・」

クルツ?・・・・ああ、さっきの金髪の人?クルツっていうのか・・・・

「あんた、ほんとに大丈夫なの?」

そう聞かれると・・・・大丈夫じゃないけど・・・何が何だか、全然分かんない・・・・

「あたしが、分かる?」

「えっと・・・誰でしたっけ?」

「あちゃーっ!」

目の前の女性も、さっきのクルツさんと同じように、顔を天井に向けて、それを手で覆っている。

「マオよ!マオ曹長!あんたの上官!」

「は・・はあ?」

「自分の名前は、分かるの?」

「えっと・・・相良・・・宗介・・でしたっけ?」

「でしたっけじゃないわよ!」

「ひゃっ!ご・・・ごめんなさいっ!」

「ん?・・・・ちょっとあんた?おネエっぽくない?」

そ・・・そう言われても・・・中身は、女ですから・・・・・

「あ~もう、分かった。あんたは今日は、ここで寝てなさい!命令よ!」

「は・・・はいっ!」

曹長さん・・・・怖い・・・・・

 

マオが部屋を出ると、通路の壁に腕組みをして寄り掛かって、クルツが待っていた。

「どうだった?姉さん?」

「だめね!何かネジが1本抜けたのか、自分の事も満足に分かんないみたい・・・」

「つうか、何か全くの別人みたいなんだけど・・・言葉も訛ってたし・・・・」

「訛ってた?」

「“やの”とか、“ええの”とか、どっかの田舎娘みたいに・・・・」

「田舎娘?・・・・」

その言葉を聞いて、マオは考え込む。

「ん?どうした?マオ姉?」

「そういえば・・・・この間、宗介変な事言ってたわよね?田舎の女子高生の体に、脳移植されたって・・・・・・」

 

 

 

朝、目が覚めると・・・・また、この体だ!一度ならず二度までも、敵の罠に嵌るとは・・・・・まて・・・昨夜は、ダナンに泊まっていた筈だ・・・どうやって、ダナンから俺を?・・・・信じられん!何て恐ろしい組織なんだ・・・・まさか?ミスリルの中に内通者が?・・・・「お姉ちゃん、何しとんね?」

「いや、問題無い!」

布団の上で考え込んでいる俺に、この女の妹が尋ねてくるが、変な心配をさせるのも問題なのでそう答えた。

「問題あるようにしか、見えへんけど・・・・」

何やらぶつぶつ言いながら、妹は下に降りて行こうとする・・・・

「あ・・待て!」

「は?・・・何?」

「君の姉さんは、昨日は生きていたか?」

「はあ?」

「君の姉さんは、昨日は生きていたかと聞いているんだ!」

「昨日生きておらんで、何で今生きとんの?あほな事言っとらんで、はよしい!」

妹は、怒って、階段を駆け降りて行ってしまった。何故怒る?昨日の姉の生死を、聞いただけなのに・・・・・・

昨日この女が生きていたのなら、死んだ女に俺の脳を移植したのでは無く、生きているまま脳移植を・・・・では、俺の体の方にこの女の脳が?何故、そんな事をする?何かの生体実験か?・・・・少なくとも、千鳥を狙っているのでは無いようだ・・・・・

 

妹は、怒ったまま、先に学校へ行ってしまった。俺はひとり家を出て、通学の途に就く。

とにかく、今日こそは敵のしっぽを掴まねば・・・・そのためにも、今の内はこの女子生徒を演じるしかあるまい。

「三葉~っ!」

先日と同じように、後ろから声を掛けられる。自転車に2人乗りした男女が、こちらに近づいて来る。

「おはよう!勅使河原、名取。」

「な?・・・」

「ま・・・また、狐憑きや!」

2人は怪訝そうな顔をする。何故だ?普通に挨拶を返しただけなのに?この三葉という女は、普段挨拶をしないのか?

 

その後、2人は何故か、前回のように頻繁に話し掛けては来なくなった。まあ、俺は確かにこの女ではないのだから、全く同じように振る舞う事はできない。それで警戒しているのだろう?

美術の授業中、ふと、目の前の3人の男女が、俺の方を見ながら、なにやら呟いているのが耳に入ってきた。

「・・・だから、町政なんて助成金をどう配るかだけやで、誰がやったって同じや!」

「・・・でも、それで生活してる子もおるしな・・・・・」

何だ?俺の事か?・・・・いや、この女の事か?・・・・・

「名取?」

「は・・・はい?」

「あいつらが言ってるのは、この三葉という女の事か?」

「はあ?・・・・」

「どうなんだ?」

「あ・・うん・・そうやけど・・・・ほんと、大丈夫?三葉・・・・」

何故、こんな聞こえる様に陰口を言う?聞こえてしまったら、陰口の意味が無い。それとも、俺を誘っているのか?だとすると、こいつらが・・・・・・

 

昼になり、勅使河原と名取が、この間のように校庭で昼食を食べないかと誘ってくる。

「すまない、ちょっと用があるから、先に行っててくれ!」

2人は、相変わらず怪訝そうな顔をしながら、出て行った。

俺は、ターゲットが動き出すのを待って、気付かれぬように後を追う。さっき陰口を言っていた中の、男の方だ。廊下に人気が無くなったところで、俺は行動を開始する。一気にその男に駆け寄り、右手を掴んで背中に捩じ上げる。

「うぎゃっ!」

男は奇声を上げるが、俺はすかさずその喉元に、家から持って来たカッターナイフの刃を突きつける。

「大きな声を出すな!出せば喉元を掻き切るぞ!」

「ひっ!・・・・・」

「命が惜しくば、俺の質問に答えろ!」

男は、声を押し殺し、相槌をうつ。

「お前達は何者だ?何故?俺を狙う?」

「へ?・・・な・・・なんの・・・こと?」

「質問に答えろ!死にたいのか?」

「や・・・やめて・・・なにを言ってんのか・・・わからへん・・・・」

妙だ・・・嘘を付いているようには見えない。それに、こいつの体、まるでなってない・・・へなへなで、戦場に出れば、数秒であの世行きだ・・・・俺を狙っている、組織の者では無いのか?

「た・・・たすけて・・・な・・・なんでも・・するから・・・・・」

「さっきの授業中、何故俺にあんな事を言った?挑発していたんじゃないのか?」

「ご・・・ごめんなさい・・・ちょっと・・・ねたんでただけ・・・なんです・・・ゆるして・・・・」

どうやら、本当にただの学生らしい・・・とんだ骨折りだ・・・いや待て、こいつは使えるか?

「もうひとつだけ、俺の指示に従え!そうすれば、命は助けてやる!」

「は・・はい・・・なんでも・・いうことを・・・ききます・・・だから・・・たすけて・・・・」

「では、お前の服を寄こせ!」

 

校庭の隅では、勅使河原と名取が、ずっと三葉を待っていた。

「遅いなあ、三葉・・・・」

「あいつ、ほんまに変やで!いっぺん、巫女さんにでも診て貰った方がいいで!」

「ていうか・・・三葉自身が、巫女さんなんやけど・・・・・」

その2人の様子を、校庭を挟んで反対側、校舎の陰で伺っている人影があった。双眼鏡を使い、2人・・・・いや、まだ現れない三葉の様子を探っている・・・・・

「何をしている?」

男は、はっとして振り返る。そこには、三葉(中身は宗介)の姿があったが、その恰好は・・・・先程の男子学生から奪った、学生服を着ていた。監視の目を欺くため、服を替えていたのだ。

「ちっ!」

男は双眼鏡を放り投げ、右手を懐に入れる。しかし、三葉はすかさず、家から持って来た殺虫スプレーを、男の顔面に噴きつける。

「ぐわっ!」

男が怯んだ隙に、男の鳩尾に一撃を加える。

「ぐへっ!」

男が屈み込んだところを、背後に回り込み一気に地面に組み伏せる。男の右手を背中に捩じ上げ、手に持っていた拳銃を奪って、銃口を後頭部に突きつける。

「言え!お前達は何者だ?」

だが、次の瞬間、その男の額に穴が開く。撃たれたのだ・・・・・・

「なっ?!」

三葉は前方に目をやる。遥か前方の木の陰に、その男を撃った人影が・・・・しかし、直ぐにそこから走り去る。

「待てっ!」

三葉は、慌ててその人影を追う。しかし、やはり借り物の体では追い付ける筈も無く、どんどん引き離されていき、結局見失ってしまった。仕方無く、先程の男が倒れている所に戻る三葉だが、戻った時には、もうそこに男の死体は無かった・・・・・・

「くそっ!いったい何者だ?何を企んでいるんだ?」

 




学校とミスリルの両方に飛ばされ、混乱する三葉・・・しかし、そっちは宗介を良く知るマオとクルツが、何とかしてくれそうです・・・・・
一方、三葉の体でやりたい放題の宗介・・・・糸守での三葉のイメージは、言わずもがな、目茶目茶になっていきます・・・・・

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